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第8章 強者の元に集え

200.策士策に溺れ、足元の穴を見落とす

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 イザヴェル国は軍事中心に成長した国家だ。優秀な宰相が集めた各国の資料と、レーシーやクリスティーヌが収集する現在の情報を照らし合わせ、真実を導き出す。

 バシレイアは聖女の血筋を誇り、異世界召喚を成す魔法陣に特化した宗教国家だった。グリュポス、イザヴェル、ビフレスト、ユーダリルは他国を侵略して大きくなった軍事国家である。かつて数十あった国家をまとめた手腕は見事だが、軍事力で押し通したため国内が一枚岩ではない。

 獅子身中しししんちゅうの虫が巣食すくう国は、いくら大きさを誇ろうと一瞬で滅ぼせた。グリュポスの弱点は王弟だ。彼は優秀な軍人であり、野心を持たぬ王族だった。己の兄王が命じるままに動いたが、もしあの男が我が国と手を組み兄を切り捨てる才覚をもてば、グリュポスを壊す必要はなかった。

 7つもの国家があるのに、農業振興国はテッサリアのみ。これでは狙われるのが当然だった。4つの国が互いに攻め込んで食らいあう状況で、農民が落ち着いて自国の食料を生産できるわけがない。足りなくなった分を食べないという選択肢で補えない以上、他国を襲って奪うしかなかった。

 テッサリアを襲ったのが、隣国グリュポスだけだったのは幸いだ。一歩間違えば、テッサリアの存続を危うくするほどの総攻撃を受けた可能性があった。だが……。

 あの国の外交官ライラは優れている。父親はテッサリアの宰相だったか。手に武器を持たず、多少の戦果を渡すことで戦いを避けたとしたら? 武器を持たない農民だと示し、抵抗せずに大人しく麦を渡せば国を荒らされることも民を殺される危険もない。そう考えたなら、消極的な策ではあるが優秀だ。

 山岳民族が住まうキララウスも、豊かで平らな土地を求めなかった。魔族の常識で考えるなら、厳しい環境に住む種族ほど強い。草木一本生えぬ火山の洞窟や岩肌に住まうドラゴンは、ウルフ系やゴブリンなどの種族が住めない土地で生き抜ける強さがあった。

 おそらく7つの国の中で最強の人間が住まう土地であるかも知れない。情報が少なすぎて判断できないところも、興味をそそられた。出来るなら、敵対して楽しませて欲しいものよ。

 広げた地図を前に、敵の行動を読む。キララウスは情報が少ないため、今回の考察から抜いた。もし彼らが動くようなら、自ら手を下せばいいだけ。他の作戦に害を及ぼす危険はなかった。

 すでに滅びたグリュポスの跡地は、あと数年で耕すことが可能となる。ここは同盟を組んだテッサリアの民と、受け入れた難民を投入して開墾すればいい。人間が必要とする食料は、人間が自ら作るべきだった。肉が必要なら家畜を飼い、育てて肉や乳を得る。

 いつまでもリリアーナの狩りに頼られるのは迷惑だった。強者が抜けたら立ち行かなくなる状況は、制度とは呼べない。弱者である人間のみで自給自足が可能なシステムを作り上げてこそ、治世であり文明の名を冠するのだから。

「サタン様! 大変!」

 飛び込んできたクリスティーヌが叫ぶ。顔を上げて先を促すと、彼女はひとつ息を吐いてから状況を説明した。

「仮死状態の子を守るレーシーが、リリアーナと睨み合ってる」

 立ち上がり無言で執務室を出る。リリアーナがアナトの存在を気にしているのは知っていた。なのに放置したのは、オリヴィエラとロゼマリアが彼女をコントロール出来ると考えたため。その2人がイザヴェル国の対処に赴いて留守にしたのだ。

 見落とした穴に足元をすくわれた――廊下で転移魔法陣を足元に放れば、慌てたクリスティーヌが腕に抱き着く。彼女を連れて、リリアーナの魔力を目標に飛んだ。
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