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216.各貴族家の違い ***SIDE公爵
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反省した様子を見せるのは、バルツァー子爵家の次男だ。母親と参加したが、母の涙でまずい状況を理解したらしい。頭も悪くない。俺には経験はないが、母親の涙は辛いと以前部下が口にした。母親の部分を女性や妻に置き換えたら、俺も納得する。
シラー男爵家の次男には、父親が言い聞かせた。なぜ悪いのか、どうして周囲が怒っているのか。爵位や親の立場だけでなく、正しいことを教えようとしていた。自分より弱い者がいたら守る、幼い子には手助けする。それだけの事だが、難しいのだろう。べそをかく息子に、根気強く話す姿は立派だった。
その点で、ヘルダー伯爵家は些か対応が悪い。同行した母親は必死に頭を下げるが、当事者の三男に反省はなかった。それどころか、ティール侯爵令息にすべての責任を擦りつける発言をする。性根を叩き直す必要がありそうだ。
己の罪を隠そうとするだけならまだしも、自分の分まで誰かに被らせようとする。貴族社会から排除されても仕方ない暴挙だった。高位の者ほど、こういう気質を嫌う。シラー男爵家やバルツァー子爵家は生き残るだろうが、このままではヘルダー伯爵家の未来はないな。
言い訳じみた発言をするたび、バルツァー子爵令息が否定する。一進一退で足踏みする状況に、俺より先にバルシュミューデ公爵夫人が動いた。腹を立てた彼女が、ぱちんと派手な音を立てて扇を畳む。その音は、実のない争いに終止符を打った。
「私、気の長い方ではありませんの。各家に当家からご連絡させていただきますわ……よろしいですね?」
まったくもって「よろしくない」状況を告げられ、青ざめながらも保護者は頷いた。息子の首を掴んで出ていくのは子爵夫人だ。元騎士だったというが、なんとも豪快な女性だな。先ほども息子の頭を容赦なく叩いていた。あの教育環境で、どうしてティール侯爵令息の取り巻きになったのか。
シラー男爵は、息子に頭を下げさせてから退室した。後ろからエルヴィンを襲おうとした行いは卑怯だが、頭は悪くないのだろう。
ここでふと気づいた。子育ての差は、こんな風に出てくるのか……と。レオンを放置したあの頃の自分が恐ろしくなった。
震えるヘルダー伯爵夫人が、ふらりと倒れる。気を失った母親を咄嗟に受け止めようとして、三男は膝をついて崩れた。体は成長して大きくなっても、基礎がない。騎士として鍛えた者なら、自分より大きくても支えたはずだ。侍従が手を貸して、夫人を運び出した。
冷静に分析しながら、壁際で待つ弟達に視線を向ける。彼らの話をまだ聞いていなかった。アマーリアが育てたなら、言い訳に終始する心配はない。何を語ってくれるのか。
「エルヴィン、ユリアン。どちらが先に話すか決めろ」
「僕から、いいでしょうか」
エルヴィンが一歩進み出る。作法通り、片足を引いて順番に挨拶をした。バランスが整った美しい礼だ。軽い会釈で応え、左側の公爵夫人も微笑みを返す。先ほどの恐ろしい表情が嘘のようだった。
貴族夫人の表と裏、なんとも頼もしい。だが不思議と、アマーリアには似合わないと……そう感じた。
シラー男爵家の次男には、父親が言い聞かせた。なぜ悪いのか、どうして周囲が怒っているのか。爵位や親の立場だけでなく、正しいことを教えようとしていた。自分より弱い者がいたら守る、幼い子には手助けする。それだけの事だが、難しいのだろう。べそをかく息子に、根気強く話す姿は立派だった。
その点で、ヘルダー伯爵家は些か対応が悪い。同行した母親は必死に頭を下げるが、当事者の三男に反省はなかった。それどころか、ティール侯爵令息にすべての責任を擦りつける発言をする。性根を叩き直す必要がありそうだ。
己の罪を隠そうとするだけならまだしも、自分の分まで誰かに被らせようとする。貴族社会から排除されても仕方ない暴挙だった。高位の者ほど、こういう気質を嫌う。シラー男爵家やバルツァー子爵家は生き残るだろうが、このままではヘルダー伯爵家の未来はないな。
言い訳じみた発言をするたび、バルツァー子爵令息が否定する。一進一退で足踏みする状況に、俺より先にバルシュミューデ公爵夫人が動いた。腹を立てた彼女が、ぱちんと派手な音を立てて扇を畳む。その音は、実のない争いに終止符を打った。
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まったくもって「よろしくない」状況を告げられ、青ざめながらも保護者は頷いた。息子の首を掴んで出ていくのは子爵夫人だ。元騎士だったというが、なんとも豪快な女性だな。先ほども息子の頭を容赦なく叩いていた。あの教育環境で、どうしてティール侯爵令息の取り巻きになったのか。
シラー男爵は、息子に頭を下げさせてから退室した。後ろからエルヴィンを襲おうとした行いは卑怯だが、頭は悪くないのだろう。
ここでふと気づいた。子育ての差は、こんな風に出てくるのか……と。レオンを放置したあの頃の自分が恐ろしくなった。
震えるヘルダー伯爵夫人が、ふらりと倒れる。気を失った母親を咄嗟に受け止めようとして、三男は膝をついて崩れた。体は成長して大きくなっても、基礎がない。騎士として鍛えた者なら、自分より大きくても支えたはずだ。侍従が手を貸して、夫人を運び出した。
冷静に分析しながら、壁際で待つ弟達に視線を向ける。彼らの話をまだ聞いていなかった。アマーリアが育てたなら、言い訳に終始する心配はない。何を語ってくれるのか。
「エルヴィン、ユリアン。どちらが先に話すか決めろ」
「僕から、いいでしょうか」
エルヴィンが一歩進み出る。作法通り、片足を引いて順番に挨拶をした。バランスが整った美しい礼だ。軽い会釈で応え、左側の公爵夫人も微笑みを返す。先ほどの恐ろしい表情が嘘のようだった。
貴族夫人の表と裏、なんとも頼もしい。だが不思議と、アマーリアには似合わないと……そう感じた。
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