【完結】魔王なのに、勇者と間違えて召喚されたんだが?

綾雅(要らない悪役令嬢1巻重版)

文字の大きさ
上 下
140 / 438
第6章 取捨選択は強者の権利だ

138.無様をすれば、次はない

しおりを挟む
 城門に向かうと、兵が複数の罪人を捕まえていた。全員手枷を嵌めており、数人はケガをしている。何かに足や手を食い千切られた者、硬い棒で叩かれて骨折した者、ほぼ無傷に近い者。ケガをした男達は悲鳴や苦痛の呻きをあげる。だが数人はリリアーナを見て舌舐めずりした。

 その態度と、報復の酷さから彼らの罪状を聞かずとも察する。街の女達に無理やり手を出そうとしたのだろう。この国の住人と結婚すれば、この国の居住権が得られる。簡単に考えた結果だが、対策を用意する必要性に思い至った。

 魔物も魔族も、雌を雄が襲うのは外道の仕業と唾棄される行為だ。これは動物も同じだろう。だが動物と同じ分類にあるにも関わらず、人間だけが相手の意思を無視して襲う。魔族なら、襲われた雌が犯人を告発するだけで、周囲の魔族から報復されるため、罪人は取り締まるまでもなく処分されてきた。

 人間はこの自浄作用が働かない。生き物として雌は母体となる貴重な存在だ。どれだけ雄が強さを誇ろうと、彼らだけで繁殖できなかった。どんなに強い雄であっても、雌が産み育てることで生存を許される。

 勘違いした雄ばかりの人間ならではの犯罪ゆえ、見落としていた事実に溜め息をついた。同時に、彼らを生かす理由がないことに思い至る。

「リリアーナ、好きにしろ。全部くれてやる」

「本当に!? やった! リスティと分ける」

 無邪気に喜ぶ彼女の手には、守護の指輪が光る。あれを外さなければ、彼女が他者に害される心配はなかった。下種の行いは予想できないこともある。柔らかな金髪をさらりと撫でて、言い聞かせた。

「隙を見せるな。無様をすれば、次はない」

「わかった」

 素直に頷くリリアーナがぺたぺたと彼らに近づく。迎えに出ていた牢番は、会話を漏れ聞いていたのだろう。彼女に一礼して場を譲った。

 リリアーナが小声で名を呼ぶと、大きなコウモリが飛んでくる。少し離れた茂みに舞い降り、すぐにワンピース姿の黒髪の少女が駆け寄ってきた。クリスティーヌもリリアーナ同様、着替えながらの変化が出来ないのだ。そのため人目を避けて茂みで着替えたらしい。

 白いワンピース姿のドラゴンと、紺色のスカートと白いシャツの吸血鬼は、もらったばかりの獲物を前に笑顔を見せた。

「サタン様、いる?」

 1匹分けるという意味か、この場所に残るかを尋ねられたのか。どちらでもおかしくない質問だが、答えは決まっている。

「ここで待っていてやる」

 目を輝かせたリリアーナは、大喜びで妹分であるクリスティーヌの手を掴んで走り出した。兵士達に連れられた罪人は、ドラゴンの発着所と化した塔の跡地へ放たれる。彼女らが遊ぶ間、獲物が逃げ出さぬよう目を光らせてやろう。

 愛玩動物の運動を見守るのも、癒しのひとつだとククルが口にしていた。それにまだ若い彼女らは未熟な面も多い。人間の言葉に惑わされるほど幼くないと思うが、万が一を考えると放置は危険だった。夢中になって1匹を裂く間に、別の罪人が逃げて、離宮や侍女に被害を与える可能性もある。

 収納から取り出した椅子を置いて、腰を下ろすと足を組んだ。木陰の木漏れ日が心地よい。腕を組んで見守る姿勢を示すと、リリアーナはびたんと尻尾で地面を叩いた。

「あ、あいつ……人間じゃねえ」

「バケモンだ」

 立派な尻尾に気づいた連中は逃げ出し、気づかなかった数人は少女達へ向かった。後ろから覆いかぶさる形で拘束しようとした腕を、クリスティーヌが無造作に掴んで捻る。ぐぎ、ばきばき……ぐしゃ。嫌な音が響き、男の悲鳴が場を支配する。

 紺色のスカートから覗いた白い足を、鮮血がべっとりと赤く染めた。

「味はイマイチ、でも久しぶり」

 嬉しそうに笑う黒髪の少女も人外である、やっと気づいた罪人達は我先に広場から逃げ出そうと走り出した。
しおりを挟む
感想 177

あなたにおすすめの小説

(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」

音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。 本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。 しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。 *6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。

記憶喪失になった嫌われ悪女は心を入れ替える事にした 

結城芙由奈@2/28コミカライズ発売
ファンタジー
池で溺れて死にかけた私は意識を取り戻した時、全ての記憶を失っていた。それと同時に自分が周囲の人々から陰で悪女と呼ばれ、嫌われている事を知る。どうせ記憶喪失になったなら今から心を入れ替えて生きていこう。そして私はさらに衝撃の事実を知る事になる―。

