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208.騒動から事件になった
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ユーリア様が用意してくれたのは、先ほどの倍もある立派な客間だった。子供の喧嘩の仲裁と考えれば立派すぎるが、公爵家嫡男を侮った不敬問題ならちょうどいい。つまり、ユーリア様……バルシュミューデ公爵家は今回の騒動を、子供の喧嘩で片付けないと宣言した形ね。
私もそれでいいと思うわ。たまたま公爵家嫡男のレオンが被害に遭ったけれど、ランドルフ様の口振りでは過去に似た騒動があった。その相手が侯爵家より下位の貴族だったら? 泣き寝入りするしかないの。フォンの称号があっても、シュミット家は伯爵位よ。
ユリアンなら大人しく泣かされないけれど、幼い頃のエルヴィンはわからない。心の傷は大人になっても残ることが多く、レオンはようやく人と接する楽しさを覚えたばかり。本人も楽しみにしていたお茶会で、こんな騒動に巻き込まれるなんて。
貴族社会は評判と地位がすべて。だから筆頭公爵家の後継であるレオンに、喧嘩を吹っ掛ける子がいると思わなかった。本人の将来だけじゃなく、親や家も終わってしまうのに。
「こ、のたびは……まことに申し訳なく……本当に申し訳ありませんでした」
泣きながら頭を下げる母親を見て、子爵家の少年は事態の深刻さに気付いたらしい。ユリアンの飛び蹴りを食らった子だ。卑怯な真似をして鳩尾に返されたのは、男爵家の次男。もう一人は伯爵家の三男だった。
地位で人を判断してはいけないけれど、爵位が下がるほど卑怯さが増すのね。自己紹介とお詫びの言葉をセットで聞き、視線を向けるとレオンが手を伸ばした。私に抱っこしてほしいのね。ユーリア様は察したようで、ソファーを勧めてくれた。
遠慮なく腰を下ろすと、隣にユーリア様が座る。ヘンリック様は私の膝にレオンを下ろし、少し離れた一人掛けのソファーに落ち着いた。残念そうにソファーを見ているけれど、いくら長椅子でも三人は無理よ。ギチギチになっちゃう。
「レオン、いい子ね。あなたは私の自慢の息子よ」
気持ちを言葉に変えて、思いを口づけにのせて額に触れた。大きな紫の瞳が見開かれ、照れたように首筋に顔を埋める。お茶会はもう続けられないでしょうから、ドレスが乱れても……あ!
「ユーリア様、せっかくご用意いただいたお茶会を台無しに……何とお詫びしたらいいか」
「お気になさらないで。うちのランドルフも関わる事件ですもの。きっちり対価は支払わせますわ」
子供の喧嘩ではない。これは家同士のトラブルであり、公爵家の権威を傷つける事件だった。はっきり明言され、三つの家の親が震え上がった。
エルヴィンは壁際に大人しく控え、その腕をしっかり掴んだユリアーナが眉尻を下げる。ユリアンは不貞腐れた様子で腕を組んでいた。性格の違いがよく出ているわ。
「では、それぞれの言い分を聞こうか。まずはヘルダー伯爵家からだ」
加害者であるシュミット家は一番最後。その上で地位が高い者から話を聞く。ヘンリック様の促しに、場が引き締まった。
私もそれでいいと思うわ。たまたま公爵家嫡男のレオンが被害に遭ったけれど、ランドルフ様の口振りでは過去に似た騒動があった。その相手が侯爵家より下位の貴族だったら? 泣き寝入りするしかないの。フォンの称号があっても、シュミット家は伯爵位よ。
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「お気になさらないで。うちのランドルフも関わる事件ですもの。きっちり対価は支払わせますわ」
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「では、それぞれの言い分を聞こうか。まずはヘルダー伯爵家からだ」
加害者であるシュミット家は一番最後。その上で地位が高い者から話を聞く。ヘンリック様の促しに、場が引き締まった。
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