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181.勘違いされているわね
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美味しい紅茶と焼き菓子、近い距離でたくさんのお話をした。こんな集いなら、王宮でも楽しいわ。途中で国王陛下が乱入したら、こてんぱんに伸してやる気でいたけれど……まったく姿を見せなかった。あの人って雰囲気を察して遠慮するタイプじゃないから、譲位の準備で忙しいのかも。
盛り上がる途中で、文官からヘンリック様にお伺いがあり……少しだけ書類を片付けてくると席を外した。重要な書類なら持ち出せないでしょうし、長いお休みで迷惑を掛けているわね。きっと私のケガがなければ、もっと早く職場復帰したと思う。
そんな話をしたら、マルレーネ様はきょとんとした顔で首を傾げた。
「変な悩みね」
「そうでしょうか」
仕事の邪魔なのではないか。うっかり足を踏み外し、受け身も取れずに転がったあの日を何度悔やんだことか。抱き上げて運ぶのも、別邸の玄関を改造したのも、あの寝台馬車さえも。すべて私のミスが起点だった。本当に申し訳ないわ。
マルレーネ様は目を見開き、手で口を覆うのも忘れて大笑いした。声を立てて笑ってはいけないと教えられる淑女らしからぬ、豪快な大笑いに驚く。眦に滲んだ涙を拭きながら、マルレーネ様は予想外の発言をした。
「あの冷血公爵なら、アマーリアのケガに関係なく好きにするでしょう。ずっと一緒にいるんだもの、愛されているのよ」
「愛……」
あり得ない単語に、目を見開いた。だって、契約結婚の相手を愛するはずないわ。一度もそんな話されていないもの。すん、と感情が落ち着いた。人ってあまりに突拍子もないことを言われると、反論できないみたい。
「自覚がないのは、ヘンリック殿の不手際かしら」
いないのをいいことに、マルレーネ様は容赦ない。愛していないので自覚がないのでは? と思ったけれど、愛想笑いに逃げた。日本人の悪い癖よね、これは直らないわ。
戻ってきたヘンリック様に余計なことを言われないうちに、お暇すると告げた。駆け寄ったレオンに、挨拶するよう伝える。
「あい! またね、るぅ、ろれ」
勝手に名前を縮めて愛称にしたのかしら。いずれは肩書きや立場の違いを知るでしょうが、今はこれでもいいわ。マルレーネ様も咎める様子はないし。こうやって無邪気に遊べるのは、幼いうちだけだもの。
離れて温室の入り口にいたリリーが車椅子を押し、私は座ったままで深く一礼した。それから顔を上げてにっこり笑う。
「マルレーネ様、また近いうちにお会いしましょう」
「ええ、衣装がお揃いで素敵だったわ。また次も楽しみにしているわね。私もチャレンジしてみたいと思うの」
同じ青を基調とした衣装に気づいてもらえて、頬が緩んだ。ヘンリック様も嬉しそう。あんなに気合を入れて準備したんですもの。やっぱり褒めてもらいたいでしょう。
「よかったですね、ヘンリック様」
「ああ、アマーリアも気に入ってくれたか?」
「もちろんです」
「ぼくも」
話に加わったレオンが、私の手を握った。ヘンリック様とも手を繋ぎ、レオンは大喜びで手を揺らす。馬車までの道のりが短くて、少し残念に感じたわ。
盛り上がる途中で、文官からヘンリック様にお伺いがあり……少しだけ書類を片付けてくると席を外した。重要な書類なら持ち出せないでしょうし、長いお休みで迷惑を掛けているわね。きっと私のケガがなければ、もっと早く職場復帰したと思う。
そんな話をしたら、マルレーネ様はきょとんとした顔で首を傾げた。
「変な悩みね」
「そうでしょうか」
仕事の邪魔なのではないか。うっかり足を踏み外し、受け身も取れずに転がったあの日を何度悔やんだことか。抱き上げて運ぶのも、別邸の玄関を改造したのも、あの寝台馬車さえも。すべて私のミスが起点だった。本当に申し訳ないわ。
マルレーネ様は目を見開き、手で口を覆うのも忘れて大笑いした。声を立てて笑ってはいけないと教えられる淑女らしからぬ、豪快な大笑いに驚く。眦に滲んだ涙を拭きながら、マルレーネ様は予想外の発言をした。
「あの冷血公爵なら、アマーリアのケガに関係なく好きにするでしょう。ずっと一緒にいるんだもの、愛されているのよ」
「愛……」
あり得ない単語に、目を見開いた。だって、契約結婚の相手を愛するはずないわ。一度もそんな話されていないもの。すん、と感情が落ち着いた。人ってあまりに突拍子もないことを言われると、反論できないみたい。
「自覚がないのは、ヘンリック殿の不手際かしら」
いないのをいいことに、マルレーネ様は容赦ない。愛していないので自覚がないのでは? と思ったけれど、愛想笑いに逃げた。日本人の悪い癖よね、これは直らないわ。
戻ってきたヘンリック様に余計なことを言われないうちに、お暇すると告げた。駆け寄ったレオンに、挨拶するよう伝える。
「あい! またね、るぅ、ろれ」
勝手に名前を縮めて愛称にしたのかしら。いずれは肩書きや立場の違いを知るでしょうが、今はこれでもいいわ。マルレーネ様も咎める様子はないし。こうやって無邪気に遊べるのは、幼いうちだけだもの。
離れて温室の入り口にいたリリーが車椅子を押し、私は座ったままで深く一礼した。それから顔を上げてにっこり笑う。
「マルレーネ様、また近いうちにお会いしましょう」
「ええ、衣装がお揃いで素敵だったわ。また次も楽しみにしているわね。私もチャレンジしてみたいと思うの」
同じ青を基調とした衣装に気づいてもらえて、頬が緩んだ。ヘンリック様も嬉しそう。あんなに気合を入れて準備したんですもの。やっぱり褒めてもらいたいでしょう。
「よかったですね、ヘンリック様」
「ああ、アマーリアも気に入ってくれたか?」
「もちろんです」
「ぼくも」
話に加わったレオンが、私の手を握った。ヘンリック様とも手を繋ぎ、レオンは大喜びで手を揺らす。馬車までの道のりが短くて、少し残念に感じたわ。
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