【完結】魔王なのに、勇者と間違えて召喚されたんだが?

綾雅(ヤンデレ攻略対象、電子書籍化)

文字の大きさ
上 下
49 / 438
第3章 表と裏

47.信じると思ったか?

しおりを挟む
 牢内の惨状を前に、腕を組んで考え込む。鉄錆た臭いが染み付いた石造の牢は、数百年単位で罪人の血や涙が流された場所だ。その薄暗く日差しもろくに差し込まない地下に、バラバラになった大量の部品が転がっていた。

 牢番は居眠りをしたと謝罪したが、この場を離れていない。2人いるため、生理現象で離れた時間もどちらかが残っていた。この場が誰もいない状況になった空白は存在せず、しかも居眠り出来るほど静かだったなら。

「ふむ……毒殺ではないのか」

 全員死んだと聞いて思い浮かべた手段は、毒殺だった。食事、水、霧状にして散布する。様々な方法が選べる上、全滅させることが容易だ。特に牢内で食事や水に混ぜられた場合は、遅効性ならばほぼ全員に摂取させることができた。散布しても同様の結果が得られる。こちらは即効性でも構わないが、牢番2人が生きているので違うだろう。

「父を殺さないと……まだ生きているとおっしゃったのに」

 心労か、臭いや血の気配に怯えたか。牢の入り口で泣き崩れたロゼマリアの悲痛な声が反響する。しかしオレの意識は別の場所にあった。

 親を失って泣き叫ぶのは人間くらいだった。魔族にとって親は乗り越える障害でしかない。同じ能力を持つ先達者であり、導き手であり、最後に超えて叩き潰す存在だった。そのため彼女の嘆きは知識として理解できても、実感は一切伴わない。

 これは親が育てなかったリリアーナや捨て子のクリスティーヌも同様だった。不思議そうに首をかしげ、互いに顔を見合わせている。ロゼマリアが嘆いている事実は理解しても、その心情はまったくわからない証拠だった。

「吸い込む毒、ない」

 呼吸を止めることができる吸血種は、空気中の毒に影響されない。淡々と分析したクリスティーヌの隣で、くんくんと臭いを確かめていたリリアーナも首を横に振った。

「毒じゃない」

 死体はバラバラに切り刻まれている。流れた血に毒が含まれていないなら、どうやって彼らを黙らせた? いきなり剣で切ろうとすれば、王侯貴族は我先に助かろうと叫んだはず。牢番は騒ぎを一切知らず、朝になって初めて現場を知った。

 音もなく騒ぎもなく、朝までに死体を量産する。考えつくのは魔法による攻撃、結界による遮断だった。しかしこの城周辺で大きな魔力を感知していないため、考えられるのは結界による遮断だろう。

 数歩前に出て、転がっている太い腕を拾う。出血した傷口の状態は綺麗で、よく切れる刃で落とされていた。魔法の痕跡がないことから、風や水の魔法を使う切断ではない。傷口を焼いてもいない。つまり犯人は物理的に人間をバラしたが、結界の中であっても魔法は使わなかった。

 まったく別の方法もあるが、それは高等魔術に分類される。この世界の魔法や魔力のレベルから判断すると難しかった。

「……調査のできる奴が必要だ」

「私が、調べますわ」

 後ろからかかる声に振り向かずに、組んだ腕を解いたオレは「任せる」とだけ返した。

 リリアーナが唸るのを、撫でて大人しくさせる。だいぶ躾が身についてきたリリアーナは、不満そうながらも飛びかかるのを我慢した。

「ロゼマリアを慰めてやれ」

 役目を与えると、こちらを気にしながらも従う。リリアーナが離れたことで、背中に手が触れた。おずおずと伸ばされた手の主は「信じてくださるの?」と愚かな質問をした。

「信じると思ったか?」

 お前も同じ立場なら信じないだろう。そもそもこの世界の誰も信じていない。ただ使えるか判断しているだけだった。否定する返答に、なぜかうっとりと身体を寄せられる。豊満な胸を背に押し付けた美女は、すぐに離れた。

「信じていただけなくても、私はあなたの物ですわ」

 捨て台詞のように重い感情を残し、彼女は姿を消した。残された甘い香りが、牢のカビと血の臭いに混じる。不愉快さに舌打ちし、再び腕を組んだ。
しおりを挟む
感想 177

あなたにおすすめの小説

【完結】転生7年!ぼっち脱出して王宮ライフ満喫してたら王国の動乱に巻き込まれた少女戦記 〜愛でたいアイカは救国の姫になる

三矢さくら
ファンタジー
【完結しました】異世界からの召喚に応じて6歳児に転生したアイカは、護ってくれる結界に逆に閉じ込められた結果、山奥でサバイバル生活を始める。 こんなはずじゃなかった! 異世界の山奥で過ごすこと7年。ようやく結界が解けて、山を下りたアイカは王都ヴィアナで【天衣無縫の無頼姫】の異名をとる第3王女リティアと出会う。 珍しい物好きの王女に気に入られたアイカは、なんと侍女に取り立てられて王宮に! やっと始まった異世界生活は、美男美女ぞろいの王宮生活! 右を見ても左を見ても「愛でたい」美人に美少女! 美男子に美少年ばかり! アイカとリティア、まだまだ幼い侍女と王女が数奇な運命をたどる異世界王宮ファンタジー戦記。

