22 / 438
第2章 手始めに足元から
20.愛玩物がオレに懐くのは当然だ
しおりを挟む
おずおずと遠慮がちに触れる指先は温かい。長い金の髪を揺らして眉をひそめたリリアーナの表情は、どこか辛そうだった。攻撃の矢は当たっていないはずだが……。
「どうした?」
「手、痛い? 紫になった……毒」
ドラゴンはほぼ毒が効かない。己自身の血が猛毒のため、ほとんどの毒は無効化されるのだ。かつて殺したドラゴンの血を飲んだオレの身体も、同様の効果を得ていた。矢を離した途端、指先の皮膚は色を元に戻していく。
「治った?」
犬のように指先を舐めたリリアーナが不思議そうに首をかしげた。己の血や唾液が毒を無効化すると、彼女は本能的に知っている。ケガをした場所を舐めたことで傷を治した経験があるのだろう。
ドラゴンの毒を体内に保有しない者に対して、彼女の行為は裏目に出る。唾液の毒で殺してしまうのだ。後で教える必要はあるが、今は褒めるのが正解だろう。口元を緩めて頷いてやれば、嬉しそうに笑った。
「随分と手懐けましたのね」
「これはオレの愛玩物だ。懐くのは当たり前だろう」
くしゃりと髪を撫でれば、リリアーナは遠慮がちだった手を伸ばして抱き着いてきた。愛玩動物だと言い放った途端、オリヴィエラが「羨ましい」と意味不明の言葉を呟く。
「お前を狙ったのは魔王か?」
「……私まで監視対象だなんて、本当に臆病な方」
呆れたと漏らすオリヴィエラは、露出の多いドレスを気にせず地に片膝をついた。頭を下げて礼を尽くす、人間の騎士に似た礼はグリフォンとして最上位の敬意の示し方だ。スリットが入ったドレスから、小麦色の長い足が露わになった。
「私の命をお救いいただきましたこと、深く感謝申し上げます。オリヴィエラの名に懸けて、あなた様に誠心誠意お仕えいたしますわ」
前の主について聞くことはない。オリヴィエラの主だった者の攻撃から守るのは、新しい主の役目だ。その覚悟がなければ、彼女の言葉を撥ね退ければいい。魔族のルールは常に弱肉強食、分かりやすく簡潔だった。
「許す」
微笑んで身を起こす彼女は、するりと腕を絡めてきた。左腕に抱き着いたリリアーナが張り合うように唇を尖らせて威嚇する。
「落ち着け」
ぽんと頭を軽く叩けば、リリアーナがしょんぼりと尻尾を垂らす。そのまま数回撫でてやると、尻尾の先が小さく左右に揺れた。人間が飼うペットの反応に似ているな。興味を惹かれて彼女の頬を撫でてから、額に唇を当てた。
親しい配下によく強請られた褒美だが、リリアーナの尻尾がぴんと立ち大きく揺れる。どうやら対応は間違わずに済んだらしい。機嫌の直ったリリアーナと、オリヴィエラを両腕に引き寄せ、オレは先ほどの質問を繰り返した。
「この世界の魔王とやらは、何を考えている」
「そうですわね。この世界の覇者になると言っておられました。少し幼い方ですのよ」
ほほほと笑いながら、近所の子供を語るようにオリヴィエラは端的に説明した。世界の覇者とはまた、曖昧な言葉だ。つまり人間と魔族の頂点に立ちたいという意味か。己の知る話に置き換えて理解しようとしたオレに、オリヴィエラは情報を追加した。
「好戦的ですけれど、前の魔王陛下の御子で……夢魔ですの」
「夢魔、だと……?」
前魔王の種族もわからない状況だが、あり得ない。夢魔は魔族の中でも底辺の能力しか持たない種族だった。魔族の頂点に立つ魔王が、底辺魔族だというのか。
常識を根底から覆す状況に、オレは頭を抱えて唸った。面白そうに見守るオリヴィエラの胸が押し付けられ、対抗するように心配顔のリリア―ナが顔を近づけて頬を舐める。甲高い音に顔を上げれば、金属の棒を落としたロゼマリアが口元を押えて立っていた。
