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第5章 強欲の対価
101.課題が見つからないよりマシか
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出陣した彼らも労ってやらねばならぬ。リリアーナを護衛につけた気遣いに礼を口にしたマルコシアスは、山に残した魔狼や銀狼に被害がなかったことに安堵していた。今後を考えれば、群れ全体を使うより戦闘能力の高い遊撃隊を作る方が効率的だ。山に弱者を残して戦うのは、彼らも不安だろう。
銀狼達から志願者を募るか。こうして一度現場に立てば、次々と改善点が見えてくる。それゆえに、オレはすべてを書類の上で判断することを避けてきた。部下に任せたなら報告書のみでよい。不明点や効率の悪い点を見い出し改善するため、現場に立ち戻るのは重要だった。
怠れば、痛い目を見るのは自分自身なのだから。
着の身着のままで歩く難民が向かうのは、川沿いに隣接する我が国が多いだろう。ルートを指示したわけではないが、リリアーナも川沿いに飛んだ。飲み水が確保でき、道に迷うことがない川は最高の目印だ。砂漠化した荒野を渡るより、危険度は少なかった。
この世界は魔物が人間を襲うことも多い。そのため村単位で外壁を立て、外部からの侵入者を見張る役目の者がいた。都の外壁も人間同士の税関として認識されているが、元は魔物や魔族の侵入を防ぐ目的だったのだろう。
矢を射るための窓が作られ、壁の内部に人が隠れられる施設を作った先人の思いと裏腹に、現在は人間同士の争いから守る役目が主流だった。
ぐるるる……リリアーナが注意を引く声を立てる。みれば、森を避けて川沿いを歩く人々の先に魔物が群れていた。巨大な2つの頭を持つ犬の尾が蛇である。毛が深い灰色のため、ケルベロスに似ていた。前の世界では見たことがない。
リリアーナが注意喚起したということは、この魔物は人を食べるのだろう。どうするかと尋ねるように唸るリリアーナの首筋をぽんぽんと叩き、方向転換を命じる。大きく翼を広げて風を受けたドラゴンは、弧を描いて川の側に舞い降りた。
すぐに人化したリリアーナは、慣れた様子で空中からワンピースを取り出して被る。もう少し魔力の扱いがうまくなったら、人化の過程で衣服をまとう方法を教えなければならない。今はまだ幼さの残る少女だから許されるが、人前で雌が肌を晒すのは好ましくなかった。
「着替えた。ヘルハウンド、あっち」
あの魔物はヘルハウンドと認識されているらしい。尻尾が蛇でなく、黒い大型犬ならば該当したのだが……やはり異世界は生態の違う魔物がいるようだ。頷くと、嬉しそうに手を引っ張ってリリアーナが歩き出した。
大きな尻尾を左右に揺らしながら、ぺたぺたと裸足で森を歩いていく。ドラゴンなので心配はしないが、人の外見で素足は目立つ要因だった。彼女に靴やサンダルを身に着けるよう教える必要を覚えながら、一緒に森の中に分け入った。
人の手入れが入っていない森は、蔓や小さな茂みが行く手を遮る。程よく魔法で道を作りながら先に進み、木々がない広場のような場所に出た。群れるヘルハウンドを上空から確認した場所は、別の魔物もいる。いや……魔族か。
「レーシーか」
素早い動きで逃げ回る魔物だが、知能が高い。森で人を惑わす精霊の一種として数えられることもあるが、実際は気の弱い臆病な種族だった。人間の寿命を吸い取るため、前世界で駆除対象として人間が追い回して絶滅寸前になった経緯がある。
全身を長い毛が覆う姿は不気味だった。思わず立ち止まったリリアーナは困惑の表情を見せる。レーシーの先に、大型の2つ頭の犬が群れていた。
「あれ、狩る?」
「いや……レーシーは持ち帰る」
言及しなかったヘルハウンドについては、リリアーナに判断を委ねた。金瞳を見開き、ぶんぶんと尻尾を振ったリリアーナは意外なことを言い出す。
「お土産にする」
「よかろう」
リリアーナがオリヴィエラに土産を用意するはずがなく、ロゼマリアかクリスティーヌ辺りだろう。どちらにしろ、オレの魔力に怯えて震える程度の犬だ。捨て犬感覚で頷けば、リリアーナは嬉しそうに金瞳で魅了をかける。
そういえば忙しさにかまけて、魅了の維持方法を教えていなかった。
「リリアーナ、魅了を掛けたら魔力を細い糸にして獲物と繋げる……出来るな?」
「細い、糸……できる」
頷いたリリアーナが魔力を絞る。解放された魅了にかかったヘルハウンドは5匹、レーシーも範囲に含まれていた。細い糸状の魔力を6本作るだけなら魔力消費を抑えられ、魅了が切れることもない。しかし微調整が苦手なリリアーナが作ったのは、太いロープだった。
大雑把な彼女らしい方法で、その先端を輪にして5匹と1匹を一緒くたに縛った。
「できた!」
「……まあいい」
前のように太い帯状で魔力を拡散するより、各段に消費量は減っただろう。見つけた今後の課題を頭に刻みながら、オレは苦笑いしてリリアーナの頭を撫でた。
銀狼達から志願者を募るか。こうして一度現場に立てば、次々と改善点が見えてくる。それゆえに、オレはすべてを書類の上で判断することを避けてきた。部下に任せたなら報告書のみでよい。不明点や効率の悪い点を見い出し改善するため、現場に立ち戻るのは重要だった。
怠れば、痛い目を見るのは自分自身なのだから。
着の身着のままで歩く難民が向かうのは、川沿いに隣接する我が国が多いだろう。ルートを指示したわけではないが、リリアーナも川沿いに飛んだ。飲み水が確保でき、道に迷うことがない川は最高の目印だ。砂漠化した荒野を渡るより、危険度は少なかった。
この世界は魔物が人間を襲うことも多い。そのため村単位で外壁を立て、外部からの侵入者を見張る役目の者がいた。都の外壁も人間同士の税関として認識されているが、元は魔物や魔族の侵入を防ぐ目的だったのだろう。
矢を射るための窓が作られ、壁の内部に人が隠れられる施設を作った先人の思いと裏腹に、現在は人間同士の争いから守る役目が主流だった。
ぐるるる……リリアーナが注意を引く声を立てる。みれば、森を避けて川沿いを歩く人々の先に魔物が群れていた。巨大な2つの頭を持つ犬の尾が蛇である。毛が深い灰色のため、ケルベロスに似ていた。前の世界では見たことがない。
リリアーナが注意喚起したということは、この魔物は人を食べるのだろう。どうするかと尋ねるように唸るリリアーナの首筋をぽんぽんと叩き、方向転換を命じる。大きく翼を広げて風を受けたドラゴンは、弧を描いて川の側に舞い降りた。
すぐに人化したリリアーナは、慣れた様子で空中からワンピースを取り出して被る。もう少し魔力の扱いがうまくなったら、人化の過程で衣服をまとう方法を教えなければならない。今はまだ幼さの残る少女だから許されるが、人前で雌が肌を晒すのは好ましくなかった。
「着替えた。ヘルハウンド、あっち」
あの魔物はヘルハウンドと認識されているらしい。尻尾が蛇でなく、黒い大型犬ならば該当したのだが……やはり異世界は生態の違う魔物がいるようだ。頷くと、嬉しそうに手を引っ張ってリリアーナが歩き出した。
大きな尻尾を左右に揺らしながら、ぺたぺたと裸足で森を歩いていく。ドラゴンなので心配はしないが、人の外見で素足は目立つ要因だった。彼女に靴やサンダルを身に着けるよう教える必要を覚えながら、一緒に森の中に分け入った。
人の手入れが入っていない森は、蔓や小さな茂みが行く手を遮る。程よく魔法で道を作りながら先に進み、木々がない広場のような場所に出た。群れるヘルハウンドを上空から確認した場所は、別の魔物もいる。いや……魔族か。
「レーシーか」
素早い動きで逃げ回る魔物だが、知能が高い。森で人を惑わす精霊の一種として数えられることもあるが、実際は気の弱い臆病な種族だった。人間の寿命を吸い取るため、前世界で駆除対象として人間が追い回して絶滅寸前になった経緯がある。
全身を長い毛が覆う姿は不気味だった。思わず立ち止まったリリアーナは困惑の表情を見せる。レーシーの先に、大型の2つ頭の犬が群れていた。
「あれ、狩る?」
「いや……レーシーは持ち帰る」
言及しなかったヘルハウンドについては、リリアーナに判断を委ねた。金瞳を見開き、ぶんぶんと尻尾を振ったリリアーナは意外なことを言い出す。
「お土産にする」
「よかろう」
リリアーナがオリヴィエラに土産を用意するはずがなく、ロゼマリアかクリスティーヌ辺りだろう。どちらにしろ、オレの魔力に怯えて震える程度の犬だ。捨て犬感覚で頷けば、リリアーナは嬉しそうに金瞳で魅了をかける。
そういえば忙しさにかまけて、魅了の維持方法を教えていなかった。
「リリアーナ、魅了を掛けたら魔力を細い糸にして獲物と繋げる……出来るな?」
「細い、糸……できる」
頷いたリリアーナが魔力を絞る。解放された魅了にかかったヘルハウンドは5匹、レーシーも範囲に含まれていた。細い糸状の魔力を6本作るだけなら魔力消費を抑えられ、魅了が切れることもない。しかし微調整が苦手なリリアーナが作ったのは、太いロープだった。
大雑把な彼女らしい方法で、その先端を輪にして5匹と1匹を一緒くたに縛った。
「できた!」
「……まあいい」
前のように太い帯状で魔力を拡散するより、各段に消費量は減っただろう。見つけた今後の課題を頭に刻みながら、オレは苦笑いしてリリアーナの頭を撫でた。
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