142 / 438
第6章 取捨選択は強者の権利だ
140.束の間の休憩も悪くない
しおりを挟む
リリアーナは手元の獲物を見比べて、身体のがっしりした者を2匹選んだ。人として数える価値がないため、魔獣扱いである。
「こっち、戦う」
少し離れた場所に誘導して、戦うよう命じる。嫌がりながら相手に引き寄せられ、素手で殴り合いを始めた。痛みがあっても手を止めることができない。顔を殴り合い頬骨を折り、鼻を潰す。歯を砕いて、拳を傷つけた。骨折した拳の指は腫れていくが、それでも手を止める命令は出ない。
残った獲物が怯える姿に、クリスティーヌが近づいた。手をつけた獲物が息絶えたので、興味を失ったらしい。白いシャツは真っ赤に染まり、紺色のスカートも黒く濡れた。
「リリー、あれ欲しい」
「ん? んん~、いいよ」
繋いでいた魔力の糸を選んで切断する。かなり魔力の扱いが上手になった。ちらりとこちらの様子を伺うので、よく出来たと頷いてやる。嬉しそうに、リリアーナの尻尾が地面を擦って揺れた。
リリアーナの魅了眼の魔力から解放された獲物が、近くにいたクリスティーヌに殴りかかった。きょとんとした顔で見つめる彼女の前に、2頭のヘルハウンドが飛び出す。それぞれに双頭の為、4つの頭が防御と攻撃に動いた。
「う、うわぁあああ! 化物っ、来るな!」
クリスティーヌを見て弱者と判断し、自分から飛びかかったくせに、今度は逃げ回る。クリスティーヌは小さな声を発して、犬たちを上手に操った。コウモリが持つ超音波に近い音域の中で、犬に聞き取れる音を選んで躾けたらしい。
あれこれ教えておけとレーシーやオリヴィエラに命じたが、これほど上達したのは予想外だった。この調子なら、数年で立派な側近になれるだろう。あとは甘え癖をどうするか。魔族としてみれば子供なので、まだ100年は甘やかしても問題ない。愛玩動物で飼うなら、甘えた役立たずでも構わないが……。
思ったより子供たちの才能があったため、側近候補とすべきか、愛玩動物として飼うべきか迷う。贅沢な悩みだと自嘲しながら、彼女らの遊びを見守った。血が飛んだ大地の浄化の手順を考えながら、足を組み直す。
ヘルハウンドはククルも飼っていたか? 可愛い小動物と評したが、彼女の背が低かったこともあり、大型犬と子供にしか見えなかった。
「うあっ、来るな! 嫌だ」
「心臓以外、あげる」
ご機嫌で背に翼を広げたクリスティーヌの言葉に、犬たちは吠えて襲い掛かった。リリアーナの土産を手懐けた吸血鬼は、犬に噛まれて逃げ回る獲物を楽しそうに追いかけた。
あまりに楽しそうな彼女の表情は、蝶々を追う小犬のようで微笑ましい。実際の光景は、双頭の魔物に食い殺される獲物を追い立てる残酷さが際立った。
「サタン様、退屈?」
獲物に殴り合いを継続させたまま、リリアーナが駆け寄ってきた。足を組んだので、退屈だと思わせたのか。苦笑して彼女の金髪を撫でた。
「いや、お前たちの成長に驚いただけだ」
「褒めた?」
「ああ」
肯定されたドラゴンは大喜びで走っていき、途中でクリスティーヌの獲物を蹴飛ばした。少女姿だが、本体がドラゴンである。勢いよく足蹴にした獲物が地面に叩きつけられ、ぐしゃぐしゃに潰れた。
「ああっ! リリー、私の獲物とった!」
「……ごめん、こっちあげる」
新しい獲物を譲る。仲の良い2人の様子に、オレはふと外壁にいる2人を思い浮かべた。
あっちは問題なく仕事をこなしただろうか。リリアーナたちの遊戯が終わったら、散歩がてら見に行こう。彼女たちも散歩を喜ぶだろう。血生臭い空気を吸い込んで、ゆったりと椅子に背を預けた。
見上げる空は晴れわたり、手足が足りないながらもすべてが順調だった。
「こっち、戦う」
少し離れた場所に誘導して、戦うよう命じる。嫌がりながら相手に引き寄せられ、素手で殴り合いを始めた。痛みがあっても手を止めることができない。顔を殴り合い頬骨を折り、鼻を潰す。歯を砕いて、拳を傷つけた。骨折した拳の指は腫れていくが、それでも手を止める命令は出ない。
残った獲物が怯える姿に、クリスティーヌが近づいた。手をつけた獲物が息絶えたので、興味を失ったらしい。白いシャツは真っ赤に染まり、紺色のスカートも黒く濡れた。
「リリー、あれ欲しい」
「ん? んん~、いいよ」
繋いでいた魔力の糸を選んで切断する。かなり魔力の扱いが上手になった。ちらりとこちらの様子を伺うので、よく出来たと頷いてやる。嬉しそうに、リリアーナの尻尾が地面を擦って揺れた。
リリアーナの魅了眼の魔力から解放された獲物が、近くにいたクリスティーヌに殴りかかった。きょとんとした顔で見つめる彼女の前に、2頭のヘルハウンドが飛び出す。それぞれに双頭の為、4つの頭が防御と攻撃に動いた。
「う、うわぁあああ! 化物っ、来るな!」
クリスティーヌを見て弱者と判断し、自分から飛びかかったくせに、今度は逃げ回る。クリスティーヌは小さな声を発して、犬たちを上手に操った。コウモリが持つ超音波に近い音域の中で、犬に聞き取れる音を選んで躾けたらしい。
あれこれ教えておけとレーシーやオリヴィエラに命じたが、これほど上達したのは予想外だった。この調子なら、数年で立派な側近になれるだろう。あとは甘え癖をどうするか。魔族としてみれば子供なので、まだ100年は甘やかしても問題ない。愛玩動物で飼うなら、甘えた役立たずでも構わないが……。
思ったより子供たちの才能があったため、側近候補とすべきか、愛玩動物として飼うべきか迷う。贅沢な悩みだと自嘲しながら、彼女らの遊びを見守った。血が飛んだ大地の浄化の手順を考えながら、足を組み直す。
ヘルハウンドはククルも飼っていたか? 可愛い小動物と評したが、彼女の背が低かったこともあり、大型犬と子供にしか見えなかった。
「うあっ、来るな! 嫌だ」
「心臓以外、あげる」
ご機嫌で背に翼を広げたクリスティーヌの言葉に、犬たちは吠えて襲い掛かった。リリアーナの土産を手懐けた吸血鬼は、犬に噛まれて逃げ回る獲物を楽しそうに追いかけた。
あまりに楽しそうな彼女の表情は、蝶々を追う小犬のようで微笑ましい。実際の光景は、双頭の魔物に食い殺される獲物を追い立てる残酷さが際立った。
「サタン様、退屈?」
獲物に殴り合いを継続させたまま、リリアーナが駆け寄ってきた。足を組んだので、退屈だと思わせたのか。苦笑して彼女の金髪を撫でた。
「いや、お前たちの成長に驚いただけだ」
「褒めた?」
「ああ」
肯定されたドラゴンは大喜びで走っていき、途中でクリスティーヌの獲物を蹴飛ばした。少女姿だが、本体がドラゴンである。勢いよく足蹴にした獲物が地面に叩きつけられ、ぐしゃぐしゃに潰れた。
「ああっ! リリー、私の獲物とった!」
「……ごめん、こっちあげる」
新しい獲物を譲る。仲の良い2人の様子に、オレはふと外壁にいる2人を思い浮かべた。
あっちは問題なく仕事をこなしただろうか。リリアーナたちの遊戯が終わったら、散歩がてら見に行こう。彼女たちも散歩を喜ぶだろう。血生臭い空気を吸い込んで、ゆったりと椅子に背を預けた。
見上げる空は晴れわたり、手足が足りないながらもすべてが順調だった。
0
お気に入りに追加
1,032
あなたにおすすめの小説
夢幻の錬金術師 ~【異空間収納】【錬金術】【鑑定】【スキル剥奪&付与】を兼ね備えたチートスキル【錬金工房】で最強の錬金術師として成り上がる~
青山 有
ファンタジー
女神の助手として異世界に召喚された厨二病少年・神薙拓光。
彼が手にしたユニークスキルは【錬金工房】。
ただでさえ、魔法があり魔物がはびこる危険な世界。そこを生産職の助手と巡るのかと、女神も頭を抱えたのだが……。
彼の持つ【錬金工房】は、レアスキルである【異空間収納】【錬金術】【鑑定】の上位互換機能を合わせ持ってるだけでなく、スキルの【剥奪】【付与】まで行えるという、女神の想像を遥かに超えたチートスキルだった。
これは一人の少年が異世界で伝説の錬金術師として成り上がっていく物語。
※カクヨムにも投稿しています
最難関ダンジョンをクリアした成功報酬は勇者パーティーの裏切りでした
新緑あらた
ファンタジー
最難関であるS級ダンジョン最深部の隠し部屋。金銀財宝を前に告げられた言葉は労いでも喜びでもなく、解雇通告だった。
「もうオマエはいらん」
勇者アレクサンダー、癒し手エリーゼ、赤魔道士フェルノに、自身の黒髪黒目を忌避しないことから期待していた俺は大きなショックを受ける。
ヤツらは俺の外見を受け入れていたわけじゃない。ただ仲間と思っていなかっただけ、眼中になかっただけなのだ。
転生者は曾祖父だけどチートは隔世遺伝した「俺」にも受け継がれています。
勇者達は大富豪スタートで貧民窟の住人がゴールです(笑)
職業・遊び人となったら追放されたけれど、追放先で覚醒し無双しちゃいました!
よっしぃ
ファンタジー
この物語は、通常1つの職業を選定する所を、一つ目で遊び人を選定してしまい何とか別の職業を、と思い3つとも遊び人を選定してしまったデルクが、成長して無双する話。
10歳を過ぎると皆教会へ赴き、自身の職業を選定してもらうが、デルク・コーネインはここでまさかの遊び人になってしまう。最高3つの職業を選べるが、その分成長速度が遅くなるも、2つ目を選定。
ここでも前代未聞の遊び人。止められるも3度目の正直で挑むも結果は遊び人。
同年代の連中は皆良い職業を選定してもらい、どんどん成長していく。
皆に馬鹿にされ、蔑まれ、馬鹿にされ、それでも何とかレベル上げを行うデルク。
こんな中2年ほど経って、12歳になった頃、1歳年下の11歳の1人の少女セシル・ヴァウテルスと出会う。凄い職業を得たが、成長が遅すぎると見捨てられた彼女。そんな2人がダンジョンで出会い、脱出不可能といわれているダンジョン下層からの脱出を、2人で成長していく事で不可能を可能にしていく。
そんな中2人を馬鹿にし、死地に追い込んだ同年代の連中や年上の冒険者は、中層への攻略を急ぐあまり、成長速度の遅い上位職を得たデルクの幼馴染の2人をダンジョンの大穴に突き落とし排除してしまう。
しかし奇跡的にもデルクはこの2人の命を救う事ができ、セシルを含めた4人で辛うじてダンジョンを脱出。
その後自分達をこんな所に追い込んだ連中と対峙する事になるが、ダンジョン下層で成長した4人にかなう冒険者はおらず、自らの愚かな行為に自滅してしまう。
そして、成長した遊び人の職業、実は成長すればどんな職業へもジョブチェンジできる最高の職業でした!
更に未だかつて同じ職業を3つ引いた人物がいなかったために、その結果がどうなるかわかっていなかった事もあり、その結果がとんでもない事になる。
これはのちに伝説となる4人を中心とする成長物語。
ダンジョン脱出までは辛抱の連続ですが、その後はざまぁな展開が待っています。
アイテムボックス無双 ~何でも収納! 奥義・首狩りアイテムボックス!~
明治サブ🍆スニーカー大賞【金賞】受賞作家
ファンタジー
※大・大・大どんでん返し回まで投稿済です!!
『第1回 次世代ファンタジーカップ ~最強「進化系ざまぁ」決定戦!』投稿作品。
無限収納機能を持つ『マジックバッグ』が巷にあふれる街で、収納魔法【アイテムボックス】しか使えない主人公・クリスは冒険者たちから無能扱いされ続け、ついに100パーティー目から追放されてしまう。
破れかぶれになって単騎で魔物討伐に向かい、あわや死にかけたところに謎の美しき旅の魔女が現れ、クリスに告げる。
「【アイテムボックス】は最強の魔法なんだよ。儂が使い方を教えてやろう」
【アイテムボックス】で魔物の首を、家屋を、オークの集落を丸ごと収納!? 【アイテムボックス】で道を作り、川を作り、街を作る!? ただの収納魔法と侮るなかれ。知覚できるものなら疫病だろうが敵の軍勢だろうが何だって除去する超能力! 主人公・クリスの成り上がりと「進化系ざまぁ」展開、そして最後に待ち受ける極上のどんでん返しを、とくとご覧あれ! 随所に散りばめられた大小さまざまな伏線を、あなたは見抜けるか!?
外れスキル【転送】が最強だった件
名無し
ファンタジー
三十路になってようやくダンジョン入場試験に合格したケイス。
意気揚々と冒険者登録所に向かうが、そこで貰ったのは【転送】という外れスキル。
失意の中で故郷へ帰ろうとしていた彼のもとに、超有名ギルドのマスターが訪れる。
そこからケイスの人生は目覚ましく変わっていくのだった……。
ブラックギルドマスターへ、社畜以下の道具として扱ってくれてあざーす!お陰で転職した俺は初日にSランクハンターに成り上がりました!
仁徳
ファンタジー
あらすじ
リュシアン・プライムはブラックハンターギルドの一員だった。
彼はギルドマスターやギルド仲間から、常人ではこなせない量の依頼を押し付けられていたが、夜遅くまで働くことで全ての依頼を一日で終わらせていた。
ある日、リュシアンは仲間の罠に嵌められ、依頼を終わらせることができなかった。その一度の失敗をきっかけに、ギルドマスターから無能ハンターの烙印を押され、クビになる。
途方に暮れていると、モンスターに襲われている女性を彼は見つけてしまう。
ハンターとして襲われている人を見過ごせないリュシアンは、モンスターから女性を守った。
彼は助けた女性が、隣町にあるハンターギルドのギルドマスターであることを知る。
リュシアンの才能に目をつけたギルドマスターは、彼をスカウトした。
一方ブラックギルドでは、リュシアンがいないことで依頼達成の効率が悪くなり、依頼は溜まっていく一方だった。ついにブラックギルドは町の住民たちからのクレームなどが殺到して町民たちから見放されることになる。
そんな彼らに反してリュシアンは新しい職場、新しい仲間と出会い、ブッラックギルドの経験を活かして最速でギルドランキング一位を獲得し、ギルドマスターや町の住民たちから一目置かれるようになった。
これはブラックな環境で働いていた主人公が一人の女性を助けたことがきっかけで人生が一変し、ホワイトなギルド環境で最強、無双、ときどきスローライフをしていく物語!
少し冷めた村人少年の冒険記
mizuno sei
ファンタジー
辺境の村に生まれた少年トーマ。実は日本でシステムエンジニアとして働き、過労死した三十前の男の生まれ変わりだった。
トーマの家は貧しい農家で、神から授かった能力も、村の人たちからは「はずれギフト」とさげすまれるわけの分からないものだった。
優しい家族のために、自分の食い扶持を減らそうと家を出る決心をしたトーマは、唯一無二の相棒、「心の声」である〈ナビ〉とともに、未知の世界へと旅立つのであった。
スキルはコピーして上書き最強でいいですか~改造初級魔法で便利に異世界ライフ~
深田くれと
ファンタジー
【文庫版2が4月8日に発売されます! ありがとうございます!】
異世界に飛ばされたものの、何の能力も得られなかった青年サナト。街で清掃係として働くかたわら、雑魚モンスターを狩る日々が続いていた。しかしある日、突然仕事を首になり、生きる糧を失ってしまう――。 そこで、サナトの人生を変える大事件が発生する!途方に暮れて挑んだダンジョンにて、ダンジョンを支配するドラゴンと遭遇し、自らを破壊するよう頼まれたのだ。その願いを聞きつつも、ダンジョンの後継者にはならず、能力だけを受け継いだサナト。新たな力――ダンジョンコアとともに、スキルを駆使して異世界で成り上がる!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる