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第7章 踊る道化の足元は
155.女の支度は時間がかかる
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「着飾ったら、ばたばた動かない。大人しくする。サタン様から離れない」
最後の項目は違う気もするが、指折り数えて確認するリリアーナは真剣だった。向かいで頷くクリスティーヌも、敵を仕留めに行くような集中力をみせる。
大きな胸を強調するドレスのオリヴィエラは、珍しく髪をきっちり結い上げた。濃茶の髪がわずかに肌へかかる様が色っぽい。胸の谷間付近まで開いたドレスに合わせ、大きな宝石を飾った首飾りと、お揃いの耳飾りを下げた。
「あらあら、リリアーナ様が一番なのでしょう? でしたら、新しい候補はきちんと見極めていただかないと困りますわ」
煽るセリフに、リリアーナは大きく頷いた。気合十分だと示すように、背に広げた羽がばさばさ動く。尻尾も左右に大きく揺れていた。
「私が2番なの!」
クリスティーヌが手を挙げて主張する。少し困ったような顔をしながら、ロゼマリアが頷いた。
「そうね。クリスティーヌ様も今日は着飾ったのですから、教えた通りお姫様として振る舞ってくださいね」
言い聞かされたクリスティーヌは、黒髪をハーフアップにしていた。ご機嫌で頷くが、髪飾りの生花が揺れて、慌てて手で押さえる。
「ほら、大きく動くと崩れますわよ」
オリヴィエラが器用に髪飾りを直す。黒髪を引き立てる檸檬色のドレスを纏うクリスティーヌは、首に共布のチョーカーを巻いた。ひらひらと裾が風に踊るデザインは、幼い彼女によく似合う。
尻尾を隠すか迷ったリリアーナは、羽も尻尾も出すデザインを選んだ。背中が腰の辺りまで露わになったドレスは水色だった。下品にならないようにとロゼマリアが選択した色だ。褐色の肌に合うパステルカラーのドレスは、腰の部分で大きなリボンが揺れる。クリスティーヌと同じで広がるスカートをひらひらさせながら、腰に抱きついてきた。
金髪を撫でようとして、髪飾りに気付いて手を止める。崩してしまったら泣くだろう。頬に手を当てて撫でてやると、満足げに尻尾が大きく振られた。今日の謁見の出来は、この2人にかかっているのだ。
「陛下、お待たせいたしました」
ロゼマリアは他の3人の準備を優先したため、ようやく今準備を終えた。柔らかな緑のドレスは首までレースで覆った禁欲的なものだ。これを選んだのはオリヴィエラだった。首を隠すのは未婚の王族女性がよく選ぶらしいが、それはまだ誰も手もついていないと示す意味があるという。
選んだ際のオリヴィエラの様子をみれば、別の目的で使用するつもりだろう。相手のミスリードを招くため、お手つきでないと強調するドレスを纏わせた。こういった男女の機微に関する部分は、彼女のお得意分野だ。
「行くぞ」
戦に出向く口振りで彼女らを促し、廊下を大股に歩く。ヒールの靴で必死に駆け寄ったリリアーナが腕を絡め、クリスティーヌも彼女と手を繋いだ。従うオリヴィエラとロゼマリアはひそひそと打ち合わせを続ける。
誰もいない廊下を抜け、衛兵が守る謁見の間の扉に辿り着いた。今更覚悟を尋ねる必要はない。無言で衛兵に促せば、軋んだ音もなく手入れのされた扉が開いた。
「魔王陛下のお越しでございます」
アガレスの声が朗々と広間に響いた。
最後の項目は違う気もするが、指折り数えて確認するリリアーナは真剣だった。向かいで頷くクリスティーヌも、敵を仕留めに行くような集中力をみせる。
大きな胸を強調するドレスのオリヴィエラは、珍しく髪をきっちり結い上げた。濃茶の髪がわずかに肌へかかる様が色っぽい。胸の谷間付近まで開いたドレスに合わせ、大きな宝石を飾った首飾りと、お揃いの耳飾りを下げた。
「あらあら、リリアーナ様が一番なのでしょう? でしたら、新しい候補はきちんと見極めていただかないと困りますわ」
煽るセリフに、リリアーナは大きく頷いた。気合十分だと示すように、背に広げた羽がばさばさ動く。尻尾も左右に大きく揺れていた。
「私が2番なの!」
クリスティーヌが手を挙げて主張する。少し困ったような顔をしながら、ロゼマリアが頷いた。
「そうね。クリスティーヌ様も今日は着飾ったのですから、教えた通りお姫様として振る舞ってくださいね」
言い聞かされたクリスティーヌは、黒髪をハーフアップにしていた。ご機嫌で頷くが、髪飾りの生花が揺れて、慌てて手で押さえる。
「ほら、大きく動くと崩れますわよ」
オリヴィエラが器用に髪飾りを直す。黒髪を引き立てる檸檬色のドレスを纏うクリスティーヌは、首に共布のチョーカーを巻いた。ひらひらと裾が風に踊るデザインは、幼い彼女によく似合う。
尻尾を隠すか迷ったリリアーナは、羽も尻尾も出すデザインを選んだ。背中が腰の辺りまで露わになったドレスは水色だった。下品にならないようにとロゼマリアが選択した色だ。褐色の肌に合うパステルカラーのドレスは、腰の部分で大きなリボンが揺れる。クリスティーヌと同じで広がるスカートをひらひらさせながら、腰に抱きついてきた。
金髪を撫でようとして、髪飾りに気付いて手を止める。崩してしまったら泣くだろう。頬に手を当てて撫でてやると、満足げに尻尾が大きく振られた。今日の謁見の出来は、この2人にかかっているのだ。
「陛下、お待たせいたしました」
ロゼマリアは他の3人の準備を優先したため、ようやく今準備を終えた。柔らかな緑のドレスは首までレースで覆った禁欲的なものだ。これを選んだのはオリヴィエラだった。首を隠すのは未婚の王族女性がよく選ぶらしいが、それはまだ誰も手もついていないと示す意味があるという。
選んだ際のオリヴィエラの様子をみれば、別の目的で使用するつもりだろう。相手のミスリードを招くため、お手つきでないと強調するドレスを纏わせた。こういった男女の機微に関する部分は、彼女のお得意分野だ。
「行くぞ」
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誰もいない廊下を抜け、衛兵が守る謁見の間の扉に辿り着いた。今更覚悟を尋ねる必要はない。無言で衛兵に促せば、軋んだ音もなく手入れのされた扉が開いた。
「魔王陛下のお越しでございます」
アガレスの声が朗々と広間に響いた。
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