うっかり女神さまからもらった『レベル9999』は使い切れないので、『譲渡』スキルで仲間を強化して最強パーティーを作ることにしました

akairo
ファンタジー
「ごめんなさい!貴方が死んだのは私のクシャミのせいなんです!」 帰宅途中に工事現場の足台が直撃して死んだ、早良 悠月(さわら ゆずき)が目覚めた目の前には女神さまが土下座待機をして待っていた。 謝る女神さまの手によって『ユズキ』として転生することになったが、その直後またもや女神さまの手違いによって、『レベル9999』と職業『譲渡士』という謎の職業を付与されてしまう。 しかし、女神さまの世界の最大レベルは99。 勇者や魔王よりも強いレベルのまま転生することになったユズキの、使い切ることもできないレベルの使い道は仲間に譲渡することだった──!? 転生先で出会ったエルフと魔族の少女。スローライフを掲げるユズキだったが、二人と共に世界を回ることで国を巻き込む争いへと巻き込まれていく。 ※9月16日  タイトル変更致しました。 前タイトルは『レベル9999は転生した世界で使い切れないので、仲間にあげることにしました』になります。 仲間を強くして無双していく話です。 『小説家になろう』様でも公開しています。

貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた

佐藤醤油
ファンタジー
 貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。  僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。  魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。  言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。  この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。  小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。 ------------------------------------------------------------------  お知らせ   「転生者はめぐりあう」 始めました。 ------------------------------------------------------------------ 注意  作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。  感想は受け付けていません。  誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。

はずれスキル『本日一粒万倍日』で金も魔法も作物もなんでも一万倍 ~はぐれサラリーマンのスキル頼みな異世界満喫日記~

緋色優希
ファンタジー
 勇者召喚に巻き込まれて異世界へやってきたサラリーマン麦野一穂(むぎのかずほ)。得たスキルは屑(ランクレス)スキルの『本日一粒万倍日』。あまりの内容に爆笑され、同じように召喚に巻き込まれてきた連中にも馬鹿にされ、一人だけ何一つ持たされず荒城にそのまま置き去りにされた。ある物と言えば、水の樽といくらかの焼き締めパン。どうする事もできずに途方に暮れたが、スキルを唱えたら水樽が一万個に増えてしまった。また城で見つけた、たった一枚の銀貨も、なんと銀貨一万枚になった。どうやら、あれこれと一万倍にしてくれる不思議なスキルらしい。こんな世界で王様の助けもなく、たった一人どうやって生きたらいいのか。だが開き直った彼は『住めば都』とばかりに、スキル頼みでこの異世界での生活を思いっきり楽しむ事に決めたのだった。

大工スキルを授かった貧乏貴族の養子の四男だけど、どうやら大工スキルは伝説の全能スキルだったようです

飼猫タマ
ファンタジー
田舎貴族の四男のヨナン・グラスホッパーは、貧乏貴族の養子。義理の兄弟達は、全員戦闘系のレアスキル持ちなのに、ヨナンだけ貴族では有り得ない生産スキルの大工スキル。まあ、養子だから仕方が無いんだけど。 だがしかし、タダの生産スキルだと思ってた大工スキルは、じつは超絶物凄いスキルだったのだ。その物凄スキルで、生産しまくって超絶金持ちに。そして、婚約者も出来て幸せ絶頂の時に嵌められて、人生ドン底に。だが、ヨナンは、有り得ない逆転の一手を持っていたのだ。しかも、その有り得ない一手を、本人が全く覚えてなかったのはお約束。 勿論、ヨナンを嵌めた奴らは、全員、ザマー百裂拳で100倍返し! そんなお話です。

愛されない皇妃~最強の母になります!~

椿蛍
ファンタジー
愛されない皇妃『ユリアナ』 やがて、皇帝に愛される寵妃『クリスティナ』にすべてを奪われる運命にある。 夫も子どもも――そして、皇妃の地位。 最後は嫉妬に狂いクリスティナを殺そうとした罪によって処刑されてしまう。 けれど、そこからが問題だ。 皇帝一家は人々を虐げ、『悪逆皇帝一家』と呼ばれるようになる。 そして、最後は大魔女に悪い皇帝一家が討伐されて終わるのだけど…… 皇帝一家を倒した大魔女。 大魔女の私が、皇妃になるなんて、どういうこと!? ※表紙は作成者様からお借りしてます。 ※他サイト様に掲載しております。

巻添え召喚されたので、引きこもりスローライフを希望します!

あきづきみなと
ファンタジー
階段から女の子が降ってきた!? 資料を抱えて歩いていた紗江は、階段から飛び下りてきた転校生に巻き込まれて転倒する。気がついたらその彼女と二人、全く知らない場所にいた。 そしてその場にいた人達は、聖女を召喚したのだという。 どちらが『聖女』なのか、と問われる前に転校生の少女が声をあげる。 「私、ガンバる!」 だったら私は帰してもらえない?ダメ? 聖女の扱いを他所に、巻き込まれた紗江が『食』を元に自分の居場所を見つける話。 スローライフまでは到達しなかったよ……。 緩いざまああり。 注意 いわゆる『キラキラネーム』への苦言というか、マイナス感情の描写があります。気にされる方には申し訳ありませんが、作中人物の説明には必要と考えました。

ボクが追放されたら飢餓に陥るけど良いですか?

音爽(ネソウ)
ファンタジー
美味しい果実より食えない石ころが欲しいなんて、人間て変わってますね。 役に立たないから出ていけ? わかりました、緑の加護はゴッソリ持っていきます! さようなら! 5月4日、ファンタジー1位!HOTランキング1位獲得!!ありがとうございました!

処理中です...