【完結】絶対神の愛し子 ~色違いで生まれた幼子は愛を知る~

綾雅(ヤンデレ攻略対象、電子書籍化)

文字の大きさ
上 下
99 / 105

99.大きな心境の変化(シュハザSIDE)

しおりを挟む
 私の名を呼べずに「シュー」と縮める幼子、何もできず庇護される存在のはずが。彼女は意図せず、予言をひっくり返した。

「解釈違いだなんて、拍子抜けしたぜ」

「崩壊だの変革だの、怖がりすぎたわね」

 ゼルクもサフィも理解していない。予言は当初の解釈で正しかった。神々が作った世界は崩壊し、精霊が消えて再生不可能になる。その引き金が幼い愛し子であることも、変革がさらなる滅びを意味することも。

 すべて正しい。それをイル様は一人で覆してしまった。絶対神である対のアドラメリク様の力も借りず、己一人が願うだけで……いとも簡単に成し遂げたのだ。

「イル様でなければ、崩壊し、変革によって全てを失っただろう」

「私もそう思うわ」

 ルミエルが泣きそうな顔で無理やり笑う。作った顔でいなければ、涙が溢れるのだと声を震わせた。それが嫌で堪えている。彼女はイル様と接する時間が長かった。我々の中で一番距離が近い。ゆえに感じることも多いのだろう。

「イルちゃんはただ、精霊がいないのが怖かったの。だから自分が痛いのも怖いのも肩代わりするから、ここへ来てと願った。純粋で濁りのない、ただ真っ直ぐな思いをぶつけたわ。だから奇跡が起きたのよ」

 神が口にする奇跡は、あり得ない状況を意味する。作った世界の住人へ気まぐれに与える奇跡ではない。絶対に存在しないはずの、幸せへの道標だ。それをイルは無邪気に招き寄せた。

 清濁併せ呑んだ神々には、決して届かない高みで。幼子はすべてを救ったのだ。あれだけの境遇を経て、まだ救われて間もない子が。誰も恨まず、幸せになれと願った。

「イル様らしいですね」

「本当よ」

 鼻を啜って我慢を台無しにしたルミエルは、ぐいと涙を拭った。それから吹っ切れたように笑う。

「イルちゃんがくれた精霊って、種類があるのよ。今までと違う複雑な世界を組み上げてみせるわ。こんな素敵な贈り物なら、それ以上の付加価値を付けて返さなくちゃ」

 ルミエルの手に集まった光は、数十ほど。今までなら世界を創造するには足りないが、新しい精霊は力に満ちていた。

「せっかくだから、精霊族を作ってみてはどうでしょうか。精霊達の属性を保ったままで、新しい種族として組み込むのです」

 提案はすぐに受け入れられた。精霊をただのエネルギー扱いではなく、幼子イルのように人として接する。与えられた形をそのまま利用する。この考えに、ゼルクやサフィも同調した。

「新しい種族なんて久しぶりだわ。立ち位置は魔族と同等くらいかしら」

 サフィが手を叩く。

「ん? うちは魔族と獣族の上に置こうと思ってる。その方がバランス取れそうだし」

 すでに案を練りながらゼルクは精霊を撫でた。

「なるほど……変革とは、そういう意味ですか」

 閃くように浮かんだのは、各世界を管理する神々の変化だ。当たり前のように上下関係が出来上がり、世界創造の考えが偏り、他者に己のやり方を押し付ける。固着した概念を、イルは壊したのだ。

 一度すべて瓦解した上に組み上げられる世界は、どの神の手によるものでも美しいだろう。そう思えること、新しい種族を生み出そうと考えたこと。すべてがイル様の手柄だった。これこそが変革だったのだ。

 古い考えを脱ぎ捨て、神々はまだ変化できる。未来を切り拓いた幼子は、無邪気に精霊を生み出し続けていた。

「愛し子が欲しいので、人族も共存させてみましょうかね」

 イルのような愛し子が自分に舞い降りるなら、大嫌いな人族さえ許容できる気がした。
しおりを挟む
感想 99

あなたにおすすめの小説

(完結)「君を愛することはない」と言われて……

青空一夏
恋愛
ずっと憧れていた方に嫁げることになった私は、夫となった男性から「君を愛することはない」と言われてしまった。それでも、彼に尽くして温かい家庭をつくるように心がければ、きっと愛してくださるはずだろうと思っていたのよ。ところが、彼には好きな方がいて忘れることができないようだったわ。私は彼を諦めて実家に帰ったほうが良いのかしら? この物語は憧れていた男性の妻になったけれど冷たくされたお嬢様を守る戦闘侍女たちの活躍と、お嬢様の恋を描いた作品です。 主人公はお嬢様と3人の侍女かも。ヒーローの存在感増すようにがんばります! という感じで、それぞれの視点もあります。 以前書いたもののリメイク版です。多分、かなりストーリーが変わっていくと思うので、新しい作品としてお読みください。 ※カクヨム。なろうにも時差投稿します。 ※作者独自の世界です。

[完結]いらない子と思われていた令嬢は・・・・・・

青空一夏
恋愛
私は両親の目には映らない。それは妹が生まれてから、ずっとだ。弟が生まれてからは、もう私は存在しない。 婚約者は妹を選び、両親は当然のようにそれを喜ぶ。 「取られる方が悪いんじゃないの? 魅力がないほうが負け」 妹の言葉を肯定する家族達。 そうですか・・・・・・私は邪魔者ですよね、だから私はいなくなります。 ※以前投稿していたものを引き下げ、大幅に改稿したものになります。

十三回目の人生でようやく自分が悪役令嬢ポジと気づいたので、もう殿下の邪魔はしませんから構わないで下さい!

翠玉 結
恋愛
公爵令嬢である私、エリーザは挙式前夜の式典で命を落とした。 「貴様とは、婚約破棄する」と残酷な事を突きつける婚約者、王太子殿下クラウド様の手によって。 そしてそれが一度ではなく、何度も繰り返していることに気が付いたのは〖十三回目〗の人生。 死んだ理由…それは、毎回悪役令嬢というポジションで立ち振る舞い、殿下の恋路を邪魔していたいたからだった。 どう頑張ろうと、殿下からの愛を受け取ることなく死ぬ。 その結末をが分かっているならもう二度と同じ過ちは繰り返さない! そして死なない!! そう思って殿下と関わらないようにしていたのに、 何故か前の記憶とは違って、まさかのご執心で溺愛ルートまっしぐらで?! 「殿下!私、死にたくありません!」 ✼••┈┈┈┈••✼••┈┈┈┈••✼ ※他サイトより転載した作品です。

完結 貴族生活を棄てたら王子が追って来てメンドクサイ。

音爽(ネソウ)
恋愛
王子の婚約者になってから様々な嫌がらせを受けるようになった侯爵令嬢。 王子は助けてくれないし、母親と妹まで嫉妬を向ける始末。 貴族社会が嫌になった彼女は家出を決行した。 だが、有能がゆえに王子妃に選ばれた彼女は追われることに……

【完結】もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?

冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。 オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。 だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。 その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・ 「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」 「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」

【完結】私はいてもいなくても同じなのですね ~三人姉妹の中でハズレの私~

紺青
恋愛
マルティナはスコールズ伯爵家の三姉妹の中でハズレの存在だ。才媛で美人な姉と愛嬌があり可愛い妹に挟まれた地味で不器用な次女として、家族の世話やフォローに振り回される生活を送っている。そんな自分を諦めて受け入れているマルティナの前に、マルティナの思い込みや常識を覆す存在が現れて―――家族にめぐまれなかったマルティナが、強引だけど優しいブラッドリーと出会って、少しずつ成長し、別離を経て、再生していく物語。 ※三章まで上げて落とされる鬱展開続きます。 ※因果応報はありますが、痛快爽快なざまぁはありません。 ※なろうにも掲載しています。

【完結】精霊に選ばれなかった私は…

まりぃべる
ファンタジー
ここダロックフェイ国では、5歳になると精霊の森へ行く。精霊に選んでもらえれば、将来有望だ。 しかし、キャロル=マフェソン辺境伯爵令嬢は、精霊に選んでもらえなかった。 選ばれた者は、王立学院で将来国の為になるべく通う。 選ばれなかった者は、教会の学校で一般教養を学ぶ。 貴族なら、より高い地位を狙うのがステータスであるが…? ☆世界観は、緩いですのでそこのところご理解のうえ、お読み下さるとありがたいです。

廃妃の再婚

束原ミヤコ
恋愛
伯爵家の令嬢としてうまれたフィアナは、母を亡くしてからというもの 父にも第二夫人にも、そして腹違いの妹にも邪険に扱われていた。 ある日フィアナは、川で倒れている青年を助ける。 それから四年後、フィアナの元に国王から結婚の申し込みがくる。 身分差を気にしながらも断ることができず、フィアナは王妃となった。 あの時助けた青年は、国王になっていたのである。 「君を永遠に愛する」と約束をした国王カトル・エスタニアは 結婚してすぐに辺境にて部族の反乱が起こり、平定戦に向かう。 帰還したカトルは、族長の娘であり『精霊の愛し子』と呼ばれている美しい女性イルサナを連れていた。 カトルはイルサナを寵愛しはじめる。 王城にて居場所を失ったフィアナは、聖騎士ユリシアスに下賜されることになる。 ユリシアスは先の戦いで怪我を負い、顔の半分を包帯で覆っている寡黙な男だった。 引け目を感じながらフィアナはユリシアスと過ごすことになる。 ユリシアスと過ごすうち、フィアナは彼と惹かれ合っていく。 だがユリシアスは何かを隠しているようだ。 それはカトルの抱える、真実だった──。

処理中です...