58 / 438
第3章 表と裏
56.弓引く存在は確実に屠る
しおりを挟む
実行犯の人間はリリアーナが処理して持ち帰る。それを飾れば、多少の動きがあるだろう。魔族の狙いは、オレに対して国民の恐怖を煽ることだ。
反逆した人間を、オレが殺さないとでも考えたか? たとえ己の治める国の人間であっても、それが魔族であっても、この魔王に弓引く存在は確実に屠る。法に照らし、理に合わせ、罪は罰せられる必要があった。甘い考えで、魔王を名乗れるはずがあるまい。
――消えた死体は、今頃何をしているのか。
侍女2人と料理番1人が、衛兵により運び出される。彼らの警護不足を責める気はなかった。内部に入り込まれた敵を炙り出すのは、上役の仕事だ。衛兵は手足となって命令を果たす存在だった。彼らの職責に、自ら判断して事件前に敵を排除する役目は含まれない。
「子供は全員無事か?」
ロゼマリアの乳母エマが慌てて答えた。彼女はこういった場面でも動ける。乳母として長く仕えた王宮で、様々な修羅場も潜ってきたのだろう。生来の気質かも知れないが、下手な衛兵より肝が座っていた。
「は、はい。子供に被害は……ありませんでした」
後ろのシスターに確認して大きく頷く。そんな老女の袖を掴んで俯くロゼマリアが、何かに気づいた様子で顔をあげた。
「あ、もしかしたら……関係ないかも、知れないのですが」
無言で先を促せば、ごくりと唾を飲んだロゼマリアが切り出した。確証がないと前置きしたが口にするなら、重要な情報である可能性が高い。少なくとも、この王宮に長く住まう者が感じた違和感だ。
「事件が起きる少し前、庭で羽音がしたのです。大きな鳥のような……リリアーナさんの羽の音に似てて、だから彼女かと思ったのですけれど」
「ああ、思い出しました。ロゼマリア様に言われて、カーテンを開けたところ、白い大きな……馬? がおりました」
羽の音を聞いたロゼマリア、カーテンを開けて馬を見たエマ。殺されなかった子供達、殺された侍女や料理番――すべてが繋がっていく。人間を操る能力を持った魔族、今回の事件を起こせる種族に心あたりがあった。
「なるほど。助かった、礼を言う」
そう微笑んで礼を言えば、彼女らは頬を赤く染めて「いいえ」と首を横に振った。
「お役に立ててよかったですわ」
「……仲良い。リリアーナ、頑張ったのに」
文句を言いながら飛び込んできたのは、血塗れのリリアーナだった。肌や服に飛んだ血をそのままに、大急ぎで獲物を掴んで舞い戻れば、ロゼマリアが番を惑わしている。彼女が認識したのは、下位に認識した側室が、正妻である自分を差し置いて主人に言い寄っている姿だった。
唸って威嚇するリリアーナを手招きすれば、慌てて駆け寄る。しかし触れる直前で足を止めて、泣きべそをかいた。
「どうした?」
「……汚れてる、触れない」
赤い血をつけてしまうと口を歪めて嘆く少女に、こちらから距離を詰めた。べそべそ涙を零すリリアーナを引き寄せて、金髪の上に触れる口付けを贈る。この血で汚れた姿は、彼女が命令を果たした証だった。
命じた通り罪人を処理した配下を、触れると汚れるからと厭う主人がどこにいようか。
「よくやった。成果を見せてみろ」
「うん!」
半泣きだったリリアーナは、涙が乾く間もなく笑みを浮かべた。
反逆した人間を、オレが殺さないとでも考えたか? たとえ己の治める国の人間であっても、それが魔族であっても、この魔王に弓引く存在は確実に屠る。法に照らし、理に合わせ、罪は罰せられる必要があった。甘い考えで、魔王を名乗れるはずがあるまい。
――消えた死体は、今頃何をしているのか。
侍女2人と料理番1人が、衛兵により運び出される。彼らの警護不足を責める気はなかった。内部に入り込まれた敵を炙り出すのは、上役の仕事だ。衛兵は手足となって命令を果たす存在だった。彼らの職責に、自ら判断して事件前に敵を排除する役目は含まれない。
「子供は全員無事か?」
ロゼマリアの乳母エマが慌てて答えた。彼女はこういった場面でも動ける。乳母として長く仕えた王宮で、様々な修羅場も潜ってきたのだろう。生来の気質かも知れないが、下手な衛兵より肝が座っていた。
「は、はい。子供に被害は……ありませんでした」
後ろのシスターに確認して大きく頷く。そんな老女の袖を掴んで俯くロゼマリアが、何かに気づいた様子で顔をあげた。
