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第1章 強制召喚
4.オレに逆らう気か? 頭が高い、伏せよ★
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精神干渉魔法には3種類ある。相手を操るもの、心を読み取るもの、そして対象を破滅させ死に追いやるもの。どれを使ったとしても、魔王サタンへの敵対行為だった。
「そこの者か」
指さした先で魔術師が血を吐き出す。げほっと咳き込んだ彼の手は赤く染まり、足元の高価な絨毯を汚した。がくりと膝をついたローブ姿の男が崩れ落ち床に倒れても、誰も動けない。
ふむ。思ったより魔法が使える。目の前で痙攣して息絶える魔術師を無視して、右手のひらを見つめた。ぎゅっと握り込んだところで、ようやく悲鳴が聞こえた。
「きゃあぁぁあああ!」
ロゼマリアだ。豊かな金髪を振り乱し、パニック状態で床に座り込む。
誰が動き、動かぬのか。観察しながら状況を探った。外まで聞こえた悲鳴に慌てて駆け寄ったのは、年老いたふくよかな女性だ。服装からして乳母か侍女らしい。ロゼマリアの肩を抱いてオレを睨みつける。彼女を守るように己の身を盾にした。
なかなかの覚悟だ。震えるだけの王妃より立派な振る舞いだった。
「なぜ殺した?」
国王の声に振り返り、正面から向き合う。じっと見つめても目を逸らさぬ国王に内心で感心しながら、事実を説明した。
「精神干渉を反射しただけだ。それで魔術師が死んだなら、オレを殺そうとしたのであろう」
あの魔術師の使った魔法が心を読む程度だったなら、今も彼は生きていた。突きつけられた事実に、「まことか?」と国王が魔術師達を問いただす。
茶番でしかない光景に、オレは呆れてしまった。ついさきほどの、感心した気持ちが冷めていく。
勝手に部下が動いたなら、この場でまず王がすべきことは謝罪だ。オレが同じ立場なら部下の勝手な行為を詫び、それから反射以外の手段はなかったのかと問えばいい。己の過失を認めて、相手の過失を問えば立場を逆転させることも可能だった。
愚かにも当事者の前で事実関係の確認を始めれば、その後は部下を断罪する道しかない。助かった部下まで失う事態になると気づかない時点で、人の上に立つべき器でない証明だった。誰かが失態を冒したら、それを取り繕い救うのも上位者の役目であろう。
王侯貴族にとって、言葉や仕草は最上級の武器となる。相手を惑わし、己の思う結果を導き出すための手練手管を尽くす。そんな簡単な手法すら操れぬ彼らが、本当にこの聖国とやらの王族なのか。今までよく他国に侵略されなかったものだ。
「もうよい。愚かな国王に付き合う気はない」
言い切った直後、後ろで何かが割れる音がした。結界にぶつかったガラスの破片が周囲に落ちる。ゆったりと顔を向けた先に、大きなドラゴンが天井と高窓が並ぶ壁を突き破っていた。
「うわぁ! 出た!!」
「避難しろ」
騒ぎ出した人間を無視し、見上げる大きさのドラゴンに眉をひそめる。魔族の頂点である王たるオレの前で、なんと傲慢な態度か。
「取り込み中だ、後にしろ」
がしゃがしゃと耳障りな音を立てて建物を壊すドラゴンが、口を開いて牙を見せつける。威嚇行動の一種だ。どうやら敵対するつもりらしい。
「……オレに逆らう気か? 頭が高い、伏せよ」
命じた言葉を無視するドラゴンだが、聞こえているらしい。さらに牙を剥いて威嚇を強めた。前足を持ち上げて踏みつぶそうと動いたドラゴンの突進を、右手の指先で押さえる。本来なら指先すら動かさずに済むが、愚かなドラゴンには仕置きが必要だった。
「そこの者か」
指さした先で魔術師が血を吐き出す。げほっと咳き込んだ彼の手は赤く染まり、足元の高価な絨毯を汚した。がくりと膝をついたローブ姿の男が崩れ落ち床に倒れても、誰も動けない。
ふむ。思ったより魔法が使える。目の前で痙攣して息絶える魔術師を無視して、右手のひらを見つめた。ぎゅっと握り込んだところで、ようやく悲鳴が聞こえた。
「きゃあぁぁあああ!」
ロゼマリアだ。豊かな金髪を振り乱し、パニック状態で床に座り込む。
誰が動き、動かぬのか。観察しながら状況を探った。外まで聞こえた悲鳴に慌てて駆け寄ったのは、年老いたふくよかな女性だ。服装からして乳母か侍女らしい。ロゼマリアの肩を抱いてオレを睨みつける。彼女を守るように己の身を盾にした。
なかなかの覚悟だ。震えるだけの王妃より立派な振る舞いだった。
「なぜ殺した?」
国王の声に振り返り、正面から向き合う。じっと見つめても目を逸らさぬ国王に内心で感心しながら、事実を説明した。
「精神干渉を反射しただけだ。それで魔術師が死んだなら、オレを殺そうとしたのであろう」
あの魔術師の使った魔法が心を読む程度だったなら、今も彼は生きていた。突きつけられた事実に、「まことか?」と国王が魔術師達を問いただす。
茶番でしかない光景に、オレは呆れてしまった。ついさきほどの、感心した気持ちが冷めていく。
勝手に部下が動いたなら、この場でまず王がすべきことは謝罪だ。オレが同じ立場なら部下の勝手な行為を詫び、それから反射以外の手段はなかったのかと問えばいい。己の過失を認めて、相手の過失を問えば立場を逆転させることも可能だった。
愚かにも当事者の前で事実関係の確認を始めれば、その後は部下を断罪する道しかない。助かった部下まで失う事態になると気づかない時点で、人の上に立つべき器でない証明だった。誰かが失態を冒したら、それを取り繕い救うのも上位者の役目であろう。
王侯貴族にとって、言葉や仕草は最上級の武器となる。相手を惑わし、己の思う結果を導き出すための手練手管を尽くす。そんな簡単な手法すら操れぬ彼らが、本当にこの聖国とやらの王族なのか。今までよく他国に侵略されなかったものだ。
「もうよい。愚かな国王に付き合う気はない」
言い切った直後、後ろで何かが割れる音がした。結界にぶつかったガラスの破片が周囲に落ちる。ゆったりと顔を向けた先に、大きなドラゴンが天井と高窓が並ぶ壁を突き破っていた。
「うわぁ! 出た!!」
「避難しろ」
騒ぎ出した人間を無視し、見上げる大きさのドラゴンに眉をひそめる。魔族の頂点である王たるオレの前で、なんと傲慢な態度か。
「取り込み中だ、後にしろ」
がしゃがしゃと耳障りな音を立てて建物を壊すドラゴンが、口を開いて牙を見せつける。威嚇行動の一種だ。どうやら敵対するつもりらしい。
「……オレに逆らう気か? 頭が高い、伏せよ」
命じた言葉を無視するドラゴンだが、聞こえているらしい。さらに牙を剥いて威嚇を強めた。前足を持ち上げて踏みつぶそうと動いたドラゴンの突進を、右手の指先で押さえる。本来なら指先すら動かさずに済むが、愚かなドラゴンには仕置きが必要だった。
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