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215.ずっと一緒だから安心して
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柔らかな黒髪に指を絡め、何度も丁寧に梳く。撫でる動きに誘われて、レオンの瞼がとろんと落ちた。慌てて起きようとするので、その目を手で覆う。
「おかぁ、しゃ……ま?」
「寝ていいわ。ずっと一緒にいるから、こうして指を絡めていましょうね」
心配しないよう先回りして、レオンの指をしっかり掴む。一本ずつ交互にして触れ合う場所を増やし、見えないのを承知で微笑んだ。こういう表情や感情は、仕草になったり声色になったりして伝わるの。覆いの手を外すと、レオンは私を見上げた。
「いっちょ?」
なぜか、泣くのではないかと思った。声にそんな響きは感じないのに、心で泣いているのかも。頷いて隣に横になった。もっと真ん中に寝かせればよかったわ。抱き起こして移動したら、完全に目が覚めちゃうだろうし。気遣いながら、後ろに寝返りを打たなければ平気かも、と呑気な考えが浮かぶ。
「レオンと一緒がいいわ」
こくんと縦に頭が揺れ、安心したのか深い息を吐き出した。そのまま眠りの中に落ちていく。レオンの呼吸の変化を確かめ、完全に眠ったのを確認してから中央へ移動させた。残った向こう側に回り込み、ユリアーナがベッドの縁に腰掛ける。
座った状態から上体を倒して、肘をついた。褒められた姿勢ではないが、レオンを見つめる視線は優しい。隣にランドルフ様も寝転がり、声を弾ませた。起こさないよう小声にしてくれたのは有難い。
「これ、いいな……母上にたのんでみよ」
ぼそぼそ聞こえる声は、心の中が駄々漏れだった。子供って自覚なくやるのよね。内心で納得しながら、聞かないフリをする。
「兄上も誘って、父上は嫌がるだろうか……お願いしてみよう」
一家団欒のキッカケになればいいわね。ユリアーナはレオンの寝顔を見つめ、あふっと欠伸を漏らした。手で口を押さえて隠すのも忘れない。こういうところ、私より社交向きだと思うわ。礼儀作法というより、常に人に見られている自覚があるみたい。
「お義兄様が迎えにきたら、起こしてね」
「わかったわ。ランドルフ様はどうなさいます?」
このまま一緒にお昼寝しますか。そんな軽い気持ちでの誘いに、しっかりした返事があった。
「っ、僕は……紳士ですから」
レオンはともかく、夫人や令嬢と眠るのはまずい。そんな口振りで飛び起きた。眠そうだったのに、すごいわ。
離れた位置にある応接用の長椅子に座り、ぴっと背筋を正した。ただ、目は開いたり閉じたり。眠そうな印象を受ける。
「僕が警護します」
「お任せするわ、ランドルフ様」
茶化す必要はないし、からかうこともない。この年頃は背伸びしたがるから……大人は否定せずに受け止めるだけでいいの。まっすぐ育っているようで安心したわ。
最初にレオンに絡んだ子も、それ以外の子も……おそらく環境が整っていない。衣食住が足りても、心の栄養は欠けている。そんな気がした。可哀想と感じる部分もあるので、まずは謝罪から始めましょう。
ヘンリック様がやり過ぎていないことを祈りつつ。私も静かに目を閉じた。胸元に擦り寄るレオンの温もりが、本当に心地よくて。意識は完全に落ちてしまった。
「おかぁ、しゃ……ま?」
「寝ていいわ。ずっと一緒にいるから、こうして指を絡めていましょうね」
心配しないよう先回りして、レオンの指をしっかり掴む。一本ずつ交互にして触れ合う場所を増やし、見えないのを承知で微笑んだ。こういう表情や感情は、仕草になったり声色になったりして伝わるの。覆いの手を外すと、レオンは私を見上げた。
「いっちょ?」
なぜか、泣くのではないかと思った。声にそんな響きは感じないのに、心で泣いているのかも。頷いて隣に横になった。もっと真ん中に寝かせればよかったわ。抱き起こして移動したら、完全に目が覚めちゃうだろうし。気遣いながら、後ろに寝返りを打たなければ平気かも、と呑気な考えが浮かぶ。
「レオンと一緒がいいわ」
こくんと縦に頭が揺れ、安心したのか深い息を吐き出した。そのまま眠りの中に落ちていく。レオンの呼吸の変化を確かめ、完全に眠ったのを確認してから中央へ移動させた。残った向こう側に回り込み、ユリアーナがベッドの縁に腰掛ける。
座った状態から上体を倒して、肘をついた。褒められた姿勢ではないが、レオンを見つめる視線は優しい。隣にランドルフ様も寝転がり、声を弾ませた。起こさないよう小声にしてくれたのは有難い。
「これ、いいな……母上にたのんでみよ」
ぼそぼそ聞こえる声は、心の中が駄々漏れだった。子供って自覚なくやるのよね。内心で納得しながら、聞かないフリをする。
「兄上も誘って、父上は嫌がるだろうか……お願いしてみよう」
一家団欒のキッカケになればいいわね。ユリアーナはレオンの寝顔を見つめ、あふっと欠伸を漏らした。手で口を押さえて隠すのも忘れない。こういうところ、私より社交向きだと思うわ。礼儀作法というより、常に人に見られている自覚があるみたい。
「お義兄様が迎えにきたら、起こしてね」
「わかったわ。ランドルフ様はどうなさいます?」
このまま一緒にお昼寝しますか。そんな軽い気持ちでの誘いに、しっかりした返事があった。
「っ、僕は……紳士ですから」
レオンはともかく、夫人や令嬢と眠るのはまずい。そんな口振りで飛び起きた。眠そうだったのに、すごいわ。
離れた位置にある応接用の長椅子に座り、ぴっと背筋を正した。ただ、目は開いたり閉じたり。眠そうな印象を受ける。
「僕が警護します」
「お任せするわ、ランドルフ様」
茶化す必要はないし、からかうこともない。この年頃は背伸びしたがるから……大人は否定せずに受け止めるだけでいいの。まっすぐ育っているようで安心したわ。
最初にレオンに絡んだ子も、それ以外の子も……おそらく環境が整っていない。衣食住が足りても、心の栄養は欠けている。そんな気がした。可哀想と感じる部分もあるので、まずは謝罪から始めましょう。
ヘンリック様がやり過ぎていないことを祈りつつ。私も静かに目を閉じた。胸元に擦り寄るレオンの温もりが、本当に心地よくて。意識は完全に落ちてしまった。
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