「あ、もしかしたら……関係ないかも、知れないのですが」
無言で先を促せば、ごくりと唾を飲んだロゼマリアが切り出した。確証がないと前置きしたが口にするなら、重要な情報である可能性が高い。少なくとも、この王宮に長く住まう者が感じた違和感だ。
「事件が起きる少し前、庭で羽音がしたのです。大きな鳥のような……リリアーナさんの羽の音に似てて、だから彼女かと思ったのですけれど」
「ああ、思い出しました。ロゼマリア様に言われて、カーテンを開けたところ、白い大きな……馬? がおりました」
羽の音を聞いたロゼマリア、カーテンを開けて馬を見たエマ。殺されなかった子供達、殺された侍女や料理番――すべてが繋がっていく。人間を操る能力を持った魔族、今回の事件を起こせる種族に心あたりがあった。
「なるほど。助かった、礼を言う」
そう微笑んで礼を言えば、彼女らは頬を赤く染めて「いいえ」と首を横に振った。
「お役に立ててよかったですわ」
「……仲良い。リリアーナ、頑張ったのに」
文句を言いながら飛び込んできたのは、血塗れのリリアーナだった。肌や服に飛んだ血をそのままに、大急ぎで獲物を掴んで舞い戻れば、ロゼマリアが番を惑わしている。彼女が認識したのは、下位に認識した側室が、正妻である自分を差し置いて主人に言い寄っている姿だった。
唸って威嚇するリリアーナを手招きすれば、慌てて駆け寄る。しかし触れる直前で足を止めて、泣きべそをかいた。
「どうした?」
「……汚れてる、触れない」
赤い血をつけてしまうと口を歪めて嘆く少女に、こちらから距離を詰めた。べそべそ涙を零すリリアーナを引き寄せて、金髪の上に触れる口付けを贈る。この血で汚れた姿は、彼女が命令を果たした証だった。
命じた通り罪人を処理した配下を、触れると汚れるからと厭う主人がどこにいようか。
「よくやった。成果を見せてみろ」
「うん!」
半泣きだったリリアーナは、涙が乾く間もなく笑みを浮かべた。
0
お気に入りに追加
1,029
あなたにおすすめの小説
雑用係の回復術士、【魔力無限】なのに専属ギルドから戦力外通告を受けて追放される〜ケモ耳少女とエルフでダンジョン攻略始めたら『伝説』になった〜
霞杏檎
ファンタジー
「使えん者はいらん……よって、正式にお前には戦力外通告を申し立てる。即刻、このギルドから立ち去って貰おう!! 」
回復術士なのにギルド内で雑用係に成り下がっていたフールは自身が専属で働いていたギルドから、何も活躍がないと言う理由で戦力外通告を受けて、追放されてしまう。
フールは回復術士でありながら自己主張の低さ、そして『単体回復魔法しか使えない』と言う能力上の理由からギルドメンバーからは舐められ、S級ギルドパーティのリーダーであるダレンからも馬鹿にされる存在だった。
しかし、奴らは知らない、フールが【魔力無限】の能力を持っていることを……
途方に暮れている道中で見つけたダンジョン。そこで傷ついた”ケモ耳銀髪美少女”セシリアを助けたことによって彼女はフールの能力を知ることになる。
フールに助けてもらったセシリアはフールの事を気に入り、パーティの前衛として共に冒険することを決めるのであった。
フールとセシリアは共にダンジョン攻略をしながら自由に生きていくことを始めた一方で、フールのダンジョン攻略の噂を聞いたギルドをはじめ、ダレンはフールを引き戻そうとするが、フールの意思が変わることはなかった……
これは雑用係に成り下がった【最強】回復術士フールと"ケモ耳美少女"達が『伝説』のパーティだと語られるまでを描いた冒険の物語である!
(160話で完結予定)
元タイトル
「雑用係の回復術士、【魔力無限】なのに専属ギルドから戦力外通告を受けて追放される〜でも、ケモ耳少女とエルフでダンジョン攻略始めたら『伝説』になった。噂を聞いたギルドが戻ってこいと言ってるがお断りします〜」
お花畑な母親が正当な跡取りである兄を差し置いて俺を跡取りにしようとしている。誰か助けて……
karon
ファンタジー
我が家にはおまけがいる。それは俺の兄、しかし兄はすべてに置いて俺に勝っており、俺は凡人以下。兄を差し置いて俺が跡取りになったら俺は詰む。何とかこの状況から逃げ出したい。
いきなり異世界って理不尽だ!
