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第8章 強者の元に集え
208.互いに影響し合うが溝は深く
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グリュポス跡地の上空まで飛んだオリヴィエラは、背に乗せた友人を気遣った。
「平気? 酔ってないかしら」
「ありがとう、平気よ」
横乗りでは不安定だと、スカートの下に乗馬用のズボンを履いたロゼマリアは、鷲の首部分にしがみついて、両足でしっかり挟んでいた。これなら落ちる心配はないし、揺れにくい場所なので酔いにくい。
上空をくるりと回ったオリヴィエラは、間に合ったと息をついた。主君であるサタンの命令は「我が領地を踏んだ愚か者の処分」である。もし彼らが奥まで入り込んでいたら、間に合わなかったオリヴィエラの手落ちだ。
跡地は立派な森となっていた。森の中に人間の気配は感じられない。目を細めて遠くを確認したグリフォンは、一声鳴いた。
見つけたわ。
言葉にならない歓喜が毛を逆立てる。獲物を見つけた喜びに、グリフォンは力強く羽ばたいた。向かう先は、テッサリアのある方角ではない。砂漠を避けて荒地を進む敵は、ざっと一万程度。考えていたより少ない。
「少ないけど、仕方ないわね」
「ヴィラ、邪魔なら私は降りましょうか」
どこかで待っていてもいいと告げる友人へ、オリヴィエラは少しだけ迷った。彼女を下ろして戦う選択肢はない。それくらいなら置いてきた。城はドラゴンと魔王がいる安全な場所だ。そこから連れ出した以上、今この場でグリフォンの背が安全な場所だ。
躊躇ったのは、彼女に魔族の戦いを見せること。心優しい友人は、踏み潰され命を奪われる兵に同情するだろうか。涙を見せるかも知れない。自分が嫌われるのではないかと、言葉が喉に貼りついた。
「ローザに聞きたいの。彼らはサタン様の領地を荒らす害虫よ。それを駆除する私を……」
「どう思うか、でしょう? 城を出る前から覚悟は出来てるの。綺麗事は通用しないと知ってるわ」
くるりと旋回するグリフォンを見つけた地上の兵が、矢を射掛けてくる。届かない高さを飛びながら、嘲笑うようにオリヴィエラは甲高い声で威嚇した。
将の乗る馬が怯えて立ち上がり、騎乗した人間を振り落とす。そのまま一目散に逃げる馬もいれば、逃げ損ねて蹲る馬もいた。地上の騒ぎを見ながら、空の覇者は悠々と旋回する。それは獲物を見定める野生の鷲のようだった。
「前国王が攻めてきた時、殺さないでと頼んだ。牢で何者かに殺された時、話が違うと泣いた。今になれば愚かだったと思うの。だって彼らは多くの民を苦しめて搾取した罪人で、命乞いする権利なんてなかったのよ。民が命乞いした時に助けなかった人を、助けて欲しいなんておかしいもの」
かつての自分を淡々と語り、オリヴィエラの羽毛に身体を沈める。ふわりと頬を撫でる羽根が心地良くて口元が緩んだ。
「あの人たちも同じ。家族がいる普通の兵士だけれど、戦争でバシレイアを攻撃して民を殺そうとしてる。ならば、殺されても仕方ないわよね」
魔族に囲まれて影響を受けたのか。父親を前国王と呼んで、他人のように語る。ロゼマリアの声に悲しみや悔しさといった暗い感情はなかった。
「私の手に力があったら、民を助けるために奮う覚悟はあるの。だから……代わりに手を貸して」
オリヴィエラは何も言わず、眼下の兵士に視線を向けた。ロゼマリアはやはり優し過ぎる。私はこの虫の群れを「家族のいる人間」だなんて考えたこともなかった。駆逐すべき害虫の群れ、それでいい。
「わかった、障壁を張るけど気をつけてね」
