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第7章 踊る道化の足元は
141.即断即決も過ぎれば毒だ
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まだ殴り合い継続中の獲物を放り出し、他の獲物を物色し始めるリリアーナに、散らかさないように言い聞かせる。素直に頷いた後、ぺしゃんと尻尾で殴り合う2匹を潰したので、理解の度合いは今ひとつだった。
この状態で置き去りにし、ロゼマリア達の様子を見に行くことは無理だ。間違いなく泣きながら追いかけてくるだろう。それも血塗れの状態だ。新しく民として引き入れたばかりの難民を不用意に怯えさせるのは、執政者として失格だった。
この場でできることを思い浮かべ、ひとまず手紙が届いたか確認する。収納用の亜空間へ右手を入れ、指輪に反応して転送される手紙を受け取った。この作業も慣れてきた。
薄緑の封筒が3通、桃色の手紙が1枚、水色と黄色の封筒が1通ずつ。彼女達が好む色だ。見覚えのある組み合わせに、口元が緩んだ。
封筒にすら入れず転送したのはククルだ。魔法陣の古代文字や魔法文字を操る癖に、書類は大嫌いな彼女らしい。飾りもないシンプルな手紙には「そちらへ行きたい」と言葉を変えて何回も綴られていた。署名に似たマークも彼女らしい。
読み終えた便箋を膝の上に、今度は水色の封筒を開ける。バアルとアナトは双子で外見はよく似ているが、中身が全く違う。好む食べ物も色も服のデザインも違った。だが悪戯が好きで、侮らせてから逆転する戦いを選ぶ性格はそっくりだ。
水色を好むのはバアルだった。寂しい、会いたい、まるで恋人へ送る手紙のような内容だ。ある程度想像はついたが、予想を裏切らない文面に苦笑する。
アナトがよく選ぶ黄色の封筒を開けば、ふわりと花の香りがした。乾燥したハーブを挟んだようだ。封筒の中から強く香る。内容はバアルとあまり違いはなく、死んでも会いに行くと締め括られていた。彼女らなら、自分の死体を仲間に転送させるくらいの荒技を実行しそうだ。思いとどまるよう次の手紙で言い聞かせる必要があった。
最後に残ったのはアースティルティト。やはり報告書に似たきっちりした連絡事項の羅列、困ったなどの泣き言が一切ない。2通を読んだところで、最後の封筒を開けて手を止めた。
紙の文字が滲んでいる。すっと手を翳して滲んだ文字を復元した。書かれた内容は、危険でも可能性を追求するアースティルティトならではの提案だ。
「……確かに可能性はある」
可能性はあるが、危険も大きい。その提案内容に頷けないのは、失敗したときのリスクが大きすぎるためだ。
吸血鬼の始祖である彼女は、自らを仮死状態に出来る。死の眠りと呼ばれる状態では、完全に呼吸も脈拍も停止するため、物体と同じだった。物と同じならば、手紙同様に転送対象となるのではないか? そんな仮定を経た上で、彼女は安全策も講じていた。
捕らえた小型の魔物を仮死状態にして、転送する。徐々に大きな物に変更していき、最後に同族で試すという方法だった。同族が届けば、自分も転送可能になる。そう結論づけた手紙に、大急ぎで返事を書く必要が出来た。
そう考えて収納空間に手を入れたオレは、失念していた彼女の性格を思い出す。即断即決、即行動を絵に描いたような性格だった。
手紙を書いた時点で、おそらく魔物を仮死状態にして準備していたはずだ。そして収納に入れたオレの手に触れる毛皮は、おそらく仮死状態の小動物だろう。大きな溜め息をついて目の前に放り出した。
転がる黒い毛皮の猫に似た生き物は、見覚えがあった。ごろんと転がる魔物は冷たく強張っており、呼吸も脈拍も感じない。足の毛皮がない肉球部分を触れるが、やはり体温もなかった。
「……サタン様、これ食べられる?」
こちらの世界にはいない魔物なのか。おっかなびっくり近づいたリリアーナが首をかしげた。
この状態で置き去りにし、ロゼマリア達の様子を見に行くことは無理だ。間違いなく泣きながら追いかけてくるだろう。それも血塗れの状態だ。新しく民として引き入れたばかりの難民を不用意に怯えさせるのは、執政者として失格だった。
この場でできることを思い浮かべ、ひとまず手紙が届いたか確認する。収納用の亜空間へ右手を入れ、指輪に反応して転送される手紙を受け取った。この作業も慣れてきた。
薄緑の封筒が3通、桃色の手紙が1枚、水色と黄色の封筒が1通ずつ。彼女達が好む色だ。見覚えのある組み合わせに、口元が緩んだ。
封筒にすら入れず転送したのはククルだ。魔法陣の古代文字や魔法文字を操る癖に、書類は大嫌いな彼女らしい。飾りもないシンプルな手紙には「そちらへ行きたい」と言葉を変えて何回も綴られていた。署名に似たマークも彼女らしい。
読み終えた便箋を膝の上に、今度は水色の封筒を開ける。バアルとアナトは双子で外見はよく似ているが、中身が全く違う。好む食べ物も色も服のデザインも違った。だが悪戯が好きで、侮らせてから逆転する戦いを選ぶ性格はそっくりだ。
水色を好むのはバアルだった。寂しい、会いたい、まるで恋人へ送る手紙のような内容だ。ある程度想像はついたが、予想を裏切らない文面に苦笑する。
アナトがよく選ぶ黄色の封筒を開けば、ふわりと花の香りがした。乾燥したハーブを挟んだようだ。封筒の中から強く香る。内容はバアルとあまり違いはなく、死んでも会いに行くと締め括られていた。彼女らなら、自分の死体を仲間に転送させるくらいの荒技を実行しそうだ。思いとどまるよう次の手紙で言い聞かせる必要があった。
最後に残ったのはアースティルティト。やはり報告書に似たきっちりした連絡事項の羅列、困ったなどの泣き言が一切ない。2通を読んだところで、最後の封筒を開けて手を止めた。
紙の文字が滲んでいる。すっと手を翳して滲んだ文字を復元した。書かれた内容は、危険でも可能性を追求するアースティルティトならではの提案だ。
「……確かに可能性はある」
可能性はあるが、危険も大きい。その提案内容に頷けないのは、失敗したときのリスクが大きすぎるためだ。
吸血鬼の始祖である彼女は、自らを仮死状態に出来る。死の眠りと呼ばれる状態では、完全に呼吸も脈拍も停止するため、物体と同じだった。物と同じならば、手紙同様に転送対象となるのではないか? そんな仮定を経た上で、彼女は安全策も講じていた。
捕らえた小型の魔物を仮死状態にして、転送する。徐々に大きな物に変更していき、最後に同族で試すという方法だった。同族が届けば、自分も転送可能になる。そう結論づけた手紙に、大急ぎで返事を書く必要が出来た。
そう考えて収納空間に手を入れたオレは、失念していた彼女の性格を思い出す。即断即決、即行動を絵に描いたような性格だった。
手紙を書いた時点で、おそらく魔物を仮死状態にして準備していたはずだ。そして収納に入れたオレの手に触れる毛皮は、おそらく仮死状態の小動物だろう。大きな溜め息をついて目の前に放り出した。
転がる黒い毛皮の猫に似た生き物は、見覚えがあった。ごろんと転がる魔物は冷たく強張っており、呼吸も脈拍も感じない。足の毛皮がない肉球部分を触れるが、やはり体温もなかった。
「……サタン様、これ食べられる?」
こちらの世界にはいない魔物なのか。おっかなびっくり近づいたリリアーナが首をかしげた。
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