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第4章 愚王の成れの果て

72.蛮行に相応しい罰と扱いを

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 腰掛けた椅子の隣で騒がしい男をみやり、飛んできた大きな吸血蝙蝠に手をかざす。伸ばした手首へ触れた蝙蝠は器用にバランスを取りながら、報告を始めた。キーキーと不気味な声ながら、主人であるクリスティーヌより言葉が達者なジンは、立派に役目を果たす。

「よい、戻れ」

 許可を得て城へ戻る蝙蝠の姿が見えなくなる頃、足元の殲滅戦も幕を下ろした。踏みつぶされた蟻の群れに、わずかな間だけ黙とうを捧げる。たとえ敵であっても、圧倒的弱者であろうと、どれだけ卑怯な手段を使った者も……弔わぬ理由にはならない。

「終わった、サタン様。私、やっつけた」

 興奮して赤い頬で抱き着くリリアーナを、椅子の上に座ったまま受け止める。相変わらず羞恥心の薄い子供は、嬉しそうに膝に頬ずりした。羨ましそうな顔を隠しもしないオリヴィエラも人化する。

「オリヴィエラ、嫌い。来ないで」

「許してやれ、リリアーナ」

 主君として上に立つなら、彼女らの感情を受け止めた上で仲裁するのも役目だ。しかし幼い感情を振り翳すドラゴンは、裏切りに対して怒りを向ける。金髪を撫でてやれば、オリヴィエラとオレを交互に見た後……ぐるぐると喉を鳴らして唇を尖らせた。

「わかった」

 ロゼマリアに礼儀作法を学ぶついでに、帝王学や歴史も覚える最中であるリリアーナは、ある書物の一文を思い浮かべていた。主君とその妻は寛容さを身につけ、失敗や裏切りを大きな器で受け止める素質が必要とされる。その文章が、リリアーナの中で優越感を伴って広がる。

 ――寛容な、妻。心の中に浮かんだ一言が、彼女の怒りを押さえつけた。

「殲滅の功績をもって、先日の無礼をお許しいただきたくお願い申し上げますわ」

「好きにしろ。城に戻る」

「この場はいかがします?」

 大地を割って死体を飲ませる方法もある。死体の始末方法を匂わせるグリフォンに、軽く肩を竦めた。リリアーナを伴って立ち上がると、足元を一瞥して首をかしげる。

「片付けはあちらのだろう」

 背に翼を出しながら結論を突きつけた。一瞬息を飲んだオリヴィエラは、器用に一礼して口元に笑みを浮かべる。

 死体を片づけるのは隣国の仕事だ。この場で片づけてしまえば、見せしめにならない。彼らに恐怖を植え付け、喪った家族や隣人を嘆き、二度と逆らわぬよう恐怖を沁み込ませる必要があった。だから死体はしばらく野に晒す。

 正面から戦いを挑んだ戦士ならば、このような非礼な扱いはしない。だが彼らは『王の留守を狙って攻め込み、他国の民を蹂躙しようとした略奪者』だった。幸いにして早く戻ったことと、残ったオリヴィエラが留守を守ったことで、大きな損害は免れたが……。

 騎士や戦士が戦って死ぬのは当然だ。彼らに誇りがあり、それぞれに役目を果たすのならその死が惜しまれこそすれ、罵られることはなかった。しかしその誇りを捨て、戦えぬ無辜の民を襲うのだとしたら、それは蛮行に分類される。

 愚行や蛮行には、相応しい罰と扱いを――。

 城まであと僅かの場所で、ふと気づいて問いかけた。

「リリアーナ、傷はないか?」

「かすり傷、ない。なんともない」

 結界を張っていたリリアーナは嬉しそうに薄い胸を張って答える。心配してもらえたと笑う彼女は、人化した背に翼だけを出現させていた。かなり器用に変化を操れるようになったのは、魔力の扱いや巡らせ方を覚えたためだろう。

 あの程度の数に傷を負うようなら鍛え直さねばならぬと思ったが……「よくやった」と褒めてやれば、口を開けて笑う彼女の牙が、きらりと光った。
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