191 / 438
第7章 踊る道化の足元は
189.将軍程度か、随分舐められたものだ
しおりを挟む
「国王に用がある」
出てこられないのを承知でそう告げると、衛兵の後ろから一際鍛えた体躯の男が現れた。顔と首に大きな傷のある男の軍服に飾られた勲章が、この男の正体を物語る。
「将軍のジャックだ。用件は俺が聞く」
肩書きを省略し、国王の代理を申し出るとは随分舐められたものだ。せめて王太子や王妃程度の肩書があれば話を聞けるが、一軍人ごときが対応してよい案件ではない。先にグリフォンが実力を示したことが警告にならないのであれば、この国に価値はなかった。
驕り高ぶり失態から学ばない。そのような国家を残す意味はない。街の上を通り抜けた際の反応を見ても、国民の末端に至るまで使い物にならないと思われた。
「リリアーナ」
心得たドラゴンは、言葉を話さずに「ぐるる」と喉を鳴らすに留めた。ドラゴン姿で威嚇しろと命じられたため、どこまでも人間の敵で押し通すらしい。好ましい反応に、突き出された鼻先を撫でる。手袋越しだが、満足そうにリリアーナが金の瞳を細めた。
この場に下りてからリリアーナの透明の瞼は瞳を守っている。それを知らぬ愚かな人間の放つ矢が、ひゅんと甲高い音で飛んだ。グリフォンの爪を防ぐ強い膜は、金属音を立てて矢を弾く。外の瞼を閉じることもしないリリアーナの尻尾が振られ、庭の木の陰から矢を射った男を叩いた。
「大した持て成しよ」
くつりと喉を鳴らして笑うと、怒りに顔を赤くした将軍が叫んだ。
「この者らを殺せ!」
庭の木ごと吹き飛ばされた愚か者が、血を吐いて動かなくなる。怯えた様子で、それでも上司の命令に従い矢の穂先を収めぬ衛兵を睥睨し、リリアーナに命じた。
「構わぬ、処分しろ」
殺せと命じる必要はなかった。彼女の裁量に委ねるのが、よい君主の命じ方だ。詳細に命じられれば、その分だけ部下の裁量を奪うことになる。結果としてオレが求めるのは、この目障りな虫の処分だ。その方法を細かに指定する必要はなかった。
「あっ、獲物……」
リリアーナの尻尾に強打された男の血に指を咥え、クリスティーヌは羨ましそうにしていた。血が食料の吸血種にとって、目の前の惨劇は豪華な晩餐に映る。
「食べていい?」
「よかろう」
許可を求めたクリスティーヌに頷けば、大喜びで走っていく。いつも赤い血で汚す癖に、なぜか白い服を好むクリスティーヌが血を吐いた男の首に噛みついた。嬉しそうに頬を緩めて吸い上げ、すぐに男を放り出す。
死体からは血を吸わないのが吸血種のルールだった。吸血鬼の始祖であるアースティルティトに言わせれば、死体の血を体内に入れると老化するらしい。生命力を取り込む種族であるがゆえに、生命の絶えた獲物の血は使えない。体内から排出するにも消化するにも、己の体内エネルギーや魔力を代償とする必要があった。
ウラノスに教えられた通り、生きている間だけ血を吸って、虫の息で捨てる。繰り返す行為の残酷さは、彼女の理解の範囲外だろう。黒髪の少女が人外だと知り、慌てて逃げ出した男達も次々と牙を突き立てられ、ドラゴンに叩き潰された。
出てこられないのを承知でそう告げると、衛兵の後ろから一際鍛えた体躯の男が現れた。顔と首に大きな傷のある男の軍服に飾られた勲章が、この男の正体を物語る。
「将軍のジャックだ。用件は俺が聞く」
