111 / 438
第5章 強欲の対価
109.出て来いと命じたぞ
しおりを挟む
城を出て上空から見ると、かなり建物の改築が進んでいることを感じた。ドワーフ達は毎夜酒を飲んで騒ぐが、きちんと仕事もこなす。石造りを中心としたのは、ここが魔族の治める城になるからだ。もちろん人間の民も大切に保護するが、オレが魔王の地位を奪えば魔族が多く住み着く。
ドラゴンやグリフォンを始めとして、部下も微調整が苦手な種族が多かった。あまり彼女らに我慢を強いるのも気の毒だ。時間がかかっても、できるだけ頑丈でしっかりした城を建てさせる必要があった。
第二形態から背に翼を呼び出し、魔力が集まる方角へ向かう。リリアーナが根城にしていた山のボスは、現在マルコシアスが勤める。あの山は地脈の影響で活性化していたため、魔物だった狼が魔族に昇格するのも早かった。
その分だけ他の種族も成長が早く、リリアーナにとってよい狩場なのだろう。今も強者であるリリアーナが定期的に狩りを行い、山の権力階層の頂点はドラゴンだ。マルコシアスは配下とみなされ、ドラゴンの脅威を恐れる必要がない。彼がボスにのし上がった裏事情を思い出しながら、山の上を通り過ぎた。
魔法で転移してもいいが、相手の状況をもう少し見極める必要がある。魔力を最低限まで絞って近づくのは弱者の戦法だ。他者を恐れる気のないオレは、強大な魔力を解放したまま距離を詰めた。どこで気づき、どのような対策を取るか。それが重要なのだ。
見極める意味もそこにあった。優秀な者を引き抜いて手足にするのが目的だ。宣戦布告も必要だが、優秀な魔族が入手できれば、手前で引き揚げても構わない。
そもそも魔族の戦いに「正々堂々」と「名乗りを上げ」て「宣戦布告」する義務はなかった。そんな愚かな行為は人間が行うものだ。それを敢えて行う魔族がいるとしたら、圧倒的な強者か愚か者だけ。
眼前で名乗りを上げたなら、現魔王はどう反応するだろう。側近の実力で底上げされた傀儡ならば、その場で首を落としてもいい。うっそりと笑い、左手を掲げた。
ぱきんっ! 弾ける音は攻撃を防いだ氷の壁が発したものだ。大した飛行速度ではないが、飛んで移動する獲物に当てるのは技量が必要だった。それを成した者の顔を見てやろうと止まれば、再び攻撃が飛んでくる。
ぴりりと表面を走った雷が光り、攻撃が落雷だったことを知った。氷で防いだのは正解だ。もし風で応戦していたら、痺れが届いただろう。口元を緩めて待つが敵は姿を見せない。口元の笑みを手で隠し、全身を雷で覆った。
敵が使った雷の矢程度ではない。圧倒的な魔力が下支えする雷魔法の最上位魔法――雷を身にまとうことで、ほとんどの属性魔法を弾くことが可能になる。その反面、消費される魔力が多すぎて使える魔族はほぼ皆無だった。
「出て来い」
命じる響きが空を裂く。しかし攻撃者は姿を見せず、赤い瞳を眇めて地上を睥睨した。
「オレは出て来いと命じたぞ」
怯えるように動かない魔力は地上にあった。その場所へ雷の槍を放つ。矢より大きく太い攻撃に、転がるように茂みから飛び出したのは子供だった。咄嗟に魔力をぶつけて消滅させる。槍が爆発した余波で、子供はそのまま転がった。
ドラゴンやグリフォンを始めとして、部下も微調整が苦手な種族が多かった。あまり彼女らに我慢を強いるのも気の毒だ。時間がかかっても、できるだけ頑丈でしっかりした城を建てさせる必要があった。
第二形態から背に翼を呼び出し、魔力が集まる方角へ向かう。リリアーナが根城にしていた山のボスは、現在マルコシアスが勤める。あの山は地脈の影響で活性化していたため、魔物だった狼が魔族に昇格するのも早かった。
その分だけ他の種族も成長が早く、リリアーナにとってよい狩場なのだろう。今も強者であるリリアーナが定期的に狩りを行い、山の権力階層の頂点はドラゴンだ。マルコシアスは配下とみなされ、ドラゴンの脅威を恐れる必要がない。彼がボスにのし上がった裏事情を思い出しながら、山の上を通り過ぎた。
魔法で転移してもいいが、相手の状況をもう少し見極める必要がある。魔力を最低限まで絞って近づくのは弱者の戦法だ。他者を恐れる気のないオレは、強大な魔力を解放したまま距離を詰めた。どこで気づき、どのような対策を取るか。それが重要なのだ。
見極める意味もそこにあった。優秀な者を引き抜いて手足にするのが目的だ。宣戦布告も必要だが、優秀な魔族が入手できれば、手前で引き揚げても構わない。
そもそも魔族の戦いに「正々堂々」と「名乗りを上げ」て「宣戦布告」する義務はなかった。そんな愚かな行為は人間が行うものだ。それを敢えて行う魔族がいるとしたら、圧倒的な強者か愚か者だけ。
眼前で名乗りを上げたなら、現魔王はどう反応するだろう。側近の実力で底上げされた傀儡ならば、その場で首を落としてもいい。うっそりと笑い、左手を掲げた。
ぱきんっ! 弾ける音は攻撃を防いだ氷の壁が発したものだ。大した飛行速度ではないが、飛んで移動する獲物に当てるのは技量が必要だった。それを成した者の顔を見てやろうと止まれば、再び攻撃が飛んでくる。
ぴりりと表面を走った雷が光り、攻撃が落雷だったことを知った。氷で防いだのは正解だ。もし風で応戦していたら、痺れが届いただろう。口元を緩めて待つが敵は姿を見せない。口元の笑みを手で隠し、全身を雷で覆った。
敵が使った雷の矢程度ではない。圧倒的な魔力が下支えする雷魔法の最上位魔法――雷を身にまとうことで、ほとんどの属性魔法を弾くことが可能になる。その反面、消費される魔力が多すぎて使える魔族はほぼ皆無だった。
「出て来い」
命じる響きが空を裂く。しかし攻撃者は姿を見せず、赤い瞳を眇めて地上を睥睨した。
「オレは出て来いと命じたぞ」
怯えるように動かない魔力は地上にあった。その場所へ雷の槍を放つ。矢より大きく太い攻撃に、転がるように茂みから飛び出したのは子供だった。咄嗟に魔力をぶつけて消滅させる。槍が爆発した余波で、子供はそのまま転がった。
0
お気に入りに追加
1,029
あなたにおすすめの小説
【完結】彼女以外、みんな思い出す。
❄️冬は つとめて
ファンタジー
R15をつける事にしました。
幼い頃からの婚約者、この国の第二王子に婚約破棄を告げられ。あらぬ冤罪を突きつけられたリフィル。この場所に誰も助けてくれるものはいない。
【完結】帝国から追放された最強のチーム、リミッター外して無双する
エース皇命
ファンタジー
【HOTランキング2位獲得作品】
スペイゴール大陸最強の帝国、ユハ帝国。
帝国に仕え、最強の戦力を誇っていたチーム、『デイブレイク』は、突然議会から追放を言い渡される。
しかし帝国は気づいていなかった。彼らの力が帝国を拡大し、恐るべき戦力を誇示していたことに。
自由になった『デイブレイク』のメンバー、エルフのクリス、バランス型のアキラ、強大な魔力を宿すジャック、杖さばきの達人ランラン、絶世の美女シエナは、今まで抑えていた実力を完全開放し、ゼロからユハ帝国を超える国を建国していく。
※この世界では、杖と魔法を使って戦闘を行います。しかし、あの稲妻型の傷を持つメガネの少年のように戦うわけではありません。どうやって戦うのかは、本文を読んでのお楽しみです。杖で戦う戦士のことを、本文では杖士(ブレイカー)と描写しています。
※舞台の雰囲気は中世ヨーロッパ〜近世ヨーロッパに近いです。
〜『デイブレイク』のメンバー紹介〜
・クリス(男・エルフ・570歳)
チームのリーダー。もともとはエルフの貴族の家系だったため、上品で高潔。白く透明感のある肌に、整った顔立ちである。エルフ特有のとがった耳も特徴的。メンバーからも信頼されているが……
・アキラ(男・人間・29歳)
杖術、身体能力、頭脳、魔力など、あらゆる面のバランスが取れたチームの主力。独特なユーモアのセンスがあり、ムードメーカーでもある。唯一の弱点が……
・ジャック(男・人間・34歳)
怪物級の魔力を持つ杖士。その魔力が強大すぎるがゆえに、普段はその魔力を抑え込んでいるため、感情をあまり出さない。チームで唯一の黒人で、ドレッドヘアが特徴的。戦闘で右腕を失って以来義手を装着しているが……
・ランラン(女・人間・25歳)
優れた杖の腕前を持ち、チームを支える杖士。陽気でチャレンジャーな一面もあり、可愛さも武器である。性格の共通点から、アキラと親しく、親友である。しかし実は……
・シエナ(女・人間・28歳)
絶世の美女。とはいっても杖士としての実力も高く、アキラと同じくバランス型である。誰もが羨む美貌をもっているが、本人はあまり自信がないらしく、相手の反応を確認しながら静かに話す。あるメンバーのことが……
神に逆らった人間が生きていける訳ないだろう?大地も空気も神の意のままだぞ?<聖女は神の愛し子>
ラララキヲ
ファンタジー
フライアルド聖国は『聖女に護られた国』だ。『神が自分の愛し子の為に作った』のがこの国がある大地(島)である為に、聖女は王族よりも大切に扱われてきた。
それに不満を持ったのが当然『王侯貴族』だった。
彼らは遂に神に盾突き「人の尊厳を守る為に!」と神の信者たちを追い出そうとした。去らねば罪人として捕まえると言って。
そしてフライアルド聖国の歴史は動く。
『神の作り出した世界』で馬鹿な人間は現実を知る……
神「プンスコ(`3´)」
!!注!! この話に出てくる“神”は実態の無い超常的な存在です。万能神、創造神の部類です。刃物で刺したら死ぬ様な“自称神”ではありません。人間が神を名乗ってる様な謎の宗教の話ではありませんし、そんな口先だけの神(笑)を容認するものでもありませんので誤解無きよう宜しくお願いします。!!注!!