「どうした?」
「手、痛い? 紫になった……毒」
ドラゴンはほぼ毒が効かない。己自身の血が猛毒のため、ほとんどの毒は無効化されるのだ。かつて殺したドラゴンの血を飲んだオレの身体も、同様の効果を得ていた。矢を離した途端、指先の皮膚は色を元に戻していく。
「治った?」
犬のように指先を舐めたリリアーナが不思議そうに首をかしげた。己の血や唾液が毒を無効化すると、彼女は本能的に知っている。ケガをした場所を舐めたことで傷を治した経験があるのだろう。
ドラゴンの毒を体内に保有しない者に対して、彼女の行為は裏目に出る。唾液の毒で殺してしまうのだ。後で教える必要はあるが、今は褒めるのが正解だろう。口元を緩めて頷いてやれば、嬉しそうに笑った。
「随分と手懐けましたのね」
「これはオレの愛玩物だ。懐くのは当たり前だろう」
くしゃりと髪を撫でれば、リリアーナは遠慮がちだった手を伸ばして抱き着いてきた。愛玩動物だと言い放った途端、オリヴィエラが「羨ましい」と意味不明の言葉を呟く。
「お前を狙ったのは魔王か?」
「……私まで監視対象だなんて、本当に臆病な方」
呆れたと漏らすオリヴィエラは、露出の多いドレスを気にせず地に片膝をついた。頭を下げて礼を尽くす、人間の騎士に似た礼はグリフォンとして最上位の敬意の示し方だ。スリットが入ったドレスから、小麦色の長い足が露わになった。
「私の命をお救いいただきましたこと、深く感謝申し上げます。オリヴィエラの名に懸けて、あなた様に誠心誠意お仕えいたしますわ」
前の主について聞くことはない。オリヴィエラの主だった者の攻撃から守るのは、新しい主の役目だ。その覚悟がなければ、彼女の言葉を撥ね退ければいい。魔族のルールは常に弱肉強食、分かりやすく簡潔だった。
「許す」
微笑んで身を起こす彼女は、するりと腕を絡めてきた。左腕に抱き着いたリリアーナが張り合うように唇を尖らせて威嚇する。
「落ち着け」
ぽんと頭を軽く叩けば、リリアーナがしょんぼりと尻尾を垂らす。そのまま数回撫でてやると、尻尾の先が小さく左右に揺れた。人間が飼うペットの反応に似ているな。興味を惹かれて彼女の頬を撫でてから、額に唇を当てた。
親しい配下によく強請られた褒美だが、リリアーナの尻尾がぴんと立ち大きく揺れる。どうやら対応は間違わずに済んだらしい。機嫌の直ったリリアーナと、オリヴィエラを両腕に引き寄せ、オレは先ほどの質問を繰り返した。
「この世界の魔王とやらは、何を考えている」
「そうですわね。この世界の覇者になると言っておられました。少し幼い方ですのよ」
ほほほと笑いながら、近所の子供を語るようにオリヴィエラは端的に説明した。世界の覇者とはまた、曖昧な言葉だ。つまり人間と魔族の頂点に立ちたいという意味か。己の知る話に置き換えて理解しようとしたオレに、オリヴィエラは情報を追加した。
「好戦的ですけれど、前の魔王陛下の御子で……夢魔ですの」
「夢魔、だと……?」
前魔王の種族もわからない状況だが、あり得ない。夢魔は魔族の中でも底辺の能力しか持たない種族だった。魔族の頂点に立つ魔王が、底辺魔族だというのか。
常識を根底から覆す状況に、オレは頭を抱えて唸った。面白そうに見守るオリヴィエラの胸が押し付けられ、対抗するように心配顔のリリア―ナが顔を近づけて頬を舐める。甲高い音に顔を上げれば、金属の棒を落としたロゼマリアが口元を押えて立っていた。
0
お気に入りに追加
1,029
あなたにおすすめの小説
Sランク昇進を記念して追放された俺は、追放サイドの令嬢を助けたことがきっかけで、彼女が押しかけ女房のようになって困る!
