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第7章 踊る道化の足元は
172.愚かさは底がないと見える
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迎え入れる民を選別するのは王の役割だ。取捨選択の権利は強者に与えられ、行使する覚悟が必要となる。舵取りを間違えば国は転覆するのだ。荒波押し寄せる海の小舟同様、いつひっくり返るか分からぬゲーム盤だからこそ、本気で取り組む対象足りえた。
見回した先で、オリヴィエラがひらりと旋回する。射かけられる矢を凍り付かせ、代わりに大量の氷の針を降らせた。少しすると凍らせた矢を落とす無駄に気づき、矢の向きを氷で滑らせて叩き落す作戦に打って出た。背のロゼマリアが何かを指示したらしく、突然別方向から飛んできた石礫を器用に風で足元に落とす。
魔力量に任せた手法の多いオリヴィエラらしくないが、敵の攻撃を上手に利用した戦いは彼女の成長の証だろう。自分以外に大切な存在のいなかったグリフォンにとって、背に乗せた友人を守り、主人と定めた魔王の命令を全うする戦いは、よい方向に作用していた。
「オリヴィエラ、リリアーナ。生き残りは不要だ」
この国の民は足りている。傷を癒した善良なるバシレイアの民、愚かな王に食いつぶされる経験をしたグリュポスの民――どちらも魔王の庇護下にある。その国に弓引いたビフレストは大国の選民意識が強すぎた。手駒にならぬ民は要らない。イザヴェルのように軍事を中心に動く民も役に立たぬ。
我が国に必要なのは、勤勉で働くことを厭わぬ善良な国民だけ。人は財産だと教えたのは、我が父だった。その男を倒して玉座を手にしたオレが言うのもおかしいが、最強の魔王一人では国は維持できない。他者の能力を生かし、部下を作り上げ、民を育てる。
王の役目は象徴であり、舵取り役であることだ。優秀であれば国家は長く存続するだろう。愚か者が玉座を穢せば、国が消滅するだけの話……そう、グリュポスのように。
「わかった。あっち片づけてくるね」
リリアーナが空中で向きを変え、軍の中枢が陣取る荒野の奥へ進路を取った。鳴き声でグリフォンへ合図を送る。ドラゴンの背を追う形で、オリヴィエラが後に続いた。
地上の兵士は混乱し、本部を助けに戻るべきか。この期に逃げるかを迫られる。わずかな時間しかない中で、一部の兵士が逃走を開始した。逃げた兵士を上官が殺す光景に、オレは口元を歪めて呟く。
「愚かさは底がないと見える」
この地に留まるのは愚行、逃げる者を殺すのはさらに愚かな振る舞いだ。上官に対しての信頼があれば、部下は上官を捨てて逃げたりしない。彼も一緒に逃がそうとするだろう。己が信頼されていない証拠に背を向けられ、怒りに任せて兵力を減らすなど愚劣の極みだった。
背に広げた翼に風を受け、足元の蟻を眺める。彼らが逃げようと殺し合おうと構わない。ウラノスがいた赤い血に濡れた土地が、突然魔法陣の光に包まれた。
「ほう、見事だが……」
地脈を呼び寄せる魔法陣は光を放ちながら拡大していく。空から見ると等間隔に広がる魔法文字と模様の美しさに目を奪われた。広がった文字の間に、新たな文字が埋め込まれていく。ただ拡大するだけでなく、機能を追加しているのだ。
魔法陣はその美しさが強さに直結する。この世界に来て、初めてこれほどの魔法陣を扱う存在を知った。ウラノスの過去に興味が湧くが、本人が語らぬことを聞き出す無粋は諦める。
「発動する」
感嘆の声に反応したように魔法陣が発動し、激しい振動による地震を伴い轟音を響かせて大地はその身をよじった。
見回した先で、オリヴィエラがひらりと旋回する。射かけられる矢を凍り付かせ、代わりに大量の氷の針を降らせた。少しすると凍らせた矢を落とす無駄に気づき、矢の向きを氷で滑らせて叩き落す作戦に打って出た。背のロゼマリアが何かを指示したらしく、突然別方向から飛んできた石礫を器用に風で足元に落とす。
魔力量に任せた手法の多いオリヴィエラらしくないが、敵の攻撃を上手に利用した戦いは彼女の成長の証だろう。自分以外に大切な存在のいなかったグリフォンにとって、背に乗せた友人を守り、主人と定めた魔王の命令を全うする戦いは、よい方向に作用していた。
「オリヴィエラ、リリアーナ。生き残りは不要だ」
この国の民は足りている。傷を癒した善良なるバシレイアの民、愚かな王に食いつぶされる経験をしたグリュポスの民――どちらも魔王の庇護下にある。その国に弓引いたビフレストは大国の選民意識が強すぎた。手駒にならぬ民は要らない。イザヴェルのように軍事を中心に動く民も役に立たぬ。
我が国に必要なのは、勤勉で働くことを厭わぬ善良な国民だけ。人は財産だと教えたのは、我が父だった。その男を倒して玉座を手にしたオレが言うのもおかしいが、最強の魔王一人では国は維持できない。他者の能力を生かし、部下を作り上げ、民を育てる。
王の役目は象徴であり、舵取り役であることだ。優秀であれば国家は長く存続するだろう。愚か者が玉座を穢せば、国が消滅するだけの話……そう、グリュポスのように。
「わかった。あっち片づけてくるね」
リリアーナが空中で向きを変え、軍の中枢が陣取る荒野の奥へ進路を取った。鳴き声でグリフォンへ合図を送る。ドラゴンの背を追う形で、オリヴィエラが後に続いた。
地上の兵士は混乱し、本部を助けに戻るべきか。この期に逃げるかを迫られる。わずかな時間しかない中で、一部の兵士が逃走を開始した。逃げた兵士を上官が殺す光景に、オレは口元を歪めて呟く。
「愚かさは底がないと見える」
この地に留まるのは愚行、逃げる者を殺すのはさらに愚かな振る舞いだ。上官に対しての信頼があれば、部下は上官を捨てて逃げたりしない。彼も一緒に逃がそうとするだろう。己が信頼されていない証拠に背を向けられ、怒りに任せて兵力を減らすなど愚劣の極みだった。
背に広げた翼に風を受け、足元の蟻を眺める。彼らが逃げようと殺し合おうと構わない。ウラノスがいた赤い血に濡れた土地が、突然魔法陣の光に包まれた。
「ほう、見事だが……」
地脈を呼び寄せる魔法陣は光を放ちながら拡大していく。空から見ると等間隔に広がる魔法文字と模様の美しさに目を奪われた。広がった文字の間に、新たな文字が埋め込まれていく。ただ拡大するだけでなく、機能を追加しているのだ。
魔法陣はその美しさが強さに直結する。この世界に来て、初めてこれほどの魔法陣を扱う存在を知った。ウラノスの過去に興味が湧くが、本人が語らぬことを聞き出す無粋は諦める。
「発動する」
感嘆の声に反応したように魔法陣が発動し、激しい振動による地震を伴い轟音を響かせて大地はその身をよじった。
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