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第3章 陰陽師、囚われる

25.***謝罪***

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「やりすぎじゃねえか?」

「構わないさ。近いうちに頭下げにくるから」

 北斗が近づくと、まだ華炎や華守流は警戒している。直接遮ることはないが、失った信頼は簡単に戻らないのだ。理解しているから、北斗も手が触れる位置まで近づこうとしなかった。新しい絆を結ぶまで、徐々に距離を詰めていくしかない。

「ほら……来ただろ?」

 真桜が指差す先、門に複数の貴族達が現れる。その中に中将やその息子の姿を見つけ、陰陽師達は顔を顰めた。大きな寺を借りているため、本堂で貴族達と向き合う。

「最上殿、怒りを納めてくださいませんか」

「嫌です」

 丁重に満面の笑顔でお断りする。後ろに座る陰陽師達も一様に頷いていた。

 いままで散々利用して扱き使っておいて、都合よく「許せ」と言われたら断るのが筋だ。人の感情は複雑でいて簡単だった。大切にされれば大切にしようとするが、乱暴に扱われたら相応の対応しか出来ない。

「主上もお困りになりますから」

「主上が勅旨を手ずから書いてくださったのですよ。何もお困りになりません」

 遠まわしに「他人のせいにして逃げるじゃねえ」と告げる真桜が、ふと視線を庭へ向けた。傾き始めた日差しが大きく長い影を作る庭の様子に、帝の勅旨が書かれた扇を広げて顔を隠す。

「はてさて、夕餉の支度をしましょうか」

 話はこれで終わりと立ち上がろうとした真桜の態度は、取り付く島もない。さすがに貴族達も気付かざるを得なかった。

 真桜は言霊による謝罪を求めているのだ。自らの罪を認め、謝罪して許しを請う。簡単だが貴族だからこそ難しい行為を要求していた。優雅な仕草で立ち上がり、そのまま本堂を出ようとした真桜の背に声がかかる。

「最上殿、申し訳なかった」

 問題を起こした中将ではなく、藤原家に繋がる大貴族が静かに頭を下げる。国や都のために動くことが出来る、ある意味まっとうな貴族だった。鮮やかな緑の衣を床に敷いたように頭を下げた彼に釣られて、数人の貴族が続いた。

 こてりと首を傾げたアカリが口を挟む。

「何を謝っておるのだ? こたびの騒動か、真桜への非礼か。はたまた我らを鬼呼ばわりしたことか。理由も分からぬ謝罪など、響かぬ」

 ばっさり切り捨てるアカリの辛辣さに、陰陽師達は息を飲んだ。アカリの言い分は理解できるが、どこまでいっても陰陽師は平民だ。貴族とは違う。

「アカリ、そう冷たく切り捨てるもんじゃない」

 とりなすように口元を扇で隠したままの真桜が、穏やかに続けた。

「彼らは謝罪はおろか、感謝すら満足に出来ない方々なのだ。問い詰めても理解できないのだよ」

 同情を装った、アカリ以上に辛辣な言葉の刃に、誰も声を上げられなかった。触れたら切れそうな緊迫感が漂う本堂で、真桜は大きく溜め息を吐く。

「お帰りください」
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