肩書きを省略し、国王の代理を申し出るとは随分舐められたものだ。せめて王太子や王妃程度の肩書があれば話を聞けるが、一軍人ごときが対応してよい案件ではない。先にグリフォンが実力を示したことが警告にならないのであれば、この国に価値はなかった。
驕り高ぶり失態から学ばない。そのような国家を残す意味はない。街の上を通り抜けた際の反応を見ても、国民の末端に至るまで使い物にならないと思われた。
「リリアーナ」
心得たドラゴンは、言葉を話さずに「ぐるる」と喉を鳴らすに留めた。ドラゴン姿で威嚇しろと命じられたため、どこまでも人間の敵で押し通すらしい。好ましい反応に、突き出された鼻先を撫でる。手袋越しだが、満足そうにリリアーナが金の瞳を細めた。
この場に下りてからリリアーナの透明の瞼は瞳を守っている。それを知らぬ愚かな人間の放つ矢が、ひゅんと甲高い音で飛んだ。グリフォンの爪を防ぐ強い膜は、金属音を立てて矢を弾く。外の瞼を閉じることもしないリリアーナの尻尾が振られ、庭の木の陰から矢を射った男を叩いた。
「大した持て成しよ」
くつりと喉を鳴らして笑うと、怒りに顔を赤くした将軍が叫んだ。
「この者らを殺せ!」
庭の木ごと吹き飛ばされた愚か者が、血を吐いて動かなくなる。怯えた様子で、それでも上司の命令に従い矢の穂先を収めぬ衛兵を睥睨し、リリアーナに命じた。
「構わぬ、処分しろ」
殺せと命じる必要はなかった。彼女の裁量に委ねるのが、よい君主の命じ方だ。詳細に命じられれば、その分だけ部下の裁量を奪うことになる。結果としてオレが求めるのは、この目障りな虫の処分だ。その方法を細かに指定する必要はなかった。
「あっ、獲物……」
リリアーナの尻尾に強打された男の血に指を咥え、クリスティーヌは羨ましそうにしていた。血が食料の吸血種にとって、目の前の惨劇は豪華な晩餐に映る。
「食べていい?」
「よかろう」
許可を求めたクリスティーヌに頷けば、大喜びで走っていく。いつも赤い血で汚す癖に、なぜか白い服を好むクリスティーヌが血を吐いた男の首に噛みついた。嬉しそうに頬を緩めて吸い上げ、すぐに男を放り出す。
死体からは血を吸わないのが吸血種のルールだった。吸血鬼の始祖であるアースティルティトに言わせれば、死体の血を体内に入れると老化するらしい。生命力を取り込む種族であるがゆえに、生命の絶えた獲物の血は使えない。体内から排出するにも消化するにも、己の体内エネルギーや魔力を代償とする必要があった。
ウラノスに教えられた通り、生きている間だけ血を吸って、虫の息で捨てる。繰り返す行為の残酷さは、彼女の理解の範囲外だろう。黒髪の少女が人外だと知り、慌てて逃げ出した男達も次々と牙を突き立てられ、ドラゴンに叩き潰された。
0
お気に入りに追加
1,032
あなたにおすすめの小説
【完結】転生7年!ぼっち脱出して王宮ライフ満喫してたら王国の動乱に巻き込まれた少女戦記 〜愛でたいアイカは救国の姫になる
三矢さくら
ファンタジー
【完結しました】異世界からの召喚に応じて6歳児に転生したアイカは、護ってくれる結界に逆に閉じ込められた結果、山奥でサバイバル生活を始める。
こんなはずじゃなかった!
異世界の山奥で過ごすこと7年。ようやく結界が解けて、山を下りたアイカは王都ヴィアナで【天衣無縫の無頼姫】の異名をとる第3王女リティアと出会う。
珍しい物好きの王女に気に入られたアイカは、なんと侍女に取り立てられて王宮に!
やっと始まった異世界生活は、美男美女ぞろいの王宮生活!
右を見ても左を見ても「愛でたい」美人に美少女! 美男子に美少年ばかり!
