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第8章 強者の元に集え

204.完璧な解答ではないが、大したものだ

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 リリアーナの頭の中に、ウラノスから得た知識や考え方がいくつも浮かんで消える。自分ではなく、父が選ばれた理由は……強いからだけじゃない。失望されたわけじゃないから、必死に考えて答えを導き出すだけ。

 相手が人間だから、何? 魔族じゃないと強調したのはどうして? 同盟は弱い者同士が手を組むことだよね。リリアーナは混乱しながら考えを纏めた。

「人間って、魔族の区別がつかないのかな」

 そんな話を誰かに聞いたのを思い出す。あれは竜の群れで暮らしていた頃、赤い竜がそんな話をしていた。一度も襲ったことがない村なのに、餌を取りに降りたら「また来た」と言われたらしい。首をかしげて戻った赤竜だが、似た色をした橙の竜が「その村なら3年前におれが襲った」と答えた。

 人間から見たら赤い竜も橙の竜も同じに見えたという笑い話。それが自分達にも当てはまるとしたら? 大きさが一回りも違うけれど、空を飛んでいたら大きさが把握できないかもしれない。黒銀の竜だから同じに見えると仮定して。

「サタン様、に黒竜王を出すの?」

 父と呼ぶ気はない。育ててもらわなかったのだから、親ではないと思っている。それでも血縁関係はあるし、強い竜の雄である事実は覆らないから地位で呼んだ。リリアーナと黒竜王の微妙な距離感は、彼女が結論を出すまで変わることはないだろう。

 リリアーナなりの呼称に眉を動かしたが、オレは何も言わなかった。答え合わせは最後に行うもので、途中経過に手を加えたら、彼女の結論を導いてしまう。誘導された考えは洗脳と同じだった。

「ヴィラはイザヴェルをやっつけに行った。テッサリアに向かったよね」

 両手を目の前に翳し、右手の5本を開いた。左手の人差し指を起こして、代わりに右手の親指を折る。考えを纏めるために手を使うのは、なかなか賢い。間違えを減らせるうえ、後で思考の過程を追いやすい手法だった。

「私がここに残ってるのがバレないようにするため?」

「それが答えでよいか」

 尋ねると、クリスティーヌが首をかしげる。半分正解で、半分は足りなかった。しかし今までの彼女らの直情的な考え方や、駆け引きが苦手なことを考えると上出来だった。短期間で学んだにしては、立派な結論だ。

 ノックして入ってきた侍女がお茶と菓子を用意する。その間、話が中断した。クリスティーヌとリリアーナは顔を突き合わせて、小声で何か相談している。

 侍女が下がって気配が遠くなると、リリアーナは再び切り出した。

「私がいないと見せるため。あと、囮にするから」

 人間にとって魔族が同じに見えて個体識別が出来ないなら、黒竜王が出撃すればリリアーナが出かけたように勘違いを誘導できる。今までバシレイア聖国を護ってきた魔族は、黒銀のドラゴンとグリフォンのみ。この2体を国から引き剥がせば、丸裸になると考えた。リリアーナ達の結論はここで終わっている。

 間違ってはいないが、完全な正解でもなかった。

 2人で知恵を合わせたらしい。先ほどより正解に近づいた彼女らに、茶菓子を押しやってからひとつ息をついた。口元に運んだ紅茶の香りに、一瞬だけ手が止まる。しかし何もなかったように口に含み、ごくりと飲んだ。
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