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第4章 愚王の成れの果て
68.民を守らねばなるまい
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「ぐるるるっ」
了承の響きで喉を鳴らしたリリアーナが、躊躇せず魔法陣に飛び込む。演算処理が済んだ魔法陣はリリアーナの魔力を吸収し、一瞬で発動した。光った直後、城の上に投げ出される。用意した魔法陣を展開する。防御系を纏めた左手を揮うと、大量の魔法陣が城の上に並んだ。
輝きながら回る魔法陣は、空に浮かぶシャンデリアのようだ。そのひとつを選んで指さし、魔力を注いだ。見る間に城の敷地まで大きくなり、地面に下りて半円の結界を作りだす。結界内で羽ばたくドラゴンの背から飛び降り、空を見上げた。
「まさか、この程度か?」
攻撃用の魔法陣を右手に残したまま、オレは眉をひそめる。透明の結界壁にぶつかる矢の数は多いが、威力は弱かった。射かけられる矢は普通の矢で、魔法文字を刻んだ鏃がない。そのため結界に当たった矢が弾かれて城壁の外に散らばった。
リリアーナは塔があった庭に下りたつと、クリスティーヌが転がるように滑り降りる。マントを揺らして立つオレの隣で、人化したリリアーナが駆け寄った。最近は人化すると同時に収納から服を出すことを覚えた。おかげで裸体で駆け回る心配がない。
一応嫁入り前の娘なのだと言い聞かせたところ、素直に聞いたのが不思議だった。魔族の中には服を好まぬ者も多いのだが、彼女はその部類から外れるようだ。ワンピースの裾を直しながら駆け寄り、興奮した顔で進言する。
「サタン様、私、攻撃する!」
マントの裾を掴んで、逆の手で城下町を守る壁の外を指さした。ドラゴンは先手必勝、攻撃されたら即反撃が信条だ。特に反対する理由もない。
「好きにせよ。ただし……オレの代理で出るのだ。かすり傷ひとつ受けるな」
「わかった! 結界する」
大喜びで少し離れた場所に走っていき、塔があった庭からそのまま飛び立った。黒い尾を揺らして羽を広げたドラゴンは、上空を旋回しながら球体の結界を纏う。器用に結界のてっぺんから抜け出すと、唸りながら外の荒野へ向かった。
あの様子なら問題あるまい。
「サタン、様。ケガ人、いる」
クリスティーヌが指さす方角は城門だ。結界に弾かれる形で外にいる民は、矢に怯えて蹲っていた。助けを求めて城へ向かったのなら、正しい行動だ。人間の王族が収める国であっても、攻め込まれれば籠城するため、城には備蓄食料や武器が大量に保管される。同時に薬草や手当に必要な包帯なども揃っていた。
「結界を広げる。民を守らねばなるまい」
一度確定した魔法陣を変更するのは骨が折れる。それくらいならばもう一枚重ねた方が楽だった。先ほど空中に待機させた魔法陣を呼び寄せ、手の中で一気に魔力を流し込む。光の玉が破裂するように急激に膨らんだ魔法陣が城下町全体を覆った。
「……凄い魔力ですわね」
驚きの声と同時に、先ほど城を守っていたオリヴィエラが舞い降りる。リリアーナに目の敵にされているため、人型を取って隠れていたのだろう。この状況で騒動を避ける判断は見事だ。背に残した鷲の翼を消し、慌てて駆け寄る彼女は手前で足を止めた。
「ダメ、近寄るの……リリ姉さま、怒る」
クリスティーヌが立ちはだかる。牙を剥いて唸る姿は獣のようだった。間に立って両手を広げる少女の黒髪に手を置く。
「よい。リリアーナにはオレが説明する。この女は治療に必要だ」
グリフォンは治癒魔法が使える。そう言われれば、クリスティーヌも強く反対できなかった。渋々ながら広げた両手を下した。褒めるために撫でてから、城を覆う結界を消す。外側の結界が機能しているため、雨のように降り注ぐ矢は弾かれて荒野に落ちた。
「オリヴィエラ、良く守った。後は任せろ」
結界の外で爆発が起きる。暴れるドラゴンの咆哮が聞こえ、魔法による攻撃が新たな爆音を響かせた。手を出すとリリアーナが怒りそうだが……地獄を見せるなら彼女では役者不足だろう。口元に不吉な笑みを浮かべるオレの前で、オリヴィエラが膝をついた。
了承の響きで喉を鳴らしたリリアーナが、躊躇せず魔法陣に飛び込む。演算処理が済んだ魔法陣はリリアーナの魔力を吸収し、一瞬で発動した。光った直後、城の上に投げ出される。用意した魔法陣を展開する。防御系を纏めた左手を揮うと、大量の魔法陣が城の上に並んだ。
輝きながら回る魔法陣は、空に浮かぶシャンデリアのようだ。そのひとつを選んで指さし、魔力を注いだ。見る間に城の敷地まで大きくなり、地面に下りて半円の結界を作りだす。結界内で羽ばたくドラゴンの背から飛び降り、空を見上げた。
「まさか、この程度か?」
攻撃用の魔法陣を右手に残したまま、オレは眉をひそめる。透明の結界壁にぶつかる矢の数は多いが、威力は弱かった。射かけられる矢は普通の矢で、魔法文字を刻んだ鏃がない。そのため結界に当たった矢が弾かれて城壁の外に散らばった。
リリアーナは塔があった庭に下りたつと、クリスティーヌが転がるように滑り降りる。マントを揺らして立つオレの隣で、人化したリリアーナが駆け寄った。最近は人化すると同時に収納から服を出すことを覚えた。おかげで裸体で駆け回る心配がない。
一応嫁入り前の娘なのだと言い聞かせたところ、素直に聞いたのが不思議だった。魔族の中には服を好まぬ者も多いのだが、彼女はその部類から外れるようだ。ワンピースの裾を直しながら駆け寄り、興奮した顔で進言する。
「サタン様、私、攻撃する!」
マントの裾を掴んで、逆の手で城下町を守る壁の外を指さした。ドラゴンは先手必勝、攻撃されたら即反撃が信条だ。特に反対する理由もない。
「好きにせよ。ただし……オレの代理で出るのだ。かすり傷ひとつ受けるな」
「わかった! 結界する」
大喜びで少し離れた場所に走っていき、塔があった庭からそのまま飛び立った。黒い尾を揺らして羽を広げたドラゴンは、上空を旋回しながら球体の結界を纏う。器用に結界のてっぺんから抜け出すと、唸りながら外の荒野へ向かった。
あの様子なら問題あるまい。
「サタン、様。ケガ人、いる」
クリスティーヌが指さす方角は城門だ。結界に弾かれる形で外にいる民は、矢に怯えて蹲っていた。助けを求めて城へ向かったのなら、正しい行動だ。人間の王族が収める国であっても、攻め込まれれば籠城するため、城には備蓄食料や武器が大量に保管される。同時に薬草や手当に必要な包帯なども揃っていた。
「結界を広げる。民を守らねばなるまい」
一度確定した魔法陣を変更するのは骨が折れる。それくらいならばもう一枚重ねた方が楽だった。先ほど空中に待機させた魔法陣を呼び寄せ、手の中で一気に魔力を流し込む。光の玉が破裂するように急激に膨らんだ魔法陣が城下町全体を覆った。
「……凄い魔力ですわね」
驚きの声と同時に、先ほど城を守っていたオリヴィエラが舞い降りる。リリアーナに目の敵にされているため、人型を取って隠れていたのだろう。この状況で騒動を避ける判断は見事だ。背に残した鷲の翼を消し、慌てて駆け寄る彼女は手前で足を止めた。
「ダメ、近寄るの……リリ姉さま、怒る」
クリスティーヌが立ちはだかる。牙を剥いて唸る姿は獣のようだった。間に立って両手を広げる少女の黒髪に手を置く。
「よい。リリアーナにはオレが説明する。この女は治療に必要だ」
グリフォンは治癒魔法が使える。そう言われれば、クリスティーヌも強く反対できなかった。渋々ながら広げた両手を下した。褒めるために撫でてから、城を覆う結界を消す。外側の結界が機能しているため、雨のように降り注ぐ矢は弾かれて荒野に落ちた。
「オリヴィエラ、良く守った。後は任せろ」
結界の外で爆発が起きる。暴れるドラゴンの咆哮が聞こえ、魔法による攻撃が新たな爆音を響かせた。手を出すとリリアーナが怒りそうだが……地獄を見せるなら彼女では役者不足だろう。口元に不吉な笑みを浮かべるオレの前で、オリヴィエラが膝をついた。
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