みーか
ファンタジー
三田 陽菜25歳。会社に行こうと家を出たら、足元が消えて、気付けば異世界へ。
自称神様の作った機械のシステムエラーで地球には帰れない。地球の物は何でも魔力と交換できるようにしてもらい、異世界で居心地良く暮らしていきます!
Sランク昇進を記念して追放された俺は、追放サイドの令嬢を助けたことがきっかけで、彼女が押しかけ女房のようになって困る!
仁徳
ファンタジー
シロウ・オルダーは、Sランク昇進をきっかけに赤いバラという冒険者チームから『スキル非所持の無能』とを侮蔑され、パーティーから追放される。
しかし彼は、異世界の知識を利用して新な魔法を生み出すスキル【魔学者】を使用できるが、彼はそのスキルを隠し、無能を演じていただけだった。
そうとは知らずに、彼を追放した赤いバラは、今までシロウのサポートのお陰で強くなっていたことを知らずに、ダンジョンに挑む。だが、初めての敗北を経験したり、その後借金を背負ったり地位と名声を失っていく。
一方自由になったシロウは、新な町での冒険者活動で活躍し、一目置かれる存在となりながら、追放したマリーを助けたことで惚れられてしまう。手料理を振る舞ったり、背中を流したり、それはまるで押しかけ女房だった!
これは、チート能力を手に入れてしまったことで、無能を演じたシロウがパーティーを追放され、その後ソロとして活躍して無双すると、他のパーティーから追放されたエルフや魔族といった様々な追放少女が集まり、いつの間にかハーレムパーティーを結成している物語!
最難関ダンジョンをクリアした成功報酬は勇者パーティーの裏切りでした
新緑あらた
ファンタジー
最難関であるS級ダンジョン最深部の隠し部屋。金銀財宝を前に告げられた言葉は労いでも喜びでもなく、解雇通告だった。
「もうオマエはいらん」
勇者アレクサンダー、癒し手エリーゼ、赤魔道士フェルノに、自身の黒髪黒目を忌避しないことから期待していた俺は大きなショックを受ける。
ヤツらは俺の外見を受け入れていたわけじゃない。ただ仲間と思っていなかっただけ、眼中になかっただけなのだ。
転生者は曾祖父だけどチートは隔世遺伝した「俺」にも受け継がれています。
勇者達は大富豪スタートで貧民窟の住人がゴールです(笑)
解呪の魔法しか使えないからとSランクパーティーから追放された俺は、呪いをかけられていた美少女ドラゴンを拾って最強へと至る
早見羽流
ファンタジー
「ロイ・クノール。お前はもう用無しだ」
解呪の魔法しか使えない初心者冒険者の俺は、呪いの宝箱を解呪した途端にSランクパーティーから追放され、ダンジョンの最深部へと蹴り落とされてしまう。
そこで出会ったのは封印された邪龍。解呪の能力を使って邪龍の封印を解くと、なんとそいつは美少女の姿になり、契約を結んで欲しいと頼んできた。
彼女は元は世界を守護する守護龍で、英雄や女神の陰謀によって邪龍に堕とされ封印されていたという。契約を結んだ俺は彼女を救うため、守護龍を封印し世界を牛耳っている女神や英雄の血を引く王家に立ち向かうことを誓ったのだった。
(1話2500字程度、1章まで完結保証です)
スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活
昼寝部
ファンタジー
この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。
しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。
そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。
しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。
そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。
これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。
うっかり『野良犬』を手懐けてしまった底辺男の逆転人生
野良 乃人
ファンタジー
辺境の田舎街に住むエリオは落ちこぼれの底辺冒険者。
普段から無能だの底辺だのと馬鹿にされ、薬草拾いと揶揄されている。
そんなエリオだが、ふとした事がきっかけで『野良犬』を手懐けてしまう。
そこから始まる底辺落ちこぼれエリオの成り上がりストーリー。
そしてこの世界に存在する宝玉がエリオに力を与えてくれる。
うっかり野良犬を手懐けた底辺男。冒険者という枠を超え乱世での逆転人生が始まります。
いずれは王となるのも夢ではないかも!?
◇世界観的に命の価値は軽いです◇
カクヨムでも同タイトルで掲載しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる