上 下
43 / 438
第3章 表と裏

41.流れに逆らう者は拒絶される

しおりを挟む
 選ぶ必要はない。世界は流れが決まっており、その流れに逆らう者は世界に拒絶される。ある意味投げやりに聞こえるかもしれないが、なるようになる――先手を打って魔王を攻めるには戦力不足だった。

 人間どもの襲撃など一蹴できる。リリアーナを戦わせてもいいし、オレが動いても構わない。魔法があまり発達していない人間を蹂躙するのに時間はいらなかった。同様の理由で、現在の魔王陣営に対しても脅威に感じない。

 黒竜である側近は多少厄介かも知れないが、あのオリヴィエラが側近に名を連ねる程度の実力だ。オレの配下だった者が1人でもこちらの世界に来たら、あっという間に蹂躙するだろう。そういう意味で、もう1人優秀な部下が欲しかった。 

 とにかく手が足りないのだ。足元がぐらつく状況でこの地を離れれば、周辺国に襲撃されるだろう。宰相に据えたアガレスも言っていた。オレが不在となれば、交渉結果は得られない。目に見える脅威があるから周辺国は交換条件を飲んだ。魔王とオレが戦う状況になれば、我先にとこの国を襲うはずだ。

 搾取された今は枯れ草が散らかる大地だが、本来は豊かに穂が実る地域だった。国に注ぐ水は北の大きな山脈から流れ込む雪解け水だ。豊富な水が大地を潤し、日当たりがよく温暖な気候の土地は春の種まきから丹精することで、秋に豊穣の金穂がこうべを垂れる。砂漠の国や海の塩害に苦しむ国にとって、喉から手が出るほど魅力的な土地だった。

「足元を固める。リリアーナ、来い」

「うん」

 城を作るドワーフは日に日に数を増やしていた。リリアーナが攫ってきたドワーフは、土の精霊を操るノームの土小人だ。謁見の間に関しては設計が終わったらしく、監督が采配を振るいながらレンガ造りが始まっていた。

 歩くオレの左側から腕を組み、幸せそうに駆け足でついてくるリリアーナ。彼女が指さした先に、多くのドワーフが酒を飲んでいた。

「追加の仕事をやろう」

「なんだ、何を作ればいい?」

「逆だ」

 既存の畑を壊すためにノームを使いたいと匂わせれば、興味を持った数人が近づいてきた。彼らは集団で行動するが、基本は一人親方だ。興味がある仕事ならば、単独でも受ける。手が足りなければ、仲間を説得してでも着手する種族だった。

 褒美は決まって酒か金を望む。宝石類は自分達で掘り起こすから興味がないらしい。

 収納空間に入れっぱなしで忘れていた酒の樽を1つ取り出して、目の前に置いた。くんくんと匂いを嗅いだ1人が顎髭を弄りながら首をかしげる。

「酒の匂いだが……嗅いだことがない。新しい酒か?」

「異世界の酒だ。これを褒美に、ノームを使って大地を耕し柵を巡らせろ。街の周辺にある農地を耕し終われば、成果に応じて酒を追加しよう」

 前の世界でドワーフと取引経験があるため、手付金だけを示した。彼らに先に報酬を渡すと、こっそり手を抜くのだ。成功報酬式でやる気を引き出すのが、正しい付き合い方だった。

「耕して柵を作ればいいのか?」

「出来ぬのなら構わんが」

 報酬を引っ込めるとへそを曲げる。この辺りのやり取りは、担当した部下のやり方をそっくり踏襲した。本来は相性が悪いエルフであった部下は、簡単そうにドワーフの自尊心をくすぐり仕事をさせた。

 酒が要らないなら構わないと言えば、ドワーフは怒って言うことを聞かなくなる。しかし報酬は約束したうえで追加を匂わせ、さらにプライドを擽る。ドワーフにとって「作れない」という言葉は恥なのだ。何としても仕事をこなして認めさせようと考えるはずだった。

 言い切って待てば、ひそひそと話したドワーフがこちらに手を差し出した。土で汚れた手を右手で握り返す。握手は契約成立の証であり、土の付いた手に顔をしかめる相手とは仕事をしないのが、彼らの流儀だった。知らない人間はよく、この最後の段階で失敗するのだ。

「よし、あんたは信頼できる。おれらは従うぜ」

「まかせとけ! ドワーフの底力見せてやるわ! がははっ」

 大声で笑いながら、ドワーフ達は手付金の樽に群がる。仕事は明日の朝から、互いに頷いて確認すると蓋を開けてやった。ぽんと抜けた栓が転がり、中を覗いたドワーフが「ええ香りじゃ」と指を突っ込む。周囲のドワーフが騒ぎ立て、すぐに酒の樽を傾け始めた。

「……庭が先?」

「庭ではなく、畑だ。もうすぐ雪解けの季節だからな」

 配給の状況の確認、蓄えた食料の在庫状況、魔王の出方、戦の準備。行うべき仕事は山積みだった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】帝国から追放された最強のチーム、リミッター外して無双する

エース皇命
ファンタジー
【HOTランキング2位獲得作品】  スペイゴール大陸最強の帝国、ユハ帝国。  帝国に仕え、最強の戦力を誇っていたチーム、『デイブレイク』は、突然議会から追放を言い渡される。  しかし帝国は気づいていなかった。彼らの力が帝国を拡大し、恐るべき戦力を誇示していたことに。  自由になった『デイブレイク』のメンバー、エルフのクリス、バランス型のアキラ、強大な魔力を宿すジャック、杖さばきの達人ランラン、絶世の美女シエナは、今まで抑えていた実力を完全開放し、ゼロからユハ帝国を超える国を建国していく。   ※この世界では、杖と魔法を使って戦闘を行います。しかし、あの稲妻型の傷を持つメガネの少年のように戦うわけではありません。どうやって戦うのかは、本文を読んでのお楽しみです。杖で戦う戦士のことを、本文では杖士(ブレイカー)と描写しています。 ※舞台の雰囲気は中世ヨーロッパ〜近世ヨーロッパに近いです。 〜『デイブレイク』のメンバー紹介〜 ・クリス(男・エルフ・570歳)   チームのリーダー。もともとはエルフの貴族の家系だったため、上品で高潔。白く透明感のある肌に、整った顔立ちである。エルフ特有のとがった耳も特徴的。メンバーからも信頼されているが…… ・アキラ(男・人間・29歳)  杖術、身体能力、頭脳、魔力など、あらゆる面のバランスが取れたチームの主力。独特なユーモアのセンスがあり、ムードメーカーでもある。唯一の弱点が…… ・ジャック(男・人間・34歳)  怪物級の魔力を持つ杖士。その魔力が強大すぎるがゆえに、普段はその魔力を抑え込んでいるため、感情をあまり出さない。チームで唯一の黒人で、ドレッドヘアが特徴的。戦闘で右腕を失って以来義手を装着しているが…… ・ランラン(女・人間・25歳)  優れた杖の腕前を持ち、チームを支える杖士。陽気でチャレンジャーな一面もあり、可愛さも武器である。性格の共通点から、アキラと親しく、親友である。しかし実は…… ・シエナ(女・人間・28歳)  絶世の美女。とはいっても杖士としての実力も高く、アキラと同じくバランス型である。誰もが羨む美貌をもっているが、本人はあまり自信がないらしく、相手の反応を確認しながら静かに話す。あるメンバーのことが……

神に逆らった人間が生きていける訳ないだろう?大地も空気も神の意のままだぞ?<聖女は神の愛し子>

ラララキヲ
ファンタジー
 フライアルド聖国は『聖女に護られた国』だ。『神が自分の愛し子の為に作った』のがこの国がある大地(島)である為に、聖女は王族よりも大切に扱われてきた。  それに不満を持ったのが当然『王侯貴族』だった。  彼らは遂に神に盾突き「人の尊厳を守る為に!」と神の信者たちを追い出そうとした。去らねば罪人として捕まえると言って。  そしてフライアルド聖国の歴史は動く。  『神の作り出した世界』で馬鹿な人間は現実を知る……  神「プンスコ(`3´)」 !!注!! この話に出てくる“神”は実態の無い超常的な存在です。万能神、創造神の部類です。刃物で刺したら死ぬ様な“自称神”ではありません。人間が神を名乗ってる様な謎の宗教の話ではありませんし、そんな口先だけの神(笑)を容認するものでもありませんので誤解無きよう宜しくお願いします。!!注!! ◇ふんわり世界観。ゆるふわ設定。 ◇ご都合展開。矛盾もあるかも。 ◇ちょっと【恋愛】もあるよ! ◇なろうにも上げてます。

《勘違い》で婚約破棄された令嬢は失意のうちに自殺しました。

友坂 悠
ファンタジー
「婚約を考え直そう」 貴族院の卒業パーティーの会場で、婚約者フリードよりそう告げられたエルザ。 「それは、婚約を破棄されるとそういうことなのでしょうか?」 耳を疑いそう聞き返すも、 「君も、その方が良いのだろう?」 苦虫を噛み潰すように、そう吐き出すフリードに。 全てに絶望し、失意のうちに自死を選ぶエルザ。 絶景と評判の観光地でありながら、自殺の名所としても知られる断崖絶壁から飛び降りた彼女。 だったのですが。

