【書籍化進行中】契約婚ですが可愛い継子を溺愛します

綾雅(ヤンデレ攻略対象、電子書籍化)

文字の大きさ
上 下
212 / 274

212.バルシュミューデの未来の騎士

しおりを挟む
 廊下に出れば、ランドルフ様が姿勢を正して立っていた。学校で忘れ物をして、廊下に立たされた罰を思い出すわね。大人になる頃には、子供に対する体罰だと騒がれて禁止になったのよ。

「ランドルフ様、お願いがありますの。レオンやユリアーナ、それから私を守ってくださる?」

「はい!」

 騎士を目指すランドルフ様は目を輝かせ、案内役の執事に視線を向ける。バルシュミューデ公爵家の執事は、穏やかな口調で奥様の許可が出ていると伝えた。案内する彼の後ろにつき、ランドルフ様は気取った仕草で手を差し出す。

 久しぶりに抱っこしたレオンが、降りると騒いだ。友達の前で恥ずかしがっているのかも。下ろしたら、私と手を繋ぐ。反対の手をユリアーナに伸ばした。私の空いた手は、バルシュミューデ公爵家の誇り高き未来の騎士に託される。

 廊下が広いし、大人一人に子供三人だから大丈夫よね。四人で横に広がって歩いた。案内されたのはすぐ近くにある客間で、扉を開くとマーサとリリーが一礼する。廊下で待機していて、声を掛けられたらしい。

「レオンを落ち着かせたいの。ベッドをお借りするわね」

 長椅子よりゆっくりできるだろう。ケンプフェルト家も同じだが、大きなお屋敷にはベッド付きの宿泊用客室と、応接室に似た客室が完備されている。以前のシュミット伯爵家も、ご先祖様のお陰でやや大きめの屋敷だった。使わない部屋の掃除に手が回らず、客間は全滅だったのよね。

 使えない客間がないところが、お金持ちの証だわ。手配してくれた部屋が宿泊用なのは、幼い子供への配慮でしょう。有り難く受け取り、レオンをベッドに寝かせた。靴を脱がせ、胸元を緩める。

 ベッドの端に座った私の指先を、遠慮がちに握った。きゅっと力を込めて、行かないでと訴える。でも口は引き結んだまま。昨日までなら、可愛い声で強請ってくれたのに。悲しくなりながら、レオンの黒髪を撫でた。露わになった額にキスをする。

 くすぐったそうに笑うレオンに微笑みを返した。

「私もヘンリック様も……あなたを愛しているわ。レオン」

 だから、今まで通りにお話しして。そう付け加えたくなる。余計な部分を呑み込み、今はまだ早いと自らに言い聞かせた。混乱させてしまうわ。少し待ってから、促すようにしましょう。心の傷を小さくするには、大きく引き裂かないことが大切よ。

 ここで声を聴かせてと頼んでしまえば、レオンは応えようとする。自分を責めてしまう優しい子だから、無理をさせたくなかった。

 あの伯爵令息の話は気になるが、自己弁護に終始するなら後で結論だけ聞けば足りる。レオンを放置して聞く内容とも思えなかった。

「お姉様、ユリアンは……怒られちゃうの? 悪いことをしていないわ。レオン様を助けたかっただけで……」

 泣きそうな声に、こちらにも傷つきやすい子がいたのだと思い至る。普段はおしゃまで活発な子、家族思いな一面があり涙もろい。振り返った私は目を丸くした。涙を流すユリアーナへ、頬を赤く染めたランドルフ様がハンカチを差し出す。紳士的な行為に、ユリアーナも顔や耳を赤くしていた。

 愛の芽生える瞬間に、立ち会ってしまったのかしら。
しおりを挟む
感想 640

あなたにおすすめの小説

婚約破棄 ~家名を名乗らなかっただけ

青の雀
恋愛
シルヴィアは、隣国での留学を終え5年ぶりに生まれ故郷の祖国へ帰ってきた。 今夜、王宮で開かれる自身の婚約披露パーティに出席するためである。 婚約者とは、一度も会っていない親同士が決めた婚約である。 その婚約者と会うなり「家名を名乗らない平民女とは、婚約破棄だ。」と言い渡されてしまう。 実は、シルヴィアは王女殿下であったのだ。

妹に婚約者を奪われたので妹の服を全部売りさばくことに決めました

常野夏子
恋愛
婚約者フレデリックを妹ジェシカに奪われたクラリッサ。 裏切りに打ちひしがれるも、やがて復讐を決意する。 ジェシカが莫大な資金を投じて集めた高級服の数々――それを全て売りさばき、彼女の誇りを粉々に砕くのだ。

初耳なのですが…、本当ですか?

あおくん
恋愛
侯爵令嬢の次女として、父親の仕事を手伝ったり、邸の管理をしたりと忙しくしているアニーに公爵家から婚約の申し込みが来た! でも実際に公爵家に訪れると、異世界から来たという少女が婚約者の隣に立っていて…。

皇太女の暇つぶし

Ruhuna
恋愛
ウスタリ王国の学園に留学しているルミリア・ターセンは1年間の留学が終わる卒園パーティーの場で見に覚えのない罪でウスタリ王国第2王子のマルク・ウスタリに婚約破棄を言いつけられた。 「貴方とは婚約した覚えはありませんが?」 *よくある婚約破棄ものです *初投稿なので寛容な気持ちで見ていただけると嬉しいです

結婚30年、契約満了したので離婚しませんか?

おもちのかたまり
恋愛
恋愛・小説 11位になりました! 皆様ありがとうございます。 「私、旦那様とお付き合いも甘いやり取りもしたことが無いから…ごめんなさい、ちょっと他人事なのかも。もちろん、貴方達の事は心から愛しているし、命より大事よ。」 眉根を下げて笑う母様に、一発じゃあ足りないなこれは。と確信した。幸い僕も姉さん達も祝福持ちだ。父様のような力極振りではないけれど、三対一なら勝ち目はある。 「じゃあ母様は、父様が嫌で離婚するわけではないんですか?」 ケーキを幸せそうに頬張っている母様は、僕の言葉にきょとん。と目を見開いて。…もしかすると、母様にとって父様は、関心を向ける程の相手ではないのかもしれない。嫌な予感に、今日一番の寒気がする。 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇ 20年前に攻略対象だった父親と、悪役令嬢の取り巻きだった母親の現在のお話。 ハッピーエンド・バットエンド・メリーバットエンド・女性軽視・女性蔑視 上記に当てはまりますので、苦手な方、ご不快に感じる方はお気を付けください。

美しい容姿の義妹は、私の婚約者を奪おうとしました。だったら、貴方には絶望してもらいましょう。

久遠りも
恋愛
美しい容姿の義妹は、私の婚約者を奪おうとしました。だったら、貴方には絶望してもらいましょう。 ※一話完結です。 ゆるゆる設定です。

もういいです、離婚しましょう。

うみか
恋愛
そうですか、あなたはその人を愛しているのですね。 もういいです、離婚しましょう。

国境に捨てられたら隣国の若き公爵に拾われました

宵闇 月
恋愛
ゲームの悪役令嬢に転生し、国境に捨てられたら隣国の公爵にお持ち帰りされました。

処理中です...