160 / 438
第7章 踊る道化の足元は
158.すでに仕掛けは発動した
しおりを挟む
「お、王女殿下!」
「王女カリーナ様、あの」
慌てた使者が取り繕おうとするが、オレは何も言わなかった。肘掛けに左手を乗せ、頬に手をついて寄りかかる。
興奮したカリーナはまだ己の失言に気付いていない。一見すると失言までの流れは、ライラと大差なく見えただろう。しかしやり取りの意味は全く異なっていた。
ライラの見せた覚悟と、カリーナの虚勢では価値がまったく違う。尊重する価値があるかないか。オレでなくとも、この違いは理解するだろう。
「……うふ、ふふっ。今の言葉を聞きました? リリアーナ様、サタン様の治める国を滅ぼすと仰ったようですわ」
オリヴィエラが彼女を煽る。幼く直情的なリリアーナは、唇を尖らせて不満を露わにした。
「その前に私が潰す」
「私もやる」
クリスティーヌも手を挙げて参戦表明する。アガレスがモノクルの縁を意味ありげに撫でながら、口元を緩めた。予定通りだとほくそ笑む宰相の後ろで、やり取りを書き取るマルファスが溜め息を吐いた。
「なんなのっ! 私は大国ビフレストの王女なのよ?! そこの魔王を名乗る男も、あんた達も私より格下なんだから! 宰相なんて平民出じゃない! こんな国、滅ぼしてやるわよ」
そのセリフを一言一句間違えることなく、淡々と書き留めるマルファスが、ぼそっと呟いた。
「そういえば、レーシーの仕掛けはもう動いてましたっけ?」
「ええ、結果が楽しみです」
喚き散らす王女を、使者がなんとか宥めようとするも、肩書を振りかざして抵抗されて挫折する。もうすべての責任を王女に押し付けて、自分達は逃げた方がいいかもしれない。そんな捨て鉢な使者に、悪魔の囁きが届いた。
「そこの2人も同じ考えか?」
黙していた魔王の声に、使者2人は大急ぎで首を横に振った。睨みつける王女の視線は痛いが、彼女についてもメリットがない。彼らは根っからの外交官であり、損得勘定は得意だ。この国にも諜報を得意とする侍女を潜り込ませていた。
王女カリーナが何を言おうが、彼らは自らの得た情報を元に「この魔王の実力は本物で危険だ」と判断している。丸1日放置されたのも、その際に使者を休ませる客間から見える庭で、彼女らと戯れたのも作戦と考えた。故に、王女の短絡的な発言に危機感を募らせる。
「ならば、よい情報をやろう」
ちらりとアガレスへ視線を向ける。心得た宰相は緩みがちな口元を引き締め、真面目くさった顔を取り繕うと書類を読み上げた。どこかの王宮へ放った刺客……という肩書の妖艶なる青白い髪の女性が、国王を快楽に落とした話だ。この情報の意味が分からず眉をひそめ「汚らわしい」と発言したのは、カリーナだった。
「汚らわしいか? だが幻術は彼女の能力だ」
身体を使って落としたと聞こえようが、実際には幻惑で惑わされた愚かな王がいるだけ。そう告げられて、使者2人は青ざめた。魔王は国の名称を故意に伏せた。その意味に気づいたのだ。
「わ、私は亡命を希望します」
「私も! 家族も一緒に」
使者達の豹変の理由を考えず、カリーナは激怒した。我が国で王女に従う使者の位置まで引き立ててやったのは、父である国王だ。その恩を忘れたのか、罵る彼女を無視した2人をアガレスが受け入れた。
「良いでしょう。我が国は拡大中で、常に人手が足りません。働いていただきますよ」
「王女カリーナ様、あの」
慌てた使者が取り繕おうとするが、オレは何も言わなかった。肘掛けに左手を乗せ、頬に手をついて寄りかかる。
興奮したカリーナはまだ己の失言に気付いていない。一見すると失言までの流れは、ライラと大差なく見えただろう。しかしやり取りの意味は全く異なっていた。
ライラの見せた覚悟と、カリーナの虚勢では価値がまったく違う。尊重する価値があるかないか。オレでなくとも、この違いは理解するだろう。
「……うふ、ふふっ。今の言葉を聞きました? リリアーナ様、サタン様の治める国を滅ぼすと仰ったようですわ」
オリヴィエラが彼女を煽る。幼く直情的なリリアーナは、唇を尖らせて不満を露わにした。
「その前に私が潰す」
「私もやる」
クリスティーヌも手を挙げて参戦表明する。アガレスがモノクルの縁を意味ありげに撫でながら、口元を緩めた。予定通りだとほくそ笑む宰相の後ろで、やり取りを書き取るマルファスが溜め息を吐いた。
「なんなのっ! 私は大国ビフレストの王女なのよ?! そこの魔王を名乗る男も、あんた達も私より格下なんだから! 宰相なんて平民出じゃない! こんな国、滅ぼしてやるわよ」
そのセリフを一言一句間違えることなく、淡々と書き留めるマルファスが、ぼそっと呟いた。
「そういえば、レーシーの仕掛けはもう動いてましたっけ?」
「ええ、結果が楽しみです」
喚き散らす王女を、使者がなんとか宥めようとするも、肩書を振りかざして抵抗されて挫折する。もうすべての責任を王女に押し付けて、自分達は逃げた方がいいかもしれない。そんな捨て鉢な使者に、悪魔の囁きが届いた。
「そこの2人も同じ考えか?」
黙していた魔王の声に、使者2人は大急ぎで首を横に振った。睨みつける王女の視線は痛いが、彼女についてもメリットがない。彼らは根っからの外交官であり、損得勘定は得意だ。この国にも諜報を得意とする侍女を潜り込ませていた。
王女カリーナが何を言おうが、彼らは自らの得た情報を元に「この魔王の実力は本物で危険だ」と判断している。丸1日放置されたのも、その際に使者を休ませる客間から見える庭で、彼女らと戯れたのも作戦と考えた。故に、王女の短絡的な発言に危機感を募らせる。
「ならば、よい情報をやろう」
ちらりとアガレスへ視線を向ける。心得た宰相は緩みがちな口元を引き締め、真面目くさった顔を取り繕うと書類を読み上げた。どこかの王宮へ放った刺客……という肩書の妖艶なる青白い髪の女性が、国王を快楽に落とした話だ。この情報の意味が分からず眉をひそめ「汚らわしい」と発言したのは、カリーナだった。
「汚らわしいか? だが幻術は彼女の能力だ」
身体を使って落としたと聞こえようが、実際には幻惑で惑わされた愚かな王がいるだけ。そう告げられて、使者2人は青ざめた。魔王は国の名称を故意に伏せた。その意味に気づいたのだ。
「わ、私は亡命を希望します」
「私も! 家族も一緒に」
使者達の豹変の理由を考えず、カリーナは激怒した。我が国で王女に従う使者の位置まで引き立ててやったのは、父である国王だ。その恩を忘れたのか、罵る彼女を無視した2人をアガレスが受け入れた。
「良いでしょう。我が国は拡大中で、常に人手が足りません。働いていただきますよ」
0
お気に入りに追加
1,032
あなたにおすすめの小説

貧弱の英雄
カタナヅキ
ファンタジー
この世界では誰もが生まれた時から「異能」と「レベル」呼ばれる能力を身に付けており、人々はレベルを上げて自分の能力を磨き、それに適した職業に就くのが当たり前だった。しかし、山奥で捨てられていたところを狩人に拾われ、後に「ナイ」と名付けられた少年は「貧弱」という異能の中でも異質な能力を身に付けていた。
貧弱の能力の効果は日付が変更される度に強制的にレベルがリセットされてしまい、生まれた時からナイは「レベル1」だった。どれだけ努力してレベルを上げようと日付変わる度にレベル1に戻ってしまい、レベルで上がった分の能力が低下してしまう。
自分の貧弱の技能に悲観する彼だったが、ある時にレベルを上昇させるときに身に付ける「SP」の存在を知る。これを使用すれば「技能」と呼ばれる様々な技術を身に付ける事を知り、レベルが毎日のようにリセットされる事を逆に利用して彼はSPを溜めて数々の技能を身に付け、落ちこぼれと呼んだ者達を見返すため、底辺から成り上がる――
※修正要請のコメントは対処後に削除します。

劣悪だと言われたハズレ加護の『空間魔法』を、便利だと思っているのは僕だけなのだろうか?