婚約破棄された検品令嬢ですが、冷酷辺境伯の子を身籠りました。 でも本当はお優しい方で毎日幸せです

青空あかな
恋愛
旧題:「荷物検査など誰でもできる」と婚約破棄された検品令嬢ですが、極悪非道な辺境伯の子を身籠りました。でも本当はお優しい方で毎日心が癒されています チェック男爵家長女のキュリティは、貴重な闇魔法の解呪師として王宮で荷物検査の仕事をしていた。 しかし、ある日突然婚約破棄されてしまう。 婚約者である伯爵家嫡男から、キュリティの義妹が好きになったと言われたのだ。 さらには、婚約者の権力によって検査係の仕事まで義妹に奪われる。 失意の中、キュリティは辺境へ向かうと、極悪非道と噂される辺境伯が魔法実験を行っていた。 目立たず通り過ぎようとしたが、魔法事故が起きて辺境伯の子を身ごもってしまう。 二人は形式上の夫婦となるが、辺境伯は存外優しい人でキュリティは温かい日々に心を癒されていく。 一方、義妹は仕事でミスばかり。 闇魔法を解呪することはおろか見破ることさえできない。 挙句の果てには、闇魔法に呪われた荷物を王宮内に入れてしまう――。 ※おかげさまでHOTランキング1位になりました! ありがとうございます! ※ノベマ!様で短編版を掲載中でございます。

屋台飯! いらない子認定されたので、旅に出たいと思います。

彩世幻夜
ファンタジー
母が死にました。 父が連れてきた継母と異母弟に家を追い出されました。 わー、凄いテンプレ展開ですね! ふふふ、私はこの時を待っていた! いざ行かん、正義の旅へ! え? 魔王? 知りませんよ、私は勇者でも聖女でも賢者でもありませんから。 でも……美味しいは正義、ですよね? 2021/02/19 第一部完結 2021/02/21 第二部連載開始 2021/05/05 第二部完結

はずれスキル『本日一粒万倍日』で金も魔法も作物もなんでも一万倍 ~はぐれサラリーマンのスキル頼みな異世界満喫日記~

緋色優希
ファンタジー
 勇者召喚に巻き込まれて異世界へやってきたサラリーマン麦野一穂(むぎのかずほ)。得たスキルは屑(ランクレス)スキルの『本日一粒万倍日』。あまりの内容に爆笑され、同じように召喚に巻き込まれてきた連中にも馬鹿にされ、一人だけ何一つ持たされず荒城にそのまま置き去りにされた。ある物と言えば、水の樽といくらかの焼き締めパン。どうする事もできずに途方に暮れたが、スキルを唱えたら水樽が一万個に増えてしまった。また城で見つけた、たった一枚の銀貨も、なんと銀貨一万枚になった。どうやら、あれこれと一万倍にしてくれる不思議なスキルらしい。こんな世界で王様の助けもなく、たった一人どうやって生きたらいいのか。だが開き直った彼は『住めば都』とばかりに、スキル頼みでこの異世界での生活を思いっきり楽しむ事に決めたのだった。

~クラス召喚~ 経験豊富な俺は1人で歩みます

無味無臭
ファンタジー
久しぶりに異世界転生を体験した。だけど周りはビギナーばかり。これでは俺が巻き込まれて死んでしまう。自称プロフェッショナルな俺はそれがイヤで他の奴と離れて生活を送る事にした。天使には魔王を討伐しろ言われたけど、それは面倒なので止めておきます。私はゆっくりのんびり異世界生活を送りたいのです。たまには自分の好きな人生をお願いします。

ゴミスキル『空気清浄』で異世界浄化の旅~捨てられたけど、とてもおいしいです(意味深)~

夢・風魔
ファンタジー
高校二年生最後の日。由樹空(ゆうきそら)は同じクラスの男子生徒と共に異世界へと召喚された。 全員の適正職業とスキルが鑑定され、空は「空気師」という職業と「空気清浄」というスキルがあると判明。 花粉症だった空は歓喜。 しかし召喚主やクラスメイトから笑いものにされ、彼はひとり森の中へ置いてけぼりに。 (アレルギー成分から)生き残るため、スキルを唱え続ける空。 モンスターに襲われ樹の上に逃げた彼を、美しい二人のエルフが救う。 命を救って貰ったお礼にと、森に漂う瘴気を浄化することになった空。 スキルを使い続けるうちにレベルはカンストし、そして新たに「空気操作」のスキルを得る。 *作者は賢くありません。作者は賢くありません。だいじなことなのでもう一度。作者は賢くありません。バカです。 *小説家になろう・カクヨムでも公開しております。

処理中です...