【書籍化進行中】契約婚ですが可愛い継子を溺愛します

綾雅(ヤンデレ攻略対象、電子書籍化)

文字の大きさ
上 下
227 / 274

227.夢かも? と心配になるの

しおりを挟む
 引き取る猫については、改めて相談することにした。家主で家長のヘンリック様に尋ねるのが、順番よね。母猫も候補に入るので、大切に保護してくれるよう伝える。猫達の餌代の足しになれば、と少しばかり置いてきた。

 恐縮しきりのご家族は、猫を保護する優しい人達だ。子を産む母猫に安心できる場所を提供し、今もこうして引き取り手を探しているのだから。引き取る日まで預けても不安はなかった。母猫も餌が貰えるなら、逃げ出したりはしないだろう。

 帰り際、レオンは母猫に何度も手を振った。双子も名残惜しそうにしている。犬がいいと言ったけれど、ユリアンは猫も好きみたいね。馬車に乗り込む際、侍従に休暇を与えた。せっかく実家に戻ったのだし、数日ゆっくりして帰ってきたらいいわ。

 一礼する彼に見送られ、私達は馬車に揺られる。摘んだ菜の花は、紙袋に入れられていた。レオンは覗き込んで、にこにこしている。食べられると聞いたから、楽しみなのかも。特別おいしいものではないが、話のタネに経験しておくのも大事だ。緊急時に、役立つかもしれない。

 公爵家の料理人は腕がいいから、美味しく味付けされて出てきそうだけれど。ふふっと笑う。最初の頃は食べ方がよくわからなくて、近くの料理屋の奥さんに尋ねたっけ。懐かしく思い出しながら、レオンと小さな手遊びをした。

 音を立てて手を合わせたり、拍手をしたり。相手がした仕草を真似する遊びよ。少しずつ複雑にして、レオンが頑張ってついてくる。お勉強の一環で取り入れてもいいかも。エルヴィンとはよく遊んだわね。双子が生まれてからは忙しくて、あまり構ってあげられなかった。

 後でお見舞いがてら、様子を見に行こう。うつる病ではないから、一緒にレオンも連れて。疲れたレオンが寝転がり、膝に頭を預ける。黒髪を撫でながら、外の景色に目を向けた。

 こんな立派な馬車で、可愛いレオンと外出するなんて……以前の私では想像できなかったでしょう。契約婚と割り切った旦那様も、今は歩み寄りをみせている。平和で穏やかな日常に慣れてきたけれど、時々いまが夢なのでは? と心配になるの。

 目が覚めたら何もなくて、私は大急ぎで家族の食事をつくっているんじゃないか、って。レオンやヘンリック様がいなかったら寂しいし、使用人達と会えなくなっても悲しいわ。

 見えてきた屋敷に頬が緩む。日常となった風景が近づき、熟睡しているレオンに目を細めた。起こすのは可哀想ね。抱き上げたレオンの腕が首に回される。無意識の信頼が嬉しいわ。

 出迎えのフランクが支えようとするも、心配いらないと首を横に振った。双子がそわそわしながらついてくる。

「一緒にお昼寝する?」

 声をかけ、頷いた二人と絨毯の部屋で寝転がった。侍女が大急ぎで毛布を運んでくる。柔らかくて大きなクッションを敷いて、皆で仲良く休んだ。服の皺が気になったのは一瞬だけ。抱きついた温もりに、眠りへと引き込まれてしまった。抗えないわ。
しおりを挟む
感想 640

あなたにおすすめの小説

《完結》愛する人と結婚するだけが愛じゃない

ぜらいす黒糖
恋愛
オリビアはジェームズとこのまま結婚するだろうと思っていた。 ある日、可愛がっていた後輩のマリアから「先輩と別れて下さい」とオリビアは言われた。 ジェームズに確かめようと部屋に行くと、そこにはジェームズとマリアがベッドで抱き合っていた。 ショックのあまり部屋を飛び出したオリビアだったが、気がつくと走る馬車の前を歩いていた。

婚約破棄 ~家名を名乗らなかっただけ

青の雀
恋愛
シルヴィアは、隣国での留学を終え5年ぶりに生まれ故郷の祖国へ帰ってきた。 今夜、王宮で開かれる自身の婚約披露パーティに出席するためである。 婚約者とは、一度も会っていない親同士が決めた婚約である。 その婚約者と会うなり「家名を名乗らない平民女とは、婚約破棄だ。」と言い渡されてしまう。 実は、シルヴィアは王女殿下であったのだ。

妹に婚約者を奪われたので妹の服を全部売りさばくことに決めました

常野夏子
恋愛
婚約者フレデリックを妹ジェシカに奪われたクラリッサ。 裏切りに打ちひしがれるも、やがて復讐を決意する。 ジェシカが莫大な資金を投じて集めた高級服の数々――それを全て売りさばき、彼女の誇りを粉々に砕くのだ。

初耳なのですが…、本当ですか?

あおくん
恋愛
侯爵令嬢の次女として、父親の仕事を手伝ったり、邸の管理をしたりと忙しくしているアニーに公爵家から婚約の申し込みが来た! でも実際に公爵家に訪れると、異世界から来たという少女が婚約者の隣に立っていて…。

皇太女の暇つぶし

Ruhuna
恋愛
ウスタリ王国の学園に留学しているルミリア・ターセンは1年間の留学が終わる卒園パーティーの場で見に覚えのない罪でウスタリ王国第2王子のマルク・ウスタリに婚約破棄を言いつけられた。 「貴方とは婚約した覚えはありませんが?」 *よくある婚約破棄ものです *初投稿なので寛容な気持ちで見ていただけると嬉しいです

結婚30年、契約満了したので離婚しませんか?

おもちのかたまり
恋愛
恋愛・小説 11位になりました! 皆様ありがとうございます。 「私、旦那様とお付き合いも甘いやり取りもしたことが無いから…ごめんなさい、ちょっと他人事なのかも。もちろん、貴方達の事は心から愛しているし、命より大事よ。」 眉根を下げて笑う母様に、一発じゃあ足りないなこれは。と確信した。幸い僕も姉さん達も祝福持ちだ。父様のような力極振りではないけれど、三対一なら勝ち目はある。 「じゃあ母様は、父様が嫌で離婚するわけではないんですか?」 ケーキを幸せそうに頬張っている母様は、僕の言葉にきょとん。と目を見開いて。…もしかすると、母様にとって父様は、関心を向ける程の相手ではないのかもしれない。嫌な予感に、今日一番の寒気がする。 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇ 20年前に攻略対象だった父親と、悪役令嬢の取り巻きだった母親の現在のお話。 ハッピーエンド・バットエンド・メリーバットエンド・女性軽視・女性蔑視 上記に当てはまりますので、苦手な方、ご不快に感じる方はお気を付けください。

美しい容姿の義妹は、私の婚約者を奪おうとしました。だったら、貴方には絶望してもらいましょう。

久遠りも
恋愛
美しい容姿の義妹は、私の婚約者を奪おうとしました。だったら、貴方には絶望してもらいましょう。 ※一話完結です。 ゆるゆる設定です。

もういいです、離婚しましょう。

うみか
恋愛
そうですか、あなたはその人を愛しているのですね。 もういいです、離婚しましょう。

処理中です...