【書籍化進行中】契約婚ですが可愛い継子を溺愛します

綾雅(ヤンデレ攻略対象、電子書籍化)

文字の大きさ
上 下
168 / 274

168.子供というより大型犬ね

しおりを挟む
 馬車の概念が変わるわね。座って乗るものと思っていたけれど、横になって移動ができる。二台が接続した形で作られ、車輪は六つもあった。私とヘンリック様、レオンが一緒よ。

 行きに私達の使った馬車を、お父様達が借りた。伯爵家の使用した馬車が使用人に下される。新しい馬車が上に入って、順番にグレードアップした形だった。公爵家の新しい馬車は、寝台式ね。一番後ろに車椅子を固定する台があったわ。至れり尽くせりだ。

「ありがとうございます、とても楽ですわ」

 出入り口は進行方向に対して左側にある。右側と前後は柱型の枕に似たクッションが設置されていた。その上へさらに柔らかいクッションを並べ、寄りかかって休む。レオンは中央を転げ回り、私が乗ったら大人しくなった。

「もう転がらなくていいの?」

「うん、おかぁしゃまに、ぶちゅかりゅから」

 まあ、言葉が一気に成長したわ。噛んでるけれど誤差ね。単語の間に助詞が入っている。私を気遣ってくれる優しい義息子の頭を撫でた。

 寝そべる形で馬車に乗る私の横に転がり、レオンは擦り寄った。胸元に抱えて黒髪に口付ける。ふと視線を感じて顔を上げれば、ヘンリック様がこちらを見ていた。靴を脱いで乗った馬車の中で、心なししょんぼりした様子だ。

 そんな顔をするくらいなら、素直に飛び込んでくればいいのに。苦笑いが浮かんだ。本当に手間のかかるだこと。弟ができて、母親を奪われまいとする長男みたいよ。自分で思い浮かべた例えに、くすっと笑った。

「ヘンリック様も、どうぞ」

 手を差し伸べる。自分から甘えられるほど、ヘンリック様は子供じゃない。でも割り切って見守れるほど大人にもなれないの。甘えられない子供の姿は、こちらが切なくなるわ。

「いい、のか?」

「ええ。屋敷まで仕事は禁止です。ごろごろして過ごしましょうね」

「わかった」

 素直に頷き、四つ這いで近づいてくる。子供より大型犬かしら。ごろりと寝転んだ彼が、腕を伸ばして私を後ろから抱きしめる。驚いて固まった。

 レオンがいるから、川の字だと思ったの。後ろから私を抱きしめ、私がレオンを引き寄せて……知らない人が見たら溺愛家族だわ。

「へ、ヘンリック様?」

「なんだ、アマーリア」

 肩に顎を載せるような姿勢で、私に答える。吐息が首筋に触れて、軽く身を竦めた。擽ったいわ。

「おとちゃま! おかぁしゃま。ぼく!!」

 レオンがにこにこと数えるように指を折る。その仕草が可愛くて、もう一度頬を擦り寄せた。真似るように、ヘンリック様が私の髪に頬を寄せる。ややくすんだ金髪に顔を埋め、じっと動かなくなった。

 寝ちゃったのかしら。ベルントの声が聞こえ、出発した馬車が揺れる。ヘンリック様の腕は緩まないが、彼は動かなかった。やはり寝たのだと判断し、私も目を閉じる。

「あふっ……」

 可愛い欠伸の声が聞こえ、ちらりと確認したらレオンが口を手で押さえていた。移った欠伸をしたら、後ろでヘンリック様も釣られたみたい。車輪の音を聞きながら、居心地のいい馬車は帰路についた。


*********************
年末年始の更新案内
 通常通り、大晦日も元旦も更新予定です。もし途切れたら「ああ、忙しいんだな」と察してください(o´-ω-)o)ペコッ
しおりを挟む
感想 640

あなたにおすすめの小説

《完結》愛する人と結婚するだけが愛じゃない

ぜらいす黒糖
恋愛
オリビアはジェームズとこのまま結婚するだろうと思っていた。 ある日、可愛がっていた後輩のマリアから「先輩と別れて下さい」とオリビアは言われた。 ジェームズに確かめようと部屋に行くと、そこにはジェームズとマリアがベッドで抱き合っていた。 ショックのあまり部屋を飛び出したオリビアだったが、気がつくと走る馬車の前を歩いていた。

婚約破棄 ~家名を名乗らなかっただけ

青の雀
恋愛
シルヴィアは、隣国での留学を終え5年ぶりに生まれ故郷の祖国へ帰ってきた。 今夜、王宮で開かれる自身の婚約披露パーティに出席するためである。 婚約者とは、一度も会っていない親同士が決めた婚約である。 その婚約者と会うなり「家名を名乗らない平民女とは、婚約破棄だ。」と言い渡されてしまう。 実は、シルヴィアは王女殿下であったのだ。

妹に婚約者を奪われたので妹の服を全部売りさばくことに決めました

常野夏子
恋愛
婚約者フレデリックを妹ジェシカに奪われたクラリッサ。 裏切りに打ちひしがれるも、やがて復讐を決意する。 ジェシカが莫大な資金を投じて集めた高級服の数々――それを全て売りさばき、彼女の誇りを粉々に砕くのだ。

初耳なのですが…、本当ですか?

あおくん
恋愛
侯爵令嬢の次女として、父親の仕事を手伝ったり、邸の管理をしたりと忙しくしているアニーに公爵家から婚約の申し込みが来た! でも実際に公爵家に訪れると、異世界から来たという少女が婚約者の隣に立っていて…。

皇太女の暇つぶし

Ruhuna
恋愛
ウスタリ王国の学園に留学しているルミリア・ターセンは1年間の留学が終わる卒園パーティーの場で見に覚えのない罪でウスタリ王国第2王子のマルク・ウスタリに婚約破棄を言いつけられた。 「貴方とは婚約した覚えはありませんが?」 *よくある婚約破棄ものです *初投稿なので寛容な気持ちで見ていただけると嬉しいです

結婚30年、契約満了したので離婚しませんか?

おもちのかたまり
恋愛
恋愛・小説 11位になりました! 皆様ありがとうございます。 「私、旦那様とお付き合いも甘いやり取りもしたことが無いから…ごめんなさい、ちょっと他人事なのかも。もちろん、貴方達の事は心から愛しているし、命より大事よ。」 眉根を下げて笑う母様に、一発じゃあ足りないなこれは。と確信した。幸い僕も姉さん達も祝福持ちだ。父様のような力極振りではないけれど、三対一なら勝ち目はある。 「じゃあ母様は、父様が嫌で離婚するわけではないんですか?」 ケーキを幸せそうに頬張っている母様は、僕の言葉にきょとん。と目を見開いて。…もしかすると、母様にとって父様は、関心を向ける程の相手ではないのかもしれない。嫌な予感に、今日一番の寒気がする。 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇ 20年前に攻略対象だった父親と、悪役令嬢の取り巻きだった母親の現在のお話。 ハッピーエンド・バットエンド・メリーバットエンド・女性軽視・女性蔑視 上記に当てはまりますので、苦手な方、ご不快に感じる方はお気を付けください。

美しい容姿の義妹は、私の婚約者を奪おうとしました。だったら、貴方には絶望してもらいましょう。

久遠りも
恋愛
美しい容姿の義妹は、私の婚約者を奪おうとしました。だったら、貴方には絶望してもらいましょう。 ※一話完結です。 ゆるゆる設定です。

もういいです、離婚しましょう。

うみか
恋愛
そうですか、あなたはその人を愛しているのですね。 もういいです、離婚しましょう。

処理中です...