落とさないよう魔力で繋いで縛り、さらに結界となる障壁を張り矢を防ぐ。防御を固めたグリフォンは敵の中央に急降下し、反転する直前に氷の柱を突き立てた。
「平気? 酔ってないかしら」
「ありがとう、平気よ」
横乗りでは不安定だと、スカートの下に乗馬用のズボンを履いたロゼマリアは、鷲の首部分にしがみついて、両足でしっかり挟んでいた。これなら落ちる心配はないし、揺れにくい場所なので酔いにくい。
上空をくるりと回ったオリヴィエラは、間に合ったと息をついた。主君であるサタンの命令は「我が領地を踏んだ愚か者の処分」である。もし彼らが奥まで入り込んでいたら、間に合わなかったオリヴィエラの手落ちだ。
跡地は立派な森となっていた。森の中に人間の気配は感じられない。目を細めて遠くを確認したグリフォンは、一声鳴いた。
見つけたわ。
言葉にならない歓喜が毛を逆立てる。獲物を見つけた喜びに、グリフォンは力強く羽ばたいた。向かう先は、テッサリアのある方角ではない。砂漠を避けて荒地を進む敵は、ざっと一万程度。考えていたより少ない。
「少ないけど、仕方ないわね」
「ヴィラ、邪魔なら私は降りましょうか」
どこかで待っていてもいいと告げる友人へ、オリヴィエラは少しだけ迷った。彼女を下ろして戦う選択肢はない。それくらいなら置いてきた。城はドラゴンと魔王がいる安全な場所だ。そこから連れ出した以上、今この場でグリフォンの背が安全な場所だ。
躊躇ったのは、彼女に魔族の戦いを見せること。心優しい友人は、踏み潰され命を奪われる兵に同情するだろうか。涙を見せるかも知れない。自分が嫌われるのではないかと、言葉が喉に貼りついた。
「ローザに聞きたいの。彼らはサタン様の領地を荒らす害虫よ。それを駆除する私を……」
「どう思うか、でしょう? 城を出る前から覚悟は出来てるの。綺麗事は通用しないと知ってるわ」
くるりと旋回するグリフォンを見つけた地上の兵が、矢を射掛けてくる。届かない高さを飛びながら、嘲笑うようにオリヴィエラは甲高い声で威嚇した。
将の乗る馬が怯えて立ち上がり、騎乗した人間を振り落とす。そのまま一目散に逃げる馬もいれば、逃げ損ねて蹲る馬もいた。地上の騒ぎを見ながら、空の覇者は悠々と旋回する。それは獲物を見定める野生の鷲のようだった。
「前国王が攻めてきた時、殺さないでと頼んだ。牢で何者かに殺された時、話が違うと泣いた。今になれば愚かだったと思うの。だって彼らは多くの民を苦しめて搾取した罪人で、命乞いする権利なんてなかったのよ。民が命乞いした時に助けなかった人を、助けて欲しいなんておかしいもの」
かつての自分を淡々と語り、オリヴィエラの羽毛に身体を沈める。ふわりと頬を撫でる羽根が心地良くて口元が緩んだ。
「あの人たちも同じ。家族がいる普通の兵士だけれど、戦争でバシレイアを攻撃して民を殺そうとしてる。ならば、殺されても仕方ないわよね」
魔族に囲まれて影響を受けたのか。父親を前国王と呼んで、他人のように語る。ロゼマリアの声に悲しみや悔しさといった暗い感情はなかった。
「私の手に力があったら、民を助けるために奮う覚悟はあるの。だから……代わりに手を貸して」
オリヴィエラは何も言わず、眼下の兵士に視線を向けた。ロゼマリアはやはり優し過ぎる。私はこの虫の群れを「家族のいる人間」だなんて考えたこともなかった。駆逐すべき害虫の群れ、それでいい。
「わかった、障壁を張るけど気をつけてね」
落とさないよう魔力で繋いで縛り、さらに結界となる障壁を張り矢を防ぐ。防御を固めたグリフォンは敵の中央に急降下し、反転する直前に氷の柱を突き立てた。
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