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第3章 陰陽師、囚われる
17.***贄代***
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失敗した……中将の地位にいる男は青ざめた。帝や大臣の覚えめでたい陰陽師を貶めて引き摺り下ろさなくてはならないと思っていたのだ。
だから息子を陰陽師の屋敷へ偵察にやった。最上という陰陽師の異常な能力を報告されるや、すぐに糾弾して噂を広める。そこに己の意志が存在しないと気付かぬまま、操り糸に従って動いた。
他の貴族達も不満があったのか、一緒になって騒ぎ始めた。広がる噂に不思議な満足と達成感に包み込まれる。心地よさに溺れて思考を放棄した結果が、これだ。
陰陽師たちが淡々と説いた状況に、貴族はみな我に返った。帝の覚えめでたい存在を罵った責任を、彼らは負わないだろう。当然、誰かを悪者にして押し付ける。そして……今、その標的は自分自身だった。
誰も庇わない、誰も許さない、誰も助けない。
地位も荘園も奪われてしまう。混乱した男は悲鳴を上げて逃げ出した。中将の悲鳴に、最初に反応したのは貴族達だった。責任を取るべき獲物が逃げた状況に、慌てて彼を引きとめようと追いかける。
「まあ、待たれよ」
北斗が冷めた声で貴族達を留めた。逃げていく中将の背中が遠ざかるのを見送りながら、北斗は黒い瞳を細めて口元に笑みを浮かべる。冷たい声に込められた力に足を止めた貴族達は、青ざめた顔で後ろの男に向き直った。
「中将殿を悪者にするのは簡単だが、貴殿らも同じ行為をしたのであろう? 都一の陰陽師を化け物呼ばわりし、生贄にしろと叫んだ事実は言霊となって世に刻まれている」
僅かに顔を伏せて語る声は、貴族達を震え上がらせた。恐怖と混乱を煽る目的で、意図的に彼らから視線を逸らす。同時に声を低く抑え、口元の笑みを見せつけた。
「生贄が必要ならば、陰陽師より若く美しい姫君が望まれるだろう。さて、どちらの姫が名乗り出てくださるか」
ぐるりと貴族達に視線を流す。一斉に顔を背けたり視線を伏せる連中に、北斗は口角を持ち上げた。脅すのはこのくらいで足りるか。
友人を罵られた北斗は、当事者以上に腹を立てている。真桜本人が報復する気持ちを持たないなら、少しくらい意趣返しをしても罰は当たらないはずだ。
「なあ……どうする?」
貴族相手の言葉遣いを捨て去り、少し語尾を強めて促した。一斉に貴族達が悲鳴をあげて逃げていく。無様な姿を見つめる北斗は肩を竦め、後ろで睨みを利かせていた同僚たちを振り返った。
「そんなに怯えることないのに、な」
「悪霊でも見たのではありませんか?」
「おやおや、ついにおれも悪霊扱いか」
たちの悪い笑みを浮かべた陰陽師たちは、書きかけの札を放り出して帰宅準備を始めた。
だから息子を陰陽師の屋敷へ偵察にやった。最上という陰陽師の異常な能力を報告されるや、すぐに糾弾して噂を広める。そこに己の意志が存在しないと気付かぬまま、操り糸に従って動いた。
他の貴族達も不満があったのか、一緒になって騒ぎ始めた。広がる噂に不思議な満足と達成感に包み込まれる。心地よさに溺れて思考を放棄した結果が、これだ。
陰陽師たちが淡々と説いた状況に、貴族はみな我に返った。帝の覚えめでたい存在を罵った責任を、彼らは負わないだろう。当然、誰かを悪者にして押し付ける。そして……今、その標的は自分自身だった。
誰も庇わない、誰も許さない、誰も助けない。
地位も荘園も奪われてしまう。混乱した男は悲鳴を上げて逃げ出した。中将の悲鳴に、最初に反応したのは貴族達だった。責任を取るべき獲物が逃げた状況に、慌てて彼を引きとめようと追いかける。
「まあ、待たれよ」
北斗が冷めた声で貴族達を留めた。逃げていく中将の背中が遠ざかるのを見送りながら、北斗は黒い瞳を細めて口元に笑みを浮かべる。冷たい声に込められた力に足を止めた貴族達は、青ざめた顔で後ろの男に向き直った。
「中将殿を悪者にするのは簡単だが、貴殿らも同じ行為をしたのであろう? 都一の陰陽師を化け物呼ばわりし、生贄にしろと叫んだ事実は言霊となって世に刻まれている」
僅かに顔を伏せて語る声は、貴族達を震え上がらせた。恐怖と混乱を煽る目的で、意図的に彼らから視線を逸らす。同時に声を低く抑え、口元の笑みを見せつけた。
「生贄が必要ならば、陰陽師より若く美しい姫君が望まれるだろう。さて、どちらの姫が名乗り出てくださるか」
ぐるりと貴族達に視線を流す。一斉に顔を背けたり視線を伏せる連中に、北斗は口角を持ち上げた。脅すのはこのくらいで足りるか。
友人を罵られた北斗は、当事者以上に腹を立てている。真桜本人が報復する気持ちを持たないなら、少しくらい意趣返しをしても罰は当たらないはずだ。
「なあ……どうする?」
貴族相手の言葉遣いを捨て去り、少し語尾を強めて促した。一斉に貴族達が悲鳴をあげて逃げていく。無様な姿を見つめる北斗は肩を竦め、後ろで睨みを利かせていた同僚たちを振り返った。
「そんなに怯えることないのに、な」
「悪霊でも見たのではありませんか?」
「おやおや、ついにおれも悪霊扱いか」
たちの悪い笑みを浮かべた陰陽師たちは、書きかけの札を放り出して帰宅準備を始めた。
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