66 / 438
第4章 愚王の成れの果て
64.この世界は不案内だ。お前に任せる
しおりを挟む
ドラゴンの背は揺れる。しっかりしがみついたクリスティーヌが、後ろで悲鳴を上げた。本人も飛べるのだから、自力で空を舞えばよいものを……そう思いながら、腹に回された手を軽く掴む。きゅっと握り返し、少し悲鳴が小さくなった。
しかし今度は機嫌が悪くなったリリアーナのアクロバット飛行が始まり、クリスティーヌの悲鳴は再び夜空を切り裂く。
「うるさいぞ、クリスティーヌ。リリアーナも静かに飛べぬのか」
「ぐるるるっ」
ドラゴン形態のリリアーナは、念話をはまだ使えない。そのため会話は成り立たないが、何かが気に入らないのは伝わった。首の付け根に腰掛けるのはドラゴンの騎獣方法として正しいはずだが……擽ったいのか? 眉をひそめて観察すれば、クリスティーヌを振り落とそうとしている。彼女の座った位置が悪いようだ。
仕方なくクリスティーヌの腕を掴み、オレの前に座らせた。これでいいはず……ところが、リリアーナの曲芸はさらに激しくなり、ついには機嫌を損ねて唸り始める。上空のドラゴンが唸れば、地上は雷鳴のように響くだろう。恐れをなした魔獣が次々と逃げ出し、予期せぬ掃除となった。
「リリアーナ、狩りが気に入らぬか?」
「ぐる……ううぅ」
「そうか。この世界は不案内だ。お前に任せる」
狩りに不満はないようだ。場所の選定を任せると告げた途端、彼女は打って変わって大人しく飛行し始めた。ぐるぐると数周回って場所を選び、緩やかに下降していく。大きな羽が風をはらみ、黒い鱗が月光を弾いて美しく波打つ。巨体は音もなく山の中腹へ降り立った。
一瞬で人型に戻ると、リリアーナは腕を絡めた。泣きそうな顔の彼女に「ご苦労だった」と労えば、頷いて後ろのクリスティーヌを振り返る。少し離れた場所で座り込んだ彼女は酔ったらしい。青ざめた妹分の様子に、やり過ぎたと思ったのか。近づいて黒髪を数回撫でて戻ってきた。
仲がいいのは良いことだ。仲間同士憎み合う必要はない。
「ここで狩れる魔物は何だ?」
特に獲物を指定しなかったため、彼女にとって慣れた狩場を選んだ可能性が高い。何が生息しているか尋ねれば、指を折ってたどたどしく名を上げた。
「オーク、ゴブリン、ホーンラビット、シルバーウルフ、サーペント、時々ヒュドラも」
ヒュドラが出るなら、この辺りの魔物のランクは高い。山自体に地脈が通っているのか、足元から温かな魔力が立ち上っていた。
空の月は3つ……サイズがすべて違う。この月は前の世界と明らかに違う部分だった。2つから3つに増えただけで、なんら関係ないと思うが……この世界の重力は軽い気がする。
「食料にするならウルフかオーク、ホーンラビットだな」
くんくんと周囲を匂っていたリリアーナが左側を指さした。そちらは山の上へ向かう獣道がある。
「こっち。ウルフいる」
食料としてはオークの方が効率はいいが、近くにいる獲物から狩るとしよう。ここ数日は身体を動かしていなかったため、魔法ではなく剣を使うか。軽い気持ちで収納へ手を入れると、指先にかさりと紙が触れた。
収納の亜空間は、空間の持ち主つまりオレが検索した物以外は取り出せないし触れない。今は武器を探すために剣を求めたというのに、指先に最初に触れたのは手紙だった。奇妙な状況だが、ひとまず手紙を掴んで引っ張りだす。以前と同じ薄緑の封筒――アースティルティトの署名入り。
手紙を持つ右手の指輪がきらりと月光を弾いた。
しかし今度は機嫌が悪くなったリリアーナのアクロバット飛行が始まり、クリスティーヌの悲鳴は再び夜空を切り裂く。
「うるさいぞ、クリスティーヌ。リリアーナも静かに飛べぬのか」
「ぐるるるっ」
ドラゴン形態のリリアーナは、念話をはまだ使えない。そのため会話は成り立たないが、何かが気に入らないのは伝わった。首の付け根に腰掛けるのはドラゴンの騎獣方法として正しいはずだが……擽ったいのか? 眉をひそめて観察すれば、クリスティーヌを振り落とそうとしている。彼女の座った位置が悪いようだ。
仕方なくクリスティーヌの腕を掴み、オレの前に座らせた。これでいいはず……ところが、リリアーナの曲芸はさらに激しくなり、ついには機嫌を損ねて唸り始める。上空のドラゴンが唸れば、地上は雷鳴のように響くだろう。恐れをなした魔獣が次々と逃げ出し、予期せぬ掃除となった。
