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第2章 陰陽師、狂女に翻弄される

19.***鬼門***

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 根の国は、黄泉比良坂が唯一の出入り口とされる。もちろんこれは表向きの話で、実は抜け道と言うべき裏道が存在した。闇の神族の守護者である黒葉を含め、知っているのは両手の指に満たない人数だ。

 闇の主神の一人息子が知らない筈はなく、頭を抱えて唸ってしまった。

「あれ……は、天若てんじゃくの管轄だろ?」

 鬼に属する赤毛の悪友の名を出す。かつて生者であった死者が通るのは黄泉比良坂だが、鬼や妖の類だけが通る道があった。地上で『鬼門』と称される丑寅うしとら(北東)の方角だ。

 陰陽道では方角をさす言葉として伝わっているが、本来の意味は『妖が通るために作り出される』を示す。そして門は丑寅で開くのが世のことわりだった。

 順番が逆なのだ。丑寅が鬼門なのではなく、鬼門が開くから方角に紐付けて語られただけ。

 そして鬼門を管理する役目は、鬼の総領である天若が担っていた。

『すでに動いておられますよ』

「なら任せればいい」

『手が足りないのです』

 言外に”人に関わっている場合ではない”と匂わされ、むっとして顔を顰める。

 眩暈と熱で体調が悪い息子を引っ張り出そうとするくらいだから、きっと地の一族は手一杯なのだろう。想像はつくが、人間と神族の混じり者に期待されても……。

 かつて巫女である母が父神の子を身篭ったとき、闇の神族はこぞって胎児を殺そうとした。呪いに近い彼らの言動を、胎内にあって受け取っていた真桜は、正直”神族名乗るなら何とかしろ”としか思わない。

 神族だという誇りを持つのは結構だが、混血を嘲るなら相応の実力を見せて欲しいものだ。もっとも、彼らが束になってかかっても、真桜ひとり倒せないのだが。

「親父は何だって?」

『他の神族へ”いまさら真桜を頼ると言うなら、己で行くが良い”と』

「さすが闇の大神だ」

 苦笑いした黒葉が聞いたままを口にすれば、アカリが賞賛の声を向ける。神として混血を許さぬと口にした連中へ、痛烈な嫌味を返した闇王に好感を持ったらしい。

 確かに親父なら言いそうだ。真桜がふっと表情を和らげた。

 心労で倒れた妻は人間としても短命だった。混血の息子は同じ眷属から忌み嫌われ、命すら狙われた。だからこそ守護者”黒葉”を側近として与え、自らは眷属の抑えに回った闇王の心境は察して余りある。

「まあ、協力するのはやぶさかじゃない」
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