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第7章 踊る道化の足元は
188.欲深い人間の醜さよ
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空を悠々と舞うドラゴンの巨体は、ビフレストという大国に大きな影を落とした。かつて大陸一の大国と謳われ、様々な国を喰らってきた強者は初めて弱者の側に転落したのだ。
他国の侵略を退ける軍も、ドラゴン相手に勝ち目はない。圧倒的強者による攻撃がなされれば、砦はひとたまりもなかった。
「サタン様、攻撃する?」
届かないと承知で矢を射掛ける砦の上で旋回し、リリアーナはブレスの魔力を蓄える。いつでも打てると申し出る部下の首筋を叩いて、冷静に言い聞かせた。
「敵の対応次第だ。まだ我慢しろ」
「わかった」
以前なら拗ねただろうが、リリアーナは機嫌がいい。言葉に秘めた意味を間違いなく汲み取れたのだろう。大きく尻尾を振って向きを変えた黒竜は、砦の上を飛び越えてビフレスト国内に侵入した。
敵と称した以上、ビフレストという国は消滅させる。今はまだ早いが、我慢を強いた分、彼女に活躍の場を与えると告げた内容を、正確に聞き取ったらしい。
空の覇者ドラゴンを遮る人間はいない。空を見上げる国民に恐怖を与えつつ、リリアーナはゆっくりと舞った。高度を下げ、屋根にぶつかりそうな位置を飛ぶ。いくつか飛んできた矢を鱗で弾き、仕返しのように高い屋根をひとつ尻尾で叩き折った。
「リリアーナ」
これ以上の攻撃は無用だ。そう告げる声に、甲高い鳴き声で応えたドラゴンは、強く羽ばたいて王城の庭へ着地した。美しく整えられた噴水を踏みつぶしたため、周囲が水浸しだ。かつて彼女が壊した噴水を思い出し、口元が緩む。
「サタン様、わざとじゃない。怒った?」
ちょっと目算を誤っただけ。そう主張するリリアーナの背から飛び降りた。続いて巨大な蝙蝠がするりと人化した。頑張って変化の途中で服を羽織ったが、クリスティーヌは腕を出すのに失敗する。
首を出して困るクリスティーヌが、ごそごそと服を回して袖から腕を出した。成功したように見えたが、腕が再び引っ込む。亀のような仕草に、服の前後がおかしいことに気づいた。
溜め息をついて魔力で直してやると、嬉しそうに頬を赤くした。失敗が恥ずかしかったのか。愛玩動物のストレスに該当しなければいいと思いながら、黒髪を撫でてやった。
「私は?」
喉を鳴らすリリアーナに、もう少しドラゴンのままでいるよう命じた。こちらの戦力を見せつける方が話が早い。
「侵入者だ!」
「殺せ」
騒がしい衛兵の声に、マントを揺らして振り返る。途端に息をのんだ彼らは、用心深く槍の穂先を突きつけてきた。ドラゴンを従える人間がいるわけもなく、魔族だと判断したのは正しい。すでにオリヴィエラが舞い降りた事実も、影響していると思われた。
アースティルティト達に何度も指摘されたため、自分の顔が他人より整っている自覚はある。同性異性関係なく、初めて顔を合わせた者が息を飲む姿は、見慣れていた。
思ったより出迎えが少ない状況に、レーシーに命じた仕掛けが功を奏したと知る。
色狂いと化した国王フルカスは、愛妾が突然消えたことに混乱した。色に狂うと人の判断力は落ちる。己を引き摺り下ろそうとする者がいて、彼女はその者に奪われたと勘違いするのだ。
例えば、己の跡取りである王太子。妻である王妃、または優秀な宰相や将軍が愛妾を奪ったと思い込む。他者が嗜めても聞かない。人の欲求ほど根深い感情は、他になかった。
他国の侵略を退ける軍も、ドラゴン相手に勝ち目はない。圧倒的強者による攻撃がなされれば、砦はひとたまりもなかった。
「サタン様、攻撃する?」
届かないと承知で矢を射掛ける砦の上で旋回し、リリアーナはブレスの魔力を蓄える。いつでも打てると申し出る部下の首筋を叩いて、冷静に言い聞かせた。
「敵の対応次第だ。まだ我慢しろ」
「わかった」
以前なら拗ねただろうが、リリアーナは機嫌がいい。言葉に秘めた意味を間違いなく汲み取れたのだろう。大きく尻尾を振って向きを変えた黒竜は、砦の上を飛び越えてビフレスト国内に侵入した。
敵と称した以上、ビフレストという国は消滅させる。今はまだ早いが、我慢を強いた分、彼女に活躍の場を与えると告げた内容を、正確に聞き取ったらしい。
空の覇者ドラゴンを遮る人間はいない。空を見上げる国民に恐怖を与えつつ、リリアーナはゆっくりと舞った。高度を下げ、屋根にぶつかりそうな位置を飛ぶ。いくつか飛んできた矢を鱗で弾き、仕返しのように高い屋根をひとつ尻尾で叩き折った。
「リリアーナ」
これ以上の攻撃は無用だ。そう告げる声に、甲高い鳴き声で応えたドラゴンは、強く羽ばたいて王城の庭へ着地した。美しく整えられた噴水を踏みつぶしたため、周囲が水浸しだ。かつて彼女が壊した噴水を思い出し、口元が緩む。
「サタン様、わざとじゃない。怒った?」
ちょっと目算を誤っただけ。そう主張するリリアーナの背から飛び降りた。続いて巨大な蝙蝠がするりと人化した。頑張って変化の途中で服を羽織ったが、クリスティーヌは腕を出すのに失敗する。
首を出して困るクリスティーヌが、ごそごそと服を回して袖から腕を出した。成功したように見えたが、腕が再び引っ込む。亀のような仕草に、服の前後がおかしいことに気づいた。
溜め息をついて魔力で直してやると、嬉しそうに頬を赤くした。失敗が恥ずかしかったのか。愛玩動物のストレスに該当しなければいいと思いながら、黒髪を撫でてやった。
「私は?」
喉を鳴らすリリアーナに、もう少しドラゴンのままでいるよう命じた。こちらの戦力を見せつける方が話が早い。
「侵入者だ!」
「殺せ」
騒がしい衛兵の声に、マントを揺らして振り返る。途端に息をのんだ彼らは、用心深く槍の穂先を突きつけてきた。ドラゴンを従える人間がいるわけもなく、魔族だと判断したのは正しい。すでにオリヴィエラが舞い降りた事実も、影響していると思われた。
アースティルティト達に何度も指摘されたため、自分の顔が他人より整っている自覚はある。同性異性関係なく、初めて顔を合わせた者が息を飲む姿は、見慣れていた。
思ったより出迎えが少ない状況に、レーシーに命じた仕掛けが功を奏したと知る。
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例えば、己の跡取りである王太子。妻である王妃、または優秀な宰相や将軍が愛妾を奪ったと思い込む。他者が嗜めても聞かない。人の欲求ほど根深い感情は、他になかった。
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