はらくろ
ファンタジー
海と交易で栄えた国を支える貴族家のひとつに、
強くて聡明な父と、優しくて活動的な母の間に生まれ育った少年がいた。
母親似に育った賢く可愛らしい少年は優秀で、将来が楽しみだと言われていたが、
その少年に、突然の困難が立ちはだかる。
理由は、貴族の跡取りとしては公言できないほどの、劣悪な加護を洗礼で授かってしまったから。
一生外へ出られないかもしれない幽閉のような生活を続けるよりも、少年は屋敷を出て行く選択をする。
それでも持ち前の強く非常識なほどの魔力の多さと、負けず嫌いな性格でその困難を乗り越えていく。
そんな少年の物語。

はずれスキル『本日一粒万倍日』で金も魔法も作物もなんでも一万倍 ~はぐれサラリーマンのスキル頼みな異世界満喫日記~
緋色優希
ファンタジー
勇者召喚に巻き込まれて異世界へやってきたサラリーマン麦野一穂(むぎのかずほ)。得たスキルは屑(ランクレス)スキルの『本日一粒万倍日』。あまりの内容に爆笑され、同じように召喚に巻き込まれてきた連中にも馬鹿にされ、一人だけ何一つ持たされず荒城にそのまま置き去りにされた。ある物と言えば、水の樽といくらかの焼き締めパン。どうする事もできずに途方に暮れたが、スキルを唱えたら水樽が一万個に増えてしまった。また城で見つけた、たった一枚の銀貨も、なんと銀貨一万枚になった。どうやら、あれこれと一万倍にしてくれる不思議なスキルらしい。こんな世界で王様の助けもなく、たった一人どうやって生きたらいいのか。だが開き直った彼は『住めば都』とばかりに、スキル頼みでこの異世界での生活を思いっきり楽しむ事に決めたのだった。
地獄の手違いで殺されてしまったが、閻魔大王が愛猫と一緒にネット環境付きで異世界転生させてくれました。
克全
ファンタジー
「第3回次世代ファンタジーカップ」参加作、面白いと感じましたらお気に入り登録と感想をくださると作者の励みになります!
高橋翔は地獄の官吏のミスで寿命でもないのに殺されてしまった。だが流石に地獄の十王達だった。配下の失敗にいち早く気付き、本来なら地獄の泰広王(不動明王)だけが初七日に審理する場に、十王全員が勢揃いして善後策を協議する事になった。だが、流石の十王達でも、配下の失敗に気がつくのに六日掛かっていた、高橋翔の身体は既に焼かれて灰となっていた。高橋翔は閻魔大王たちを相手に交渉した。現世で残されていた寿命を異世界で全うさせてくれる事。どのような異世界であろうと、異世界間ネットスーパーを利用して元の生活水準を保証してくれる事。死ぬまでに得ていた貯金と家屋敷、死亡保険金を保証して異世界で使えるようにする事。更には異世界に行く前に地獄で鍛錬させてもらう事まで要求し、権利を勝ち取った。そのお陰で異世界では楽々に生きる事ができた。

雑用係の回復術士、【魔力無限】なのに専属ギルドから戦力外通告を受けて追放される〜ケモ耳少女とエルフでダンジョン攻略始めたら『伝説』になった〜
霞杏檎
ファンタジー
祝【コミカライズ決定】!!
「使えん者はいらん……よって、正式にお前には戦力外通告を申し立てる。即刻、このギルドから立ち去って貰おう!! 」
回復術士なのにギルド内で雑用係に成り下がっていたフールは自身が専属で働いていたギルドから、何も活躍がないと言う理由で戦力外通告を受けて、追放されてしまう。
フールは回復術士でありながら自己主張の低さ、そして『単体回復魔法しか使えない』と言う能力上の理由からギルドメンバーからは舐められ、S級ギルドパーティのリーダーであるダレンからも馬鹿にされる存在だった。
しかし、奴らは知らない、フールが【魔力無限】の能力を持っていることを……
途方に暮れている道中で見つけたダンジョン。そこで傷ついた”ケモ耳銀髪美少女”セシリアを助けたことによって彼女はフールの能力を知ることになる。
フールに助けてもらったセシリアはフールの事を気に入り、パーティの前衛として共に冒険することを決めるのであった。
フールとセシリアは共にダンジョン攻略をしながら自由に生きていくことを始めた一方で、フールのダンジョン攻略の噂を聞いたギルドをはじめ、ダレンはフールを引き戻そうとするが、フールの意思が変わることはなかった……
これは雑用係に成り下がった【最強】回復術士フールと"ケモ耳美少女"達が『伝説』のパーティだと語られるまでを描いた冒険の物語である!
(160話で完結予定)
元タイトル
「雑用係の回復術士、【魔力無限】なのに専属ギルドから戦力外通告を受けて追放される〜でも、ケモ耳少女とエルフでダンジョン攻略始めたら『伝説』になった。噂を聞いたギルドが戻ってこいと言ってるがお断りします〜」

貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた
佐藤醤油
ファンタジー
貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。
僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。
魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。
言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。
この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。
小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。
------------------------------------------------------------------
お知らせ
「転生者はめぐりあう」 始めました。
------------------------------------------------------------------
注意
作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。
感想は受け付けていません。
誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。
~唯一王の成り上がり~ 外れスキル「精霊王」の俺、パーティーを首になった瞬間スキルが開花、Sランク冒険者へと成り上がり、英雄となる
静内燕
ファンタジー
【カクヨムコン最終選考進出】
【複数サイトでランキング入り】
追放された主人公フライがその能力を覚醒させ、成り上がりっていく物語
主人公フライ。
仲間たちがスキルを開花させ、パーティーがSランクまで昇華していく中、彼が与えられたスキルは「精霊王」という伝説上の生き物にしか対象にできない使用用途が限られた外れスキルだった。
フライはダンジョンの案内役や、料理、周囲の加護、荷物持ちなど、あらゆる雑用を喜んでこなしていた。
外れスキルの自分でも、仲間達の役に立てるからと。
しかしその奮闘ぶりは、恵まれたスキルを持つ仲間たちからは認められず、毎日のように不当な扱いを受ける日々。
そしてとうとうダンジョンの中でパーティーからの追放を宣告されてしまう。
「お前みたいなゴミの変わりはいくらでもいる」
最後のクエストのダンジョンの主は、今までと比較にならないほど強く、歯が立たない敵だった。
仲間たちは我先に逃亡、残ったのはフライ一人だけ。
そこでダンジョンの主は告げる、あなたのスキルを待っていた。と──。
そして不遇だったスキルがようやく開花し、最強の冒険者へとのし上がっていく。
一方、裏方で支えていたフライがいなくなったパーティーたちが没落していく物語。
イラスト 卯月凪沙様より

僕の秘密を知った自称勇者が聖剣を寄越せと言ってきたので渡してみた
黒木メイ
ファンタジー
世界に一人しかいないと言われている『勇者』。
その『勇者』は今、ワグナー王国にいるらしい。
曖昧なのには理由があった。
『勇者』だと思わしき少年、レンが頑なに「僕は勇者じゃない」と言っているからだ。
どんなに周りが勇者だと持て囃してもレンは認めようとしない。
※小説家になろうにも随時転載中。
レンはただ、ある目的のついでに人々を助けただけだと言う。
それでも皆はレンが勇者だと思っていた。
突如日本という国から彼らが転移してくるまでは。
はたして、レンは本当に勇者ではないのか……。
ざまぁあり・友情あり・謎ありな作品です。
※小説家になろう、カクヨム、ネオページにも掲載。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる