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第4章 愚王の成れの果て
64.この世界は不案内だ。お前に任せる
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ドラゴンの背は揺れる。しっかりしがみついたクリスティーヌが、後ろで悲鳴を上げた。本人も飛べるのだから、自力で空を舞えばよいものを……そう思いながら、腹に回された手を軽く掴む。きゅっと握り返し、少し悲鳴が小さくなった。
しかし今度は機嫌が悪くなったリリアーナのアクロバット飛行が始まり、クリスティーヌの悲鳴は再び夜空を切り裂く。
「うるさいぞ、クリスティーヌ。リリアーナも静かに飛べぬのか」
「ぐるるるっ」
ドラゴン形態のリリアーナは、念話をはまだ使えない。そのため会話は成り立たないが、何かが気に入らないのは伝わった。首の付け根に腰掛けるのはドラゴンの騎獣方法として正しいはずだが……擽ったいのか? 眉をひそめて観察すれば、クリスティーヌを振り落とそうとしている。彼女の座った位置が悪いようだ。
仕方なくクリスティーヌの腕を掴み、オレの前に座らせた。これでいいはず……ところが、リリアーナの曲芸はさらに激しくなり、ついには機嫌を損ねて唸り始める。上空のドラゴンが唸れば、地上は雷鳴のように響くだろう。恐れをなした魔獣が次々と逃げ出し、予期せぬ掃除となった。
「リリアーナ、狩りが気に入らぬか?」
「ぐる……ううぅ」
「そうか。この世界は不案内だ。お前に任せる」
狩りに不満はないようだ。場所の選定を任せると告げた途端、彼女は打って変わって大人しく飛行し始めた。ぐるぐると数周回って場所を選び、緩やかに下降していく。大きな羽が風をはらみ、黒い鱗が月光を弾いて美しく波打つ。巨体は音もなく山の中腹へ降り立った。
一瞬で人型に戻ると、リリアーナは腕を絡めた。泣きそうな顔の彼女に「ご苦労だった」と労えば、頷いて後ろのクリスティーヌを振り返る。少し離れた場所で座り込んだ彼女は酔ったらしい。青ざめた妹分の様子に、やり過ぎたと思ったのか。近づいて黒髪を数回撫でて戻ってきた。
仲がいいのは良いことだ。仲間同士憎み合う必要はない。
「ここで狩れる魔物は何だ?」
特に獲物を指定しなかったため、彼女にとって慣れた狩場を選んだ可能性が高い。何が生息しているか尋ねれば、指を折ってたどたどしく名を上げた。
「オーク、ゴブリン、ホーンラビット、シルバーウルフ、サーペント、時々ヒュドラも」
ヒュドラが出るなら、この辺りの魔物のランクは高い。山自体に地脈が通っているのか、足元から温かな魔力が立ち上っていた。
空の月は3つ……サイズがすべて違う。この月は前の世界と明らかに違う部分だった。2つから3つに増えただけで、なんら関係ないと思うが……この世界の重力は軽い気がする。
「食料にするならウルフかオーク、ホーンラビットだな」
くんくんと周囲を匂っていたリリアーナが左側を指さした。そちらは山の上へ向かう獣道がある。
「こっち。ウルフいる」
食料としてはオークの方が効率はいいが、近くにいる獲物から狩るとしよう。ここ数日は身体を動かしていなかったため、魔法ではなく剣を使うか。軽い気持ちで収納へ手を入れると、指先にかさりと紙が触れた。
収納の亜空間は、空間の持ち主つまりオレが検索した物以外は取り出せないし触れない。今は武器を探すために剣を求めたというのに、指先に最初に触れたのは手紙だった。奇妙な状況だが、ひとまず手紙を掴んで引っ張りだす。以前と同じ薄緑の封筒――アースティルティトの署名入り。
手紙を持つ右手の指輪がきらりと月光を弾いた。
しかし今度は機嫌が悪くなったリリアーナのアクロバット飛行が始まり、クリスティーヌの悲鳴は再び夜空を切り裂く。
「うるさいぞ、クリスティーヌ。リリアーナも静かに飛べぬのか」
「ぐるるるっ」
ドラゴン形態のリリアーナは、念話をはまだ使えない。そのため会話は成り立たないが、何かが気に入らないのは伝わった。首の付け根に腰掛けるのはドラゴンの騎獣方法として正しいはずだが……擽ったいのか? 眉をひそめて観察すれば、クリスティーヌを振り落とそうとしている。彼女の座った位置が悪いようだ。
仕方なくクリスティーヌの腕を掴み、オレの前に座らせた。これでいいはず……ところが、リリアーナの曲芸はさらに激しくなり、ついには機嫌を損ねて唸り始める。上空のドラゴンが唸れば、地上は雷鳴のように響くだろう。恐れをなした魔獣が次々と逃げ出し、予期せぬ掃除となった。
「リリアーナ、狩りが気に入らぬか?」
「ぐる……ううぅ」
「そうか。この世界は不案内だ。お前に任せる」
狩りに不満はないようだ。場所の選定を任せると告げた途端、彼女は打って変わって大人しく飛行し始めた。ぐるぐると数周回って場所を選び、緩やかに下降していく。大きな羽が風をはらみ、黒い鱗が月光を弾いて美しく波打つ。巨体は音もなく山の中腹へ降り立った。
一瞬で人型に戻ると、リリアーナは腕を絡めた。泣きそうな顔の彼女に「ご苦労だった」と労えば、頷いて後ろのクリスティーヌを振り返る。少し離れた場所で座り込んだ彼女は酔ったらしい。青ざめた妹分の様子に、やり過ぎたと思ったのか。近づいて黒髪を数回撫でて戻ってきた。
仲がいいのは良いことだ。仲間同士憎み合う必要はない。
「ここで狩れる魔物は何だ?」
特に獲物を指定しなかったため、彼女にとって慣れた狩場を選んだ可能性が高い。何が生息しているか尋ねれば、指を折ってたどたどしく名を上げた。
「オーク、ゴブリン、ホーンラビット、シルバーウルフ、サーペント、時々ヒュドラも」
ヒュドラが出るなら、この辺りの魔物のランクは高い。山自体に地脈が通っているのか、足元から温かな魔力が立ち上っていた。
空の月は3つ……サイズがすべて違う。この月は前の世界と明らかに違う部分だった。2つから3つに増えただけで、なんら関係ないと思うが……この世界の重力は軽い気がする。
「食料にするならウルフかオーク、ホーンラビットだな」
くんくんと周囲を匂っていたリリアーナが左側を指さした。そちらは山の上へ向かう獣道がある。
「こっち。ウルフいる」
食料としてはオークの方が効率はいいが、近くにいる獲物から狩るとしよう。ここ数日は身体を動かしていなかったため、魔法ではなく剣を使うか。軽い気持ちで収納へ手を入れると、指先にかさりと紙が触れた。
収納の亜空間は、空間の持ち主つまりオレが検索した物以外は取り出せないし触れない。今は武器を探すために剣を求めたというのに、指先に最初に触れたのは手紙だった。奇妙な状況だが、ひとまず手紙を掴んで引っ張りだす。以前と同じ薄緑の封筒――アースティルティトの署名入り。
手紙を持つ右手の指輪がきらりと月光を弾いた。
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