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224.かつての食料を発見
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レオンが身を乗り出してケガをしないように。そんな思いで窓に寄って、レオンの腰に腕を回す。これなら支えるのが間に合うはず。
「おかぁしゃま、あれ!」
何かを教えようと騒ぐレオンに釣られ、顔を上げて驚いた。見覚えのある景色だわ。この辺りって、シュミット伯爵邸がある地域よね。王都に屋敷があるといえば聞こえがいいけれど、実際のところは領地の屋敷を親戚に取られたの。いま残っているのは、お母様名義だった屋敷だけ。
私がケンプフェルト公爵家に嫁いでから、ヘンリック様が調べて異常に気付いた。親族から領地や屋敷を取り戻す手続きを行なうらしい。王家に届け出なく、伯爵領の領主が代わっていたら問題なのはわかるわ。正すのが文官の仕事なのも、納得できた。
領地の管理にお金が掛かると言われ、無心されてお父様ったらお金を払っていたのよ。私も成人間近になるまで知らなかった。道理で、私達の生活が困窮するはずね。その辺もヘンリック様にお任せしている。現在は管理人が派遣され、税収もきちんと報告されていた。
お母様が亡くなられてから不幸続きと思っていた我が家は、単にお父様がお人好し過ぎた……の一点で片付くの。もっと早く気付いたら、あの子達にお腹いっぱいご飯を食べさせることができたのに。弟妹のやや小柄な体を思って溜め息を吐く。
「あれ!」
レオンが再び気を引き、私は埒もない考えから抜け出した。目の前に広がるのは黄色い花畑だ。あれは湯掻いて塩味で食べたり、油で揚げて食べたり。季節が来るたびお世話になった。懐かしい味を思い出し、遠い目になる。
「綺麗なお花ね」
「うん……ほちぃ」
花を指さして強請るので、馬車を止めることにした。後ろの馬車から降りたユリアーナも、レオンと一緒に花束を作り始める。
「これ、よく食べたやつだ」
うっかりユリアンが溢した一言に、レオンが反応する。
「たべ、ゆ?」
じっと花を見つめてから、こてりと首を傾げる。蕾を食べるのと教えて、まだ蕾が多い数本を手折った。一口二口食べたら満足するでしょう。味見分くらいでいいわね。そう思ったのに、マーサがしっかり摘んでいた。
「猫ちゃんが待ってるわよ」
レオンの気を逸らし、また馬車に乗り込む。揺れる馬車が次に止まったのは、一軒の商家だった。一般的な住宅ではなく、倉庫や事務所が併設された家だ。ここは確かに……ネズミ捕りの猫が必要かも。納得しながら客間に通された。
侍従の実家である商家は、公爵家に穀物を販売している。その伝手で次男が就職したようだ。すぐに大きな籠が運ばれてきた。平民のベビーベッドである籠は、木の蔓を絡めて編んでいる。中に布を敷いて、母猫が横になっていた。
白黒茶の三毛猫だ。そのお腹にしがみ付いてお乳を飲むのは、三匹の子猫だった。白くて足に黒い靴下を履いた女の子、母親に似た三毛の子、最後はサビ猫で男の子かしら。三毛は今の体勢では性別の判断ができない。一般的には女の子ね。
「うわぁ」
「可愛い!」
「どの子もいいなぁ」
子供達は猫に夢中だが、見るだけと言い聞かせた。母猫は我が子を守ろうとするし、子猫も驚いてしまうから、と。手を出さない約束をした三人は、小さな手を繋ぐ。これならうっかり触る心配もないわね。
「おかぁしゃま、あれ!」
何かを教えようと騒ぐレオンに釣られ、顔を上げて驚いた。見覚えのある景色だわ。この辺りって、シュミット伯爵邸がある地域よね。王都に屋敷があるといえば聞こえがいいけれど、実際のところは領地の屋敷を親戚に取られたの。いま残っているのは、お母様名義だった屋敷だけ。
私がケンプフェルト公爵家に嫁いでから、ヘンリック様が調べて異常に気付いた。親族から領地や屋敷を取り戻す手続きを行なうらしい。王家に届け出なく、伯爵領の領主が代わっていたら問題なのはわかるわ。正すのが文官の仕事なのも、納得できた。
領地の管理にお金が掛かると言われ、無心されてお父様ったらお金を払っていたのよ。私も成人間近になるまで知らなかった。道理で、私達の生活が困窮するはずね。その辺もヘンリック様にお任せしている。現在は管理人が派遣され、税収もきちんと報告されていた。
お母様が亡くなられてから不幸続きと思っていた我が家は、単にお父様がお人好し過ぎた……の一点で片付くの。もっと早く気付いたら、あの子達にお腹いっぱいご飯を食べさせることができたのに。弟妹のやや小柄な体を思って溜め息を吐く。
「あれ!」
レオンが再び気を引き、私は埒もない考えから抜け出した。目の前に広がるのは黄色い花畑だ。あれは湯掻いて塩味で食べたり、油で揚げて食べたり。季節が来るたびお世話になった。懐かしい味を思い出し、遠い目になる。
「綺麗なお花ね」
「うん……ほちぃ」
花を指さして強請るので、馬車を止めることにした。後ろの馬車から降りたユリアーナも、レオンと一緒に花束を作り始める。
「これ、よく食べたやつだ」
うっかりユリアンが溢した一言に、レオンが反応する。
「たべ、ゆ?」
じっと花を見つめてから、こてりと首を傾げる。蕾を食べるのと教えて、まだ蕾が多い数本を手折った。一口二口食べたら満足するでしょう。味見分くらいでいいわね。そう思ったのに、マーサがしっかり摘んでいた。
「猫ちゃんが待ってるわよ」
レオンの気を逸らし、また馬車に乗り込む。揺れる馬車が次に止まったのは、一軒の商家だった。一般的な住宅ではなく、倉庫や事務所が併設された家だ。ここは確かに……ネズミ捕りの猫が必要かも。納得しながら客間に通された。
侍従の実家である商家は、公爵家に穀物を販売している。その伝手で次男が就職したようだ。すぐに大きな籠が運ばれてきた。平民のベビーベッドである籠は、木の蔓を絡めて編んでいる。中に布を敷いて、母猫が横になっていた。
白黒茶の三毛猫だ。そのお腹にしがみ付いてお乳を飲むのは、三匹の子猫だった。白くて足に黒い靴下を履いた女の子、母親に似た三毛の子、最後はサビ猫で男の子かしら。三毛は今の体勢では性別の判断ができない。一般的には女の子ね。
「うわぁ」
「可愛い!」
「どの子もいいなぁ」
子供達は猫に夢中だが、見るだけと言い聞かせた。母猫は我が子を守ろうとするし、子猫も驚いてしまうから、と。手を出さない約束をした三人は、小さな手を繋ぐ。これならうっかり触る心配もないわね。
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