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96.崩壊や変革も従えて(絶対神SIDE)
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何も知らない神々は、己の守る世界の崩壊に混乱した。過去の予言を思い出し、最後に生まれた愛し子を殺せと騒ぐ。
――崩壊が始まる。その引き金は一人の愛し子で、進んだ崩壊の先で変革がもたらされるだろう。
不吉な崩壊が入った予言は、神ならば誰でも知っている。引き金が愛し子と記されているが、その子をイルだと断定する理由はない。だが最後に生まれた子が引き金になったに違いないと、彼らは考えた。分かりやすい構図だが、大事な部分が抜けている。
変革は悪い意味とは限らないのだ。イルをめぐって、絶対神が二人消えた。それ自体が崩壊であり、新しい神々が選出されたり生まれる可能性が、変革だとしたら?
精霊を生み出したイルは、神々より上位の存在になる。己を守る力を持たず、ただ無邪気に愛情を受け取って返す。無力だからこそ、彼女が鍵だった。
「イル、精霊を皆に見せてやろう」
「うん?」
返事か疑問か。いや、両方なのだろう。精霊を見せることに反対しないが、意味がわからない。素直なイルを抱き上げ、扉を開いた。すでにシアラの世界に侵入した神々は、険しい顔をしていた。だが……イルの手から生まれる精霊に気付き、目を見開いて固まる。
「イル、精霊を増やしていいぞ」
「いっぱい?」
「そうだ」
攻撃を避けるための結界はルミエルが張った。その上で、サフィやゼルクが控えている。すぐにシュハザも合流した。
神格を上げたシアラがのそりと現れる。この世界がシアラの創造物である以上、ここで一番強大な権力を持つのは彼だった。
「絶対神アドラメリク様……その子は」
「俺の愛し子だ。お前達が不吉だと騒いだが、消えた精霊を生み出している。これでも不吉だと?」
威圧を放ちながら、数十に及ぶ神々を睨む。ぺちんと頬に小さな手が触れた。
「イル?」
「なかよし、して」
こてりと首を傾げ、喧嘩はダメだと訴える。この幼さで、誰より大人の振る舞いをしていた。数人の神が膝をつき、両手を掲げて精霊を呼ぶ。応える精霊がふわりと指先に舞い降りた。
「許された者から帰れ」
己の世界に戻り、その精霊を増やすといい。圧倒的な強さと神格の高さを誇る俺の声に、また数人が膝をついた。きょとんとしたイルは、両手を擦り合わせるように動かす。ふわふわと生まれる光は、精霊の卵と言っていいだろう。
幻想的な姿だった。精霊の中には、元の人型を取り戻す個体もいる。そういった強い精霊は、イルに掴まって離れようとしなかった。これこそ答えだ。
気づけば、集まった神の大半は姿を消した。残った神もゆっくりと手を伸ばし、精霊を受け取って頭を下げる。
「メリク、あのね」
イルがおずおずと口を開いた。もしかして疲れたのか? 心配になって顔を覗くと、その心が伝わってくる。
お腹空いちゃった。
愛らしい申し出に、くくっと喉が震える。笑った俺にイルも笑う。ルミエルが腕まくりをして「ご飯を作るわ」と気合を入れるが、すぐに「お前の料理は雑だからな」とゼルクがまぜっ返した。
言い合う二人にシュハザが仲裁を始めると、サフィは我関せずで家に入って行った。
「イルちゃんの口に入るご飯は、私が作るから」
追いかけていく部下を見送り、シアラと顔を見合わせる。
「壊されなくてよかった」
「悪かったな」
「いいえ、こんなに精霊が多い世界はここくらいですから」
しれっと精霊を大量確保したシアラに、俺は声を立てて笑った。食事の準備ができたのか、いい香りがする。全員で食卓を囲んだ。膝に乗せたイルは、嬉しいと口にしながらパンを齧る。スープ、果物、野菜、肉……以前より多く口にして、幸せそうだ。
満足するまで食べて、しっかり昼寝をさせた。眠っている間も精霊を生み出し続けるのには、ちょっと驚いたが。イルらしいかもしれないな。
――崩壊が始まる。その引き金は一人の愛し子で、進んだ崩壊の先で変革がもたらされるだろう。
不吉な崩壊が入った予言は、神ならば誰でも知っている。引き金が愛し子と記されているが、その子をイルだと断定する理由はない。だが最後に生まれた子が引き金になったに違いないと、彼らは考えた。分かりやすい構図だが、大事な部分が抜けている。
変革は悪い意味とは限らないのだ。イルをめぐって、絶対神が二人消えた。それ自体が崩壊であり、新しい神々が選出されたり生まれる可能性が、変革だとしたら?
精霊を生み出したイルは、神々より上位の存在になる。己を守る力を持たず、ただ無邪気に愛情を受け取って返す。無力だからこそ、彼女が鍵だった。
「イル、精霊を皆に見せてやろう」
「うん?」
返事か疑問か。いや、両方なのだろう。精霊を見せることに反対しないが、意味がわからない。素直なイルを抱き上げ、扉を開いた。すでにシアラの世界に侵入した神々は、険しい顔をしていた。だが……イルの手から生まれる精霊に気付き、目を見開いて固まる。
「イル、精霊を増やしていいぞ」
「いっぱい?」
「そうだ」
攻撃を避けるための結界はルミエルが張った。その上で、サフィやゼルクが控えている。すぐにシュハザも合流した。
神格を上げたシアラがのそりと現れる。この世界がシアラの創造物である以上、ここで一番強大な権力を持つのは彼だった。
「絶対神アドラメリク様……その子は」
「俺の愛し子だ。お前達が不吉だと騒いだが、消えた精霊を生み出している。これでも不吉だと?」
威圧を放ちながら、数十に及ぶ神々を睨む。ぺちんと頬に小さな手が触れた。
「イル?」
「なかよし、して」
こてりと首を傾げ、喧嘩はダメだと訴える。この幼さで、誰より大人の振る舞いをしていた。数人の神が膝をつき、両手を掲げて精霊を呼ぶ。応える精霊がふわりと指先に舞い降りた。
「許された者から帰れ」
己の世界に戻り、その精霊を増やすといい。圧倒的な強さと神格の高さを誇る俺の声に、また数人が膝をついた。きょとんとしたイルは、両手を擦り合わせるように動かす。ふわふわと生まれる光は、精霊の卵と言っていいだろう。
幻想的な姿だった。精霊の中には、元の人型を取り戻す個体もいる。そういった強い精霊は、イルに掴まって離れようとしなかった。これこそ答えだ。
気づけば、集まった神の大半は姿を消した。残った神もゆっくりと手を伸ばし、精霊を受け取って頭を下げる。
「メリク、あのね」
イルがおずおずと口を開いた。もしかして疲れたのか? 心配になって顔を覗くと、その心が伝わってくる。
お腹空いちゃった。
愛らしい申し出に、くくっと喉が震える。笑った俺にイルも笑う。ルミエルが腕まくりをして「ご飯を作るわ」と気合を入れるが、すぐに「お前の料理は雑だからな」とゼルクがまぜっ返した。
言い合う二人にシュハザが仲裁を始めると、サフィは我関せずで家に入って行った。
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追いかけていく部下を見送り、シアラと顔を見合わせる。
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「悪かったな」
「いいえ、こんなに精霊が多い世界はここくらいですから」
しれっと精霊を大量確保したシアラに、俺は声を立てて笑った。食事の準備ができたのか、いい香りがする。全員で食卓を囲んだ。膝に乗せたイルは、嬉しいと口にしながらパンを齧る。スープ、果物、野菜、肉……以前より多く口にして、幸せそうだ。
満足するまで食べて、しっかり昼寝をさせた。眠っている間も精霊を生み出し続けるのには、ちょっと驚いたが。イルらしいかもしれないな。
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