【書籍化進行中】契約婚ですが可愛い継子を溺愛します

綾雅(ヤンデレ攻略対象、電子書籍化)

文字の大きさ
上 下
216 / 274

216.各貴族家の違い ***SIDE公爵

しおりを挟む
 反省した様子を見せるのは、バルツァー子爵家の次男だ。母親と参加したが、母の涙でまずい状況を理解したらしい。頭も悪くない。俺には経験はないが、母親の涙は辛いと以前部下が口にした。母親の部分を女性や妻に置き換えたら、俺も納得する。

 シラー男爵家の次男には、父親が言い聞かせた。なぜ悪いのか、どうして周囲が怒っているのか。爵位や親の立場だけでなく、正しいことを教えようとしていた。自分より弱い者がいたら守る、幼い子には手助けする。それだけの事だが、難しいのだろう。べそをかく息子に、根気強く話す姿は立派だった。

 その点で、ヘルダー伯爵家は些か対応が悪い。同行した母親は必死に頭を下げるが、当事者の三男に反省はなかった。それどころか、ティール侯爵令息にすべての責任を擦りつける発言をする。性根を叩き直す必要がありそうだ。

 己の罪を隠そうとするだけならまだしも、自分の分まで誰かに被らせようとする。貴族社会から排除されても仕方ない暴挙だった。高位の者ほど、こういう気質を嫌う。シラー男爵家やバルツァー子爵家は生き残るだろうが、このままではヘルダー伯爵家の未来はないな。

 言い訳じみた発言をするたび、バルツァー子爵令息が否定する。一進一退で足踏みする状況に、俺より先にバルシュミューデ公爵夫人が動いた。腹を立てた彼女が、ぱちんと派手な音を立てて扇を畳む。その音は、実のない争いに終止符を打った。

「私、気の長い方ではありませんの。各家に当家からご連絡させていただきますわ……よろしいですね?」

 まったくもって「よろしくない」状況を告げられ、青ざめながらも保護者は頷いた。息子の首を掴んで出ていくのは子爵夫人だ。元騎士だったというが、なんとも豪快な女性だな。先ほども息子の頭を容赦なく叩いていた。あの教育環境で、どうしてティール侯爵令息の取り巻きになったのか。

 シラー男爵は、息子に頭を下げさせてから退室した。後ろからエルヴィンを襲おうとした行いは卑怯だが、頭は悪くないのだろう。

 ここでふと気づいた。子育ての差は、こんな風に出てくるのか……と。レオンを放置したあの頃の自分が恐ろしくなった。

 震えるヘルダー伯爵夫人が、ふらりと倒れる。気を失った母親を咄嗟に受け止めようとして、三男は膝をついて崩れた。体は成長して大きくなっても、基礎がない。騎士として鍛えた者なら、自分より大きくても支えたはずだ。侍従が手を貸して、夫人を運び出した。

 冷静に分析しながら、壁際で待つ弟達に視線を向ける。彼らの話をまだ聞いていなかった。アマーリアが育てたなら、言い訳に終始する心配はない。何を語ってくれるのか。

「エルヴィン、ユリアン。どちらが先に話すか決めろ」

「僕から、いいでしょうか」

 エルヴィンが一歩進み出る。作法通り、片足を引いて順番に挨拶をした。バランスが整った美しい礼だ。軽い会釈で応え、左側の公爵夫人も微笑みを返す。先ほどの恐ろしい表情が嘘のようだった。

 貴族夫人の表と裏、なんとも頼もしい。だが不思議と、アマーリアには似合わないと……そう感じた。
しおりを挟む
感想 640

あなたにおすすめの小説

《完結》愛する人と結婚するだけが愛じゃない

ぜらいす黒糖
恋愛
オリビアはジェームズとこのまま結婚するだろうと思っていた。 ある日、可愛がっていた後輩のマリアから「先輩と別れて下さい」とオリビアは言われた。 ジェームズに確かめようと部屋に行くと、そこにはジェームズとマリアがベッドで抱き合っていた。 ショックのあまり部屋を飛び出したオリビアだったが、気がつくと走る馬車の前を歩いていた。

婚約破棄 ~家名を名乗らなかっただけ

青の雀
恋愛
シルヴィアは、隣国での留学を終え5年ぶりに生まれ故郷の祖国へ帰ってきた。 今夜、王宮で開かれる自身の婚約披露パーティに出席するためである。 婚約者とは、一度も会っていない親同士が決めた婚約である。 その婚約者と会うなり「家名を名乗らない平民女とは、婚約破棄だ。」と言い渡されてしまう。 実は、シルヴィアは王女殿下であったのだ。

結婚30年、契約満了したので離婚しませんか?

おもちのかたまり
恋愛
恋愛・小説 11位になりました! 皆様ありがとうございます。 「私、旦那様とお付き合いも甘いやり取りもしたことが無いから…ごめんなさい、ちょっと他人事なのかも。もちろん、貴方達の事は心から愛しているし、命より大事よ。」 眉根を下げて笑う母様に、一発じゃあ足りないなこれは。と確信した。幸い僕も姉さん達も祝福持ちだ。父様のような力極振りではないけれど、三対一なら勝ち目はある。 「じゃあ母様は、父様が嫌で離婚するわけではないんですか?」 ケーキを幸せそうに頬張っている母様は、僕の言葉にきょとん。と目を見開いて。…もしかすると、母様にとって父様は、関心を向ける程の相手ではないのかもしれない。嫌な予感に、今日一番の寒気がする。 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇ 20年前に攻略対象だった父親と、悪役令嬢の取り巻きだった母親の現在のお話。 ハッピーエンド・バットエンド・メリーバットエンド・女性軽視・女性蔑視 上記に当てはまりますので、苦手な方、ご不快に感じる方はお気を付けください。

初耳なのですが…、本当ですか?

あおくん
恋愛
侯爵令嬢の次女として、父親の仕事を手伝ったり、邸の管理をしたりと忙しくしているアニーに公爵家から婚約の申し込みが来た! でも実際に公爵家に訪れると、異世界から来たという少女が婚約者の隣に立っていて…。

皇太女の暇つぶし

Ruhuna
恋愛
ウスタリ王国の学園に留学しているルミリア・ターセンは1年間の留学が終わる卒園パーティーの場で見に覚えのない罪でウスタリ王国第2王子のマルク・ウスタリに婚約破棄を言いつけられた。 「貴方とは婚約した覚えはありませんが?」 *よくある婚約破棄ものです *初投稿なので寛容な気持ちで見ていただけると嬉しいです

妹に婚約者を奪われたので妹の服を全部売りさばくことに決めました

常野夏子
恋愛
婚約者フレデリックを妹ジェシカに奪われたクラリッサ。 裏切りに打ちひしがれるも、やがて復讐を決意する。 ジェシカが莫大な資金を投じて集めた高級服の数々――それを全て売りさばき、彼女の誇りを粉々に砕くのだ。

美しい容姿の義妹は、私の婚約者を奪おうとしました。だったら、貴方には絶望してもらいましょう。

久遠りも
恋愛
美しい容姿の義妹は、私の婚約者を奪おうとしました。だったら、貴方には絶望してもらいましょう。 ※一話完結です。 ゆるゆる設定です。

国境に捨てられたら隣国の若き公爵に拾われました

宵闇 月
恋愛
ゲームの悪役令嬢に転生し、国境に捨てられたら隣国の公爵にお持ち帰りされました。

処理中です...