最強令嬢とは、1%のひらめきと99%の努力である

megane-san
ファンタジー
私クロエは、生まれてすぐに傷を負った母に抱かれてブラウン辺境伯城に転移しましたが、母はそのまま亡くなり、辺境伯夫妻の養子として育てていただきました。3歳になる頃には闇と光魔法を発現し、さらに暗黒魔法と膨大な魔力まで持っている事が分かりました。そしてなんと私、前世の記憶まで思い出し、前世の知識で辺境伯領はかなり大儲けしてしまいました。私の力は陰謀を企てる者達に狙われましたが、必〇仕事人バリの方々のおかげで悪者は一層され、無事に修行を共にした兄弟子と婚姻することが出来ました。……が、なんと私、魔王に任命されてしまい……。そんな波乱万丈に日々を送る私のお話です。

【完結】そして、誰もいなくなった

杜野秋人
ファンタジー
「そなたは私の妻として、侯爵夫人として相応しくない!よって婚約を破棄する!」 愛する令嬢を傍らに声高にそう叫ぶ婚約者イグナシオに伯爵家令嬢セリアは誤解だと訴えるが、イグナシオは聞く耳を持たない。それどころか明らかに犯してもいない罪を挙げられ糾弾され、彼女は思わず彼に手を伸ばして取り縋ろうとした。 「触るな!」 だがその手をイグナシオは大きく振り払った。振り払われよろめいたセリアは、受け身も取れないまま仰向けに倒れ、頭を打って昏倒した。 「突き飛ばしたぞ」 「彼が手を上げた」 「誰か衛兵を呼べ!」 騒然となるパーティー会場。すぐさま会場警護の騎士たちに取り囲まれ、彼は「違うんだ、話を聞いてくれ!」と叫びながら愛人の令嬢とともに連行されていった。 そして倒れたセリアもすぐさま人が集められ運び出されていった。 そして誰もいなくなった。 彼女と彼と愛人と、果たして誰が悪かったのか。 これはとある悲しい、婚約破棄の物語である。 ◆小説家になろう様でも公開しています。話数の関係上あちらの方が進みが早いです。 3/27、なろう版完結。あちらは全8話です。 3/30、小説家になろうヒューマンドラマランキング日間1位になりました! 4/1、完結しました。全14話。

うっかり女神さまからもらった『レベル9999』は使い切れないので、『譲渡』スキルで仲間を強化して最強パーティーを作ることにしました

akairo
ファンタジー
「ごめんなさい!貴方が死んだのは私のクシャミのせいなんです!」 帰宅途中に工事現場の足台が直撃して死んだ、早良 悠月(さわら ゆずき)が目覚めた目の前には女神さまが土下座待機をして待っていた。 謝る女神さまの手によって『ユズキ』として転生することになったが、その直後またもや女神さまの手違いによって、『レベル9999』と職業『譲渡士』という謎の職業を付与されてしまう。 しかし、女神さまの世界の最大レベルは99。 勇者や魔王よりも強いレベルのまま転生することになったユズキの、使い切ることもできないレベルの使い道は仲間に譲渡することだった──!? 転生先で出会ったエルフと魔族の少女。スローライフを掲げるユズキだったが、二人と共に世界を回ることで国を巻き込む争いへと巻き込まれていく。 ※9月16日  タイトル変更致しました。 前タイトルは『レベル9999は転生した世界で使い切れないので、仲間にあげることにしました』になります。 仲間を強くして無双していく話です。 『小説家になろう』様でも公開しています。

我が家に子犬がやって来た!

もも野はち助(旧ハチ助)
ファンタジー
【あらすじ】ラテール伯爵家の令嬢フィリアナは、仕事で帰宅できない父の状況に不満を抱きながら、自身の6歳の誕生日を迎えていた。すると、遅くに帰宅した父が白黒でフワフワな毛をした足の太い子犬を連れ帰る。子犬の飼い主はある高貴な人物らしいが、訳あってラテール家で面倒を見る事になったそうだ。その子犬を自身の誕生日プレゼントだと勘違いしたフィリアナは、兄ロアルドと取り合いながら、可愛がり始める。子犬はすでに名前が決まっており『アルス』といった。 アルスは当初かなり周囲の人間を警戒していたのだが、フィリアナとロアルドが甲斐甲斐しく世話をする事で、すぐに二人と打ち解ける。 だがそんな子犬のアルスには、ある重大な秘密があって……。 この話は、子犬と戯れながら巻き込まれ成長をしていく兄妹の物語。 ※全102話で完結済。 ★『小説家になろう』でも読めます★

大工スキルを授かった貧乏貴族の養子の四男だけど、どうやら大工スキルは伝説の全能スキルだったようです

飼猫タマ
ファンタジー
田舎貴族の四男のヨナン・グラスホッパーは、貧乏貴族の養子。義理の兄弟達は、全員戦闘系のレアスキル持ちなのに、ヨナンだけ貴族では有り得ない生産スキルの大工スキル。まあ、養子だから仕方が無いんだけど。 だがしかし、タダの生産スキルだと思ってた大工スキルは、じつは超絶物凄いスキルだったのだ。その物凄スキルで、生産しまくって超絶金持ちに。そして、婚約者も出来て幸せ絶頂の時に嵌められて、人生ドン底に。だが、ヨナンは、有り得ない逆転の一手を持っていたのだ。しかも、その有り得ない一手を、本人が全く覚えてなかったのはお約束。 勿論、ヨナンを嵌めた奴らは、全員、ザマー百裂拳で100倍返し! そんなお話です。

悪意のパーティー《完結》

アーエル
ファンタジー
私が目を覚ましたのは王城で行われたパーティーで毒を盛られてから1年になろうかという時期でした。 ある意味でダークな内容です ‪☆他社でも公開

処理中です...