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第2章 陰陽師、狂女に翻弄される

11.***反発***

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 直後、建物の中から悲鳴が聞こえた。女性の甲高い声は遠くまで届く。屋敷の外で、真桜は頭を抱えて項垂うなだれた。

「……遅かった」

『何が問題だ?』

『権力者とは面倒な生き物で、己に非があっても認めない』

 華守流かるらの説明に、アカリは『なるほど……』と眉を顰めた。どうやら面倒な事態になったことは理解してくれたらしい。

 権力者は『自分は特別だ』と思い込む傾向が強い。そのため己が悪くとも、一切謝罪せず言い訳を押し切る輩も多かった。呪詛を仕掛けたのが己の側であっても、相手の姫君を悪者にして逃げるだろう。

 そして浮気相手の姫を庇ったと判断されれば、一介いっかいの陰陽師という肩書きの真桜に責任を押し付ける。場合によっては、まるで真桜が呪詛を行ったと勘違いさせるような言い訳をつけて。

『どうする』

 華炎かえいの呟きに、真桜は天を仰いで溜め息を吐いた。冷えた空気を、吐息が白く彩る。ぐしゃっと前髪を乱して「仕方ないか」と肩を竦めた。

「助けるしかないだろ」

『何故だ』

 アカリの声色は、理不尽な真桜の呟きを否定する。

 呪詛とは、もっとも忌むべき手段だ。対人関係がこじれた結果、呪詛で他者を強制的に排除する最低の行為だった。

 人を呪わば穴ふたつ――対象者と術者は両方死ぬ。その覚悟なくして、呪詛に手を出した者を助ける必要はなかった。手を差し伸べる義理もない。

 アカリの言い分はもっともだ。呪われた対象を助けても、術者を助ける義務はなかった。陰陽師であろうとも……いや、都の闇を司る陰陽師であるからこそ、術者に返した呪いは遮らないのが通例。

 負の力を増大させて対象に叩きつけるのが、呪いだ。呪詛返しは、その負の力が働く方向を捻じ曲げる術式だった。つまり、術者に返るのは己が放った負の力そのものだ。

 他者を殺そうと刃を振り上げ、その刃を弾かれて己に突き立てるとして助ける必要がないのと同じ。それを助けると言い出した真桜に対する反発は、アカリも式神たちも感じた。

『権力者だから助けるのか?』

 はっきり『権力に媚びる気か』と断罪するアカリの辛辣な物言いに、真桜は苦笑いしてアカリの目を見つめる。半透明の神族としてのまったき姿を持つアカリは、蒼い瞳を逸らそうともしない。本来の美しい蒼が怒りに煌いた。

「権力者じゃなくても助けるよ。オレは闇神の連なりだぞ? これ以上『咎持ち』を増やしても面倒なだけだ。現世で償ってもらうさ」

 普段の人懐こい笑みが嘘のように、真桜は黒い笑みを浮かべた。
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