【完結】陰陽師は神様のお気に入り

綾雅(ヤンデレ攻略対象、電子書籍化)

文字の大きさ
上 下
63 / 131
第3章 陰陽師、囚われる

02.***悪噂***

しおりを挟む
「というわけだ」

 北斗の説明に真桜は頭を抱えた。朝の出仕で突然門番に絡まれ、周囲の貴族は何やらひそひそ噂話に興じている。何かあったと考えるのは普通だが、その問題の中心が自分だと思わなかった。

 要約すると、ある貴族の息子が供と歩いていたところ、気になる屋敷があった。どうせ年頃の美しい姫がいないかと覗いたのだろう。そこにすさまじい美人がいたのだが、残念ながらアカリは男の姿だった。だがその後ろで箒が勝手に掃除をし、式盤が浮いている。

 只人でしかない貴族と供の童はさぞ驚いた筈だ。その勢いで叫んだら、なんと隠れていた紫陽花の木が風もないのに揺れて、自分達が見つかってしまった。

 ここまでは事実どおりだ。問題はこの先、貴族の息子の考えにある。

 ――この屋敷は呪われた、邪教の支配する地。

 周囲の貴族や知り合いに触れ回ったのだ。かなり混乱していたから気持ちは分からなくもないが、その騒ぎに便乗した連中がいた。元から陰陽師の存在をよく思わない一部の貴族達は、その噂話を上手に利用する。

 最終的に『陰陽師は悪、その筆頭が最上もがみ(真桜のあざ)殿だ。主上おかみは騙されている』に繋がった。

「なぜ、そうなる」

「お前がその貴族を放置したからじゃないか」

「だって自分の屋敷だぞ? 式神使おうが術を揮おうが、オレの領分だし勝手だろ」

 陰陽師が自分の屋敷で式神しきがみや陰陽術を使って何が悪い。真桜の言い分に、周囲の陰陽師たちに同情の色が浮かんだ。彼らも同様に式神やら式紙しきがみを使うのだ。

 勝手に不法侵入した挙句、腰抜かして逃げる貴族にどうしろと? 何より、陰陽師から術や式紙を奪ったら何も残らないのだが……。

 そもそも…幽霊が出た、妖が怖いとすぐ泣きつくくせに、陰陽師を蔑ろにする貴族が多すぎる。いっそ泣きつかれても無視していいなら、少しは陰陽師を敬ってくれるのか。ならば、連中に実害が出るまで放置してやるのも一手だ。

 物騒な考えが真桜の脳裏を過ぎる。

「お前、怖い顔してるぞ」

「いや、いっそ役目を放棄してやったら、もう少し陰陽師の地位が上がるのではないかと思った」

「思うのは自由だ……」

 北斗は呆れ顔で首を横に振った。声に出すなら、さほど思いつめていないと分かるからだ。本気で考えていたら、真桜は絶対に口にしない。いきなり行動に移して徹底的に敵を殲滅する部類なのだから。

「最上殿、主上から…」

「かしこまりました」

 丁寧に使者に一礼し、肩を落とした。どうせ今回の騒動の裏話を聞きたいのだ。ついでにその貴族とやらを特定しておこうと考え、先触れの女房から3歩送れて後を追った。
しおりを挟む
感想 6

あなたにおすすめの小説

シンメトリーの翼 〜天帝異聞奇譚〜

長月京子
恋愛
学院には立ち入りを禁じられた場所があり、鬼が棲んでいるという噂がある。 朱里(あかり)はクラスメートと共に、禁じられた場所へ向かった。 禁じられた場所へ向かう途中、朱里は端正な容姿の男と出会う。 ――君が望むのなら、私は全身全霊をかけて護る。 不思議な言葉を残して立ち去った男。 その日を境に、朱里の周りで、説明のつかない不思議な出来事が起こり始める。 ※本文中のルビは読み方ではなく、意味合いの場合があります。

我が家の家庭内順位は姫、犬、おっさんの順の様だがおかしい俺は家主だぞそんなの絶対に認めないからそんな目で俺を見るな

ミドリ
キャラ文芸
【奨励賞受賞作品です】 少し昔の下北沢を舞台に繰り広げられるおっさんが妖の闘争に巻き込まれる現代ファンタジー。 次々と増える居候におっさんの財布はいつまで耐えられるのか。 姫様に喋る犬、白蛇にイケメンまで来てしまって部屋はもうぎゅうぎゅう。 笑いあり涙ありのほのぼの時折ドキドキ溺愛ストーリー。ただのおっさん、三種の神器を手にバトルだって体に鞭打って頑張ります。 なろう・ノベプラ・カクヨムにて掲載中

