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163.皆で踊れて楽しいわ
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翌日も演奏を楽しんだ。がらりと違う選曲で、今度は踊りに特化している。舞踊曲や賑やかで体が動き出すような、明るい曲ばかりだった。レオンと双子は手を繋いで輪を作り、くるくる回って笑う。
元気なら、私もあの輪に加わりたかったわ。ヘンリック様も誰かと踊ってらしたらいいのに。車椅子の隣に立ち、穏やかな表情で祭りを眺める。ふと、フランクに聞いた過去が過った。
ご両親が構わず、祖父母は厳しく……逃げ場がなかったヘンリック様の幼少期だ。こういった祭りに来る経験もなかったのだろう。見守るだけで自ら加わらないのは勿体無い。促そうとしたら、先にレオンが動いた。
「おかぁしゃま、おとちゃまも! いっちょ! ぼくといっちょ!!」
手を伸ばして加われと訴える。左手でヘンリック様の袖を掴み、きゅっと握った。そのまま上手に手を絡めて繋ぐ。ヘンリック様が困惑した顔で私を見るから、笑顔で頷いた。
「アマーリア、君もだ」
レオンの言葉通り、私と手を繋いだヘンリック様が頬を緩める。残った私の手をユリアーナが掴んだ。五人の輪ができたが、今度はエルヴィンが双子の間に入り、お父様も飛び込んだ。手を大きく揺らしながら一歩前に出て、また下がる。
音に合わせて体を揺らすだけで楽しく、皆の笑顔が見えるのも最高だった。こんな楽しいダンスは初めてよ。
曲が終わり、周囲でダンスをしていた人達も一息ついた。騎士や侍女の拍手に、レオンも嬉しそうに手を叩く。気の利くマーサが冷たい果汁水を持ち込み、それぞれに立ったまま口にした。私だけ座ってるのは、申し訳ない気がするわね。
「また屋台を回るか?」
「こういうのはどうかしら。一人ずつ食べ物を選んで、持ち寄るのよ。屋台の中で気に入ったお店から、人数分を買ってきたらたくさんの種類が食べられるわ」
「ぼくも」
レオンが大きな声で立候補する。侍女や騎士が同行すれば、子供達だけでも買い物が可能だわ。ヘンリック様も加わるよう勧める。最初は迷っていたが、エルヴィンに誘われて参加を決めた。
広場を囲む形で広がる屋台は、数十に及ぶ。こういう遊びって、性格が出るのよね。さっと全体を把握して動こうとするヘンリック様、一つずつ覗いて歩きたいレオン。エルヴィンは効率よく選んでいるし、ユリアンは後先考えずに走って行った。双子なのにユリアンと性格が真逆のユリアーナは、狙っていた屋台に一直線だ。
私は、そうね。深く考えずに匂いで選ぶわ。近くで誘われる匂いがしたら、他は目に入らないタイプよ。お父様は全員の動きを見ながら、足りない部分を補う作戦ね。
デザートを手配するユリアーナと、肉をチョイスしたユリアンが戻ってくる。ヘンリック様はスープを運ばせ、皆が選ばないだろうと蒸し野菜を選んだエルヴィンが続く。レオンは……広場の中をまだ走っていた。
マーサと二人の騎士がついたので、問題はないと思うわ。しばらくして魚の串焼きに目を輝かせ足を止めた。丸ごと焼いた魚なんて、滅多に食卓に出ないもの。珍しさから、魚を選んだみたい。お父様は全員の選択を確認して、パンを買いに向かった。
これで完璧なコース料理の出来上がりだわ。まっすぐ走ってくるレオンが、広げた私の腕の手前で止まった。ゆっくりと私の手に触れて抱きつく。
「おかあ、しゃま……さびし?」
「いいえ、レオンがいるから平気よ。何を選んだのかしら」
見ていたけれど、知らないフリで促す。こんな大きな魚! と両手で説明するレオンに、頬が緩んだ。運ばれてくる大量の食事に、少し驚いたけれどね。量は加減しないと。
元気なら、私もあの輪に加わりたかったわ。ヘンリック様も誰かと踊ってらしたらいいのに。車椅子の隣に立ち、穏やかな表情で祭りを眺める。ふと、フランクに聞いた過去が過った。
ご両親が構わず、祖父母は厳しく……逃げ場がなかったヘンリック様の幼少期だ。こういった祭りに来る経験もなかったのだろう。見守るだけで自ら加わらないのは勿体無い。促そうとしたら、先にレオンが動いた。
「おかぁしゃま、おとちゃまも! いっちょ! ぼくといっちょ!!」
手を伸ばして加われと訴える。左手でヘンリック様の袖を掴み、きゅっと握った。そのまま上手に手を絡めて繋ぐ。ヘンリック様が困惑した顔で私を見るから、笑顔で頷いた。
「アマーリア、君もだ」
レオンの言葉通り、私と手を繋いだヘンリック様が頬を緩める。残った私の手をユリアーナが掴んだ。五人の輪ができたが、今度はエルヴィンが双子の間に入り、お父様も飛び込んだ。手を大きく揺らしながら一歩前に出て、また下がる。
音に合わせて体を揺らすだけで楽しく、皆の笑顔が見えるのも最高だった。こんな楽しいダンスは初めてよ。
曲が終わり、周囲でダンスをしていた人達も一息ついた。騎士や侍女の拍手に、レオンも嬉しそうに手を叩く。気の利くマーサが冷たい果汁水を持ち込み、それぞれに立ったまま口にした。私だけ座ってるのは、申し訳ない気がするわね。
「また屋台を回るか?」
「こういうのはどうかしら。一人ずつ食べ物を選んで、持ち寄るのよ。屋台の中で気に入ったお店から、人数分を買ってきたらたくさんの種類が食べられるわ」
「ぼくも」
レオンが大きな声で立候補する。侍女や騎士が同行すれば、子供達だけでも買い物が可能だわ。ヘンリック様も加わるよう勧める。最初は迷っていたが、エルヴィンに誘われて参加を決めた。
広場を囲む形で広がる屋台は、数十に及ぶ。こういう遊びって、性格が出るのよね。さっと全体を把握して動こうとするヘンリック様、一つずつ覗いて歩きたいレオン。エルヴィンは効率よく選んでいるし、ユリアンは後先考えずに走って行った。双子なのにユリアンと性格が真逆のユリアーナは、狙っていた屋台に一直線だ。
私は、そうね。深く考えずに匂いで選ぶわ。近くで誘われる匂いがしたら、他は目に入らないタイプよ。お父様は全員の動きを見ながら、足りない部分を補う作戦ね。
デザートを手配するユリアーナと、肉をチョイスしたユリアンが戻ってくる。ヘンリック様はスープを運ばせ、皆が選ばないだろうと蒸し野菜を選んだエルヴィンが続く。レオンは……広場の中をまだ走っていた。
マーサと二人の騎士がついたので、問題はないと思うわ。しばらくして魚の串焼きに目を輝かせ足を止めた。丸ごと焼いた魚なんて、滅多に食卓に出ないもの。珍しさから、魚を選んだみたい。お父様は全員の選択を確認して、パンを買いに向かった。
これで完璧なコース料理の出来上がりだわ。まっすぐ走ってくるレオンが、広げた私の腕の手前で止まった。ゆっくりと私の手に触れて抱きつく。
「おかあ、しゃま……さびし?」
「いいえ、レオンがいるから平気よ。何を選んだのかしら」
見ていたけれど、知らないフリで促す。こんな大きな魚! と両手で説明するレオンに、頬が緩んだ。運ばれてくる大量の食事に、少し驚いたけれどね。量は加減しないと。
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