【書籍化進行中】契約婚ですが可愛い継子を溺愛します

綾雅(ヤンデレ攻略対象、電子書籍化)

文字の大きさ
上 下
160 / 274

160.音楽隊がやってくる

しおりを挟む
 お父様やエルヴィンは双子に文字を教え、その隣で私はレオンと絵を描く。街に音楽隊が来たと連絡があり、演奏会が開かれるらしい。管理人夫婦によれば、ほぼ毎年立ち寄るのだとか。街の住人達のよい息抜きになっていそうね。

「どんな音楽かな」

「私、古典音楽は嫌い」

「管理人さんに聞いたらわかるんじゃね?」

 楽しみだと話を盛り上げるエルヴィンに、双子の返し方ときたら。もう! ユリアーナはまず好き嫌いを口にしたけれど、好きはともかく嫌いを表明するのはやめた方がいいわ。喧嘩になる可能性があるもの。

 ユリアンは内容は問題ないけれど、口調がダメよ。貧乏伯爵家の次男であっても、どこかの貴族家に勤めたり婿に入ったりする可能性があるわ。そんな言葉遣いでは、誰も雇ってくれないわよ。

 ぴしっと言い聞かせる横で、お父様が「まったくだ」と同意した。

「お父様も同じです。きちんとご自分の言葉で叱ってください。父親なのですよ!」

「すまない」

 しょんぼりしないで。悪いことを言ったみたいになったわ。叱る役から逃げるお父様に、やれやれと苦笑いする。そこへレオンが声を上げた。

「おかぁしゃま、じぃじはだめ?」

「今のはダメね。でも普段はいいじぃじでしょう?」

「うん」

「じゃあ、レオンはいいじぃじを覚えていてね」

 元気に手を挙げて「はい」と返事をする。風邪をひかないよう、しっかり防寒してから出発した。勉強も一段落したし、街の中で食事をする予定よ。私が歩けないこともあり、馬車数台に分かれて出発した。もちろん、車椅子も運んでもらう。

 街の中は賑わい、まるでお祭りのようだった。毎年こんな感じのようだ。各店舗や家の前には造花が飾られ、鮮やかな衣服に身を包んだ人々が集まっている。演奏会は屋内ではなく、街の広場で行われるのが通例だった。

 石畳の道に到着したところで、馬車から降りる。ヘンリック様に抱えられ、車椅子に移動した。押すのは侍女リリーの仕事だが、今日はヘンリック様が代わるらしい。レオンも駆け寄り、一緒に押すと言い出した。

 危なくないかしら……。

「レオンはアマーリアの手を握って、支えてやるのが仕事だ」

「し、ご、と? ぼくもしぎょ、とする!」

 区切らないと崩れちゃうのね。いつもの癖を見つけて、口元を緩めた。この可愛い言葉遣い、直したい義務感よりこのままにしたい思いが強いのよね。

「では、お願いできる? レオン」

 右手を差し出せば、にこにことその手を繋いだ。隣を堂々と歩く姿は、立派なエスコートの紳士よ。少し先から、楽器の音が聞こえる、まだ調整段階のようで、雑音に近かった。近づくにつれて、レオンの目が輝きだす。音の出どころが楽器だと気付いたのね。

 街の人が気を利かせて、正面より少し左側の一角を譲ってくれた。お礼を言って、リリー経由でお店へ買い出しに出てもらう。お祭り騒ぎなら、このくらいの支出は必要よね。

 スパイスたっぷりのホットワインに、蜂蜜を垂らして。甘くて温かい飲み物を振る舞った。当然、私達も頂いたわ。とても温まるし、可愛い天使がはふっと言いながら口をつける姿に癒されたの。
しおりを挟む
感想 636

あなたにおすすめの小説

妹に婚約者を奪われたので妹の服を全部売りさばくことに決めました

常野夏子
恋愛
婚約者フレデリックを妹ジェシカに奪われたクラリッサ。 裏切りに打ちひしがれるも、やがて復讐を決意する。 ジェシカが莫大な資金を投じて集めた高級服の数々――それを全て売りさばき、彼女の誇りを粉々に砕くのだ。

罠に嵌められたのは一体誰?

チカフジ ユキ
恋愛
卒業前夜祭とも言われる盛大なパーティーで、王太子の婚約者が多くの人の前で婚約破棄された。   誰もが冤罪だと思いながらも、破棄された令嬢は背筋を伸ばし、それを認め国を去ることを誓った。 そして、その一部始終すべてを見ていた僕もまた、その日に婚約が白紙になり、仕方がないかぁと思いながら、実家のある隣国へと帰って行った。 しかし帰宅した家で、なんと婚約破棄された元王太子殿下の婚約者様が僕を出迎えてた。

結婚30年、契約満了したので離婚しませんか?

おもちのかたまり
恋愛
恋愛・小説 11位になりました! 皆様ありがとうございます。 「私、旦那様とお付き合いも甘いやり取りもしたことが無いから…ごめんなさい、ちょっと他人事なのかも。もちろん、貴方達の事は心から愛しているし、命より大事よ。」 眉根を下げて笑う母様に、一発じゃあ足りないなこれは。と確信した。幸い僕も姉さん達も祝福持ちだ。父様のような力極振りではないけれど、三対一なら勝ち目はある。 「じゃあ母様は、父様が嫌で離婚するわけではないんですか?」 ケーキを幸せそうに頬張っている母様は、僕の言葉にきょとん。と目を見開いて。…もしかすると、母様にとって父様は、関心を向ける程の相手ではないのかもしれない。嫌な予感に、今日一番の寒気がする。 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇ 20年前に攻略対象だった父親と、悪役令嬢の取り巻きだった母親の現在のお話。 ハッピーエンド・バットエンド・メリーバットエンド・女性軽視・女性蔑視 上記に当てはまりますので、苦手な方、ご不快に感じる方はお気を付けください。

職業『お飾りの妻』は自由に過ごしたい

LinK.
恋愛
勝手に決められた婚約者との初めての顔合わせ。 相手に契約だと言われ、もう後がないサマンサは愛のない形だけの契約結婚に同意した。 何事にも従順に従って生きてきたサマンサ。 相手の求める通りに動く彼女は、都合のいいお飾りの妻だった。 契約中は立派な妻を演じましょう。必要ない時は自由に過ごしても良いですよね?

帰国した王子の受難

ユウキ
恋愛
庶子である第二王子は、立場や情勢やら諸々を鑑みて早々に隣国へと無期限遊学に出た。そうして年月が経ち、そろそろ兄(第一王子)が立太子する頃かと、感慨深く想っていた頃に突然届いた帰還命令。 取り急ぎ舞い戻った祖国で見たのは、修羅場であった。

せっかくですもの、特別な一日を過ごしましょう。いっそ愛を失ってしまえば、女性は誰よりも優しくなれるのですよ。ご存知ありませんでしたか、閣下?

石河 翠
恋愛
夫と折り合いが悪く、嫁ぎ先で冷遇されたあげく離婚することになったイヴ。 彼女はせっかくだからと、屋敷で夫と過ごす最後の日を特別な一日にすることに決める。何かにつけてぶつかりあっていたが、最後くらいは夫の望み通りに振る舞ってみることにしたのだ。 夫の愛人のことを軽蔑していたが、男の操縦方法については学ぶところがあったのだと気がつく彼女。 一方、突然彼女を好ましく感じ始めた夫は、離婚届の提出を取り止めるよう提案するが……。 愛することを止めたがゆえに、夫のわがままにも優しく接することができるようになった妻と、そんな妻の気持ちを最後まで理解できなかった愚かな夫のお話。 この作品は他サイトにも投稿しております。 扉絵は写真ACよりチョコラテさまの作品(写真ID25290252)をお借りしております。

【完結】「私は善意に殺された」

まほりろ
恋愛
筆頭公爵家の娘である私が、母親は身分が低い王太子殿下の後ろ盾になるため、彼の婚約者になるのは自然な流れだった。 誰もが私が王太子妃になると信じて疑わなかった。 私も殿下と婚約してから一度も、彼との結婚を疑ったことはない。 だが殿下が病に倒れ、その治療のため異世界から聖女が召喚され二人が愛し合ったことで……全ての運命が狂い出す。 どなたにも悪意はなかった……私が不運な星の下に生まれた……ただそれだけ。 ※無断転載を禁止します。 ※朗読動画の無断配信も禁止します。 ※他サイトにも投稿中。 ※表紙素材はあぐりりんこ様よりお借りしております。 「Copyright(C)2022-九頭竜坂まほろん」 ※小説家になろうにて2022年11月19日昼、日間異世界恋愛ランキング38位、総合59位まで上がった作品です!

国境に捨てられたら隣国の若き公爵に拾われました

宵闇 月
恋愛
ゲームの悪役令嬢に転生し、国境に捨てられたら隣国の公爵にお持ち帰りされました。

処理中です...