上 下
61 / 438
第3章 表と裏

59.女装趣味の一角獣を捕獲

しおりを挟む
 妹分のクリスティーヌが指さす先に、確かに歩く女性らしき人がいた。ぱっと見は女性なのだが、歩き方に違和感を覚える。動物的な観察眼が鋭いリリアーナは「あ、男だ」と言いながら目の前に着地した。

 敵と距離を置かずに舞い降りたのは、相手を格下と判断したためだ。侍女のお仕着せ姿だが、中身は男だし……そもそも一角獣なら成獣でもドラゴンに敵わない。圧倒的な力の差があるので、リリアーナに危機感はなかった。

「……っ、追っ手か!」

「うん、そう」

 本能で生きるドラゴンの娘にとって、駆け引きなどという面倒くさい手法は必要ない。真正面から相手を突き破るのが彼女の流儀であり、常にそれで何とかしてきた。失敗したのはサタンとの邂逅くらいだ。それも負けて正妻に収まったと考えるリリアーナにとって、失敗に含まれなかった。

「なんで、女の服、着る?」

「……潜入と、趣味だ」

 まさかの回答に、クリスティーヌが目を見開く。性的な面や大人の会話に関しては、リリアーナより経験値が高い吸血鬼だった。ぽっと顔を隠して「趣味」と呟く姿は、意味をしっかり理解している。女装趣味のユニコーンは、人型を纏うことをやめて元の姿に変化した。

 ユニコーンは15~6歳前後の人型をとる。それは実際の年齢に関係なく、不文律として存在する事実だった。そして例外なく中性的な容姿が特徴であり、女装も良く似合う。自らの趣味を兼ねて侍女の恰好で潜入したのは、それが一番簡単な潜入方法だったから。

 丁度人手不足で侍女と文官が募集されていた。少年と呼んで差し支えない外見年齢で入り込むなら、文官候補より侍女の方が確実だ。さらに侍女ならば掃除やお使いで城内を自由に歩ける利点もあった。

 異世界の魔王とやらを探すユニコーンだが、本能が命じるままに『処女』である子供達のいる離宮へ足を向けた。特殊性癖がある種族を潜入者に選んだ魔王側の失態だ。

 男女関係なく性的交渉経験がない子供達を見つけ、興奮して近づいた彼の前に突然強盗が現れる。気づけば状況に流されて、慌てて脱出するしかなく……命じられた役目を果たせない情けなさに俯いて歩いていたのだ。

 元の姿に戻った白馬は、前脚2本の先にソックスと呼ばれる茶色い毛を纏っていた。よく見ると鬣にも少し薄い茶色が混じっている。純血のユニコーンは純白と決まっているため、他種族との混血の可能性があった。しかし彼女らがそんな複雑な事情を知っているはずはなく……子供らしい残酷さで声をあげる。

「色、汚い」

「茶色……変なの」

「うるさいっ!!」

 指摘されたくない部分をぐさりと抉られ、ユニコーンはいなないた。威嚇するように鼻息荒く、前脚でがっと地をかく。迫力ある攻撃の姿勢を不思議そうに見つめたリリアーナは、ぽんと手を打った。掴んでいたクリスティーヌの手を離すと、一瞬でドラゴン姿に戻る。

 魔王の側近として有名な黒竜によく似た巨体で、大型の馬であるユニコーンをあっさり掴んだ。

「持ち帰る、サタン様、褒めてくれる」

 ぐるぐる唸りながら声を絞り出し、残されたクリスティーヌに目をやる。どうすると尋ねるように首を傾げれば、慌てた様子で空いた足にしがみ付かれた。このまま運んでいいらしい。じたばた暴れるユニコーンを左足で掴み、右足にクリスティーヌが抱き着いた状態で黒いドラゴンは空を舞った。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

屋台飯! いらない子認定されたので、旅に出たいと思います。

彩世幻夜
ファンタジー
母が死にました。 父が連れてきた継母と異母弟に家を追い出されました。 わー、凄いテンプレ展開ですね! ふふふ、私はこの時を待っていた! いざ行かん、正義の旅へ! え? 魔王? 知りませんよ、私は勇者でも聖女でも賢者でもありませんから。 でも……美味しいは正義、ですよね? 2021/02/19 第一部完結 2021/02/21 第二部連載開始 2021/05/05 第二部完結

薬華異堂薬局のお仕事は異世界にもあったのだ

柚木 潤
ファンタジー
 実家の薬華異堂薬局に戻った薬剤師の舞は、亡くなった祖父から譲り受けた鍵で開けた扉の中に、不思議な漢方薬の調合が書かれた、古びた本を見つけた。  そして、異世界から助けを求める手紙が届き、舞はその異世界に転移する。  舞は不思議な薬を作り、それは魔人や魔獣にも対抗できる薬であったのだ。  そんな中、魔人の王から舞を見るなり、懐かしい人を思い出させると。  500年前にも、この異世界に転移していた女性がいたと言うのだ。  それは舞と関係のある人物であった。  その後、一部の魔人の襲撃にあうが、舞や魔人の王ブラック達の力で危機を乗り越え、人間と魔人の世界に平和が訪れた。  しかし、500年前に転移していたハナという女性が大事にしていた森がアブナイと手紙が届き、舞は再度転移する。  そして、黒い影に侵食されていた森を舞の薬や魔人達の力で復活させる事が出来たのだ。  ところが、舞が自分の世界に帰ろうとした時、黒い翼を持つ人物に遭遇し、舞に自分の世界に来てほしいと懇願する。  そこには原因不明の病の女性がいて、舞の薬で異物を分離するのだ。  そして、舞を探しに来たブラック達魔人により、昔に転移した一人の魔人を見つけるのだが、その事を隠して黒翼人として生活していたのだ。  その理由や女性の病の原因をつきとめる事が出来たのだが悲しい結果となったのだ。  戻った舞はいつもの日常を取り戻していたが、秘密の扉の中の物が燃えて灰と化したのだ。  舞はまた異世界への転移を考えるが、魔法陣は動かなかったのだ。  何とか舞は転移出来たが、その世界ではドラゴンが復活しようとしていたのだ。  舞は命懸けでドラゴンの良心を目覚めさせる事が出来、世界は火の海になる事は無かったのだ。  そんな時黒翼国の王子が、暗い森にある遺跡を見つけたのだ。   *第1章 洞窟出現編 第2章 森再生編 第3章 翼国編  第4章 火山のドラゴン編 が終了しました。  第5章 闇の遺跡編に続きます。

はずれスキル『本日一粒万倍日』で金も魔法も作物もなんでも一万倍 ~はぐれサラリーマンのスキル頼みな異世界満喫日記~

緋色優希
ファンタジー
 勇者召喚に巻き込まれて異世界へやってきたサラリーマン麦野一穂(むぎのかずほ)。得たスキルは屑(ランクレス)スキルの『本日一粒万倍日』。あまりの内容に爆笑され、同じように召喚に巻き込まれてきた連中にも馬鹿にされ、一人だけ何一つ持たされず荒城にそのまま置き去りにされた。ある物と言えば、水の樽といくらかの焼き締めパン。どうする事もできずに途方に暮れたが、スキルを唱えたら水樽が一万個に増えてしまった。また城で見つけた、たった一枚の銀貨も、なんと銀貨一万枚になった。どうやら、あれこれと一万倍にしてくれる不思議なスキルらしい。こんな世界で王様の助けもなく、たった一人どうやって生きたらいいのか。だが開き直った彼は『住めば都』とばかりに、スキル頼みでこの異世界での生活を思いっきり楽しむ事に決めたのだった。

番だからと攫っておいて、番だと認めないと言われても。

七辻ゆゆ
ファンタジー
特に同情できないので、ルナは手段を選ばず帰国をめざすことにした。

貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた

佐藤醤油
ファンタジー
 貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。  僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。  魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。  言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。  この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。  小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。 ------------------------------------------------------------------  お知らせ   「転生者はめぐりあう」 始めました。 ------------------------------------------------------------------ 注意  作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。  感想は受け付けていません。  誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。

《勘違い》で婚約破棄された令嬢は失意のうちに自殺しました。

友坂 悠
ファンタジー
「婚約を考え直そう」 貴族院の卒業パーティーの会場で、婚約者フリードよりそう告げられたエルザ。 「それは、婚約を破棄されるとそういうことなのでしょうか?」 耳を疑いそう聞き返すも、 「君も、その方が良いのだろう?」 苦虫を噛み潰すように、そう吐き出すフリードに。 全てに絶望し、失意のうちに自死を選ぶエルザ。 絶景と評判の観光地でありながら、自殺の名所としても知られる断崖絶壁から飛び降りた彼女。 だったのですが。

「クズスキルの偽者は必要無い!」と公爵家を追放されたので、かけがえのない仲間と共に最高の国を作ります

古河夜空
ファンタジー
「お前をルートベルク公爵家から追放する――」それはあまりにも突然の出来事だった。 一五歳の誕生日を明日に控えたレオンは、公爵家を追放されてしまう。魔を制する者“神託の御子”と期待されていた、ルートベルク公爵の息子レオンだったが、『継承』という役立たずのスキルしか得ることができず、神託の御子としての片鱗を示すことが出来なかったため追放されてしまう。 一人、逃げる様に王都を出て行くレオンだが、公爵家の汚点たる彼を亡き者にしようとする、ルートベルク公爵の魔の手が迫っていた。「絶対に生き延びてやる……ッ!」レオンは己の力を全て使い、知恵を絞り、公爵の魔の手から逃れんがために走る。生き延びるため、公爵達を見返すため、自分を信じてくれる者のため。 どれだけ窮地に立たされようとも、秘めた想いを曲げない少年の周りには、人、エルフ、ドワーフ、そして魔族、種族の垣根を越えたかけがえの無い仲間達が集い―― これは、追放された少年が最高の国を作りあげる物語。 ※他サイト様でも掲載しております。

~クラス召喚~ 経験豊富な俺は1人で歩みます

無味無臭
ファンタジー
久しぶりに異世界転生を体験した。だけど周りはビギナーばかり。これでは俺が巻き込まれて死んでしまう。自称プロフェッショナルな俺はそれがイヤで他の奴と離れて生活を送る事にした。天使には魔王を討伐しろ言われたけど、それは面倒なので止めておきます。私はゆっくりのんびり異世界生活を送りたいのです。たまには自分の好きな人生をお願いします。

処理中です...