「リリアーナ、狩りが気に入らぬか?」
「ぐる……ううぅ」
「そうか。この世界は不案内だ。お前に任せる」
狩りに不満はないようだ。場所の選定を任せると告げた途端、彼女は打って変わって大人しく飛行し始めた。ぐるぐると数周回って場所を選び、緩やかに下降していく。大きな羽が風をはらみ、黒い鱗が月光を弾いて美しく波打つ。巨体は音もなく山の中腹へ降り立った。
一瞬で人型に戻ると、リリアーナは腕を絡めた。泣きそうな顔の彼女に「ご苦労だった」と労えば、頷いて後ろのクリスティーヌを振り返る。少し離れた場所で座り込んだ彼女は酔ったらしい。青ざめた妹分の様子に、やり過ぎたと思ったのか。近づいて黒髪を数回撫でて戻ってきた。
仲がいいのは良いことだ。仲間同士憎み合う必要はない。
「ここで狩れる魔物は何だ?」
特に獲物を指定しなかったため、彼女にとって慣れた狩場を選んだ可能性が高い。何が生息しているか尋ねれば、指を折ってたどたどしく名を上げた。
「オーク、ゴブリン、ホーンラビット、シルバーウルフ、サーペント、時々ヒュドラも」
ヒュドラが出るなら、この辺りの魔物のランクは高い。山自体に地脈が通っているのか、足元から温かな魔力が立ち上っていた。
空の月は3つ……サイズがすべて違う。この月は前の世界と明らかに違う部分だった。2つから3つに増えただけで、なんら関係ないと思うが……この世界の重力は軽い気がする。
「食料にするならウルフかオーク、ホーンラビットだな」
くんくんと周囲を匂っていたリリアーナが左側を指さした。そちらは山の上へ向かう獣道がある。
「こっち。ウルフいる」
食料としてはオークの方が効率はいいが、近くにいる獲物から狩るとしよう。ここ数日は身体を動かしていなかったため、魔法ではなく剣を使うか。軽い気持ちで収納へ手を入れると、指先にかさりと紙が触れた。
収納の亜空間は、空間の持ち主つまりオレが検索した物以外は取り出せないし触れない。今は武器を探すために剣を求めたというのに、指先に最初に触れたのは手紙だった。奇妙な状況だが、ひとまず手紙を掴んで引っ張りだす。以前と同じ薄緑の封筒――アースティルティトの署名入り。
手紙を持つ右手の指輪がきらりと月光を弾いた。
0
お気に入りに追加
1,032
あなたにおすすめの小説

はずれスキル『本日一粒万倍日』で金も魔法も作物もなんでも一万倍 ~はぐれサラリーマンのスキル頼みな異世界満喫日記~
緋色優希
ファンタジー
勇者召喚に巻き込まれて異世界へやってきたサラリーマン麦野一穂(むぎのかずほ)。得たスキルは屑(ランクレス)スキルの『本日一粒万倍日』。あまりの内容に爆笑され、同じように召喚に巻き込まれてきた連中にも馬鹿にされ、一人だけ何一つ持たされず荒城にそのまま置き去りにされた。ある物と言えば、水の樽といくらかの焼き締めパン。どうする事もできずに途方に暮れたが、スキルを唱えたら水樽が一万個に増えてしまった。また城で見つけた、たった一枚の銀貨も、なんと銀貨一万枚になった。どうやら、あれこれと一万倍にしてくれる不思議なスキルらしい。こんな世界で王様の助けもなく、たった一人どうやって生きたらいいのか。だが開き直った彼は『住めば都』とばかりに、スキル頼みでこの異世界での生活を思いっきり楽しむ事に決めたのだった。
スキルはコピーして上書き最強でいいですか~改造初級魔法で便利に異世界ライフ~
深田くれと
ファンタジー
【文庫版2が4月8日に発売されます! ありがとうございます!】
異世界に飛ばされたものの、何の能力も得られなかった青年サナト。街で清掃係として働くかたわら、雑魚モンスターを狩る日々が続いていた。しかしある日、突然仕事を首になり、生きる糧を失ってしまう――。 そこで、サナトの人生を変える大事件が発生する!途方に暮れて挑んだダンジョンにて、ダンジョンを支配するドラゴンと遭遇し、自らを破壊するよう頼まれたのだ。その願いを聞きつつも、ダンジョンの後継者にはならず、能力だけを受け継いだサナト。新たな力――ダンジョンコアとともに、スキルを駆使して異世界で成り上がる!
外れスキル《コピー》を授かったけど「無能」と言われて家を追放された~ だけど発動条件を満たせば"魔族のスキル"を発動することができるようだ~
そらら
ファンタジー
「鑑定ミスではありません。この子のスキルは《コピー》です。正直、稀に見る外れスキルですね、何せ発動条件が今だ未解明なのですから」
「何てことなの……」
「全く期待はずれだ」
私の名前はラゼル、十五歳になったんだけども、人生最悪のピンチに立たされている。
このファンタジックな世界では、15歳になった際、スキル鑑定を医者に受けさせられるんだが、困ったことに私は外れスキル《コピー》を当ててしまったらしい。
そして数年が経ち……案の定、私は家族から疎ましく感じられてーーついに追放されてしまう。
だけど私のスキルは発動条件を満たすことで、魔族のスキルをコピーできるようだ。
そして、私の能力が《外れスキル》ではなく、恐ろしい能力だということに気づく。
そんでこの能力を使いこなしていると、知らないうちに英雄と呼ばれていたんだけど?
私を追放した家族が戻ってきてほしいって泣きついてきたんだけど、もう戻らん。
私は最高の仲間と最強を目指すから。

パワハラ騎士団長に追放されたけど、君らが最強だったのは僕が全ステータスを10倍にしてたからだよ。外れスキル《バフ・マスター》で世界最強
こはるんるん
ファンタジー
「アベル、貴様のような軟弱者は、我が栄光の騎士団には不要。追放処分とする!」
騎士団長バランに呼び出された僕――アベルはクビを宣言された。
この世界では8歳になると、女神から特別な能力であるスキルを与えられる。
ボクのスキルは【バフ・マスター】という、他人のステータスを数%アップする力だった。
これを授かった時、外れスキルだと、みんなからバカにされた。
だけど、スキルは使い続けることで、スキルLvが上昇し、強力になっていく。
僕は自分を信じて、8年間、毎日スキルを使い続けた。
「……本当によろしいのですか? 僕のスキルは、バフ(強化)の対象人数3000人に増えただけでなく、効果も全ステータス10倍アップに進化しています。これが無くなってしまえば、大きな戦力ダウンに……」
「アッハッハッハッハッハッハ! 見苦しい言い訳だ! 全ステータス10倍アップだと? バカバカしい。そんな嘘八百を並べ立ててまで、この俺の最強騎士団に残りたいのか!?」
そうして追放された僕であったが――
自分にバフを重ねがけした場合、能力値が100倍にアップすることに気づいた。
その力で、敵国の刺客に襲われた王女様を助けて、新設された魔法騎士団の団長に任命される。
一方で、僕のバフを失ったバラン団長の最強騎士団には暗雲がたれこめていた。
「騎士団が最強だったのは、アベル様のお力があったればこそです!」
これは外れスキル持ちとバカにされ続けた少年が、その力で成り上がって王女に溺愛され、国の英雄となる物語。
アイテムボックス無双 ~何でも収納! 奥義・首狩りアイテムボックス!~
明治サブ🍆スニーカー大賞【金賞】受賞作家
ファンタジー
※大・大・大どんでん返し回まで投稿済です!!
『第1回 次世代ファンタジーカップ ~最強「進化系ざまぁ」決定戦!』投稿作品。
無限収納機能を持つ『マジックバッグ』が巷にあふれる街で、収納魔法【アイテムボックス】しか使えない主人公・クリスは冒険者たちから無能扱いされ続け、ついに100パーティー目から追放されてしまう。
破れかぶれになって単騎で魔物討伐に向かい、あわや死にかけたところに謎の美しき旅の魔女が現れ、クリスに告げる。
「【アイテムボックス】は最強の魔法なんだよ。儂が使い方を教えてやろう」
【アイテムボックス】で魔物の首を、家屋を、オークの集落を丸ごと収納!? 【アイテムボックス】で道を作り、川を作り、街を作る!? ただの収納魔法と侮るなかれ。知覚できるものなら疫病だろうが敵の軍勢だろうが何だって除去する超能力! 主人公・クリスの成り上がりと「進化系ざまぁ」展開、そして最後に待ち受ける極上のどんでん返しを、とくとご覧あれ! 随所に散りばめられた大小さまざまな伏線を、あなたは見抜けるか!?

神様に与えられたのは≪ゴミ≫スキル。家の恥だと勘当されたけど、ゴミなら何でも再生出来て自由に使えて……ゴミ扱いされてた古代兵器に懐かれました
向原 行人
ファンタジー
僕、カーティスは由緒正しき賢者の家系に生まれたんだけど、十六歳のスキル授与の儀で授かったスキルは、まさかのゴミスキルだった。
実の父から家の恥だと言われて勘当され、行く当ても無く、着いた先はゴミだらけの古代遺跡。
そこで打ち捨てられていたゴミが話し掛けてきて、自分は古代兵器で、助けて欲しいと言ってきた。
なるほど。僕が得たのはゴミと意思疎通が出来るスキルなんだ……って、嬉しくないっ!
そんな事を思いながらも、話し込んでしまったし、連れて行ってあげる事に。
だけど、僕はただゴミに協力しているだけなのに、どこかの国の騎士に襲われたり、変な魔法使いに絡まれたり、僕を家から追い出した父や弟が現れたり。
どうして皆、ゴミが欲しいの!? ……って、あれ? いつの間にかゴミスキルが成長して、ゴミの修理が出来る様になっていた。
一先ず、いつも一緒に居るゴミを修理してあげたら、見知らぬ銀髪美少女が居て……って、どういう事!? え、こっちが本当の姿なの!? ……とりあえず服を着てっ!
僕を命の恩人だって言うのはさておき、ご奉仕するっていうのはどういう事……え!? ちょっと待って! それくらい自分で出来るからっ!
それから、銀髪美少女の元仲間だという古代兵器と呼ばれる美少女たちに狙われ、返り討ちにして、可哀想だから修理してあげたら……僕についてくるって!?
待って! 僕に奉仕する順番でケンカするとか、訳が分かんないよっ!
※第○話:主人公視点
挿話○:タイトルに書かれたキャラの視点
となります。
30代社畜の私が1ヶ月後に異世界転生するらしい。
ひさまま
ファンタジー
前世で搾取されまくりだった私。
魂の休養のため、地球に転生したが、地球でも今世も搾取されまくりのため魂の消滅の危機らしい。
とある理由から元の世界に戻るように言われ、マジックバックを自称神様から頂いたよ。
これで地球で買ったものを持ち込めるとのこと。やっぱり夢ではないらしい。
取り敢えず、明日は退職届けを出そう。
目指せ、快適異世界生活。
ぽちぽち更新します。
作者、うっかりなのでこれも買わないと!というのがあれば教えて下さい。
脳内の空想を、つらつら書いているのでお目汚しな際はごめんなさい。
うっかり女神さまからもらった『レベル9999』は使い切れないので、『譲渡』スキルで仲間を強化して最強パーティーを作ることにしました
akairo
ファンタジー
「ごめんなさい!貴方が死んだのは私のクシャミのせいなんです!」
帰宅途中に工事現場の足台が直撃して死んだ、早良 悠月(さわら ゆずき)が目覚めた目の前には女神さまが土下座待機をして待っていた。
謝る女神さまの手によって『ユズキ』として転生することになったが、その直後またもや女神さまの手違いによって、『レベル9999』と職業『譲渡士』という謎の職業を付与されてしまう。
しかし、女神さまの世界の最大レベルは99。
勇者や魔王よりも強いレベルのまま転生することになったユズキの、使い切ることもできないレベルの使い道は仲間に譲渡することだった──!?
転生先で出会ったエルフと魔族の少女。スローライフを掲げるユズキだったが、二人と共に世界を回ることで国を巻き込む争いへと巻き込まれていく。
※9月16日
タイトル変更致しました。
前タイトルは『レベル9999は転生した世界で使い切れないので、仲間にあげることにしました』になります。
仲間を強くして無双していく話です。
『小説家になろう』様でも公開しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる