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227.夢かも? と心配になるの
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引き取る猫については、改めて相談することにした。家主で家長のヘンリック様に尋ねるのが、順番よね。母猫も候補に入るので、大切に保護してくれるよう伝える。猫達の餌代の足しになれば、と少しばかり置いてきた。
恐縮しきりのご家族は、猫を保護する優しい人達だ。子を産む母猫に安心できる場所を提供し、今もこうして引き取り手を探しているのだから。引き取る日まで預けても不安はなかった。母猫も餌が貰えるなら、逃げ出したりはしないだろう。
帰り際、レオンは母猫に何度も手を振った。双子も名残惜しそうにしている。犬がいいと言ったけれど、ユリアンは猫も好きみたいね。馬車に乗り込む際、侍従に休暇を与えた。せっかく実家に戻ったのだし、数日ゆっくりして帰ってきたらいいわ。
一礼する彼に見送られ、私達は馬車に揺られる。摘んだ菜の花は、紙袋に入れられていた。レオンは覗き込んで、にこにこしている。食べられると聞いたから、楽しみなのかも。特別おいしいものではないが、話のタネに経験しておくのも大事だ。緊急時に、役立つかもしれない。
公爵家の料理人は腕がいいから、美味しく味付けされて出てきそうだけれど。ふふっと笑う。最初の頃は食べ方がよくわからなくて、近くの料理屋の奥さんに尋ねたっけ。懐かしく思い出しながら、レオンと小さな手遊びをした。
音を立てて手を合わせたり、拍手をしたり。相手がした仕草を真似する遊びよ。少しずつ複雑にして、レオンが頑張ってついてくる。お勉強の一環で取り入れてもいいかも。エルヴィンとはよく遊んだわね。双子が生まれてからは忙しくて、あまり構ってあげられなかった。
後でお見舞いがてら、様子を見に行こう。うつる病ではないから、一緒にレオンも連れて。疲れたレオンが寝転がり、膝に頭を預ける。黒髪を撫でながら、外の景色に目を向けた。
こんな立派な馬車で、可愛いレオンと外出するなんて……以前の私では想像できなかったでしょう。契約婚と割り切った旦那様も、今は歩み寄りをみせている。平和で穏やかな日常に慣れてきたけれど、時々いまが夢なのでは? と心配になるの。
目が覚めたら何もなくて、私は大急ぎで家族の食事をつくっているんじゃないか、って。レオンやヘンリック様がいなかったら寂しいし、使用人達と会えなくなっても悲しいわ。
見えてきた屋敷に頬が緩む。日常となった風景が近づき、熟睡しているレオンに目を細めた。起こすのは可哀想ね。抱き上げたレオンの腕が首に回される。無意識の信頼が嬉しいわ。
出迎えのフランクが支えようとするも、心配いらないと首を横に振った。双子がそわそわしながらついてくる。
「一緒にお昼寝する?」
声をかけ、頷いた二人と絨毯の部屋で寝転がった。侍女が大急ぎで毛布を運んでくる。柔らかくて大きなクッションを敷いて、皆で仲良く休んだ。服の皺が気になったのは一瞬だけ。抱きついた温もりに、眠りへと引き込まれてしまった。抗えないわ。
恐縮しきりのご家族は、猫を保護する優しい人達だ。子を産む母猫に安心できる場所を提供し、今もこうして引き取り手を探しているのだから。引き取る日まで預けても不安はなかった。母猫も餌が貰えるなら、逃げ出したりはしないだろう。
帰り際、レオンは母猫に何度も手を振った。双子も名残惜しそうにしている。犬がいいと言ったけれど、ユリアンは猫も好きみたいね。馬車に乗り込む際、侍従に休暇を与えた。せっかく実家に戻ったのだし、数日ゆっくりして帰ってきたらいいわ。
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公爵家の料理人は腕がいいから、美味しく味付けされて出てきそうだけれど。ふふっと笑う。最初の頃は食べ方がよくわからなくて、近くの料理屋の奥さんに尋ねたっけ。懐かしく思い出しながら、レオンと小さな手遊びをした。
音を立てて手を合わせたり、拍手をしたり。相手がした仕草を真似する遊びよ。少しずつ複雑にして、レオンが頑張ってついてくる。お勉強の一環で取り入れてもいいかも。エルヴィンとはよく遊んだわね。双子が生まれてからは忙しくて、あまり構ってあげられなかった。
後でお見舞いがてら、様子を見に行こう。うつる病ではないから、一緒にレオンも連れて。疲れたレオンが寝転がり、膝に頭を預ける。黒髪を撫でながら、外の景色に目を向けた。
こんな立派な馬車で、可愛いレオンと外出するなんて……以前の私では想像できなかったでしょう。契約婚と割り切った旦那様も、今は歩み寄りをみせている。平和で穏やかな日常に慣れてきたけれど、時々いまが夢なのでは? と心配になるの。
目が覚めたら何もなくて、私は大急ぎで家族の食事をつくっているんじゃないか、って。レオンやヘンリック様がいなかったら寂しいし、使用人達と会えなくなっても悲しいわ。
見えてきた屋敷に頬が緩む。日常となった風景が近づき、熟睡しているレオンに目を細めた。起こすのは可哀想ね。抱き上げたレオンの腕が首に回される。無意識の信頼が嬉しいわ。
出迎えのフランクが支えようとするも、心配いらないと首を横に振った。双子がそわそわしながらついてくる。
「一緒にお昼寝する?」
声をかけ、頷いた二人と絨毯の部屋で寝転がった。侍女が大急ぎで毛布を運んでくる。柔らかくて大きなクッションを敷いて、皆で仲良く休んだ。服の皺が気になったのは一瞬だけ。抱きついた温もりに、眠りへと引き込まれてしまった。抗えないわ。
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