アイカとリティア、まだまだ幼い侍女と王女が数奇な運命をたどる異世界王宮ファンタジー戦記。

14歳までレベル1..なので1ルークなんて言われていました。だけど何でかスキルが自由に得られるので製作系スキルで楽して暮らしたいと思います
カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
僕はルーク
普通の人は15歳までに3~5レベルになるはずなのに僕は14歳で1のまま、なので村の同い年のジグとザグにはいじめられてました。
だけど15歳の恩恵の儀で自分のスキルカードを得て人生が一転していきました。
洗濯しか取り柄のなかった僕が何とか楽して暮らしていきます。
------
この子のおかげで作家デビューできました
ありがとうルーク、いつか日の目を見れればいいのですが
うっかり女神さまからもらった『レベル9999』は使い切れないので、『譲渡』スキルで仲間を強化して最強パーティーを作ることにしました
akairo
ファンタジー
「ごめんなさい!貴方が死んだのは私のクシャミのせいなんです!」
帰宅途中に工事現場の足台が直撃して死んだ、早良 悠月(さわら ゆずき)が目覚めた目の前には女神さまが土下座待機をして待っていた。
謝る女神さまの手によって『ユズキ』として転生することになったが、その直後またもや女神さまの手違いによって、『レベル9999』と職業『譲渡士』という謎の職業を付与されてしまう。
しかし、女神さまの世界の最大レベルは99。
勇者や魔王よりも強いレベルのまま転生することになったユズキの、使い切ることもできないレベルの使い道は仲間に譲渡することだった──!?
転生先で出会ったエルフと魔族の少女。スローライフを掲げるユズキだったが、二人と共に世界を回ることで国を巻き込む争いへと巻き込まれていく。
※9月16日
タイトル変更致しました。
前タイトルは『レベル9999は転生した世界で使い切れないので、仲間にあげることにしました』になります。
仲間を強くして無双していく話です。
『小説家になろう』様でも公開しています。

はずれスキル『本日一粒万倍日』で金も魔法も作物もなんでも一万倍 ~はぐれサラリーマンのスキル頼みな異世界満喫日記~
緋色優希
ファンタジー
勇者召喚に巻き込まれて異世界へやってきたサラリーマン麦野一穂(むぎのかずほ)。得たスキルは屑(ランクレス)スキルの『本日一粒万倍日』。あまりの内容に爆笑され、同じように召喚に巻き込まれてきた連中にも馬鹿にされ、一人だけ何一つ持たされず荒城にそのまま置き去りにされた。ある物と言えば、水の樽といくらかの焼き締めパン。どうする事もできずに途方に暮れたが、スキルを唱えたら水樽が一万個に増えてしまった。また城で見つけた、たった一枚の銀貨も、なんと銀貨一万枚になった。どうやら、あれこれと一万倍にしてくれる不思議なスキルらしい。こんな世界で王様の助けもなく、たった一人どうやって生きたらいいのか。だが開き直った彼は『住めば都』とばかりに、スキル頼みでこの異世界での生活を思いっきり楽しむ事に決めたのだった。
転生したら最強種の竜人かよ~目立ちたくないので種族隠して学院へ通います~
ゆる弥
ファンタジー
強さをひた隠しにして学院の入学試験を受けるが、強すぎて隠し通せておらず、逆に目立ってしまう。
コイツは何かがおかしい。
本人は気が付かず隠しているが、周りは気付き始める。
目立ちたくないのに国の最高戦力に祭り上げられてしまう可哀想な男の話。

貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた
佐藤醤油
ファンタジー
貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。
僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。
魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。
言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。
この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。
小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。
------------------------------------------------------------------
お知らせ
「転生者はめぐりあう」 始めました。
------------------------------------------------------------------
注意
作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。
感想は受け付けていません。
誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。
婚約破棄されましたが、帝国皇女なので元婚約者は投獄します
けんゆう
ファンタジー
「お前のような下級貴族の養女など、もう不要だ!」
五年間、婚約者として尽くしてきたフィリップに、冷たく告げられたソフィア。
他の貴族たちからも嘲笑と罵倒を浴び、社交界から追放されかける。
だが、彼らは知らなかった――。
ソフィアは、ただの下級貴族の養女ではない。
そんな彼女の元に届いたのは、隣国からお兄様が、貿易利権を手土産にやってくる知らせ。
「フィリップ様、あなたが何を捨てたのかーー思い知らせて差し上げますわ!」
逆襲を決意し、華麗に着飾ってパーティーに乗り込んだソフィア。
「妹を侮辱しただと? 極刑にすべきはお前たちだ!」
ブチギレるお兄様。
貴族たちは青ざめ、王国は崩壊寸前!?
「ざまぁ」どころか 国家存亡の危機 に!?
果たしてソフィアはお兄様の暴走を止め、自由な未来を手に入れられるか?
「私の未来は、私が決めます!」
皇女の誇りをかけた逆転劇、ここに開幕!

ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる