167 / 438
第7章 踊る道化の足元は
165.魔王陛下も幸せなことよ
しおりを挟む
ウラノスは、仮死状態の魔物をじっくりと眺めた後で魔法陣をひとつ作った。それをクリスティーヌに渡す。
薄暗い牢の中に、灯りは用意されていない。蝋燭も火を失って久しく、芯は冷え切って固まっていた。夜目が利く吸血鬼とドラゴンは、教師であるウラノスが作り上げた魔法陣を真剣に眺める。必死で覚えようとする弟子達に、簡単な解説を始めた。
「すでに教えたが、外周円は魔法陣を示し、内なる円に範囲を刻む。機能を示す記号を中央へ、ここに術師の名や記号、ここが調整部分となるゆえ、間違えるでないぞ」
解説された通り、そっくり真似てリリアーナが魔法陣を描く。意外とスパルタ教育のウラノスは、いきなり上級者向けの内容から始めた。紙や地面に魔法陣を描くのではなく、魔力を使って空中に作り出す方法を選んだのだ。
出来なくて癇癪を起こしたことがあるリリアーナも、最近は上手に空中に文字を刻めるようになった。その際に魔力の調整を行うため、魔力制御の能力も飛躍的に向上している。才能のある子供は遊びの中で工夫して覚えるもの。説明に割く時間が惜しいウラノスは、目の前でやってみせ「出来ないのか」と挑発して彼女らの能力を引き出したのだ。
乱暴な方法だが、リリアーナもクリスティーヌも食らい付いてきた。生来の負けず嫌いが功を奏した状態だ。
「ここだけ私の名前にする」
そっくり作った魔法文字の中から、術師のウラノスを示す単語を選び出して描き直す。隣でクリスティーヌも苦戦しながら自分の名前を刻み終えた。
「仮死は状態異常の一種だ。それを解除する記号がここに」
星が絡まったような記号を見つけ、リリアーナが声をあげる。
「これ、ここの文字でしょ?」
「そうじゃ、賢い賢い」
年寄り臭い口調で、少年は姉のような外見のクリスティーヌの黒髪を撫でた。頬を緩めて笑う彼女が、魔力をそっと流す。魔法陣がきらきらと輝いた。
手元にいる仮死状態のネズミを元に戻す。これが出来ればサタンが褒めてくれると聞いた2人は夢中で魔法陣を覚えた。お昼寝の時間も、カルタで遊ぶ時間も練習に費やす。ようやく昨夜成功したため、師匠であるウラノスに見せにきたのだが……魔法陣の一部を修正された。あのまま蘇生するとゾンビになると脅されたため、最初からやり直しているのだ。
ネズミの血をぎりぎりまで吸い、意識を失ったところに仮死状態にする魔術をかける。そこから解除するのだが、仮死状態にすることより戻す方が格段に難しかった。何度も失敗してネズミやリスを始末した彼女らは、慎重に蘇生を試みる。
「っ! 出来た!」
クリスティーヌの方が魔力量が少ない。微調整では彼女に軍配が上がった形だ。リリアーナは唸りながら調整したが失敗し、ネズミが破裂する事態となった。
「出来なかった」
明暗が分かれた2人に、ウラノスは穏やかに声をかけた。
「本来は吸血鬼が得意とする術じゃ。クリスティーヌはよく頑張った。リリアーナは他種族の魔術を覚えようとしたのだ。難しいのは当然だが、魔力の調整が上達した。まだ学ぶのであれば、明日もまいれ」
「「うん」」
もっと賢くなって、いろいろな魔法陣や魔術を覚え、サタンの役に立つ。そう決めた2人の明るい返事に、ウラノスはくすくすと笑った。
「我が魔王陛下も幸せなことよ」
薄暗い牢の中に、灯りは用意されていない。蝋燭も火を失って久しく、芯は冷え切って固まっていた。夜目が利く吸血鬼とドラゴンは、教師であるウラノスが作り上げた魔法陣を真剣に眺める。必死で覚えようとする弟子達に、簡単な解説を始めた。
「すでに教えたが、外周円は魔法陣を示し、内なる円に範囲を刻む。機能を示す記号を中央へ、ここに術師の名や記号、ここが調整部分となるゆえ、間違えるでないぞ」
解説された通り、そっくり真似てリリアーナが魔法陣を描く。意外とスパルタ教育のウラノスは、いきなり上級者向けの内容から始めた。紙や地面に魔法陣を描くのではなく、魔力を使って空中に作り出す方法を選んだのだ。
出来なくて癇癪を起こしたことがあるリリアーナも、最近は上手に空中に文字を刻めるようになった。その際に魔力の調整を行うため、魔力制御の能力も飛躍的に向上している。才能のある子供は遊びの中で工夫して覚えるもの。説明に割く時間が惜しいウラノスは、目の前でやってみせ「出来ないのか」と挑発して彼女らの能力を引き出したのだ。
乱暴な方法だが、リリアーナもクリスティーヌも食らい付いてきた。生来の負けず嫌いが功を奏した状態だ。
「ここだけ私の名前にする」
そっくり作った魔法文字の中から、術師のウラノスを示す単語を選び出して描き直す。隣でクリスティーヌも苦戦しながら自分の名前を刻み終えた。
「仮死は状態異常の一種だ。それを解除する記号がここに」
星が絡まったような記号を見つけ、リリアーナが声をあげる。
「これ、ここの文字でしょ?」
「そうじゃ、賢い賢い」
年寄り臭い口調で、少年は姉のような外見のクリスティーヌの黒髪を撫でた。頬を緩めて笑う彼女が、魔力をそっと流す。魔法陣がきらきらと輝いた。
手元にいる仮死状態のネズミを元に戻す。これが出来ればサタンが褒めてくれると聞いた2人は夢中で魔法陣を覚えた。お昼寝の時間も、カルタで遊ぶ時間も練習に費やす。ようやく昨夜成功したため、師匠であるウラノスに見せにきたのだが……魔法陣の一部を修正された。あのまま蘇生するとゾンビになると脅されたため、最初からやり直しているのだ。
ネズミの血をぎりぎりまで吸い、意識を失ったところに仮死状態にする魔術をかける。そこから解除するのだが、仮死状態にすることより戻す方が格段に難しかった。何度も失敗してネズミやリスを始末した彼女らは、慎重に蘇生を試みる。
「っ! 出来た!」
クリスティーヌの方が魔力量が少ない。微調整では彼女に軍配が上がった形だ。リリアーナは唸りながら調整したが失敗し、ネズミが破裂する事態となった。
「出来なかった」
明暗が分かれた2人に、ウラノスは穏やかに声をかけた。
「本来は吸血鬼が得意とする術じゃ。クリスティーヌはよく頑張った。リリアーナは他種族の魔術を覚えようとしたのだ。難しいのは当然だが、魔力の調整が上達した。まだ学ぶのであれば、明日もまいれ」
「「うん」」
もっと賢くなって、いろいろな魔法陣や魔術を覚え、サタンの役に立つ。そう決めた2人の明るい返事に、ウラノスはくすくすと笑った。
「我が魔王陛下も幸せなことよ」
0
あなたにおすすめの小説
【完結】転生7年!ぼっち脱出して王宮ライフ満喫してたら王国の動乱に巻き込まれた少女戦記 〜愛でたいアイカは救国の姫になる
三矢さくら
ファンタジー
【完結しました】異世界からの召喚に応じて6歳児に転生したアイカは、護ってくれる結界に逆に閉じ込められた結果、山奥でサバイバル生活を始める。
こんなはずじゃなかった!
異世界の山奥で過ごすこと7年。ようやく結界が解けて、山を下りたアイカは王都ヴィアナで【天衣無縫の無頼姫】の異名をとる第3王女リティアと出会う。
珍しい物好きの王女に気に入られたアイカは、なんと侍女に取り立てられて王宮に!
やっと始まった異世界生活は、美男美女ぞろいの王宮生活!
右を見ても左を見ても「愛でたい」美人に美少女! 美男子に美少年ばかり!
アイカとリティア、まだまだ幼い侍女と王女が数奇な運命をたどる異世界王宮ファンタジー戦記。
最難関ダンジョンをクリアした成功報酬は勇者パーティーの裏切りでした
新緑あらた
ファンタジー
最難関であるS級ダンジョン最深部の隠し部屋。金銀財宝を前に告げられた言葉は労いでも喜びでもなく、解雇通告だった。
「もうオマエはいらん」
勇者アレクサンダー、癒し手エリーゼ、赤魔道士フェルノに、自身の黒髪黒目を忌避しないことから期待していた俺は大きなショックを受ける。
ヤツらは俺の外見を受け入れていたわけじゃない。ただ仲間と思っていなかっただけ、眼中になかっただけなのだ。
転生者は曾祖父だけどチートは隔世遺伝した「俺」にも受け継がれています。
勇者達は大富豪スタートで貧民窟の住人がゴールです(笑)
無能扱いされ、パーティーを追放されたおっさん、実はチートスキル持ちでした。戻ってきてくれ、と言ってももう遅い。田舎でゆったりスローライフ。
さら
ファンタジー
かつて勇者パーティーに所属していたジル。
だが「無能」と嘲られ、役立たずと追放されてしまう。
行くあてもなく田舎の村へ流れ着いた彼は、鍬を振るい畑を耕し、のんびり暮らすつもりだった。
――だが、誰も知らなかった。
ジルには“世界を覆すほどのチートスキル”が隠されていたのだ。
襲いかかる魔物を一撃で粉砕し、村を脅かす街の圧力をはねのけ、いつしか彼は「英雄」と呼ばれる存在に。
「戻ってきてくれ」と泣きつく元仲間? もう遅い。
俺はこの村で、仲間と共に、気ままにスローライフを楽しむ――そう決めたんだ。
無能扱いされたおっさんが、実は最強チートで世界を揺るがす!?
のんびり田舎暮らし×無双ファンタジー、ここに開幕!
妻からの手紙~18年の後悔を添えて~
Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。
妻が死んで18年目の今日。
息子の誕生日。
「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」
息子は…17年前に死んだ。
手紙はもう一通あった。
俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。
------------------------------
勇者パーティーにダンジョンで生贄にされました。これで上位神から押し付けられた、勇者の育成支援から解放される。
克全
ファンタジー
エドゥアルには大嫌いな役目、神与スキル『勇者の育成者』があった。力だけあって知能が低い下級神が、勇者にふさわしくない者に『勇者』スキルを与えてしまったせいで、上級神から与えられてしまったのだ。前世の知識と、それを利用して鍛えた絶大な魔力のあるエドゥアルだったが、神与スキル『勇者の育成者』には逆らえず、嫌々勇者を教育していた。だが、勇者ガブリエルは上級神の想像を絶する愚者だった。事もあろうに、エドゥアルを含む300人もの人間を生贄にして、ダンジョンの階層主を斃そうとした。流石にこのような下劣な行いをしては『勇者』スキルは消滅してしまう。対象となった勇者がいなくなれば『勇者の育成者』スキルも消滅する。自由を手に入れたエドゥアルは好き勝手に生きることにしたのだった。
うっかり女神さまからもらった『レベル9999』は使い切れないので、『譲渡』スキルで仲間を強化して最強パーティーを作ることにしました
akairo
ファンタジー
「ごめんなさい!貴方が死んだのは私のクシャミのせいなんです!」
帰宅途中に工事現場の足台が直撃して死んだ、早良 悠月(さわら ゆずき)が目覚めた目の前には女神さまが土下座待機をして待っていた。
謝る女神さまの手によって『ユズキ』として転生することになったが、その直後またもや女神さまの手違いによって、『レベル9999』と職業『譲渡士』という謎の職業を付与されてしまう。
しかし、女神さまの世界の最大レベルは99。
勇者や魔王よりも強いレベルのまま転生することになったユズキの、使い切ることもできないレベルの使い道は仲間に譲渡することだった──!?
転生先で出会ったエルフと魔族の少女。スローライフを掲げるユズキだったが、二人と共に世界を回ることで国を巻き込む争いへと巻き込まれていく。
※9月16日
タイトル変更致しました。
前タイトルは『レベル9999は転生した世界で使い切れないので、仲間にあげることにしました』になります。
仲間を強くして無双していく話です。
『小説家になろう』様でも公開しています。
収納魔法を極めた魔術師ですが、勇者パーティを追放されました。ところで俺の追放理由って “どれ” ですか?
木塚麻弥
ファンタジー
収納魔法を活かして勇者パーティーの荷物持ちをしていたケイトはある日、パーティーを追放されてしまった。
追放される理由はよく分からなかった。
彼はパーティーを追放されても文句の言えない理由を無数に抱えていたからだ。
結局どれが本当の追放理由なのかはよく分からなかったが、勇者から追放すると強く言われたのでケイトはそれに従う。
しかし彼は、追放されてもなお仲間たちのことが好きだった。
たった四人で強大な魔王軍に立ち向かおうとするかつての仲間たち。
ケイトは彼らを失いたくなかった。
勇者たちとまた一緒に食事がしたかった。
しばらくひとりで悩んでいたケイトは気づいてしまう。
「追放されたってことは、俺の行動を制限する奴もいないってことだよな?」
これは収納魔法しか使えない魔術師が、仲間のために陰で奮闘する物語。
【完結】使えない令嬢として一家から追放されたけど、あまりにも領民からの信頼が厚かったので逆転してざまぁしちゃいます
腕押のれん
ファンタジー
アメリスはマハス公国の八大領主の一つであるロナデシア家の三姉妹の次女として生まれるが、頭脳明晰な長女と愛想の上手い三女と比較されて母親から疎まれており、ついに追放されてしまう。しかしアメリスは取り柄のない自分にもできることをしなければならないという一心で領民たちに対し援助を熱心に行っていたので、領民からは非常に好かれていた。そのため追放された後に他国に置き去りにされてしまうものの、偶然以前助けたマハス公国出身のヨーデルと出会い助けられる。ここから彼女の逆転人生が始まっていくのであった!
私が死ぬまでには完結させます。
追記:最後まで書き終わったので、ここからはペース上げて投稿します。
追記2:ひとまず完結しました!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる