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第7章 踊る道化の足元は
145.最後まできっちり回収せよ
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外壁の門に並ぶ人影は一段落していた。徒歩で向かった者は集団で移動したため、ほとんどが到着も同時となる。最後に招いた難民の話では、後ろに別の集団がひとつ残っていたらしい。幼子を抱いた母親や妊婦も含まれると聞いて、ロゼマリアはそわそわしていた。
妊娠中の女性にとって、隣国まで歩くなど危険極まりない。身体への負担もさることながら、魔物が棲む森を抜けてくるのだ。襲われたら逃げられないだろう。
「ローザ、どうしたの?」
親し気に呼んだオリヴィエラが隣に立ち、同じように視線を荒野へ向ける。特に歩いている人影はない。首をかしげて振り返れば、祈るように両手を胸の前で組んだロゼマリアが「無事でありますように」と口にした。
「幼い子や妊娠した女性がまだ到着しないの」
心配を口にしたロゼマリアの優しさに、オリヴィエラは不思議そうな顔をした。妊婦が到着しないことの何が問題か。妊娠したことがない彼女には理解できない。周囲に妊婦もいなかったので、余計に問題点が見えなかった。
「問題なのかしら」
「体力が落ちているでしょうし、流産したら大変なのよ。出産は命がけですもの」
なるほどと頷きながら、森の方を見やる。人間であり魔術師でもないロゼマリアは気づいていないが、森にいない魔狼の群れを感じた。魔王サタンが何も手を講じていないはずがない。その信頼もある。
本来は山に棲む魔狼が群れごと移動したなら、考えられるのは森を渡る人々を襲うため。もうひとつは、逆で森に逃げた人間を守るためだ。サタンが魔狼を眷属にした経緯を聞いてるので、不自然に森にいる群れは魔王の眷属だろう。
「森の中は安全よ。逆に森から出た後の方が危ないわ」
言い切ったオリヴィエラに、今度はロゼマリアが首をかしげた。にっこり笑って、友人となったお姫様に説明を始める。智の番人と呼ばれるグリフォンは、説明好きな者が多い。そのために知識をかき集める種族だった。
「サタン様の眷獣が森にいるの、だからつかず離れず守っているけれど……森から出た荒野は魔狼達の領域外になる。狼は集団で狩りをする生き物よ、身を隠せない平地での戦闘力は半分程度ね」
「サタン様の、眷獣? すごいのね。この世界でもう仲間を増やしておられるなんて」
「あたくしも、リリアーナやクリスティーヌだって眷属同然よ」
くすくす笑いながら、自分たちも魔族なのだと改めて言葉にした。そのあとのロゼマリアの反応を予想できるから、楽しみが先に立つ。そして予想に違わぬ言葉を、予想より強い口調で告げられた。
「ヴィラが眷属なら、私も眷属よ」
「……なんの話をしている?」
「「サタン様?!」」
オリヴィエラとロゼマリアがハモった。目の前に転移した途端、奇妙な場に出くわした。眷属がどうと言い合う2人に眉をひそめる。転移直前に名を呼ぶ声が聞こえた。そのため転移先をオリヴィエラの魔力に変更したが、彼女らは驚いた声をあげる。
「いいえ。大したことではありませんわ」
オリヴィエラの方が立ち直りが早く、にっこり笑って話をそらした。特に気になる情報でもないため、門の外へ目を向ける。
「そろそろか。迎えを出せ」
マルコシアスとマーナガルムの気配を読みながら、森の縁まで来た集団を示す。迎えを出すよう命じれば、兵士が荷馬車で出て行った。数台の馬車が埃を立てながら森に近づくと、魔狼達が少し奥へ戻る。そのまま山の方向へ引き上げ始めた。後で労ってやる必要がある。
最後の難民達を回収した馬車はすぐに戻るだろう。オリヴィエラとロゼマリアが両側に立つ。見守る先で、ゆっくり走らせる馬車の立てる砂埃が近づいてきた。
妊娠中の女性にとって、隣国まで歩くなど危険極まりない。身体への負担もさることながら、魔物が棲む森を抜けてくるのだ。襲われたら逃げられないだろう。
「ローザ、どうしたの?」
親し気に呼んだオリヴィエラが隣に立ち、同じように視線を荒野へ向ける。特に歩いている人影はない。首をかしげて振り返れば、祈るように両手を胸の前で組んだロゼマリアが「無事でありますように」と口にした。
「幼い子や妊娠した女性がまだ到着しないの」
心配を口にしたロゼマリアの優しさに、オリヴィエラは不思議そうな顔をした。妊婦が到着しないことの何が問題か。妊娠したことがない彼女には理解できない。周囲に妊婦もいなかったので、余計に問題点が見えなかった。
「問題なのかしら」
「体力が落ちているでしょうし、流産したら大変なのよ。出産は命がけですもの」
なるほどと頷きながら、森の方を見やる。人間であり魔術師でもないロゼマリアは気づいていないが、森にいない魔狼の群れを感じた。魔王サタンが何も手を講じていないはずがない。その信頼もある。
本来は山に棲む魔狼が群れごと移動したなら、考えられるのは森を渡る人々を襲うため。もうひとつは、逆で森に逃げた人間を守るためだ。サタンが魔狼を眷属にした経緯を聞いてるので、不自然に森にいる群れは魔王の眷属だろう。
「森の中は安全よ。逆に森から出た後の方が危ないわ」
言い切ったオリヴィエラに、今度はロゼマリアが首をかしげた。にっこり笑って、友人となったお姫様に説明を始める。智の番人と呼ばれるグリフォンは、説明好きな者が多い。そのために知識をかき集める種族だった。
「サタン様の眷獣が森にいるの、だからつかず離れず守っているけれど……森から出た荒野は魔狼達の領域外になる。狼は集団で狩りをする生き物よ、身を隠せない平地での戦闘力は半分程度ね」
「サタン様の、眷獣? すごいのね。この世界でもう仲間を増やしておられるなんて」
「あたくしも、リリアーナやクリスティーヌだって眷属同然よ」
くすくす笑いながら、自分たちも魔族なのだと改めて言葉にした。そのあとのロゼマリアの反応を予想できるから、楽しみが先に立つ。そして予想に違わぬ言葉を、予想より強い口調で告げられた。
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「「サタン様?!」」
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「いいえ。大したことではありませんわ」
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最後の難民達を回収した馬車はすぐに戻るだろう。オリヴィエラとロゼマリアが両側に立つ。見守る先で、ゆっくり走らせる馬車の立てる砂埃が近づいてきた。
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