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168.子供というより大型犬ね
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馬車の概念が変わるわね。座って乗るものと思っていたけれど、横になって移動ができる。二台が接続した形で作られ、車輪は六つもあった。私とヘンリック様、レオンが一緒よ。
行きに私達の使った馬車を、お父様達が借りた。伯爵家の使用した馬車が使用人に下される。新しい馬車が上に入って、順番にグレードアップした形だった。公爵家の新しい馬車は、寝台式ね。一番後ろに車椅子を固定する台があったわ。至れり尽くせりだ。
「ありがとうございます、とても楽ですわ」
出入り口は進行方向に対して左側にある。右側と前後は柱型の枕に似たクッションが設置されていた。その上へさらに柔らかいクッションを並べ、寄りかかって休む。レオンは中央を転げ回り、私が乗ったら大人しくなった。
「もう転がらなくていいの?」
「うん、おかぁしゃまに、ぶちゅかりゅから」
まあ、言葉が一気に成長したわ。噛んでるけれど誤差ね。単語の間に助詞が入っている。私を気遣ってくれる優しい義息子の頭を撫でた。
寝そべる形で馬車に乗る私の横に転がり、レオンは擦り寄った。胸元に抱えて黒髪に口付ける。ふと視線を感じて顔を上げれば、ヘンリック様がこちらを見ていた。靴を脱いで乗った馬車の中で、心なししょんぼりした様子だ。
そんな顔をするくらいなら、素直に飛び込んでくればいいのに。苦笑いが浮かんだ。本当に手間のかかるお兄ちゃんだこと。弟ができて、母親を奪われまいとする長男みたいよ。自分で思い浮かべた例えに、くすっと笑った。
「ヘンリック様も、どうぞ」
手を差し伸べる。自分から甘えられるほど、ヘンリック様は子供じゃない。でも割り切って見守れるほど大人にもなれないの。甘えられない子供の姿は、こちらが切なくなるわ。
「いい、のか?」
「ええ。屋敷まで仕事は禁止です。ごろごろして過ごしましょうね」
「わかった」
素直に頷き、四つ這いで近づいてくる。子供より大型犬かしら。ごろりと寝転んだ彼が、腕を伸ばして私を後ろから抱きしめる。驚いて固まった。
レオンがいるから、川の字だと思ったの。後ろから私を抱きしめ、私がレオンを引き寄せて……知らない人が見たら溺愛家族だわ。
「へ、ヘンリック様?」
「なんだ、アマーリア」
肩に顎を載せるような姿勢で、私に答える。吐息が首筋に触れて、軽く身を竦めた。擽ったいわ。
「おとちゃま! おかぁしゃま。ぼく!!」
レオンがにこにこと数えるように指を折る。その仕草が可愛くて、もう一度頬を擦り寄せた。真似るように、ヘンリック様が私の髪に頬を寄せる。ややくすんだ金髪に顔を埋め、じっと動かなくなった。
寝ちゃったのかしら。ベルントの声が聞こえ、出発した馬車が揺れる。ヘンリック様の腕は緩まないが、彼は動かなかった。やはり寝たのだと判断し、私も目を閉じる。
「あふっ……」
可愛い欠伸の声が聞こえ、ちらりと確認したらレオンが口を手で押さえていた。移った欠伸をしたら、後ろでヘンリック様も釣られたみたい。車輪の音を聞きながら、居心地のいい馬車は帰路についた。
*********************
年末年始の更新案内
通常通り、大晦日も元旦も更新予定です。もし途切れたら「ああ、忙しいんだな」と察してください(o´-ω-)o)ペコッ
行きに私達の使った馬車を、お父様達が借りた。伯爵家の使用した馬車が使用人に下される。新しい馬車が上に入って、順番にグレードアップした形だった。公爵家の新しい馬車は、寝台式ね。一番後ろに車椅子を固定する台があったわ。至れり尽くせりだ。
「ありがとうございます、とても楽ですわ」
出入り口は進行方向に対して左側にある。右側と前後は柱型の枕に似たクッションが設置されていた。その上へさらに柔らかいクッションを並べ、寄りかかって休む。レオンは中央を転げ回り、私が乗ったら大人しくなった。
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「うん、おかぁしゃまに、ぶちゅかりゅから」
まあ、言葉が一気に成長したわ。噛んでるけれど誤差ね。単語の間に助詞が入っている。私を気遣ってくれる優しい義息子の頭を撫でた。
寝そべる形で馬車に乗る私の横に転がり、レオンは擦り寄った。胸元に抱えて黒髪に口付ける。ふと視線を感じて顔を上げれば、ヘンリック様がこちらを見ていた。靴を脱いで乗った馬車の中で、心なししょんぼりした様子だ。
そんな顔をするくらいなら、素直に飛び込んでくればいいのに。苦笑いが浮かんだ。本当に手間のかかるお兄ちゃんだこと。弟ができて、母親を奪われまいとする長男みたいよ。自分で思い浮かべた例えに、くすっと笑った。
「ヘンリック様も、どうぞ」
手を差し伸べる。自分から甘えられるほど、ヘンリック様は子供じゃない。でも割り切って見守れるほど大人にもなれないの。甘えられない子供の姿は、こちらが切なくなるわ。
「いい、のか?」
「ええ。屋敷まで仕事は禁止です。ごろごろして過ごしましょうね」
「わかった」
素直に頷き、四つ這いで近づいてくる。子供より大型犬かしら。ごろりと寝転んだ彼が、腕を伸ばして私を後ろから抱きしめる。驚いて固まった。
レオンがいるから、川の字だと思ったの。後ろから私を抱きしめ、私がレオンを引き寄せて……知らない人が見たら溺愛家族だわ。
「へ、ヘンリック様?」
「なんだ、アマーリア」
肩に顎を載せるような姿勢で、私に答える。吐息が首筋に触れて、軽く身を竦めた。擽ったいわ。
「おとちゃま! おかぁしゃま。ぼく!!」
レオンがにこにこと数えるように指を折る。その仕草が可愛くて、もう一度頬を擦り寄せた。真似るように、ヘンリック様が私の髪に頬を寄せる。ややくすんだ金髪に顔を埋め、じっと動かなくなった。
寝ちゃったのかしら。ベルントの声が聞こえ、出発した馬車が揺れる。ヘンリック様の腕は緩まないが、彼は動かなかった。やはり寝たのだと判断し、私も目を閉じる。
「あふっ……」
可愛い欠伸の声が聞こえ、ちらりと確認したらレオンが口を手で押さえていた。移った欠伸をしたら、後ろでヘンリック様も釣られたみたい。車輪の音を聞きながら、居心地のいい馬車は帰路についた。
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