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102.愛し子が変えた世界(絶対神SIDE)

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 精霊が各世界に広まり、新しい種族として認められた。その恩恵は、すぐに現れる。

 森の緑は鮮やかに、日差しは明るく暖かく変化した。さらに火や水、風などに分岐したことで、精霊の力が強くなっている。人族や魔族に魔法を使うものが出てきた。

 動物は種族が増え、影響されて獣人にも変化が現れた。以前は獣が二足歩行するタイプが主流だったが、耳や尻尾、鱗などの特徴を残した人族に似た形態が増える。徐々に神々の認識も変化し、世界を完全に管理するより、その成長を楽しむスタイルが主流となった。

 神の手があまり入っていない世界を天然、積極的に介入した世界を養殖と表現する。今さら変化を求めない俺は、のんびりとひとつの世界に注力した。それ以外の世界は穏やかに変化を受け入れる。

「この世界に人はいないの?」

「欲しいのか?」

 問い返され、イルはうーんと考え込む。シアラが管理する世界にいたので、どの世界にもいると思っていたのだろう。今頃になって疑問に思ったらしい。

 大木の中に作った部屋へ、果物をいくつか転送する。収穫したばかりの紫の実に、イルは目を輝かせた。紫に青い斑点が入った毒々しい見た目と裏腹に、中身は柔らかな黄色い綿が入っている。その綿を取り除けば、白い丸い粒があった。ここが可食部分だ。

 何度も食べたので、イルは器用に皮を剥いた。中の綿に苦戦する姿を見て、手を貸す。白い粒を指で摘み、俺の方へ差し出した。

「あーん」

「ありがとう」

 先に食べていい、とか。お前のために取り寄せたんだが、とか。余計な言葉は果肉と共に飲み込んだ。黄色い綿が種なので、皮と一緒に外へ捨てる。

 俺も紫の実を向いて、イルに食べさせた。果汁で濡れた指を舐めるイルは、嬉しそうに大きな実を頬張る。もぐもぐと動く頬をつつくと、変な声が出た。

「ん、へぁああんへ」

 触んないで。両手で頬を包むイルとの時間が、本当に幸せだと感じる。見失った二年の間に、この子が儚くなっていたら? 想像するのも恐ろしい。俺にとって、命より大切な子だ。

 無意識に力を振るうのが愛し子で、苦痛を取り除いている自覚はない。ただ、愛されて幸せに笑う存在だった。その微笑みが心底愛おしい。

 愛し子を得た過去の神々が争いを避けるのは、当然だった。俺も今は外に干渉することなく、穏やかに過ごしている。こんな可愛い存在なら、奪おうとする神がいた事実も納得だった。実際は、無理やり奪ったとしても、愛し子は対にしか能力を発揮しない。無駄骨なのだが。

「可愛い」

「僕、可愛いって言われるのが嬉しい」

 言葉と重なって伝わる同じ心の声が、楽しそうに弾んでいた。黒髪はやや長くなり、肩甲骨に届く程度。そろそろ結んで飾ってやろう。

「イル、髪の毛を結ってみようか」

「うん」

 くるっと背を向けたイルの黒髪を指に絡め、いじり始めた。ルミエルもサフィも簡単そうにやるが、意外と難しい。さらりと柔らかい髪が溢れてしまい、溜め息をついた。これは無理だ。

 ズルをして、力を使って持ち上げて髪留めで固定する。ちょっと斜めだが可愛い。大丈夫、俺の失態はイルの愛らしさでカバーされた。

「あ、メリクでも出来ないことってあるのね」

 遊びに来たルミエルに指摘され、ムッとしながらも教えを請うた。イルのためなら何でも出来るぞ。配下に教えてもらうのも、全然平気だ。その変化に驚いたのは、俺自身より周囲だった。
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