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99.大きな心境の変化(シュハザSIDE)
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私の名を呼べずに「シュー」と縮める幼子、何もできず庇護される存在のはずが。彼女は意図せず、予言をひっくり返した。
「解釈違いだなんて、拍子抜けしたぜ」
「崩壊だの変革だの、怖がりすぎたわね」
ゼルクもサフィも理解していない。予言は当初の解釈で正しかった。神々が作った世界は崩壊し、精霊が消えて再生不可能になる。その引き金が幼い愛し子であることも、変革がさらなる滅びを意味することも。
すべて正しい。それをイル様は一人で覆してしまった。絶対神である対のアドラメリク様の力も借りず、己一人が願うだけで……いとも簡単に成し遂げたのだ。
「イル様でなければ、崩壊し、変革によって全てを失っただろう」
「私もそう思うわ」
ルミエルが泣きそうな顔で無理やり笑う。作った顔でいなければ、涙が溢れるのだと声を震わせた。それが嫌で堪えている。彼女はイル様と接する時間が長かった。我々の中で一番距離が近い。ゆえに感じることも多いのだろう。
「イルちゃんはただ、精霊がいないのが怖かったの。だから自分が痛いのも怖いのも肩代わりするから、ここへ来てと願った。純粋で濁りのない、ただ真っ直ぐな思いをぶつけたわ。だから奇跡が起きたのよ」
神が口にする奇跡は、あり得ない状況を意味する。作った世界の住人へ気まぐれに与える奇跡ではない。絶対に存在しないはずの、幸せへの道標だ。それをイルは無邪気に招き寄せた。
清濁併せ呑んだ神々には、決して届かない高みで。幼子はすべてを救ったのだ。あれだけの境遇を経て、まだ救われて間もない子が。誰も恨まず、幸せになれと願った。
「イル様らしいですね」
「本当よ」
鼻を啜って我慢を台無しにしたルミエルは、ぐいと涙を拭った。それから吹っ切れたように笑う。
「イルちゃんがくれた精霊って、種類があるのよ。今までと違う複雑な世界を組み上げてみせるわ。こんな素敵な贈り物なら、それ以上の付加価値を付けて返さなくちゃ」
ルミエルの手に集まった光は、数十ほど。今までなら世界を創造するには足りないが、新しい精霊は力に満ちていた。
「せっかくだから、精霊族を作ってみてはどうでしょうか。精霊達の属性を保ったままで、新しい種族として組み込むのです」
提案はすぐに受け入れられた。精霊をただのエネルギー扱いではなく、幼子イルのように人として接する。与えられた形をそのまま利用する。この考えに、ゼルクやサフィも同調した。
「新しい種族なんて久しぶりだわ。立ち位置は魔族と同等くらいかしら」
サフィが手を叩く。
「ん? うちは魔族と獣族の上に置こうと思ってる。その方がバランス取れそうだし」
すでに案を練りながらゼルクは精霊を撫でた。
「なるほど……変革とは、そういう意味ですか」
閃くように浮かんだのは、各世界を管理する神々の変化だ。当たり前のように上下関係が出来上がり、世界創造の考えが偏り、他者に己のやり方を押し付ける。固着した概念を、イルは壊したのだ。
一度すべて瓦解した上に組み上げられる世界は、どの神の手によるものでも美しいだろう。そう思えること、新しい種族を生み出そうと考えたこと。すべてがイル様の手柄だった。これこそが変革だったのだ。
古い考えを脱ぎ捨て、神々はまだ変化できる。未来を切り拓いた幼子は、無邪気に精霊を生み出し続けていた。
「愛し子が欲しいので、人族も共存させてみましょうかね」
イルのような愛し子が自分に舞い降りるなら、大嫌いな人族さえ許容できる気がした。
「解釈違いだなんて、拍子抜けしたぜ」
「崩壊だの変革だの、怖がりすぎたわね」
ゼルクもサフィも理解していない。予言は当初の解釈で正しかった。神々が作った世界は崩壊し、精霊が消えて再生不可能になる。その引き金が幼い愛し子であることも、変革がさらなる滅びを意味することも。
すべて正しい。それをイル様は一人で覆してしまった。絶対神である対のアドラメリク様の力も借りず、己一人が願うだけで……いとも簡単に成し遂げたのだ。
「イル様でなければ、崩壊し、変革によって全てを失っただろう」
「私もそう思うわ」
ルミエルが泣きそうな顔で無理やり笑う。作った顔でいなければ、涙が溢れるのだと声を震わせた。それが嫌で堪えている。彼女はイル様と接する時間が長かった。我々の中で一番距離が近い。ゆえに感じることも多いのだろう。
「イルちゃんはただ、精霊がいないのが怖かったの。だから自分が痛いのも怖いのも肩代わりするから、ここへ来てと願った。純粋で濁りのない、ただ真っ直ぐな思いをぶつけたわ。だから奇跡が起きたのよ」
神が口にする奇跡は、あり得ない状況を意味する。作った世界の住人へ気まぐれに与える奇跡ではない。絶対に存在しないはずの、幸せへの道標だ。それをイルは無邪気に招き寄せた。
清濁併せ呑んだ神々には、決して届かない高みで。幼子はすべてを救ったのだ。あれだけの境遇を経て、まだ救われて間もない子が。誰も恨まず、幸せになれと願った。
「イル様らしいですね」
「本当よ」
鼻を啜って我慢を台無しにしたルミエルは、ぐいと涙を拭った。それから吹っ切れたように笑う。
「イルちゃんがくれた精霊って、種類があるのよ。今までと違う複雑な世界を組み上げてみせるわ。こんな素敵な贈り物なら、それ以上の付加価値を付けて返さなくちゃ」
ルミエルの手に集まった光は、数十ほど。今までなら世界を創造するには足りないが、新しい精霊は力に満ちていた。
「せっかくだから、精霊族を作ってみてはどうでしょうか。精霊達の属性を保ったままで、新しい種族として組み込むのです」
提案はすぐに受け入れられた。精霊をただのエネルギー扱いではなく、幼子イルのように人として接する。与えられた形をそのまま利用する。この考えに、ゼルクやサフィも同調した。
「新しい種族なんて久しぶりだわ。立ち位置は魔族と同等くらいかしら」
サフィが手を叩く。
「ん? うちは魔族と獣族の上に置こうと思ってる。その方がバランス取れそうだし」
すでに案を練りながらゼルクは精霊を撫でた。
「なるほど……変革とは、そういう意味ですか」
閃くように浮かんだのは、各世界を管理する神々の変化だ。当たり前のように上下関係が出来上がり、世界創造の考えが偏り、他者に己のやり方を押し付ける。固着した概念を、イルは壊したのだ。
一度すべて瓦解した上に組み上げられる世界は、どの神の手によるものでも美しいだろう。そう思えること、新しい種族を生み出そうと考えたこと。すべてがイル様の手柄だった。これこそが変革だったのだ。
古い考えを脱ぎ捨て、神々はまだ変化できる。未来を切り拓いた幼子は、無邪気に精霊を生み出し続けていた。
「愛し子が欲しいので、人族も共存させてみましょうかね」
イルのような愛し子が自分に舞い降りるなら、大嫌いな人族さえ許容できる気がした。
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