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第6章 取捨選択は強者の権利だ

135.対戦者の実力はどれほどものか

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 手元の書類を片付けたオレは、執務室の椅子に深く背を預けた。机の影で、リリアーナとクリスティーヌが札遊びをしている。文字を覚えさせるための札を並べ替え、なにやら新しい遊びを考案したらしい。彼女らの遊びはこの国の子供に評判がよかった。もちろん、新しく加わる難民の子らも学ぶよすがになるだろう。

 先ほどまで彼女らが遊んでいた遊戯は、駒を使った陣取りゲームだった。その遊具を机の端に置いたまま、少女達は札に夢中である。普段から侍女が片付けるため、散らかしたものを元に戻す習慣がないリリアーナとクリスティーヌを見つめ、溜め息をついた。

「サタン様、情報きた」

 少し手を止めて空中を睨んでいたクリスティーヌは、口頭で説明を始める。大人しく待つリリアーナの顎や頬を撫でながら、最後まで聞いた。自然と口元が緩む。

 どの国も、一枚岩で魔王と対決することは出来ない。続いて別の情報ももたらされた。書類を右側に押しのけ、未使用の紙に内容を記載していく。

 豊かな平野をもつ農耕民族であるテッサリアは、我が国との友好を選んだ。悩まされてきたグリュポスの侵攻から解放された彼らが望んだのは、圧倒的な戦力を持つ異世界の魔王の庇護下に入ること――ある意味、賢い選択だった。一部の貴族が反発しているが、それはテッサリア国内の問題だ。

 内政干渉させずに済むか……テッサリア国王の手腕次第だろう。

 来訪を遅らせるよう工作をさせたビフレスト国は、身勝手にもすでに王女を使者とした一団を派遣していた。バシレイアのロゼマリアを娶った魔王に、自国の王女も妻として差し出そうと安易に考えたらしい。来るならば勝手にすればいいが、色よい返事を返せと期待されるのは迷惑だった。

 その王女の外見や性格がどうであれ、この段階で彼女を受け入れる気はない。出国の足止めが間に合わなかったなら、入国してから足止めすればいい。しばらく放置する方針を決めて、手元に書き込んだ。

 何よりビフレストから送り込まれた間者は3種類5人いた。王族配下、辺境伯の親族、王女の生母の実家である侯爵家の関係だ。どれもクリスティーヌの監視下にあるネズミ経由で、さまざまな事情が聞こえていた。王女が第三夫人の娘であり、王宮内で肩身の狭い存在だということも……。

 自らの境遇を嘆くばかりの女に同情する気はないが、何らかの策略に組み込めば使えそうなネタもあった。それも一緒に記載しておく。複写してアガレスに与えれば、上手に使うだろう。

 ぐるぐる喉を鳴らすリリアーナが床に膝をついて身を起こし、膝の上に顎を乗せる。すっかり懐いた愛玩動物に目を細め、さらさらと柔らかな金髪を指に絡めて梳いた。

「リリアーナ、今日の狩りはよいのか?」

「ここにいる」

 ぱたんと軽い音を立てて尻尾が床を叩く。機嫌よく左右に振られる様子から、どうやら眠いようだ。好きにさせて、さらにクリスティーヌの情報を纏めた。

 イザヴェルの情報は少し遅れている。国の間の距離が離れているため、まだ諜報担当の侍女達が国に帰りついていないのだ。中間の都市に数人の繋ぎを置けば、情報の伝達が早くなるのだが……そんな知恵はないらしい。愚かにも情報を持つ者が自ら国まで出向いて往復する形だった。

 途中で情報伝達者が襲われ、失われる可能性も考慮すべきだろう。先日の国境付近での騎士の振る舞いや武器のレベルから見て、軍事国家だと思われた。その割にお粗末な情報処理に、まだ時間がかかりそうだと判断を保留する。

「ユーダリルは8人か」

 一番多くの間者を送り込んだ国は、どう動くか。陣取りゲームの駒をひとつ手に取り、転がしてから盤の上に戻した。遊ぶなら上級者と対戦を望むが……さて、奴らの実力はどれほどのものか。
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