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229.久しぶりに三人で夕食
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まだ回復していないエルヴィンを囲み、伯爵家は離れで夕食を摂る。そう聞いて、私とレオンは本邸に戻った。寒くなる前に帰らないと、歩く間に風邪をひいてしまう。
「旦那様の馬車が見えます」
本邸の玄関先で聞こえた音に立ち止まると、振り返ったリリーが出迎えの位置に移動した。
「お父様が帰ったわ、レオン。お出迎えしましょうね」
「うん!」
レオンはご機嫌で頷くも、鼻を啜る。やだ、風邪ひかせちゃったかしら。抱き上げたレオンの手が、いつも通り首に回される、ひやっとした。失敗したわ、上着を着せていけばよかった。
まだ暖かい時間だったので、油断したわ。エルヴィンに猫の話をしていたら、予定より長居になったのも原因ね。頬を寄せて、冷えた手を包んで温める。
「あたかぃ」
「寒かったのね、次からは教えて頂戴」
こくんと頭を縦に振るが、レオンに寒かった自覚はなさそう。不思議そうな顔をしていた。
「帰った」
「お疲れ様でした、ヘンリック様。お帰りなさいませ」
「おぁえり! まちぇ!」
つまみ食いしたような挨拶でも、ヘンリック様は嬉しそう。近づいて手を伸ばし、ぴたりと止まった。
「洗ってくる」
「はい。食堂でお待ちしますね」
手を洗う習慣は、私が使用人を通じて徹底してきた。この屋敷に来てから、かなり口うるさく広めたの。ヘンリック様もフランクやベルントに言われ、この頃は習慣付いてきたようだ。
これだけで病気を家に持ち込む可能性が、かなり下がる。この世界の医術はさほど進んでいないから、罹ってからだと大変なのよ。食堂へ向かう途中で、私達も手を洗った。もちろんうがいも忘れない。
レオンはまだ上を向いてのうがいは危険で、口を漱ぐだけに留めた。前に真似して、飲んじゃったのよ。しかも咳き込んだから苦しそうで、可哀想になったわ。
「でき、た」
「えらいわ、レオン。ご飯のお部屋に行きましょうね」
ふんふんとご機嫌のレオンはなにやら歌っている様子。鼻歌に近いが、猫がどうとかこうとか。歌詞は聞き取れなかった。
「レオンのお歌は上手ね。あとで聴かせてほしいわ」
「いぃよ」
先ほどより大きめの声で歌いながら、レオンは食堂に足を踏み入れた。気のせいかしら、先ほどと曲が違うみたい。
寒さが厳しくなるようで、窓ガラスは曇っていた。室内は暖炉に火が入り、半袖で生活できそうなくらい暖かい。ヘンリック様と三人で円卓を囲み、今日の出来事をお互いに報告する。レオンは興奮した様子で、猫の大きさや色を説明した。
頷くヘンリック様と、両手を振り回して説明するレオン。本当に眼福だわ。ずっと見ていたいと心から願った。
「旦那様の馬車が見えます」
本邸の玄関先で聞こえた音に立ち止まると、振り返ったリリーが出迎えの位置に移動した。
「お父様が帰ったわ、レオン。お出迎えしましょうね」
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レオンはご機嫌で頷くも、鼻を啜る。やだ、風邪ひかせちゃったかしら。抱き上げたレオンの手が、いつも通り首に回される、ひやっとした。失敗したわ、上着を着せていけばよかった。
まだ暖かい時間だったので、油断したわ。エルヴィンに猫の話をしていたら、予定より長居になったのも原因ね。頬を寄せて、冷えた手を包んで温める。
「あたかぃ」
「寒かったのね、次からは教えて頂戴」
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「お疲れ様でした、ヘンリック様。お帰りなさいませ」
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「でき、た」
「えらいわ、レオン。ご飯のお部屋に行きましょうね」
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「レオンのお歌は上手ね。あとで聴かせてほしいわ」
「いぃよ」
先ほどより大きめの声で歌いながら、レオンは食堂に足を踏み入れた。気のせいかしら、先ほどと曲が違うみたい。
寒さが厳しくなるようで、窓ガラスは曇っていた。室内は暖炉に火が入り、半袖で生活できそうなくらい暖かい。ヘンリック様と三人で円卓を囲み、今日の出来事をお互いに報告する。レオンは興奮した様子で、猫の大きさや色を説明した。
頷くヘンリック様と、両手を振り回して説明するレオン。本当に眼福だわ。ずっと見ていたいと心から願った。
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