◇ふんわり世界観。ゆるふわ設定。
◇ご都合展開。矛盾もあるかも。
◇ちょっと【恋愛】もあるよ!
◇なろうにも上げてます。
《勘違い》で婚約破棄された令嬢は失意のうちに自殺しました。
友坂 悠
ファンタジー
「婚約を考え直そう」
貴族院の卒業パーティーの会場で、婚約者フリードよりそう告げられたエルザ。
「それは、婚約を破棄されるとそういうことなのでしょうか?」
耳を疑いそう聞き返すも、
「君も、その方が良いのだろう?」
苦虫を噛み潰すように、そう吐き出すフリードに。
全てに絶望し、失意のうちに自死を選ぶエルザ。
絶景と評判の観光地でありながら、自殺の名所としても知られる断崖絶壁から飛び降りた彼女。
だったのですが。
婚約破棄された検品令嬢ですが、冷酷辺境伯の子を身籠りました。 でも本当はお優しい方で毎日幸せです
青空あかな
恋愛
旧題:「荷物検査など誰でもできる」と婚約破棄された検品令嬢ですが、極悪非道な辺境伯の子を身籠りました。でも本当はお優しい方で毎日心が癒されています
チェック男爵家長女のキュリティは、貴重な闇魔法の解呪師として王宮で荷物検査の仕事をしていた。
しかし、ある日突然婚約破棄されてしまう。
婚約者である伯爵家嫡男から、キュリティの義妹が好きになったと言われたのだ。
さらには、婚約者の権力によって検査係の仕事まで義妹に奪われる。
失意の中、キュリティは辺境へ向かうと、極悪非道と噂される辺境伯が魔法実験を行っていた。
目立たず通り過ぎようとしたが、魔法事故が起きて辺境伯の子を身ごもってしまう。
二人は形式上の夫婦となるが、辺境伯は存外優しい人でキュリティは温かい日々に心を癒されていく。
一方、義妹は仕事でミスばかり。
闇魔法を解呪することはおろか見破ることさえできない。
挙句の果てには、闇魔法に呪われた荷物を王宮内に入れてしまう――。
※おかげさまでHOTランキング1位になりました! ありがとうございます!
※ノベマ!様で短編版を掲載中でございます。
屋台飯! いらない子認定されたので、旅に出たいと思います。
彩世幻夜
ファンタジー
母が死にました。
父が連れてきた継母と異母弟に家を追い出されました。
わー、凄いテンプレ展開ですね!
ふふふ、私はこの時を待っていた!
いざ行かん、正義の旅へ!
え? 魔王? 知りませんよ、私は勇者でも聖女でも賢者でもありませんから。
でも……美味しいは正義、ですよね?
2021/02/19 第一部完結
2021/02/21 第二部連載開始
2021/05/05 第二部完結
はずれスキル『本日一粒万倍日』で金も魔法も作物もなんでも一万倍 ~はぐれサラリーマンのスキル頼みな異世界満喫日記~
緋色優希
ファンタジー
勇者召喚に巻き込まれて異世界へやってきたサラリーマン麦野一穂(むぎのかずほ)。得たスキルは屑(ランクレス)スキルの『本日一粒万倍日』。あまりの内容に爆笑され、同じように召喚に巻き込まれてきた連中にも馬鹿にされ、一人だけ何一つ持たされず荒城にそのまま置き去りにされた。ある物と言えば、水の樽といくらかの焼き締めパン。どうする事もできずに途方に暮れたが、スキルを唱えたら水樽が一万個に増えてしまった。また城で見つけた、たった一枚の銀貨も、なんと銀貨一万枚になった。どうやら、あれこれと一万倍にしてくれる不思議なスキルらしい。こんな世界で王様の助けもなく、たった一人どうやって生きたらいいのか。だが開き直った彼は『住めば都』とばかりに、スキル頼みでこの異世界での生活を思いっきり楽しむ事に決めたのだった。
~クラス召喚~ 経験豊富な俺は1人で歩みます
無味無臭
ファンタジー
久しぶりに異世界転生を体験した。だけど周りはビギナーばかり。これでは俺が巻き込まれて死んでしまう。自称プロフェッショナルな俺はそれがイヤで他の奴と離れて生活を送る事にした。天使には魔王を討伐しろ言われたけど、それは面倒なので止めておきます。私はゆっくりのんびり異世界生活を送りたいのです。たまには自分の好きな人生をお願いします。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる