【完結】魔王なのに、勇者と間違えて召喚されたんだが?

綾雅(ヤンデレ攻略対象、電子書籍化)

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第2章 手始めに足元から

35.***ロゼマリアside***

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***ロゼマリアside***

 魔王の攻撃が始まると各国が軍備を整える中、わが国だけは日々の贅沢に興じていた。国民から吸い上げた血税を金銀と交換し、宝石類をかき集める。父王や宰相に話をしても「女がでしゃばるな」と叱られるだけで、何も改善しなかった。

 王女という身分ゆえか、それなりに宝飾品が手元にある。これらを少しずつ売って、他国から高額で仕入れた食材で炊き出しを行うが、まったく足りなかった。しかし他に出来ることもなくて。もし魔王が侵略を始めたら、真っ先にこの国は滅ぼされるだろう。

 聖国バシレイア――かつて聖女が興した国は、怠惰と傲慢さで穢れてしまった。いっそ魔王の支配の方が、民にとって幸せなのかも知れない。そう思うほど、国の現状は酷かった。魔王の脅威が伝わると、父王は簡単そうに吐き捨てる。

「勇者召喚の準備をせよ」

 他国にはない、この国だけの切り札だった。古い昔から伝わる石積みの塔に刻まれた魔法陣を使い、異世界から勇者様を召喚する。異世界から訪う者だけが持つ、異能や特殊能力を使って魔王を退けてきた。4度の失敗を経て、ようやく召喚されたのは……美しい黒髪の青年。サタン様と名乗られた。

 細身だが鍛えられた身体、膝まで届く長く癖のない黒髪、柘榴の実と同じ真っ赤な瞳。端正なのに女性らしさを感じさせない顔は、不機嫌そうだった。丁重にお迎えして謁見の間へ案内する。ここまでが私の役目、そして王座には宰相が父王のフリをしていた。

 何を考えているのか、すぐに気づく。勇者たるお方を試し、見極めようというのだ。無礼ここに極まれりと己の父ながら残念に思った。この国や世界を守る為に戦う勇者様を、陰で嘲笑うに等しい行為だ。それでも女である私に口出しは出来なかった。

 あっさりと偽者を見破ったサタン様が「魔王」と名乗り、この場に集まった者を断罪する。帰る方法がない……父の言葉より、舌打ちしたサタン様の言葉に愕然とした。まったく自覚はなかったけれど、相手の都合を考えずに攫い、命を懸けて戦えと強いる行為――そんな世界に価値はない。言われなければ気づかなかった。

 魔術師を返り討ちにし、魔王の手先であるドラゴンを従え、召喚魔法陣の塔を破壊する。その圧倒的な強さと正しい行いに、思考停止して生きてきた自分を恥じた。彼に指摘されるまで、己の行為は慈悲深く優しいと思っていた。侍女や乳母も褒めてくれたし、民も感謝していると思い込んできた。

 すべての価値観が塗り替えられていく。固く閉ざされ手が届かなかった食糧庫から供出された食事、父王や宰相の攻撃を退けて、グリフォンまで手懐ける。圧倒的な強者でありながら、サタン様は慈悲という言葉の真意を実行した。感謝の言葉がなくても、口から出る言葉が冷たくとも、この人は優しいのだ。

 乳母の足を治してくれた行為や、子供に食事や仕事を与える姿に偽りはなかった。誰も出来ない奇跡を次々と実現しながら、驕る様子はない。当たり前のことだと言い切り、ただ真っすぐに思った通り突き進む人だった。

 グリフォンに追い回されて捕まった私に、ケガ人や病人を突き出すよう命じられた。サタン様の意図が分からず困惑したが、この方は弱者を切り捨てない。治癒された国民達が手を取り合い喜ぶ姿に、覚悟が決まった。

 異世界の魔王がこの世界の魔王とどう違うのか。そんなことはどうでも良かった。ただ、この人は民を助けて国を守ってくれるだろう。そう感じた時、己の為すべき道が見える。

 ――誤解される言葉の多いこの方を支え、人間とサタン様を繋ぐ絆となろう。ドラゴンの愛らしい少女と、グリフォンの妖艶な美女を従える強者にとって、人間の小娘に過ぎない私が出来ることは少ない。

 いずれは顔も知らぬどこぞの王侯貴族と縁を繋ぐために嫁がされる身、そう育てられた。しかし世界が変わるのなら、私は自らの意志でサタン様に従いたい。

 風呂で背中を流し、そのまま娶っていただこうと思ったけれど……グリフォンのオリヴィエラ様や、ドラゴンのリリアーナ様も含め、誰も求められなかった。残念である反面、ほっとする。もし少女趣味なら私は年を取り過ぎだし、妖艶好みなら魅力が足りない。

 お役に立てるのはもう少し先になるけれど……それまでサタン様を信じて支えよう。せめて同じ部屋に寝かせてもらえないかと向かった扉の先で、すでにリリアーナ様とオリヴィエラ様が蹲っていた。そっと隣に滑り込んで、幼いリリアーナ様の肩を抱き寄せる。肩を露出させたリリアーナ様に毛布を掛け、オリヴィエラ様に上着を提供した。

 顔を見合わせ、種族も違うのに笑い合えた。不思議と怖くない。これが新しい魔王様の治世なら、尽力しがいがあるわ。そう思いながら目を閉じた。
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