【書籍化進行中】契約婚ですが可愛い継子を溺愛します

綾雅(ヤンデレ攻略対象、電子書籍化)

文字の大きさ
上 下
177 / 274

177.ケンプフェルト楽団を目指して

しおりを挟む
 兄ユリアンがピアノに夢中で構ってくれなくなり、ユリアーナはフルートを練習し始めた。上手になれば一緒に演奏できると考えたのかも。一昨日から音が出るようになり、楽しくなってきたみたい。ユリアンは片手弾きを卒業し、両手で鍵盤を叩いている。

 エルヴィンに付き合う形で、お父様もオーボエの練習を始めた。離れも本邸も音で溢れているわ。努力家のヘンリック様は時間を見つけてはヴィオラと格闘しているし、レオンは大喜びでいつも誰かの音に合わせてシンバルを叩く。一番出遅れたのは私だった。

 車椅子だと弾きづらいのもあるけれど、言い訳に過ぎないわね。練習すると指が赤くなって痛いから、つい手前でやめてしまうの。上達しないのは、絶対的な練習不足よ。原因は分かっているけれど、何か対策を考えなくちゃ。

「アルノー先生に相談してみたら?」

 ユリアンの言葉に頷き、一応弦楽器だからとアルノーに話す。彼は少し考えた後で、思わぬ指摘をした。弾き方が間違っている、と。

「え? 指で弾くのよね」

「こちらのハープですと、爪を引っ掛けるようにして弾く楽器です」

「……なる、ほど」

 素手で演奏するのは理解していた。爪と指腹のどちらを使っているか、そこまで覚えていない。最初から間違っていたので、指が痛かったのかも。専門書を探してもらい、リリーと一緒に確認した。

 爪で弾くため、爪の長さの管理も必要らしい。大変な楽器を選んでしまったわ。でも長くしろと言われなくてよかった。

 幼い子がいるなら、爪は短い方がいいの。引っ掻いてケガをさせるリスク以外に、菌の温床になる可能性もあるし。爪を染めることも興味がないから、短くする理由になって助かるわ。

 王妃のマルレーネ様は爪をやや長くして、花の搾り汁で染めていた。上に薔薇のオイルで手入れもしていたから、とてもよい香りがしたわ。薔薇のオイルは私も使おうかしら。ローズヒップオイルは前世で使ったのよね。

 爪が割れにくくなると聞き、ローズヒップオイルを手配してもらった。爪に傷がないか確認し、軽く弾いてみる。演奏は無理なので、音を出す程度だけど……指で弾くより綺麗で澄んだ音がする。

「おかぁしゃま。ぼくも、いっちょ!!」

 音を聴いて駆け寄ったレオンに微笑み、シンバルが響くのに合わせて爪弾く。演奏には程遠い音だけれど、楽しんでいるから立派な音楽よ。

「皆様が楽しそうで何よりです」

 賑やかな音の洪水にも、侍女達は笑顔を崩さなかった。公爵家に勤める者は、下位の貴族出身の嫡子以外だ。となれば、音楽に親しむ素養や環境はある。いっそ、使用人も合わせて習ったらどうかしら。

 ヘンリック様に提案すると、それはいいと賛成した。フランクが希望者を募り、一緒に習う。希望者は楽器を分割払いで購入でき、借りる方法も選べるようにした。意外なことに、ほとんどの希望者が購入を選んだの。

 皆が上手になったら、ケンプフェルト楽団で演奏会を開けそう。それを目標に頑張るのもいいわ。

「大変素晴らしいご提案です。目標があれば、皆も頑張れるでしょう」

 フランクの賛成を得て、周知される。と同時に、思わぬ参加希望者が現れた。フランクはヴァイオリン経験者で、イルゼがピアノを弾ける。重ねて、ベルントがバスを習った事があるって……。

 ケンプフェルト公爵家の上級使用人は、多才が雇用条件なの?
しおりを挟む
感想 636

あなたにおすすめの小説

妹に婚約者を奪われたので妹の服を全部売りさばくことに決めました

常野夏子
恋愛
婚約者フレデリックを妹ジェシカに奪われたクラリッサ。 裏切りに打ちひしがれるも、やがて復讐を決意する。 ジェシカが莫大な資金を投じて集めた高級服の数々――それを全て売りさばき、彼女の誇りを粉々に砕くのだ。

罠に嵌められたのは一体誰?

チカフジ ユキ
恋愛
卒業前夜祭とも言われる盛大なパーティーで、王太子の婚約者が多くの人の前で婚約破棄された。   誰もが冤罪だと思いながらも、破棄された令嬢は背筋を伸ばし、それを認め国を去ることを誓った。 そして、その一部始終すべてを見ていた僕もまた、その日に婚約が白紙になり、仕方がないかぁと思いながら、実家のある隣国へと帰って行った。 しかし帰宅した家で、なんと婚約破棄された元王太子殿下の婚約者様が僕を出迎えてた。

結婚30年、契約満了したので離婚しませんか?

おもちのかたまり
恋愛
恋愛・小説 11位になりました! 皆様ありがとうございます。 「私、旦那様とお付き合いも甘いやり取りもしたことが無いから…ごめんなさい、ちょっと他人事なのかも。もちろん、貴方達の事は心から愛しているし、命より大事よ。」 眉根を下げて笑う母様に、一発じゃあ足りないなこれは。と確信した。幸い僕も姉さん達も祝福持ちだ。父様のような力極振りではないけれど、三対一なら勝ち目はある。 「じゃあ母様は、父様が嫌で離婚するわけではないんですか?」 ケーキを幸せそうに頬張っている母様は、僕の言葉にきょとん。と目を見開いて。…もしかすると、母様にとって父様は、関心を向ける程の相手ではないのかもしれない。嫌な予感に、今日一番の寒気がする。 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇ 20年前に攻略対象だった父親と、悪役令嬢の取り巻きだった母親の現在のお話。 ハッピーエンド・バットエンド・メリーバットエンド・女性軽視・女性蔑視 上記に当てはまりますので、苦手な方、ご不快に感じる方はお気を付けください。

職業『お飾りの妻』は自由に過ごしたい

LinK.
恋愛
勝手に決められた婚約者との初めての顔合わせ。 相手に契約だと言われ、もう後がないサマンサは愛のない形だけの契約結婚に同意した。 何事にも従順に従って生きてきたサマンサ。 相手の求める通りに動く彼女は、都合のいいお飾りの妻だった。 契約中は立派な妻を演じましょう。必要ない時は自由に過ごしても良いですよね?

せっかくですもの、特別な一日を過ごしましょう。いっそ愛を失ってしまえば、女性は誰よりも優しくなれるのですよ。ご存知ありませんでしたか、閣下?

石河 翠
恋愛
夫と折り合いが悪く、嫁ぎ先で冷遇されたあげく離婚することになったイヴ。 彼女はせっかくだからと、屋敷で夫と過ごす最後の日を特別な一日にすることに決める。何かにつけてぶつかりあっていたが、最後くらいは夫の望み通りに振る舞ってみることにしたのだ。 夫の愛人のことを軽蔑していたが、男の操縦方法については学ぶところがあったのだと気がつく彼女。 一方、突然彼女を好ましく感じ始めた夫は、離婚届の提出を取り止めるよう提案するが……。 愛することを止めたがゆえに、夫のわがままにも優しく接することができるようになった妻と、そんな妻の気持ちを最後まで理解できなかった愚かな夫のお話。 この作品は他サイトにも投稿しております。 扉絵は写真ACよりチョコラテさまの作品(写真ID25290252)をお借りしております。

お姉さまが家を出て行き、婚約者を譲られました

さこの
恋愛
姉は優しく美しい。姉の名前はアリシア私の名前はフェリシア 姉の婚約者は第三王子 お茶会をすると一緒に来てと言われる アリシアは何かとフェリシアと第三王子を二人にしたがる ある日姉が父に言った。 アリシアでもフェリシアでも婚約者がクリスタル伯爵家の娘ならどちらでも良いですよね? バカな事を言うなと怒る父、次の日に姉が家を、出た

【12話完結】私はイジメられた側ですが。国のため、貴方のために王妃修行に努めていたら、婚約破棄を告げられ、友人に裏切られました。

西東友一
恋愛
国のため、貴方のため。 私は厳しい王妃修行に努めてまいりました。 それなのに第一王子である貴方が開いた舞踏会で、「この俺、次期国王である第一王子エドワード・ヴィクトールは伯爵令嬢のメリー・アナラシアと婚約破棄する」 と宣言されるなんて・・・

【完結】「私は善意に殺された」

まほりろ
恋愛
筆頭公爵家の娘である私が、母親は身分が低い王太子殿下の後ろ盾になるため、彼の婚約者になるのは自然な流れだった。 誰もが私が王太子妃になると信じて疑わなかった。 私も殿下と婚約してから一度も、彼との結婚を疑ったことはない。 だが殿下が病に倒れ、その治療のため異世界から聖女が召喚され二人が愛し合ったことで……全ての運命が狂い出す。 どなたにも悪意はなかった……私が不運な星の下に生まれた……ただそれだけ。 ※無断転載を禁止します。 ※朗読動画の無断配信も禁止します。 ※他サイトにも投稿中。 ※表紙素材はあぐりりんこ様よりお借りしております。 「Copyright(C)2022-九頭竜坂まほろん」 ※小説家になろうにて2022年11月19日昼、日間異世界恋愛ランキング38位、総合59位まで上がった作品です!

処理中です...