【書籍化進行中】契約婚ですが可愛い継子を溺愛します

綾雅(ヤンデレ攻略対象、電子書籍化)

文字の大きさ
上 下
182 / 274

182.お父様が倒れたわ

しおりを挟む
「あっ、お父様!」

 王宮での話をしたら、お父様が倒れた。咄嗟に支えたのは、執事のベルントだ。玄関まで迎えに来てくれた家族と、絨毯の部屋でお茶を飲む支度をしていた。といっても、お茶を淹れるのはマーサなのだけれど。

 イルゼは最近出入りする業者との打ち合わせ、家令フランクも同行している。棒のように突っ立ったまま倒れるお父様を、ゆっくりと横たえたベルントは苦笑いした。

「気を失っておられるだけです」

「ありがとう、助かったわ。ベルントのお陰ね」

 一歩間違えたら、大ケガになるもの。頭を打つとか、途中で家具にぶつかるとか。ピンと手足を伸ばして倒れる姿には驚いた。まあ、貧乏伯爵のシュミット家が王宮に行くなんて、夢のまた夢だったもの。

 衣装はない、ツテもない、用事もない。そんな我が家の嫡子エルヴィンが王太子殿下……もうすぐ陛下になる方の友人候補よ? マルレーネ様がピアノを指導してくださるなら、私もピアノにすればよかったわ。ユリアンを見張れたのに。

「本当に王宮へ? そんなことが……」

 言葉を失って目を彷徨わせるエルヴィンの隣で、握り拳を突き上げるユリアン。もう不安しかない。絶対に何かやらかすに決まってるもの。大きな溜め息を吐く私の肩を、ヘンリック様が叩いた。屋敷に入ってから、リリーの仕事を奪って車椅子を押しているの。

 帰りはドレスを着替えなかったので、控え室にワンピースも置いてきてしまった。それに皺もついてしまって……でも、これを手直しする使用人の給料になるのよね。すぐ着替えて皺を伸ばしたいけれど、ここは我慢よ。

「ヘンリック様、降りたいのですが」

「ああ、任せろ」

 嬉々として抱き上げ、絨毯に下ろすヘンリック様は機嫌がよさそう。ふと、マルレーネ様の言葉を思い出した。愛……まあ、あるかもしれないわ。レオンと同じ感じの、そう家族愛が近い。幼少期に厳しくされて愛情不足だったから、母親として振る舞う私に懐いたのよ。

 うんうん、と納得してお礼を告げた。笑顔になるヘンリック様は、やっぱり可愛い。恋愛対象ではなく、庇護対象ね。レオンと同じレベル、分類したら落ち着いた。

「おかぁしゃま、あのね……ぎゅっとして」

「あら甘えん坊ね」

 普段と違う環境で遊んだからか、レオンが抱きついた。受け止めて膝に引き上げる。そのまま向かい合って、膝に座るレオンの背中をぽんと叩いた。頭をぐりぐり押し付ける仕草に、もしかして? と横から顔を覗き込む。

 ぷいと横を向いて隠す仕草から、眠いのねと判断した。何度も黒髪を撫で、軽く体を揺らす。

「アマーリア、痛くないか? 代わった方が」

「しぃ、もうすぐ寝ますから」

 お昼寝の時間なのでは? ベルントが口を挟み、ヘンリック様は出した手を引っ込めた。寝てしまえば、運んでもらうこともできる。でも、折角だからもう少し。こうして抱っこしてあげられる期間は短い。

 あと数年したら「僕はもう子供じゃありません」と拒否されると思うわ。成長は嬉しいけれど、まだ今は可愛い幼子を甘やかしていたいの。
しおりを挟む
感想 636

あなたにおすすめの小説

妹に婚約者を奪われたので妹の服を全部売りさばくことに決めました

常野夏子
恋愛
婚約者フレデリックを妹ジェシカに奪われたクラリッサ。 裏切りに打ちひしがれるも、やがて復讐を決意する。 ジェシカが莫大な資金を投じて集めた高級服の数々――それを全て売りさばき、彼女の誇りを粉々に砕くのだ。

罠に嵌められたのは一体誰?

チカフジ ユキ
恋愛
卒業前夜祭とも言われる盛大なパーティーで、王太子の婚約者が多くの人の前で婚約破棄された。   誰もが冤罪だと思いながらも、破棄された令嬢は背筋を伸ばし、それを認め国を去ることを誓った。 そして、その一部始終すべてを見ていた僕もまた、その日に婚約が白紙になり、仕方がないかぁと思いながら、実家のある隣国へと帰って行った。 しかし帰宅した家で、なんと婚約破棄された元王太子殿下の婚約者様が僕を出迎えてた。

結婚30年、契約満了したので離婚しませんか?

おもちのかたまり
恋愛
恋愛・小説 11位になりました! 皆様ありがとうございます。 「私、旦那様とお付き合いも甘いやり取りもしたことが無いから…ごめんなさい、ちょっと他人事なのかも。もちろん、貴方達の事は心から愛しているし、命より大事よ。」 眉根を下げて笑う母様に、一発じゃあ足りないなこれは。と確信した。幸い僕も姉さん達も祝福持ちだ。父様のような力極振りではないけれど、三対一なら勝ち目はある。 「じゃあ母様は、父様が嫌で離婚するわけではないんですか?」 ケーキを幸せそうに頬張っている母様は、僕の言葉にきょとん。と目を見開いて。…もしかすると、母様にとって父様は、関心を向ける程の相手ではないのかもしれない。嫌な予感に、今日一番の寒気がする。 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇ 20年前に攻略対象だった父親と、悪役令嬢の取り巻きだった母親の現在のお話。 ハッピーエンド・バットエンド・メリーバットエンド・女性軽視・女性蔑視 上記に当てはまりますので、苦手な方、ご不快に感じる方はお気を付けください。

職業『お飾りの妻』は自由に過ごしたい

LinK.
恋愛
勝手に決められた婚約者との初めての顔合わせ。 相手に契約だと言われ、もう後がないサマンサは愛のない形だけの契約結婚に同意した。 何事にも従順に従って生きてきたサマンサ。 相手の求める通りに動く彼女は、都合のいいお飾りの妻だった。 契約中は立派な妻を演じましょう。必要ない時は自由に過ごしても良いですよね?

せっかくですもの、特別な一日を過ごしましょう。いっそ愛を失ってしまえば、女性は誰よりも優しくなれるのですよ。ご存知ありませんでしたか、閣下?

石河 翠
恋愛
夫と折り合いが悪く、嫁ぎ先で冷遇されたあげく離婚することになったイヴ。 彼女はせっかくだからと、屋敷で夫と過ごす最後の日を特別な一日にすることに決める。何かにつけてぶつかりあっていたが、最後くらいは夫の望み通りに振る舞ってみることにしたのだ。 夫の愛人のことを軽蔑していたが、男の操縦方法については学ぶところがあったのだと気がつく彼女。 一方、突然彼女を好ましく感じ始めた夫は、離婚届の提出を取り止めるよう提案するが……。 愛することを止めたがゆえに、夫のわがままにも優しく接することができるようになった妻と、そんな妻の気持ちを最後まで理解できなかった愚かな夫のお話。 この作品は他サイトにも投稿しております。 扉絵は写真ACよりチョコラテさまの作品(写真ID25290252)をお借りしております。

【12話完結】私はイジメられた側ですが。国のため、貴方のために王妃修行に努めていたら、婚約破棄を告げられ、友人に裏切られました。

西東友一
恋愛
国のため、貴方のため。 私は厳しい王妃修行に努めてまいりました。 それなのに第一王子である貴方が開いた舞踏会で、「この俺、次期国王である第一王子エドワード・ヴィクトールは伯爵令嬢のメリー・アナラシアと婚約破棄する」 と宣言されるなんて・・・

国境に捨てられたら隣国の若き公爵に拾われました

宵闇 月
恋愛
ゲームの悪役令嬢に転生し、国境に捨てられたら隣国の公爵にお持ち帰りされました。

【完結】溺愛婚約者の裏の顔 ~そろそろ婚約破棄してくれませんか~

瀬里
恋愛
(なろうの異世界恋愛ジャンルで日刊7位頂きました)  ニナには、幼い頃からの婚約者がいる。  3歳年下のティーノ様だ。  本人に「お前が行き遅れになった頃に終わりだ」と宣言されるような、典型的な「婚約破棄前提の格差婚約」だ。  行き遅れになる前に何とか婚約破棄できないかと頑張ってはみるが、うまくいかず、最近ではもうそれもいいか、と半ばあきらめている。  なぜなら、現在16歳のティーノ様は、匂いたつような色香と初々しさとを併せ持つ、美青年へと成長してしまったのだ。おまけに人前では、誰もがうらやむような溺愛ぶりだ。それが偽物だったとしても、こんな風に夢を見させてもらえる体験なんて、そうそうできやしない。  もちろん人前でだけで、裏ではひどいものだけど。  そんな中、第三王女殿下が、ティーノ様をお気に召したらしいという噂が飛び込んできて、あきらめかけていた婚約破棄がかなうかもしれないと、ニナは行動を起こすことにするのだが――。  全7話の短編です 完結確約です。

処理中です...