仁徳
ファンタジー
シロウ・オルダーは、Sランク昇進をきっかけに赤いバラという冒険者チームから『スキル非所持の無能』とを侮蔑され、パーティーから追放される。
しかし彼は、異世界の知識を利用して新な魔法を生み出すスキル【魔学者】を使用できるが、彼はそのスキルを隠し、無能を演じていただけだった。
そうとは知らずに、彼を追放した赤いバラは、今までシロウのサポートのお陰で強くなっていたことを知らずに、ダンジョンに挑む。だが、初めての敗北を経験したり、その後借金を背負ったり地位と名声を失っていく。
一方自由になったシロウは、新な町での冒険者活動で活躍し、一目置かれる存在となりながら、追放したマリーを助けたことで惚れられてしまう。手料理を振る舞ったり、背中を流したり、それはまるで押しかけ女房だった!
これは、チート能力を手に入れてしまったことで、無能を演じたシロウがパーティーを追放され、その後ソロとして活躍して無双すると、他のパーティーから追放されたエルフや魔族といった様々な追放少女が集まり、いつの間にかハーレムパーティーを結成している物語!
解呪の魔法しか使えないからとSランクパーティーから追放された俺は、呪いをかけられていた美少女ドラゴンを拾って最強へと至る
早見羽流
ファンタジー
「ロイ・クノール。お前はもう用無しだ」
解呪の魔法しか使えない初心者冒険者の俺は、呪いの宝箱を解呪した途端にSランクパーティーから追放され、ダンジョンの最深部へと蹴り落とされてしまう。
そこで出会ったのは封印された邪龍。解呪の能力を使って邪龍の封印を解くと、なんとそいつは美少女の姿になり、契約を結んで欲しいと頼んできた。
彼女は元は世界を守護する守護龍で、英雄や女神の陰謀によって邪龍に堕とされ封印されていたという。契約を結んだ俺は彼女を救うため、守護龍を封印し世界を牛耳っている女神や英雄の血を引く王家に立ち向かうことを誓ったのだった。
(1話2500字程度、1章まで完結保証です)
雑用係の回復術士、【魔力無限】なのに専属ギルドから戦力外通告を受けて追放される〜ケモ耳少女とエルフでダンジョン攻略始めたら『伝説』になった〜
霞杏檎
ファンタジー
「使えん者はいらん……よって、正式にお前には戦力外通告を申し立てる。即刻、このギルドから立ち去って貰おう!! 」
回復術士なのにギルド内で雑用係に成り下がっていたフールは自身が専属で働いていたギルドから、何も活躍がないと言う理由で戦力外通告を受けて、追放されてしまう。
フールは回復術士でありながら自己主張の低さ、そして『単体回復魔法しか使えない』と言う能力上の理由からギルドメンバーからは舐められ、S級ギルドパーティのリーダーであるダレンからも馬鹿にされる存在だった。
しかし、奴らは知らない、フールが【魔力無限】の能力を持っていることを……
途方に暮れている道中で見つけたダンジョン。そこで傷ついた”ケモ耳銀髪美少女”セシリアを助けたことによって彼女はフールの能力を知ることになる。
フールに助けてもらったセシリアはフールの事を気に入り、パーティの前衛として共に冒険することを決めるのであった。
フールとセシリアは共にダンジョン攻略をしながら自由に生きていくことを始めた一方で、フールのダンジョン攻略の噂を聞いたギルドをはじめ、ダレンはフールを引き戻そうとするが、フールの意思が変わることはなかった……
これは雑用係に成り下がった【最強】回復術士フールと"ケモ耳美少女"達が『伝説』のパーティだと語られるまでを描いた冒険の物語である!
(160話で完結予定)
元タイトル
「雑用係の回復術士、【魔力無限】なのに専属ギルドから戦力外通告を受けて追放される〜でも、ケモ耳少女とエルフでダンジョン攻略始めたら『伝説』になった。噂を聞いたギルドが戻ってこいと言ってるがお断りします〜」
異世界召喚に条件を付けたのに、女神様に呼ばれた
りゅう
ファンタジー
異世界召喚。サラリーマンだって、そんな空想をする。
いや、さすがに大人なので空想する内容も大人だ。少年の心が残っていても、現実社会でもまれた人間はまた別の空想をするのだ。
その日の神岡龍二も、日々の生活から離れ異世界を想像して遊んでいるだけのハズだった。そこには何の問題もないハズだった。だが、そんなお気楽な日々は、この日が最後となってしまった。
【完結】帝国から追放された最強のチーム、リミッター外して無双する
エース皇命
ファンタジー
【HOTランキング2位獲得作品】
スペイゴール大陸最強の帝国、ユハ帝国。
帝国に仕え、最強の戦力を誇っていたチーム、『デイブレイク』は、突然議会から追放を言い渡される。
しかし帝国は気づいていなかった。彼らの力が帝国を拡大し、恐るべき戦力を誇示していたことに。
自由になった『デイブレイク』のメンバー、エルフのクリス、バランス型のアキラ、強大な魔力を宿すジャック、杖さばきの達人ランラン、絶世の美女シエナは、今まで抑えていた実力を完全開放し、ゼロからユハ帝国を超える国を建国していく。
※この世界では、杖と魔法を使って戦闘を行います。しかし、あの稲妻型の傷を持つメガネの少年のように戦うわけではありません。どうやって戦うのかは、本文を読んでのお楽しみです。杖で戦う戦士のことを、本文では杖士(ブレイカー)と描写しています。
※舞台の雰囲気は中世ヨーロッパ〜近世ヨーロッパに近いです。
〜『デイブレイク』のメンバー紹介〜
・クリス(男・エルフ・570歳)
チームのリーダー。もともとはエルフの貴族の家系だったため、上品で高潔。白く透明感のある肌に、整った顔立ちである。エルフ特有のとがった耳も特徴的。メンバーからも信頼されているが……
・アキラ(男・人間・29歳)
杖術、身体能力、頭脳、魔力など、あらゆる面のバランスが取れたチームの主力。独特なユーモアのセンスがあり、ムードメーカーでもある。唯一の弱点が……
・ジャック(男・人間・34歳)
怪物級の魔力を持つ杖士。その魔力が強大すぎるがゆえに、普段はその魔力を抑え込んでいるため、感情をあまり出さない。チームで唯一の黒人で、ドレッドヘアが特徴的。戦闘で右腕を失って以来義手を装着しているが……
・ランラン(女・人間・25歳)
優れた杖の腕前を持ち、チームを支える杖士。陽気でチャレンジャーな一面もあり、可愛さも武器である。性格の共通点から、アキラと親しく、親友である。しかし実は……
・シエナ(女・人間・28歳)
絶世の美女。とはいっても杖士としての実力も高く、アキラと同じくバランス型である。誰もが羨む美貌をもっているが、本人はあまり自信がないらしく、相手の反応を確認しながら静かに話す。あるメンバーのことが……
お花畑な母親が正当な跡取りである兄を差し置いて俺を跡取りにしようとしている。誰か助けて……
karon
ファンタジー
我が家にはおまけがいる。それは俺の兄、しかし兄はすべてに置いて俺に勝っており、俺は凡人以下。兄を差し置いて俺が跡取りになったら俺は詰む。何とかこの状況から逃げ出したい。
いきなり異世界って理不尽だ!
みーか
ファンタジー
三田 陽菜25歳。会社に行こうと家を出たら、足元が消えて、気付けば異世界へ。
自称神様の作った機械のシステムエラーで地球には帰れない。地球の物は何でも魔力と交換できるようにしてもらい、異世界で居心地良く暮らしていきます!
[鑑定]スキルしかない俺を追放したのはいいが、貴様らにはもう関わるのはイヤだから、さがさないでくれ!
どら焼き
ファンタジー
ついに!第5章突入!
舐めた奴らに、真実が牙を剥く!
何も説明無く、いきなり異世界転移!らしいのだが、この王冠つけたオッサン何を言っているのだ?
しかも、ステータスが文字化けしていて、スキルも「鑑定??」だけって酷くない?
訳のわからない言葉?を発声している王女?と、勇者らしい同級生達がオレを城から捨てやがったので、
なんとか、苦労して宿代とパン代を稼ぐ主人公カザト!
そして…わかってくる、この異世界の異常性。
出会いを重ねて、なんとか元の世界に戻る方法を切り開いて行く物語。
主人公の直接復讐する要素は、あまりありません。
相手方の、あまりにも酷い自堕落さから出てくる、ざまぁ要素は、少しづつ出てくる予定です。
ハーレム要素は、不明とします。
復讐での強制ハーレム要素は、無しの予定です。
追記
2023/07/21 表紙絵を戦闘モードになったあるヤツの参考絵にしました。
8月近くでなにが、変形するのかわかる予定です。
2024/02/23
アルファポリスオンリーを解除しました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる