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第7章 踊る道化の足元は
146.切り捨てずに受け入れる決断
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馬車は妊婦を乗せ、ゆっくりと近づいてくる。到着した門の内側で止まったことに、怯えた様子で顔を見せる女性達は疲れ切っていた。ロゼマリアが後ろの侍女エマに指示を出し、温かな毛布を用意させる。
「よく来た……っ」
「ここは私が」
遮るように前に立ったロゼマリアの毅然とした態度に、「よかろう」と口を噤んで任せる。オリヴィエラは驚いた顔をしたが、何も言わずに口元を手で隠した。
「ようこそ、バシレイア聖国へ。この国は移住目的の難民に門戸を開いています。妊婦や幼児ばかりと伺っておりますが、体調の悪い方はいらっしゃいますか?」
穏やかにお姫様が問いかけるが、今日の彼女の装いは品の良いワンピースだ。瞳と同じ緑の生地は足元へ向かってグラデーションになっていた。金髪を緩やかに流す彼女の穏やかな笑みに誘われ、おずおずと口を開いたのは馬車から真っ先に降りた女性だ。
「あの……具合が悪いと、入国できないんでしょう?」
ロゼマリアは内心で失敗したと呟くが、表情は笑顔を崩さなかった。ゆっくり首を横に振り、もう一度言葉を変えて言い直す。
「いいえ、心配させてしまってごめんなさい。具合の悪い方は無料で治療を受けられますから、我慢せずに申し出て欲しいのです。お食事と毛布を用意しましたので、他の方は受け取って休んでください」
「ほ、本当に?」
「働けないし、戦えないのよ?」
顔を見せた女性達は、ほとんどが母親だ。これから母になる者、我が子を連れた者。どちらもこの国の根幹となる若い世代を育てる、重要な存在だった。己を卑下する言葉を吐くなら、それはグリュポス国の政が酷かった証拠だ。
任せると決めたため、ロゼマリアの対応を見守る。今までならこちらに寄ってきたオリヴィエラは、ロゼマリアの横で笑顔を作った。どうやら協力するつもりらしい。
彼女らの成長を確かめる意味も込め、腕を組んで気配を薄くした。注意しなければ、オレの存在に気づけないだろう。
「未来の国の柱となる子供達を産み、育てること。それは戦いであり、労働です。今までの価値観は必要ありません。聖女の国の王女ロゼマリアの名において、あなた方をこの国は歓迎いたします」
わっと沸いた女性達が、安心した様子で馬車を降り始める。駆け寄ったロゼマリアも妊婦に手を貸し、肩を竦めたオリヴィエラも一緒に手伝い始めた。オリヴィエラの行動は意外だ。彼女の今までの行動や性格からして、命じられないのに手を貸すのは考えにくい。リリアーナの変化も含め、人間であるロゼマリアの影響は大きいようだ。
「食事の用意が出来ました」
エマが誘導する先に、湯気を立てる汁物が並んでいた。勧められても手を伸ばさない女性達をよそに、幼子は無邪気に欲しがる。笑顔で与えるバシレイアの民の姿に、母親達もようやく受け取り始めた。
柔らかな野菜や肉をふんだんに入れたスープを、子供は必死に口に入れる。慣れない熱い食べ物に苦戦する様子に、苦笑した民が鍋をひとつ火から下ろした。ゆっくり食べられるよう、冷ましたスープをお代わりとして差し出す。
かつて自分たちが与えられた食事を、今度は困る人に与える立場になった。穏やかな顔をした民を見ながら、己の治世を改めて考える。改善点を洗い出しながら、そっと場を離れた。
「よく来た……っ」
「ここは私が」
遮るように前に立ったロゼマリアの毅然とした態度に、「よかろう」と口を噤んで任せる。オリヴィエラは驚いた顔をしたが、何も言わずに口元を手で隠した。
「ようこそ、バシレイア聖国へ。この国は移住目的の難民に門戸を開いています。妊婦や幼児ばかりと伺っておりますが、体調の悪い方はいらっしゃいますか?」
穏やかにお姫様が問いかけるが、今日の彼女の装いは品の良いワンピースだ。瞳と同じ緑の生地は足元へ向かってグラデーションになっていた。金髪を緩やかに流す彼女の穏やかな笑みに誘われ、おずおずと口を開いたのは馬車から真っ先に降りた女性だ。
「あの……具合が悪いと、入国できないんでしょう?」
ロゼマリアは内心で失敗したと呟くが、表情は笑顔を崩さなかった。ゆっくり首を横に振り、もう一度言葉を変えて言い直す。
「いいえ、心配させてしまってごめんなさい。具合の悪い方は無料で治療を受けられますから、我慢せずに申し出て欲しいのです。お食事と毛布を用意しましたので、他の方は受け取って休んでください」
「ほ、本当に?」
「働けないし、戦えないのよ?」
顔を見せた女性達は、ほとんどが母親だ。これから母になる者、我が子を連れた者。どちらもこの国の根幹となる若い世代を育てる、重要な存在だった。己を卑下する言葉を吐くなら、それはグリュポス国の政が酷かった証拠だ。
任せると決めたため、ロゼマリアの対応を見守る。今までならこちらに寄ってきたオリヴィエラは、ロゼマリアの横で笑顔を作った。どうやら協力するつもりらしい。
彼女らの成長を確かめる意味も込め、腕を組んで気配を薄くした。注意しなければ、オレの存在に気づけないだろう。
「未来の国の柱となる子供達を産み、育てること。それは戦いであり、労働です。今までの価値観は必要ありません。聖女の国の王女ロゼマリアの名において、あなた方をこの国は歓迎いたします」
わっと沸いた女性達が、安心した様子で馬車を降り始める。駆け寄ったロゼマリアも妊婦に手を貸し、肩を竦めたオリヴィエラも一緒に手伝い始めた。オリヴィエラの行動は意外だ。彼女の今までの行動や性格からして、命じられないのに手を貸すのは考えにくい。リリアーナの変化も含め、人間であるロゼマリアの影響は大きいようだ。
「食事の用意が出来ました」
エマが誘導する先に、湯気を立てる汁物が並んでいた。勧められても手を伸ばさない女性達をよそに、幼子は無邪気に欲しがる。笑顔で与えるバシレイアの民の姿に、母親達もようやく受け取り始めた。
柔らかな野菜や肉をふんだんに入れたスープを、子供は必死に口に入れる。慣れない熱い食べ物に苦戦する様子に、苦笑した民が鍋をひとつ火から下ろした。ゆっくり食べられるよう、冷ましたスープをお代わりとして差し出す。
かつて自分たちが与えられた食事を、今度は困る人に与える立場になった。穏やかな顔をした民を見ながら、己の治世を改めて考える。改善点を洗い出しながら、そっと場を離れた。
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