ナマズの器

螢宮よう
キャラ文芸
時は、多種多様な文化が溶け合いはじめた時代の赤い髪の少女の物語。 不遇な赤い髪の女の子が過去、神様、因縁に巻き込まれながらも前向きに頑張り大好きな人たちを守ろうと奔走する和風ファンタジー。

【完結】転生7年!ぼっち脱出して王宮ライフ満喫してたら王国の動乱に巻き込まれた少女戦記 〜愛でたいアイカは救国の姫になる

三矢さくら
ファンタジー
【完結しました】異世界からの召喚に応じて6歳児に転生したアイカは、護ってくれる結界に逆に閉じ込められた結果、山奥でサバイバル生活を始める。 こんなはずじゃなかった! 異世界の山奥で過ごすこと7年。ようやく結界が解けて、山を下りたアイカは王都ヴィアナで【天衣無縫の無頼姫】の異名をとる第3王女リティアと出会う。 珍しい物好きの王女に気に入られたアイカは、なんと侍女に取り立てられて王宮に! やっと始まった異世界生活は、美男美女ぞろいの王宮生活! 右を見ても左を見ても「愛でたい」美人に美少女! 美男子に美少年ばかり! アイカとリティア、まだまだ幼い侍女と王女が数奇な運命をたどる異世界王宮ファンタジー戦記。

鬼の御宿の嫁入り狐

梅野小吹
キャラ文芸
▼2025.2月 書籍 第2巻発売中! 【第6回キャラ文芸大賞/あやかし賞 受賞作】  鬼の一族が棲まう隠れ里には、三つの尾を持つ妖狐の少女が暮らしている。  彼女──縁(より)は、腹部に火傷を負った状態で倒れているところを旅籠屋の次男・琥珀(こはく)によって助けられ、彼が縁を「自分の嫁にする」と宣言したことがきっかけで、羅刹と呼ばれる鬼の一家と共に暮らすようになった。  優しい一家に愛されてすくすくと大きくなった彼女は、天真爛漫な愛らしい乙女へと成長したものの、年頃になるにつれて共に育った琥珀や家族との種族差に疎外感を覚えるようになっていく。 「私だけ、どうして、鬼じゃないんだろう……」  劣等感を抱き、自分が鬼の家族にとって本当に必要な存在なのかと不安を覚える縁。  そんな憂いを抱える中、彼女の元に現れたのは、縁を〝花嫁〟と呼ぶ美しい妖狐の青年で……?  育ててくれた鬼の家族。  自分と同じ妖狐の一族。  腹部に残る火傷痕。  人々が語る『狐の嫁入り』──。  空の隙間から雨が降る時、小さな体に傷を宿して、鬼に嫁入りした少女の話。

真夜中の仕出し屋さん~料理上手な狛犬様と暮らすことになりました~

椿蛍
キャラ文芸
「結婚するか、化け物屋敷を管理するか」 仕事を辞めた私に、父は二つの選択肢を迫った。 料亭『吉浪』に働いて六年。 挫折し、料理を作れなくなってしまった―― 結婚を断り、私が選んだのは、化け物屋敷と父が呼ぶ、亡くなった祖父の家へ行くことだった。 祖父が亡くなって、店は閉まっているはずだったけれど、なぜか店は開いていて―― 初出:2024.5.10~ ※他サイト様に投稿したものを大幅改稿しております。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

完結【真】ご都合主義で生きてます。-創生魔法で思った物を創り、現代知識を使い世界を変える-

ジェルミ
ファンタジー
魔法は5属性、無限収納のストレージ。 自分の望んだものを創れる『創生魔法』が使える者が現れたら。 28歳でこの世を去った佐藤は、異世界の女神により転移を誘われる。 そして女神が授けたのは、想像した事を実現できる創生魔法だった。 安定した収入を得るために創生魔法を使い生産チートを目指す。 いずれは働かず、寝て暮らせる生活を目指して! この世界は無い物ばかり。 現代知識を使い生産チートを目指します。 ※カクヨム様にて1日PV数10,000超え、同時掲載しております。

処理中です...