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第3章 表と裏
49.完全に服従させるしかあるまい
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「だめっ! 下がれ! さがれぇ!!」
間に飛び込んだリリアーナが、竜化した腕でクリスティーヌの牙を受ける。鱗の隙間に突き立てた牙を、リリアーナが腕を捻って叩き折った。戦闘におけるセンスは抜群だ。応用力もあるし、基礎が少し疎かだが……訓練すれば補える範囲だった。
「ご苦労、よくやった」
リリアーナを褒める。興奮したリリアーナの首筋にぶわっとエラに似たひだが見えた。興奮したときに竜が広げる器官で、同時に目の瞳孔が縦に広がる。牙を折られたクリスティーヌが、血の滲む口元を手で押さえて蹲った。
吸血衝動に襲われたような反応だが、そのきっかけがわからない。唸り続けるリリアーナを避け、前に足を踏み出した。蹲るクリスティーヌの黒髪を掴んで顎を掴む。嫌がる彼女と無理やり視線を合わせれば、黒瞳がわずかに赤を帯びている。白目との縁が赤く滲んで色を放つ感じが近かった。
「……面倒な」
アースティルティトが暴走した際に見せる症状と同じだ。つまり彼女は何らかの理由で本能が暴走した。直前の状況を思い浮かべる。ミイラの不自然さを指摘したクリスティーヌを褒めた後……不自然な出来事はなかったはず。
「こいつ、敵! 殺す」
「控えろ、リリアーナ。これは暴走で反逆ではない」
言い聞かせれば彼女も理解する。唸り声をあげて警戒しながらも、リリアーナは振り翳した手を下した。かわりに感情豊かな尻尾が、牢の石床をびたんと叩く。持て余した感情を尻尾で発散しながら、リリアーナはオレの袖をそっと掴んだ。
奪われる不安を感じているのか。覚えたての感情は制御が効かないものだ。好きなようにさせてやり、掴んだままのクリスティーヌの顎に力を込めた。血が滲む口元が開いて、痛みに顔を歪める。その中に折れた牙が痛々しく覗いていた。
治癒力が低い。リリアーナの肉から奪った血程度では足りないのだろう。だが外見から判断して飢餓状態でもない。暴走して襲う理由は見つからぬまま、オレは彼女の顎を離した。途端に噛みつこうと口を開いたクリスティーヌを、魔力で拘束する。
床に押さえつけられた少女はワンピースの裾が捲れるのも気にかけず、必死に身を捩って暴れた。ようやく彼女の異常さがわかったリリアーナが「変なの」と呟く。
「完全に服従させるしかあるまい」
ペットとしてなら構わないが、今後手放すつもりだったため控えた手段だった。オレは右手の爪を伸ばすと左手のひらを十字に切り裂く。ぽたりと滴る赤い血に、クリスティーヌが反応した。顔をあげて血を凝視する。その目は徐々に赤が強くなった。
「ひっ、いたぃ……ケガっ」
オレの傷におろおろするリリアーナが、裾を引っ張って傷を舐めようとした。それを拒んで首を横に振る。困惑した顔の少女は、ぺたんと床に座った。垂れる血に眉尻を下げて泣きそうな顔をする。
「『我が血の盟約における眷属となれ』」
アースティルティトと交わした契約の言葉を告げて、床に這わせたクリスティーヌの口元に血を垂らす。ぽたりと落ちた血に、必死で舌を伸ばして血を舐め取ったクリスティーヌが、赤い唇をうっすら開いた。そこに落ちるよう、数滴血を絞ってから彼女の拘束を解く。
途端に飛び起きた少女は、リリアーナが止めるより早く左手のひらにしがみ付いた。突き立てる牙は折られたため、ぺろぺろと犬のように血を舐め取る。悔しそうなリリアーナの唸り声が響く地下牢に、不釣り合いな光景だった。
間に飛び込んだリリアーナが、竜化した腕でクリスティーヌの牙を受ける。鱗の隙間に突き立てた牙を、リリアーナが腕を捻って叩き折った。戦闘におけるセンスは抜群だ。応用力もあるし、基礎が少し疎かだが……訓練すれば補える範囲だった。
「ご苦労、よくやった」
リリアーナを褒める。興奮したリリアーナの首筋にぶわっとエラに似たひだが見えた。興奮したときに竜が広げる器官で、同時に目の瞳孔が縦に広がる。牙を折られたクリスティーヌが、血の滲む口元を手で押さえて蹲った。
吸血衝動に襲われたような反応だが、そのきっかけがわからない。唸り続けるリリアーナを避け、前に足を踏み出した。蹲るクリスティーヌの黒髪を掴んで顎を掴む。嫌がる彼女と無理やり視線を合わせれば、黒瞳がわずかに赤を帯びている。白目との縁が赤く滲んで色を放つ感じが近かった。
「……面倒な」
アースティルティトが暴走した際に見せる症状と同じだ。つまり彼女は何らかの理由で本能が暴走した。直前の状況を思い浮かべる。ミイラの不自然さを指摘したクリスティーヌを褒めた後……不自然な出来事はなかったはず。
「こいつ、敵! 殺す」
「控えろ、リリアーナ。これは暴走で反逆ではない」
言い聞かせれば彼女も理解する。唸り声をあげて警戒しながらも、リリアーナは振り翳した手を下した。かわりに感情豊かな尻尾が、牢の石床をびたんと叩く。持て余した感情を尻尾で発散しながら、リリアーナはオレの袖をそっと掴んだ。
奪われる不安を感じているのか。覚えたての感情は制御が効かないものだ。好きなようにさせてやり、掴んだままのクリスティーヌの顎に力を込めた。血が滲む口元が開いて、痛みに顔を歪める。その中に折れた牙が痛々しく覗いていた。
治癒力が低い。リリアーナの肉から奪った血程度では足りないのだろう。だが外見から判断して飢餓状態でもない。暴走して襲う理由は見つからぬまま、オレは彼女の顎を離した。途端に噛みつこうと口を開いたクリスティーヌを、魔力で拘束する。
床に押さえつけられた少女はワンピースの裾が捲れるのも気にかけず、必死に身を捩って暴れた。ようやく彼女の異常さがわかったリリアーナが「変なの」と呟く。
「完全に服従させるしかあるまい」
ペットとしてなら構わないが、今後手放すつもりだったため控えた手段だった。オレは右手の爪を伸ばすと左手のひらを十字に切り裂く。ぽたりと滴る赤い血に、クリスティーヌが反応した。顔をあげて血を凝視する。その目は徐々に赤が強くなった。
「ひっ、いたぃ……ケガっ」
オレの傷におろおろするリリアーナが、裾を引っ張って傷を舐めようとした。それを拒んで首を横に振る。困惑した顔の少女は、ぺたんと床に座った。垂れる血に眉尻を下げて泣きそうな顔をする。
「『我が血の盟約における眷属となれ』」
アースティルティトと交わした契約の言葉を告げて、床に這わせたクリスティーヌの口元に血を垂らす。ぽたりと落ちた血に、必死で舌を伸ばして血を舐め取ったクリスティーヌが、赤い唇をうっすら開いた。そこに落ちるよう、数滴血を絞ってから彼女の拘束を解く。
途端に飛び起きた少女は、リリアーナが止めるより早く左手のひらにしがみ付いた。突き立てる牙は折られたため、ぺろぺろと犬のように血を舐め取る。悔しそうなリリアーナの唸り声が響く地下牢に、不釣り合いな光景だった。
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