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第3章 陰陽師、囚われる

12.***疼痛***

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 顔を見せた北斗は息を飲んで、次に腹立ち紛れに拳を叩き付けた。

「っ! なんだ、これは!!」

 叫ぶ友人の姿に苦笑いを浮かべかけ、口角の腫れに顔を顰めた。ぴりりと走った痛みは、傷口の腫れに加えて切れた証拠だ。真桜の整った顔は、残念なくらい腫れていた。

「いててっ、まあ煽ったからな」

 門から出るなり殴られた真桜だが、本来は自分の身に結界を張っている。届く前に錯覚で触れることも出来ず、たたらを踏むのが通常だった。ましてや守護者である黒葉がいるのに、本来は傷を負うなど考えられなかった。

 隣で腕を組んで不満そうな顔をしている黒葉を見れば、命じられて手出し出来なかった事実が窺える。腫れた頬に手を添えた真桜が座敷牢の格子に近づいた。大きな格子は腕を通せる。頬の手を離して、北斗の震える拳に添えた。

 腫れた頬より、叩きつけられた友人の拳の方が痛い気がした。そして黒葉もひどく落ち込んでいる。悪いことをしてしまったと反省しきりの真桜は項垂れた。北斗の手がぎゅっと掴みかかってくる。爪が食い込むほどの強さに、彼の怒りが感じられた。

「お前は…自分を大切にしなさ過ぎる。都一の陰陽師、都守護みやこしゅごかなめなんだぞ」

 言い聞かせる声は、噛み締めた怒りを滲ませている。黒髪をぐしゃりと乱して溜め息をついた北斗が、座敷牢の前に座り込んだ。掴んでいた手が離される。

「どうする気だ?」

「情報集めは華守流に任せた。アカリは藤姫を守護につけたし、華炎も動いている。オレは手元に駒が届くまでここにいる」

「すぐ出してやれるが?」

 ひらひらと勅旨をちらつかせる北斗に、真桜は首を横に振って否定した。薄暗い牢は少しかび臭い。普段使われていないため、換気が悪いのだろう。

「折角閉じ込めてくれたんだ。このままでいい」

 監視係に陰陽師を割り振った検非違使が、何を考えているのかわからない。陰陽師が真桜を逃がすと期待している可能性もあった。だから北斗に笑顔で頼む。

「術を封じる札を書いて貼ってくれ」

「む………わかった」

 無駄なのに? と疑問が口をつきかけた北斗だが、すぐに真桜の表情から意図を読み取って頷く。多少渋い顔をしているが、なんとか納得してくれたらしい。

 陰陽師の間では常識だが、自分より霊力が高い相手に呪詛は通じない法則がある。そのため、この都に真桜の術や呪詛を跳ね返せるはいなかった。だが検非違使は知らないだろう。

「それより、葛藤つづらふじを手折ろうとする無粋な猿がいる。どうも政略的な問題のような気がするんだよな」

 今上帝の山吹が溺愛する妻、瑠璃姫は別名を青葛の君と言う。別名に絡めた隠語で、彼女を羨む貴族の調査を願う。ただの勘だという真桜だが、陰陽師の勘はバカにできない。確信を付いている可能性が高く、北斗はその意味を理解して「うーん」と唸った。

「おれより華守流のが優秀だろ」

「お前の調査結果が欲しいんだ」

 意味ありげな真桜の言霊に、北斗は肩を竦めてから頷いた。
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